二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

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ランベルトの提案3

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「もうクラウスは帰って来ませんよ。一年以上、いやもうすぐ二年も音沙汰ないのです。きっとどこかで死んでしまったのですよ。この国では、三年行方が知れない場合は死亡宣告が出来ることになっています。きっと王は、来年にもクラウスの死亡を宣告するでしょう」

 クラウス様は死んだことにされる予定らしい。
 
 ゼルマ第二王妃の唯一の子であるランベルト王子も、おそらくあのクラウス様の呪いに関与している。少なくとも本当は何が起ったのかを知っているだろう。
 そしてクラウス様は犬の姿のまま、今でもどこかを彷徨っていると思っているに違いない。決して元の人間の姿には戻らないだろうと確信しているのだ。きっと。

 だからこそ、これほどはっきりと「帰ってこない」と言い切れる。
 そしてその三年が経った瞬間に、死亡宣告ができるようにすでに手を回しているに違いないとマルガレーテは思った。

 クラウス様の死体は出ない。殺してはいないから。だから犯人捜しもされない。
 でも公には死んだことにする。

 そして残ったマルガレーテを愛人にすると?

「少なくともクラウス様が死亡とされるまでは、あくまでも私はクラウス様の婚約者ですから」

 それであと一年は逃げられるだろうか?

「しかしその一年がもったいないでしょう。あなたは今はお元気でも、魔力の色は白のまま。ということは、一年後も今のように健康でいられるかはわからないのですよ。今までお元気でいられたことだけでも奇跡なのです。なのにぐずぐずとまた一年浪費するのですか。その一年で、自分の子供を持つことが出来るかもしれないのに。しかもその子は将来の王かもしれないのですよ?」

「あなたのお子様なら、ご自分の奥様とお作りになればよろしいのでは? それが正しい道です」

 マルガレーテは歯を食いしばって、かろうじてそう答えたのだった。

 殴ってやろうかしら?



「で、怒って帰って来たのか。あいつ、相変わらずバカだな」

 王妃様が盛大に呆れて言った。

「ガウ! バウワウ! ガウ!」
『あいつ、生かしてはおかん! 俺の婚約者に何を言ってくれてんだ! 咬みちぎってやる!』

 クロ、つまりは犬の姿のクラウス様が怒り狂っていた。

 最近のクラウス様は、クロの姿で過ごすことが多くなっていた。というより、元々狼の姿の方が好きな人だったらしい。理由はその方が注目を浴びないから。自由に出来るから。早く走れるから。
 そして今は、うっかり人に見られてもクラウス様だとはわからないから。

 クロの姿はゼルマ第二王妃側に知られていない。はず。

 なのでクラウス様はクロの姿のまま、マルガレーテにべったりと心ゆくまでくっついているのだった。

「しかし妃はもういるのに、どうしてそんなにマルガレーテに子供を産ませたいんだ? あっちに産ませればいいだろうに」

「バウワウ! バウ!」
『それはもちろんマルガレーテが綺麗だから惜しくなったんだろう! あいつは気に入ったものは全部自分のものにしたい奴なんだ! 許せん!』

「だからといってわざわざクラウスの婚約者に手を伸ばすこともないだろうに」

「バウ。バウワウ」
『マルガレーテは早々に死ぬと思われているでしょうから、マルガレーテにとにかく子供を産ませて、将来その子を使ってレイテの乗っ取りでも考えているのでは?』

「ふむ、あり得るな。自分は国民に人気の聖女と結婚して足場を固め、同時にレイテの血を引く子供も得ようということか。欲張りだな」

「バウ! ワン!」
『許せん! 彼女は俺のものだ!』

 叫ぶクラウス様に、思わずぽっと赤くなるマルガレーテ。

「私も結婚するのはクラウス様がいいです……」
 
「ワオォーーーン!」
『俺のマルガレーテ! 幸せになろうな!』

 いきなり遠吠えを始めたクラウス様を見ながら、

「うるさい。部屋の中で遠吠えはやめろ……」

 と言いつつ、王妃様が所在なさげにちょっとだけ遠い目をしていた。
 

 このときその場にはイグナーツ先生はいなかったのだけれど、後日その話を聞いたイグナーツ先生はもちろん、
 
「レイテの姫君に向かってなんという侮辱! 許せません! 王妃様、ランベルトを呪う呪いを作りましょう! じわじわと苦しんで死ぬ呪いがいいでしょうな! 私が全身全霊を込めて最高のものをお作りしますぞ!」

 と、この国でもトップクラスの魔術師が怒り狂っていた。

「いやまて、さすがに王族を呪う魔術なんぞ作ったら問答無用で死刑だからやめとけ。普通に呪詛を吐くくらいにしておけ」
 
「でも王妃様の命令なら……!」
 
「私だってただでは済まなくなるって。イグナーツ先生は即刻首が飛ぶからな、とりあえず今はやめとけ。他の方法を考えよう」

 と、慌てて王妃様が止めていた。

「ならば、クラウス様と王妃様に呪いをかけたと証明できたら、第二王妃様の首も飛ぶでしょうか」

 そこにマルガレーテがぼそりと言った。
 クロの姿のクラウス様が、隣でびっくりしたようにマルガレーテを見上げた。

「マルガレーテ、今回の事を相当怒っているな? まあ、証明できれば首はわからんが追放か幽閉くらいはできるだろうな。もし証明出来ればだが」

 そう、その証明ができないから今まだ動けていないのだった。

「では私がこの話に乗って、ランベルト王子に近づいたら犯人を探れるでしょうか?」

「ワン! ワンワンワン!」
『ダメ! 絶対にダメ! ダメと言ったらダメ!」

 クラウス様が狂ったように吠えた。
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