転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球

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【第四章】学園祭は、あなたと

35 ドレスと飾りの渦――貴族令嬢たちの思惑

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ホールへ入った途端、私は圧倒されそうになった。すでに十数名の貴族令嬢が集まり、それぞれがイメージを形にした資料やドレスのサンプル布地を広げ、口々に主張し合っていたのだ。

「この舞踏会は王家の方もいらっしゃる。華やかさこそ最優先すべきですわ!」
「いいえ、格式が大切です。王宮の宮廷舞踏会とそん色ない厳粛さを……」
「ドレスはパステルカラーで統一して、可憐な雰囲気にしたいの。カラフルだと目がチカチカするわ!」
「音楽は華やかでテンポの速いものにすべきよ。優雅なワルツばかりじゃ退屈でしょう?」

誰も彼もがそれぞれの家の趣向を背負い、まるで“自分がメインヒロイン”であるかのように熱く意見をぶつけ合っている。いや、実際にここで目立てば、それだけ社交界での評価が上がるという計算もあるのだろう。
私はこんな騒々しさに呆れながらも、内心では少しホッとしていた。リリィ派やセレナへの反発ではなく、“自分好みの舞踏会”を追求するのに必死なご令嬢たちの図……なんだか前世の文化祭実行委員会の揉め事を思い出して、妙な親近感すら覚える。

ホール中央では数名の教師が「落ち着きなさい」と声を張り上げているが、あまり効果はなさそうだ。そこへアレクシスが堂々と姿を現すと、一瞬で空気が変わる。

「あ……殿下……!」
「お、おお……これは……」

さすが王子の威光。令嬢たちも口々に挨拶を投げかけ、慌てて姿勢を正す。アレクシスは軽く手を挙げ、「議論の邪魔をするつもりはない。続けてくれ」とだけ告げる。
すると、私に気づいた令嬢の一人が、若干警戒するように眉をひそめる。

「セレナ様までお越しとは……。もしかして公爵家として何か要望がおありですの?」

彼女は侯爵令嬢のフランシーヌといって、学園内でも派手好きの有名人。私の記憶では、あまり気が合わないタイプだったはずだ。周囲の目を気にしてか、わざわざ敬語を使いつつ探りを入れてくる。
私は愛想笑いで返す。

「要望というより、私も舞踏会の成功を願っているから。みんなが納得できるように協力したいだけよ」

本音では“私はアレクシスのパートナーとして出るんだから、もう少し頼りにされてもいいんじゃない?”と思っているが、そこまでは口にしない。
すると、別の令嬢が声をあげる。
「でもセレナ様、今までは学園のイベントなんかに興味を示されなかったのでは? 急にやる気を出されると、戸惑ってしまいますわ」

やや棘のある指摘だ。確かに“元のセレナ”はゲーム内設定でも高慢で冷淡だったから、学園行事には協力しなかったかもしれない。
だが、転生した今の私には利用できるものは何でも利用する姿勢がある。

「心境の変化、というところね。それに、あなたたちも私がいないほうがいいとは言わないでしょ? 公爵家はスポンサーとしても力になれるわ」

軽く含みを持たせて言えば、令嬢たちは思わず視線を交わしてから、なんとも言えない顔で肯定した。要するに、私を邪魔者扱いしたい者もいる一方で、公爵家のバックアップを捨てるのは惜しいと思っているのだ。
こういう駆け引きが貴族の常なんだろうけど、少々面倒くさい。前世ではもっとカジュアルにやっていた文化祭が懐かしく思える。

そんな中、一人の令嬢が恐る恐る手を挙げた。金髪のロングヘアをゆるく巻いた華やかな女の子で、マリー・モンブラン伯爵令嬢だったか。
「私は、ドレスの色をある程度バラけさせてもいいと思うんです。学園祭ですから、あんまり統一感にこだわりすぎるより、華やかさが出るのでは……?」

一見もっともな意見だが、先ほどパステルカラーを推していた令嬢が「それではまとまりがないじゃない!」と反発を始める。さらに、音楽担当のクラブ代表が「踊りやすいように衣装の長さはある程度揃えろ」と持論を展開する。
収拾不能かと思った矢先、教師の一人が私のほうに視線を投げ、助けを求めるように小さく微笑んだ。

「セレナ・ルクレール様……。もしよろしければ、公爵令嬢としての中立的な提案をいただけませんか?」

何という押し付け。まあ、いいわ。私は喉を軽く鳴らし、人々の注目を集めるように前へ出る。そして、一拍置いてから口を開いた。

「皆さんの言い分はどれも魅力的だけど、結論を急ぎすぎるから揉めるのよ。まずは目指す舞踏会のコンセプトを決めてはどう? たとえば『優雅で厳かな雰囲気』とか『華やかで自由な祭りのような雰囲気』とか、方向性を定めないと」

方向性が固まれば、そこからドレスの配色や音楽のジャンル、装飾のスタイルもある程度絞れる。やりたいことを全部並べても“寄せ集め”になってしまうだけだ。
これは前世で学祭の運営に関わったときの経験談でもある。私が得意気に話すと、令嬢たちは意外そうな顔をしながら聞き入る。

「そうね……たしかにコンセプトが決まれば、そこから派生的にアイデアをまとめやすいかも」
「誰の意見を優先するか、ではなく、まず共通の方向を探りましょう」

少しずつ納得の声が広がり、教師陣も「それなら具体的に話し合いを進められそうだ」と安堵の表情を浮かべる。アレクシスも後ろで腕を組みながら、私を讃えるようなまなざしを送ってくる。
そのまま、みんなで舞踏会のテーマについて案を出し合い始め、私も随時フォローに回った。音楽やドレス、飾り付けに対して意見が相違すれば、代替案や妥協点を提示して橋渡しをする。意外とこういう調整役は嫌いではない。

最終的には、教師陣と私の提案で「格式ある優雅さはベースにしつつ、若々しい華やかさを加味したスタイルにする」という方向性が仮決定された。各ドレスのデザインは自由だが、最低限のドレスコードを守ること。音楽も伝統曲を中心にしつつ、後半はアップテンポなものを増やす、などの具体案もまとまり、令嬢たちからも“これなら私の主張も生きるわ”という好反応が得られた。

この瞬間、私はほんの少し達成感を覚える。――私は転生してきて、“悪役令嬢”のレッテルを貼られているのに、こうして学園行事をまとめる役割をこなしている。前世の経験が活かせている気がして、どこか誇らしい。
アレクシスがちらりと近づき、「よくやったな」と耳打ちしてくる。背筋がぞくりとするほど近い距離だが、誰にも悟られないように声を落としてくれるあたり、彼の不器用な優しさを感じる。

(……ますます混乱しそう。どうしてこんなにもスムーズに協力できるの? ゲームの王子ルートじゃ、悪役令嬢は嫌われ者だったのに……)

胸をかすめる不安はある。でも、これが今の私たちの関係だ。王子の婚約者として、そして学園祭の舞踏会を成功させる仲間として、私はこの役割を全うしてみせる。
リリィが何を企もうと、私が目立つ場所を奪い返す。そう強く思いながら、私はほっと小さく息をついた。
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