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たとえ今は愛し合えなくても(*)
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「覚悟は出来ています。魔王様の、お望みのままに」
「…………っ、くそ」
「ぁ、っ……」
ロイトの唇が、首筋に吸い付く。チリっとした痛みと共に、ほんの僅かに身体に熱が灯った。
まるでわざと乱暴にするかの様に、ロイトの手が躊躇無くワンピースをたくし上げ、頭上に上げられた両手を縛るようにまとめられる。
両手の自由を奪われ、動けなくなったナティスの双丘が、ロイトの両手によってぎゅっと強めに鷲づかみにされた。
前戯も何もする気がないと宣言するかの様に下着が脱がされ、早急に長い指が秘した場所に触れる。
もちろん少しも濡れていないその場所は、ロイトの指を簡単に受入れられる状態では無く、無理矢理こじ開けようとするそれに、痛みが伴う。
「もっと力を抜け」
淡々と命令する言葉に感情は乗せられてはおらず、作業の邪魔をせずに協力しろと言わんばかりだ。
そうは言っても、この身体はまだ一度もそこに誰かを受入れたことは無く、時間をかけるべき開く準備も出来ていない身体が、そう簡単に解れるはずも無い。
しかも愛の伴わないロイトの動きは事務的で、ナティスを悦ばそうという配慮どころか、ロイト自身が気持ち良くなろうとする気配さえ一切無かった。
感情の乗らないその表情をいくら見つめても、ロイトが何を考えているのかはわからない。
「痛っ……」
ナティスの身体の変化を待たず押し入って来る指に、とうとう我慢出来なかった声が漏れる。
その声に一瞬だけ動きを止めたロイトが、冷たい視線を下ろしてきた。
「お前からは、本来聖女が持つ光の魔力も匂いも感じられない。本物の聖女か否かの判断は、俺にとっては造作も無い事だ、騙し通せると思わない方が良い。大修道院の奴らに命じられたのではないと言うのなら尚の事、止めるのならば今の内だぞ?」
人間である聖女が光の魔力を持つという事も、甘い匂いがする事も初耳だ。
マヤタや犬耳の魔族は、毎年この魔王城に送られてくる聖女という存在について、本物なのかと懐疑的ではあったものの、確実に偽物だと言い切ることも出来ない様子だった。
と言うことは、魔王であるロイトにだけわかる違いがあるのだろうか。
そう言えばティアと一線を越えたあの日、甘い匂いがしなくなったと嬉しそうに言っていた。
どういう事かと尋ねても笑って誤魔化されてしまったけれど、もし聖女の癒しの力が光の魔力によるものだとするのなら、相反する闇の魔力を持つロイトには、他の魔族や人間にはわからない特別な何かが、感じ取れるのかも知れない。
歴代の魔王達が聖女を望んで来た理由も、もしかするとこの辺りにあるのだろうか。
冷たく告げられたその言葉は、まだこんな状況にあってもナティスを逃がそうとしてくれているものである事に他ならなくて、ますます訳がわからなくなる。
聖女として捧げられた乙女を、魔王城に置いておけないというのならば、問答無用で早々に乙女を散らしてしまうべきだ。
本当に聖女でない事がわかるのなら尚更、逃げ道など作らず単なる慰み者として、もっと好き勝手に扱えば良い。
聖女では無いとわかっている相手を、気が乗らないままロイトが抱く必要も、ましてやナティスを気遣う必要も無いように思う。
こうして気遣われている事がわかってしまったら、どんなに乱暴に扱われても、脅しにはならなくなってしまうのに。
ここまでやって来たナティスの真意を、試しているのだろうか。
それならば余計に、逃げるわけにはいかない。
何としてでも、ロイトとこの世界の行く末について話せる様にならなければ、この先もずっと不幸の連鎖は続いていく。
その為にはまず、ロイトにナティスが敵ではない事、人間の多くはこの戦いに疲弊している事、ナティスは大修道院とは違う考えを持って、和平への道を探しに来たのだという事を、信じて貰わなければならない。
そして出来るなら、この先愛される事を望むのは欲張りすぎだとしても、ナティスがまた一方的に愛する事は許して貰える位の関係には戻りたい。
今はもうティアではないのだから、戻るというのも可笑しな話しかもしれないけれど、いつかまたロイトの優しい笑顔が見られる様になるのなら、どんな事でもする覚悟だ。
「いいえ。ここで逃げたら、貴方はもう二度と、私を見てくれないでしょう?」
「…………っ、お前」
頭上で縛られている両手をロイトの首に引っかけて、ぐいっと引き寄せる。
突然の動きに驚いた様子のロイトに、そのままナティスから欲情を呼び起こさせるように、深いキスを仕掛けた。
と言っても、キスの方法はティアの記憶にあるロイトのそれをなぞっただけだったので、上手く出来たかはわからない。
だが、ナティスの覚悟は伝わったはずだ。
絡めた舌を解いて唇を離すと、ツ……っと透明の糸が二人の間に伸びる。
「ぁ、っ、続けて……下さい」
潤んだ目で先を促すと、ロイトは何かを耐えるようにぐっと息を詰めた後、決断したように顔を上げた。
その表情は既に無機質なものへと戻っており、それ以上の感情の動きは読めない。
ぐいっとロイトの首に掛かっていた両手が再び持ち上げられたと思ったら、眼前にズボンを寛げ下着を下ろした、まだ反応もしていないロイトの下半身が押し付けられた。
「舐めろ。噛むなよ」
ティアと愛し合ったときには、すぐに反応を見せ我慢までしていたはずのロイトのそこは、ナティスの唇を無理矢理押し開いて中に入っても尚、固さを持つというにはほど遠い状態を保ったままだった。
慰みになるどころか、この行為自体がすでに、ロイトにとって苦行以外の何物でも無いのではないかと疑うほどだ。
だが既にロイトもナティスも、止めるという選択肢を放棄してしまっていた。
ならばせめて、ロイトの望むままに行動するしかない。
ナティスにとっては、ティアだった頃のロイトとのあの一度きりが、愛を交す行為の知りうる限り全てだ。
求めてくれていない相手の何をどうすれば気持ちよくなるのか、どうする事が正解なのか、全然わからない。
舐めろと言われたからには、口内を占領しているロイトのそれに舌を這わせて、熱を溜めさせる手伝いをしろという事なのだろうけれど、食べ物を舐めるときの要領で大丈夫なのだろうか。
「んっ……むぅ、ぁふ……っ」
息が上手く吸い込めなくて、声にならない声が隙間から漏れる。
だが、段々と口内にあるものが反応を示してきているのがわかるので、どうやら方法としては間違っていないらしい。
お互いが無理矢理に高めあっているような気がして、本来愛を交す行為であるはずなのに、どこか作業的な感じがしてしまうのが悲しい。
けれど、ナティスがまだ愛どころか信頼も勝ち得ていない相手である事を思えば、今はこれが精一杯でもある。
やがて舌で物理的に高められた熱が、口内でしっかりとした固さと主張を持ち、ナティスが息苦しさに耐えかねてきた頃、ロイトはその身を引いて口内から出て行った。
半ば無理矢理させられた事とは言え、ナティスの口淫によってロイトが反応を見せ始めてくれたのが嬉しくて、途中から夢中になってしまった節もある。
最後までさせて貰えなかった事が、少し残念だった。
「もういい」
「んっ、ぁ……っ」
名残を惜しむように、離れていくロイトの熱へと最後にちゅっとキスを落とすと、その熱が生きているかのようにびくりと震えたのがわかる。
ロイトに触れている事で、ナティスの中に段々と愛しさが込み上げて来て、きゅんとお腹の奥が温かくなった気がした。
「…………っ、くそ」
「ぁ、っ……」
ロイトの唇が、首筋に吸い付く。チリっとした痛みと共に、ほんの僅かに身体に熱が灯った。
まるでわざと乱暴にするかの様に、ロイトの手が躊躇無くワンピースをたくし上げ、頭上に上げられた両手を縛るようにまとめられる。
両手の自由を奪われ、動けなくなったナティスの双丘が、ロイトの両手によってぎゅっと強めに鷲づかみにされた。
前戯も何もする気がないと宣言するかの様に下着が脱がされ、早急に長い指が秘した場所に触れる。
もちろん少しも濡れていないその場所は、ロイトの指を簡単に受入れられる状態では無く、無理矢理こじ開けようとするそれに、痛みが伴う。
「もっと力を抜け」
淡々と命令する言葉に感情は乗せられてはおらず、作業の邪魔をせずに協力しろと言わんばかりだ。
そうは言っても、この身体はまだ一度もそこに誰かを受入れたことは無く、時間をかけるべき開く準備も出来ていない身体が、そう簡単に解れるはずも無い。
しかも愛の伴わないロイトの動きは事務的で、ナティスを悦ばそうという配慮どころか、ロイト自身が気持ち良くなろうとする気配さえ一切無かった。
感情の乗らないその表情をいくら見つめても、ロイトが何を考えているのかはわからない。
「痛っ……」
ナティスの身体の変化を待たず押し入って来る指に、とうとう我慢出来なかった声が漏れる。
その声に一瞬だけ動きを止めたロイトが、冷たい視線を下ろしてきた。
「お前からは、本来聖女が持つ光の魔力も匂いも感じられない。本物の聖女か否かの判断は、俺にとっては造作も無い事だ、騙し通せると思わない方が良い。大修道院の奴らに命じられたのではないと言うのなら尚の事、止めるのならば今の内だぞ?」
人間である聖女が光の魔力を持つという事も、甘い匂いがする事も初耳だ。
マヤタや犬耳の魔族は、毎年この魔王城に送られてくる聖女という存在について、本物なのかと懐疑的ではあったものの、確実に偽物だと言い切ることも出来ない様子だった。
と言うことは、魔王であるロイトにだけわかる違いがあるのだろうか。
そう言えばティアと一線を越えたあの日、甘い匂いがしなくなったと嬉しそうに言っていた。
どういう事かと尋ねても笑って誤魔化されてしまったけれど、もし聖女の癒しの力が光の魔力によるものだとするのなら、相反する闇の魔力を持つロイトには、他の魔族や人間にはわからない特別な何かが、感じ取れるのかも知れない。
歴代の魔王達が聖女を望んで来た理由も、もしかするとこの辺りにあるのだろうか。
冷たく告げられたその言葉は、まだこんな状況にあってもナティスを逃がそうとしてくれているものである事に他ならなくて、ますます訳がわからなくなる。
聖女として捧げられた乙女を、魔王城に置いておけないというのならば、問答無用で早々に乙女を散らしてしまうべきだ。
本当に聖女でない事がわかるのなら尚更、逃げ道など作らず単なる慰み者として、もっと好き勝手に扱えば良い。
聖女では無いとわかっている相手を、気が乗らないままロイトが抱く必要も、ましてやナティスを気遣う必要も無いように思う。
こうして気遣われている事がわかってしまったら、どんなに乱暴に扱われても、脅しにはならなくなってしまうのに。
ここまでやって来たナティスの真意を、試しているのだろうか。
それならば余計に、逃げるわけにはいかない。
何としてでも、ロイトとこの世界の行く末について話せる様にならなければ、この先もずっと不幸の連鎖は続いていく。
その為にはまず、ロイトにナティスが敵ではない事、人間の多くはこの戦いに疲弊している事、ナティスは大修道院とは違う考えを持って、和平への道を探しに来たのだという事を、信じて貰わなければならない。
そして出来るなら、この先愛される事を望むのは欲張りすぎだとしても、ナティスがまた一方的に愛する事は許して貰える位の関係には戻りたい。
今はもうティアではないのだから、戻るというのも可笑しな話しかもしれないけれど、いつかまたロイトの優しい笑顔が見られる様になるのなら、どんな事でもする覚悟だ。
「いいえ。ここで逃げたら、貴方はもう二度と、私を見てくれないでしょう?」
「…………っ、お前」
頭上で縛られている両手をロイトの首に引っかけて、ぐいっと引き寄せる。
突然の動きに驚いた様子のロイトに、そのままナティスから欲情を呼び起こさせるように、深いキスを仕掛けた。
と言っても、キスの方法はティアの記憶にあるロイトのそれをなぞっただけだったので、上手く出来たかはわからない。
だが、ナティスの覚悟は伝わったはずだ。
絡めた舌を解いて唇を離すと、ツ……っと透明の糸が二人の間に伸びる。
「ぁ、っ、続けて……下さい」
潤んだ目で先を促すと、ロイトは何かを耐えるようにぐっと息を詰めた後、決断したように顔を上げた。
その表情は既に無機質なものへと戻っており、それ以上の感情の動きは読めない。
ぐいっとロイトの首に掛かっていた両手が再び持ち上げられたと思ったら、眼前にズボンを寛げ下着を下ろした、まだ反応もしていないロイトの下半身が押し付けられた。
「舐めろ。噛むなよ」
ティアと愛し合ったときには、すぐに反応を見せ我慢までしていたはずのロイトのそこは、ナティスの唇を無理矢理押し開いて中に入っても尚、固さを持つというにはほど遠い状態を保ったままだった。
慰みになるどころか、この行為自体がすでに、ロイトにとって苦行以外の何物でも無いのではないかと疑うほどだ。
だが既にロイトもナティスも、止めるという選択肢を放棄してしまっていた。
ならばせめて、ロイトの望むままに行動するしかない。
ナティスにとっては、ティアだった頃のロイトとのあの一度きりが、愛を交す行為の知りうる限り全てだ。
求めてくれていない相手の何をどうすれば気持ちよくなるのか、どうする事が正解なのか、全然わからない。
舐めろと言われたからには、口内を占領しているロイトのそれに舌を這わせて、熱を溜めさせる手伝いをしろという事なのだろうけれど、食べ物を舐めるときの要領で大丈夫なのだろうか。
「んっ……むぅ、ぁふ……っ」
息が上手く吸い込めなくて、声にならない声が隙間から漏れる。
だが、段々と口内にあるものが反応を示してきているのがわかるので、どうやら方法としては間違っていないらしい。
お互いが無理矢理に高めあっているような気がして、本来愛を交す行為であるはずなのに、どこか作業的な感じがしてしまうのが悲しい。
けれど、ナティスがまだ愛どころか信頼も勝ち得ていない相手である事を思えば、今はこれが精一杯でもある。
やがて舌で物理的に高められた熱が、口内でしっかりとした固さと主張を持ち、ナティスが息苦しさに耐えかねてきた頃、ロイトはその身を引いて口内から出て行った。
半ば無理矢理させられた事とは言え、ナティスの口淫によってロイトが反応を見せ始めてくれたのが嬉しくて、途中から夢中になってしまった節もある。
最後までさせて貰えなかった事が、少し残念だった。
「もういい」
「んっ、ぁ……っ」
名残を惜しむように、離れていくロイトの熱へと最後にちゅっとキスを落とすと、その熱が生きているかのようにびくりと震えたのがわかる。
ロイトに触れている事で、ナティスの中に段々と愛しさが込み上げて来て、きゅんとお腹の奥が温かくなった気がした。
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