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利権? そうですがなにか?
しおりを挟む「だが出来たらしばらくは大人しく皇帝にいい顔をしておいてくれ。なかなか面白いことになるぞ」
父さまはウキウキと今日の商談を思い返しているようだった。
「まあじゃあ、しばらくは。我が家の利益になる間はね。そういえば、あの時に聞かれた私の実の父親の話って、本当に母さまからは聞いていなかったの?」
「聞いていないな。そして春容が言いたくないものを聞く気もなかったな。しかし春麗も聞いていなかったのか?」
「それが全く聞いていなかったのよねえ」
それが今世だけでなく、貧乏だった前の人生でも母さまは何も言わなかった。
私も聞いたことはあったはずだけれど、いつも話をはぐらかされて終わった気がする。
前世はそれで、ああ言いたくないんだな、とはわかったから、いつしか私も聞かなくなっていた。
前回の人生では、まさかあんなに早く亡くなるとは思っていなかったから。
そして今世は、単にこの父さまが大好きだったから、あまり気にならなかったのだ。
私は王嵐黎の娘、それで良かったから。
しかし……。
私は相変わらず目の端でほてほてと歩いているバクちゃんを見て思った。
一応は聞いておけば良かったのかも知れない。
そんなバクちゃんはそのままほてほて歩きながら、まるで視界に入っていないかのように父さまと重なって、そして抜けていった。
バクちゃん……もしや父さまを認識するのをやめた……?
私をすり抜けることはしないのに。
ちゃんと私が動くと、まるでぶつからないように、私を避けるように移動するのに。
父さまにはそういう気遣いしないんだ……。
そういえば、まわりの女官の人たちにも気遣いしないわね。
「……なんか虫でもいるのか?」
「ん? そこ、何か飛んでない?」
そう言って、私はバクちゃんがいるところを指さしてみた。
すると父さまはその指し示した場所を見て、
「パパには何も見えないな」
と言ったのだった。
うーん、やっぱり見えないのか。
「そう、じゃあ気のせいだったのかな。見えた気がしたんだけど」
「きゅっ? きゅきゅっ!?」
いやちゃんと見えているんだけどね。
だからバクちゃん、そんな「えっ? なに!? なんで!?」みたいな顔をしてこっちを見るのはやめて……。
それを父さまに言っても混乱するだけでしょうが。
「じゃあ春麗、パパは今日は帰るけど、必要なものが浮かんだらいつでも言いなさい。あといつもの本たちもちゃんと送るからね。他にパパに用意して欲しいものはあるかな?」
当面の必要そうなものを一緒に確認した上で、さらにそう聞いてくる父さまに、私はぼそっと言った。
「そうね、皇帝にも見つけられない逃亡先かな」
「春麗……それでその逃亡先は、いつ使うつもりなのかな?」
そこでそれは無理だとは言わないところがさすが王嵐黎なのだった。若干笑顔が引きつってはいるが。
「んー? 必要になったら?」
「……そうか。ではその時には言いなさい。パパはいつでも春麗の味方だからね」
そう言って去って行く父さまは本当に頼もしく、素敵な私の父さまなのだった。
今でも母さまにベタ惚れの父さま。
大商人になった今でも、亡き母さまの好みの体型を維持するべく筋トレを欠かさない父さま。
そしてそんな妻の残した娘のためならば、暗に皇帝さえも敵に回してもいいという父さま。
あまりに理想的な恋人過ぎて、母さまが羨ましいと何度思ったことか。
どうして私には、あの男しかいないのだろう。
なんと今では妻が百人以上いるような男しか。
「とりあえず道路整備にかかる権限と、それに伴うあらゆる待遇の優遇を約束した。じじいたちには核心は隠してるからお前も漏らすなよ?」
「まあもちろんですわ。主上、父の代わりに改めて御礼を申し上げます。父も大変喜んでおりました。なんとお優しい」
「惚れ直したか?」
「それとこれとは別ですね」
今日もやっぱり夕食を食べにやって来たこの男は、席について人払いがされたとたんに仕事の話を始めた。
父さまは、この国の道路整備事業を任されたのだった。
そしてそれに必要な権限も皇帝から直に与えられた。これは大変なことである。
対して皇帝の利は、もちろんその整備された道路とその道路を使った王嵐黎の情報網を表でも裏でも優先的に使えるようにすることである。
「関係省には、資金を全て王嵐黎が出すことで認めさせた。表向きはそこからの受注という形にするからそれほど文句は出ていない。なにしろ今国庫が火の車だからな。金も労力もかけずに道路事情改善の実績が転がり込むからむしろ喜んでいるかも」
「でも父さまのことだから、道路を整備した暁にはその道路を使って金儲け始めるわよ? もしかしたら同時並行かも」
「構わない。それで国の産業が活性化するなら」
「それはよほど国はお金に困っているということ?」
「困っているな。で、それを察した王嵐黎が去り際に言っていた。春麗に商売させて上前をはねろと」
「あらさすが父さま、私のことをよくわかっているじゃない」
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