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母の裏切り
第二話
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――――――ゼルフ帝国とガリアン連合国との戦争が本格的に始まってから数年が経っていた。
全面戦争となった大陸は混乱し、ゼルフとガリアン両者は一歩も引かず、領土を奪っては奪い返す、といった戦いが続く。
兵と資金を膨大に消費し、得たものはまだ何もない状況に人々 は嫌気が出始めていた。
そんなゼルフ帝国の帝都にて、物語が動いた。
ロクセリアが築いた帝国の帝都は大陸の真ん中にあった。
それは広大な領地を管理する為には中央にある方がよいと考えたからだ。
そのお陰で商業都市として街は発展し栄えた。
主に鉱山や石材を採れることがわかり、それを求める旅人や商人が必ず最初に訪れる場所となっていた。
街では工場と鍛冶屋などが稼働し、鍛冶職人が振るう槌を休める事はなかった。
金属音と熱気で、辺りは蒸し暑く、何もしなくても汗が滴り落ちりるほど。
商人らは鍛冶師から鎧、武器などを買い付け、帝都で手に入らない物資、例えば塩、魚といった海産物を売り出し、互いに目的買いを成立させていた。
まさにここが帝国の物流の中枢を担っている、と言ってもいいだろう。
しかし、数年に及ぶ他国との戦争により、疲弊と消耗が激しく、帝国はその活気さを失いつつあったのである。
物流も時々、滞ることもあり、食料の調達にも苦労する日もあった。
だが、さすがは広大な領土を保有しているだけあって、小麦畑などを大量生産して、なんとか、持ちこたえている。
その商業都市の真ん中に鎮座しているのが、皇帝が住む皇城である。
都市のど真ん中とあって、目立ち、異様な光景だ。
明るい装飾をした家々が立ち並んでいて、商店の店の者の呼び込みの声が飛び交っているのだが、その近くでは黒塗りの皇城が闇夜に隠れて、建っていた。
皇城は堅牢だ。
厚い城壁で囲まれ、皇帝の命がなければ開かない一つの巨大鉄城門によって、皇城は守られている。
さらに皇城の東側には親衛隊の宿舎があり、ここに一万もの兵が宿泊しており、常に両目を光らているのだ。
そんな黒塗りの壁には似合わない白い石壁の塔が一つ建てられていた。
高さおよそ三十メートルほどで、見上げるほどの高さのこの白い塔は物見塔として機能していた。
が、実は極秘裏にホムンクルスを研究する施設が設けられていたのだ。
そして、今もそのホムンクルスの研究が行われている最中だった。
==========================================================================================
白い壁、白い床、白い天井、何もない真っ白な空間に椅子が二つ並べられていた。
唯一の出口である扉が茶色とあって、扉がやけに目立っていた。
白衣の男が椅子に腰をかける。
対峙するように少年が用意されていた椅子に座らせられる。
「おはよう。マティアス君」
白衣の男がそう明るく声をかける。
しかし、目の前にいる少年は無反応だった。
ただ、白衣の男の顔をボーっと見つめているだけで、口は開かない。
白衣の男は居心地が悪そうな顔をすると、咳払いをし、眼鏡をかけなおした。
手に持っていた資料に視線を落とす。
「今日は君のためにお勉強をしよう」
「お勉強……?」
「そうだよ」
マティアスは小首をかしげる。
「何を……するの?」
その質問に白衣の男は手元の資料を見ながら言った。
「あぁーその前に聞いておきたいことがあるんだけど、マティアス君は今日、何歳になったのかわかるかな?」
「……、十……五?」
白衣の男は微笑むと首を横に振った。
「違うね、十七歳だよ?」
「十七歳……?」
とても十七歳とは思えない会話のやり取りに後ろの方で控えていた白衣の男らが苦笑いをしてしまう。
白衣の男が後ろを振り向いて、肩を竦めてみせた。
同僚らにどうするか意見を求めたのだ。
一人が続けるように手で合図を出した。
白衣の男は気乗りしないような顔で再び、マティアスに視線を向ける。
「じ、じゃあ……これから僕がイラストを見せるから、それがなんなのか答えて欲しい。いいかい?」
マティアスは小さく頷いた。
言葉は少なくとも理解した、と判断した白衣の男は用意していたイラストの一枚を彼に見せる。
「では、これはなんですか?」
見せられたのは犬のイラストだった。
「……んん」
数秒経ったのち彼はようやく答える。
「猫……?」
「違うね、これは犬だ。ワンと吠えるのが犬だよ? ちなみにニャーと鳴くのが猫だよ? 覚えたかな?」
下を向き考え込んだあと理解したように顔を上げて、言う。
「……猫がワンで、犬がニャー……?」
「なんでだ……」
それに白衣の男はため息を一つ吐き頭を抱えた。
ホムンクルスであるマティアスは一番、追い求めていた形に近いことで期待が高かった。
目的通り、一年半で身体は急成長を成し遂げ、今では少年と同じほどの肉体になっている。
ここからは人間と同じ、流れになるのだが、少し問題が起きた。
知能が身体に追いつけていないのだ。
言葉を覚えたのも数日前の事で、最初、十歳になっても言葉をまともに話せなかった。
今日は十七歳となって、知能はどこまで発達したのかを試験するために開かれたのだ。
だが、試験結果は知能は六歳以下と判断される。
白衣の男が残念そうに手に持っていた資料の評価表にオールDランクと書き込んだ。
その光景を遠くの方で見ていた白衣の男らがささやき始める。
「……おい、どうやら試験体五番も他と同じく、知能に致命的な欠如があるようだぞ」
同僚にそう囁く。
「そりゃあそうだろ。十年の歳月をたった一年に縮めてしまっているんだぞ。脳の発達に障害が出るのは当たり前だ。俺は前からそう言っていたぞ?」
ほらみろ言わんこっちゃない! と口髭の男が腕組をした。
「だが、計画では一年で兵士になれるようにしないといけない……。どうしたものか……。これでは戦う前に死んでしまう。また一からやり直しか」
「もう無理だよ。やはり、我々は神にはなれない」
肩を落とし、うな垂れて声を漏らす。
「神にはなれないか……。今回も失敗か……」
「だな」
そんなやり取りを聞いていた赤髪、青い目、背の高い若い女性が口を開いた。
「まだわからないでしょ?」
全面戦争となった大陸は混乱し、ゼルフとガリアン両者は一歩も引かず、領土を奪っては奪い返す、といった戦いが続く。
兵と資金を膨大に消費し、得たものはまだ何もない状況に人々 は嫌気が出始めていた。
そんなゼルフ帝国の帝都にて、物語が動いた。
ロクセリアが築いた帝国の帝都は大陸の真ん中にあった。
それは広大な領地を管理する為には中央にある方がよいと考えたからだ。
そのお陰で商業都市として街は発展し栄えた。
主に鉱山や石材を採れることがわかり、それを求める旅人や商人が必ず最初に訪れる場所となっていた。
街では工場と鍛冶屋などが稼働し、鍛冶職人が振るう槌を休める事はなかった。
金属音と熱気で、辺りは蒸し暑く、何もしなくても汗が滴り落ちりるほど。
商人らは鍛冶師から鎧、武器などを買い付け、帝都で手に入らない物資、例えば塩、魚といった海産物を売り出し、互いに目的買いを成立させていた。
まさにここが帝国の物流の中枢を担っている、と言ってもいいだろう。
しかし、数年に及ぶ他国との戦争により、疲弊と消耗が激しく、帝国はその活気さを失いつつあったのである。
物流も時々、滞ることもあり、食料の調達にも苦労する日もあった。
だが、さすがは広大な領土を保有しているだけあって、小麦畑などを大量生産して、なんとか、持ちこたえている。
その商業都市の真ん中に鎮座しているのが、皇帝が住む皇城である。
都市のど真ん中とあって、目立ち、異様な光景だ。
明るい装飾をした家々が立ち並んでいて、商店の店の者の呼び込みの声が飛び交っているのだが、その近くでは黒塗りの皇城が闇夜に隠れて、建っていた。
皇城は堅牢だ。
厚い城壁で囲まれ、皇帝の命がなければ開かない一つの巨大鉄城門によって、皇城は守られている。
さらに皇城の東側には親衛隊の宿舎があり、ここに一万もの兵が宿泊しており、常に両目を光らているのだ。
そんな黒塗りの壁には似合わない白い石壁の塔が一つ建てられていた。
高さおよそ三十メートルほどで、見上げるほどの高さのこの白い塔は物見塔として機能していた。
が、実は極秘裏にホムンクルスを研究する施設が設けられていたのだ。
そして、今もそのホムンクルスの研究が行われている最中だった。
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白い壁、白い床、白い天井、何もない真っ白な空間に椅子が二つ並べられていた。
唯一の出口である扉が茶色とあって、扉がやけに目立っていた。
白衣の男が椅子に腰をかける。
対峙するように少年が用意されていた椅子に座らせられる。
「おはよう。マティアス君」
白衣の男がそう明るく声をかける。
しかし、目の前にいる少年は無反応だった。
ただ、白衣の男の顔をボーっと見つめているだけで、口は開かない。
白衣の男は居心地が悪そうな顔をすると、咳払いをし、眼鏡をかけなおした。
手に持っていた資料に視線を落とす。
「今日は君のためにお勉強をしよう」
「お勉強……?」
「そうだよ」
マティアスは小首をかしげる。
「何を……するの?」
その質問に白衣の男は手元の資料を見ながら言った。
「あぁーその前に聞いておきたいことがあるんだけど、マティアス君は今日、何歳になったのかわかるかな?」
「……、十……五?」
白衣の男は微笑むと首を横に振った。
「違うね、十七歳だよ?」
「十七歳……?」
とても十七歳とは思えない会話のやり取りに後ろの方で控えていた白衣の男らが苦笑いをしてしまう。
白衣の男が後ろを振り向いて、肩を竦めてみせた。
同僚らにどうするか意見を求めたのだ。
一人が続けるように手で合図を出した。
白衣の男は気乗りしないような顔で再び、マティアスに視線を向ける。
「じ、じゃあ……これから僕がイラストを見せるから、それがなんなのか答えて欲しい。いいかい?」
マティアスは小さく頷いた。
言葉は少なくとも理解した、と判断した白衣の男は用意していたイラストの一枚を彼に見せる。
「では、これはなんですか?」
見せられたのは犬のイラストだった。
「……んん」
数秒経ったのち彼はようやく答える。
「猫……?」
「違うね、これは犬だ。ワンと吠えるのが犬だよ? ちなみにニャーと鳴くのが猫だよ? 覚えたかな?」
下を向き考え込んだあと理解したように顔を上げて、言う。
「……猫がワンで、犬がニャー……?」
「なんでだ……」
それに白衣の男はため息を一つ吐き頭を抱えた。
ホムンクルスであるマティアスは一番、追い求めていた形に近いことで期待が高かった。
目的通り、一年半で身体は急成長を成し遂げ、今では少年と同じほどの肉体になっている。
ここからは人間と同じ、流れになるのだが、少し問題が起きた。
知能が身体に追いつけていないのだ。
言葉を覚えたのも数日前の事で、最初、十歳になっても言葉をまともに話せなかった。
今日は十七歳となって、知能はどこまで発達したのかを試験するために開かれたのだ。
だが、試験結果は知能は六歳以下と判断される。
白衣の男が残念そうに手に持っていた資料の評価表にオールDランクと書き込んだ。
その光景を遠くの方で見ていた白衣の男らがささやき始める。
「……おい、どうやら試験体五番も他と同じく、知能に致命的な欠如があるようだぞ」
同僚にそう囁く。
「そりゃあそうだろ。十年の歳月をたった一年に縮めてしまっているんだぞ。脳の発達に障害が出るのは当たり前だ。俺は前からそう言っていたぞ?」
ほらみろ言わんこっちゃない! と口髭の男が腕組をした。
「だが、計画では一年で兵士になれるようにしないといけない……。どうしたものか……。これでは戦う前に死んでしまう。また一からやり直しか」
「もう無理だよ。やはり、我々は神にはなれない」
肩を落とし、うな垂れて声を漏らす。
「神にはなれないか……。今回も失敗か……」
「だな」
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