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心を込めた贈り物

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「相変わらず、お嬢ちゃんの作るモンは規格外だな」

 可笑しそうに笑うマヤタから、深刻な症状が出ているのは感じられない。
 本当に薬でもなんでもない果実水だと知り、それを飲んだだけで出た効果に、ただ驚いているといった様相だ。

「自分でも理由がわからないのが、問題ですけど……」
『わふ!』
「別に悪い効果じゃねぇんだから、気にする事ないだろ」
「そうかもしれないですが……」

 フェンとマヤタは、良い事なんだから気にすることはないと言ってくれる。
 けれどやはり、原因がわからないのは気にかかってしまう。

 詳しく調べた結果、思った通り薬草園の物とロイトに城下町で買って貰った薬草に、効果に即効性が出るほどの明確な差はなかった。
 薬草園の物には、リファナの魔力が少なからず付与されているという事は確実になったけれど、それはハイドンに居た頃に治療薬を調合していた際と、条件が同じになったに過ぎない。

 調合の方法をナティスに教えてくれたのはリファナなのだから、リファナの魔力を含んだ薬草がその調合方法と相性が良いのは、もちろんそうなのだろう。
 ハイドンで、ナティスの作った物は効きが良いとは言われていた理由は、その辺りに原因があるのかもしれない。

 けれど、その日や次の日にすっかり治ってしまうような即効性までは、確認出来ていなかった。
 明確に効果が変わったのは、魔族の国に来てからだという事になる。

 今の果実水にしても、ナティス自身には気休め程度の効果しか今のところ感じられていないので、魔族にだけ高い効果が出ていると考える方が正しいだろうか。
 だが以前、万能薬を完成させた際に、リファナの作っていた治療薬は良く効くとはいえ即効性はなく、しかも何でも治ると言ったその名の通り万能と言える現象は、起きた事がないと聞いた。

 となると、単に調合方法や薬草の問題ではなく、それ以外に魔族により強く影響する何かが、ナティス自身にあると考えた方が正しいのかもしれない。
 ナティスだけが持つ力といえば、ロイトの魔石が一番に思い浮かぶ。

 その他にリファナから教えて貰った事以外に行っているといえば、「治りますように」とか「良くなりますように」と、祈りを込めて作る様に心がけている事くらいだ。
 それは聖女だったティアの名残とも言える習慣だけれど、今のナティスには聖女の力は欠片もないので、本当にただの気持ちの問題だった。

 皆、良い影響しか出ていないのだから気にすることはないと言ってくれるけれど、原因がわかればもっと上手く出来る事があるかもしれないと思うと、なかなか答えに辿り着けないことがもどかしい。

「陛下もだが、お嬢ちゃんも基本的に頑張りすぎなんだよ。もうちょい手を抜いたって、誰も文句は言わねぇだろうに」

 真剣な顔をして考え込むナティスに、マヤタがぽんぽんっと肩を叩いて力を抜くように促す。
 ナティスが顔を上げると、そこには「もっと気楽に行け」と明るく笑うマヤタと、心配そうなフェンの表情があった。

 考えすぎても行き詰まるだけなのは、経験済だ。
 こくりと頷いて、ナティスは素直にマヤタの言葉を受入れた。

「不味いとか、逆に調子が悪くなるという事でないのなら、魔王様に差し入れてみようと思います」
『わふ!』
「おう。陛下も喜ぶと思うぜ」

 マヤタとフェンは賛成してくれたが、忙しいロイトの邪魔になるかもしれないので、喜んでくれるかどうかはわからない。
 けれど、少しでも疲れを癒やす手伝いをしたいというのは本当で、背中を押して貰えた事に変わりはなかった。

「出来ればこれも一緒に、お渡しできたら良いのですけれど……」
「そりゃ何だ?」

 忙しい魔族達とは裏腹に、ここの所ずっと時間を持て余し気味だったナティスの手元には、新しく薬草園で採取した蔦で作られた髪紐が握られている。

 毎日ロイトの髪を結う事になってから、何度も新しい髪紐を用意して欲しいとお願いしているのだけれど、ロイトは何故かナティスが使っていた髪紐を指して「これでいい」と言って聞かない。
 魔王であるロイトの髪を彩るのが、使い古された蔦の髪紐では体裁が悪すぎないかと心配にもなるのだけれど、一向に改善される様子もなかった。

 だからといって、魔族の国の通貨を持っているわけでも、ましてや自由に買物に出掛けられる身分でもないナティスに、ロイトに相応しい新たな髪紐を用意する手立てはない。
 せめてナティスの使い古した物ではなく、ロイトの為だけの新しい物をと考えて、薬草園のなかで厳選した良い香りのする丈夫な蔦を様々集め、自分用に適当に作った物とは違う、少し複雑な組み合わせで編んだ専用の髪紐を作る事にしたのだ。

 とはいえ、やはり植物の蔦を原材料にしている事には変わらないので、ナティスの髪を飾る美しい髪飾りの様な、立派な贈り物には足下にも及ばない。
 けれどその分、ロイトに似合うように心を込めて作ったので、受入れて貰えたら嬉しい。

「魔王様の髪を結ぶ為の、髪紐を作ってみたんです。本当はもっと相応しい物を、ご用意出来れば良かったのですが……」
「って事は、お嬢ちゃんの手作りか?」
「はい。いくらなんでも、私の使い古しをいつまでも使い続けて頂くのは、申し訳なくて」
「そりゃいい」
『わふ』

 マヤタもフェンも、複雑に編み込んであるとは言え、どうしても蔦の塊という域を出ないその手作りの髪紐を、何故か絶賛してくれた。
 ナティス手ずから作った物だという事がその理由らしいけれど、魔王であるロイトならばもっといい献上品を沢山貰っているだろう。

 だが二人の様子を見るに、もしかしたら魔王というその立場上、全く裏もなく警戒せずに受け取る事の出来る贈り物という点に関しては、あまり多くないのかもしれない。
 本当はもっと良い物を贈りたかった気持ちは消えはしないけれど、今ナティスがロイトの為に用意出来る精一杯の物である事は間違いなかった。

 マヤタとフェンが太鼓判を押してくれるのなら、ロイトへ渡しても大丈夫かもしれない。
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