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鈍感さと鋭敏さ

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「それで、せっかくなので直接お届け出来たらと思っているのですが……お二人は、フォーグさんの居場所を知りませんか?」
『わ、っ……ふ』
「どうして、フォーグに会いたいんだ?」

 何故か急にそわそわとし始めたフェンを見下ろして、マヤタがニヤニヤと笑いながらポンポンとフェンの頭を叩きつつ、理由を尋ねて来る。
 その様子に首を傾げながら、ナティスはフォーグを探している理由を言葉にした。

「以前、魔王様のお世話はフォーグさんがしていると伺ったので、夜食と一緒に差し入れをするご相談をしたいなぁと思っているのですが、全然お会いできなくて……。もし魔王様に付いてお忙しくされているなら、フォーグさんにも果実水を召し上がって頂きたいですし」

 フォーグは最初に自分の事を、ロイトの補佐兼お世話係だと自己紹介してくれた。
 となると、ロイトの執務室を訪ねる許可を貰うには、フォーグが一番の適任だと思う。

 きっと邪魔にならない時間を教えてくれるだろうし、ロイトの補佐という事は、フォーグも四魔天の皆と変わらない位に忙しくしているのかもしれない。
 無理をしてはいないかと心配もあるので、少しでも顔を合わせたいのもある。

「なるほどな。確かに陛下の身の回りに関して相談するなら、フォー坊が最適だ。ま、フェンに伝えておけば、その内会えるんじゃないか?」
「フェン君に? そう言えば以前も、知り合いみたいな様子だった事がありましたね……。フォーグさんもフェン君と同じ、真っ白でふわふわな耳と尻尾をお持ちだし……あっ……!」

 フェンに視線を向けて、ハッとある過程に辿り着いたナティスの様子に、フェンがビクリと身体を震わせた。

『わふぅ……』
「フォーグさんも、フェン君と同じフェンリル族なのね! もしかして、仲良しのお友達なのかしら?」
『わ、ふ……』

 きっとそうに違いないと思いついたナティスに、フェンが微妙な表情で答えに窮している。
 その横で、マヤタはニヤニヤを通り越して爆笑だ。

「ははっ、そうなるのか! お嬢ちゃんはすげぇ奴かと思えば、時々とんでもなくポンコツだよな」
「なっ、どういう事ですか?」
「いやいや、そのまま素直でいてくれって事」

 何が駄目だったのか、マヤタにはポンコツ認定されてしまった。変わる必要は無いというのが、更に解せない。
 マヤタが大声で楽しそうに笑い続ける横で、フェンが困った顔をしている。

 フォーグが、フェンと同じフェンリル族だという推理は間違いではない様なのだけれど、どうやらナティスが導き出した二人の関係については、正解ではないらしい。
 そしてマヤタもフェンも、正しい答えを教えてくれるつもりがない事はわかる。

『わふ』

 首を傾げるナティスに寄り添うフェンは、どこか申し訳なさそうだ。
 そんなフェンの背中をふわりと撫でて、ナティスは無理に声を上げなくても良いと微笑む。

「私には言えない、深い事情があるのでしょう? 大丈夫、気にしていないわ」
『わふぅ』
「オレとしては、別にもう言っちまっても構わねぇと思ってるんだがな」
「そうなんですか?」

 何か重大な秘密でもあるのかと思ったけれど、マヤタの様子を見る限りはそうでもない様な気もする。
 からかい半分の、「素直でいてくれ」という言葉がそのままの意味なのだとすると、もしかしたらナティスがもっと視点を変えたり、ひねくれた見方をすれば、フェンとフォーグの関係が見えてくるのだろうか。

 だがフェンは所在なさげに視線を彷徨わせているので、今はまだ何かを隠していたいのだという事はわかる。
 そんなフェンに、マヤタがぽんっと頭に手を置いたまま、諭す様で有り、からかってもいるような笑顔を向けた。

「下手に隠すから、言い出しにくくなるんだぜ。陛下もお前も、そういうとこはまだまだ経験不足のガキだよなぁ」
『わふ……』

 しゅんと首を下げるフェンの表情を見るに、マヤタの言葉は的を射ているのだろう。
 だがフェンにとって、何か言い出しにくい事情がある事も、垣間見える。

 それならば、わざわざ暴く必要はない。
 そう判断してナティスが黙っていると、フェンの代わりに「悪いな」とマヤタが謝るように片手をあげた。

「ま、もうちょっと待ってやってくれ」
「隠し事を、無理に聞き出すつもりはありません。でもいつか、フェン君が話しても良いって思ったら、聞かせて貰えたら嬉しいな」

 謝ってもらう必要はないとマヤタに向かって首を横に振ってから、フェンに視線を合わせる。
 隠しておきたいことの一つや二つ誰にだってあるものだろうし、ましてや魔族とは敵対している人間という立場のナティスに、秘密にしていることを簡単に全てを打ち明けられるとも思っていない。

 いつか人間と魔族という種族の差を超えて、ナティス自身を信頼して貰える日が来た時に、教えて貰えたらそれで良い。

『わふ』

 フェンは「いつか必ず」と約束をしてくれるかのように、尻尾を振ってナティスに身体を寄せてくれた。
 ナティスにとってフェンは、ティアの頃から変わらず、癒しを与えてくれる何でも話せる相談相手。その事実があれば充分だ。

「相変わらず、相思相愛だな。そろそろ陛下に妬かれるぜ?」
「そうですね。私、魔王様からフェン君を奪いすぎかも」
「いや、そっちじゃねぇ」
『わふぅ』

 マヤタに同意したのに、何故か即座に否定されて、ナティスは再び首を傾げる事になった。
 何が違ったのかがわからないでいると、マヤタとフェンは大きくため息をついているので、ナティスが悪いのだろうか。

「そう言えばこの間、セイルも頭抱えてたが……なるほどな。こりゃ、お嬢ちゃんの方にも問題がありそうだわ」
「え……?」
「ま、面白いから、オレももうちょい様子見るか」
「マヤタさん、ちょっと意味が……」
「今は、わかんなくていいって。順調かどうかは置いといて、多分悪い方には向かってねぇから」
「え、えぇ……?」

 ポンコツ呼ばわりされた時と、似た様な空気を感じる。
 いくら考えてもマヤタの言葉の意味は、一ミリもわからないのだけれど、それを詳しくナティスに教えてくれる意思はないらしく、マヤタはさっさと視線をフェンへと変えてしまう。
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