【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら

文字の大きさ
3 / 8
断罪の一コマ

断罪? 3

しおりを挟む
 「アメリ、本当に良かったのかい?」
 「何がです?私自身には何も問題はありません。」
 「ヒューリックが平民に落ちてその身柄を受け入れるなんて、君は何を考えているんだい?」
 「あの方はまだ子供だったのです。更生の場を与えても良いと思いました。」


 ヒューリックが平民に落とされた後、馬車に乗せられて辺境に運ばれた彼は商業地区にある繊維工場に放り込まれた。そこにはラフな格好をしたアメリと工場長が待ち構えていて、その光景を理解出来なかったヒューリックは暫く言葉を発せず視線を向けることしか出来なかった。アメリはいつも通りの冷静な表情でヒューリックが到着したことを確認すると、繊維工場の中にヒューリックを引きずっていった。

 随分と大人しくなったヒューリック。かなりこってりと王様と兄に怒られたようで、今回の出来事がいかに重大な問題だったのかを宰相に説明されすっかりプライドは無くなってしまった。そこそこの頭で理解できたのは、平民に落とされたことすら寛大な処置だということ。本来ならば鉱山で奴隷として数十年働かされてもおかしくないのだと理解してしまえば反抗の意思は無くなってしまった。

 ここで俺は何をされるのだろう。もう立場上言葉を交わせるような人間ではないのに、もう関わることはないだろうと思っていたのにとヒューリックは戸惑いを隠せない。簡素な応接間に放り込まれたヒューリックをアメリは座らせた。何が何だか理解の追いつかない思考で辺りを見回すと工場長は大きく咳払いをして意識を向けさせる。ヒューリックは混乱したまま視線を工場長に向けた。いつの間にかアメリの姿は見えなくなっていて、重たい空気が流れた部屋に紅茶のいい香りが広がる。どうやらアメリが紅茶を用意してくれたようで工場長が申し訳なさそうに頭を下げていた。


 「私が好きでやっています。あまりそう畏まらないでください。ヒューリック、貴方も落ち着いて話を聞いてください。」
 「……奴隷にでもするつもりですか?」
 「そんなものに興味はありません。貴方を平民の労働力として雇うことにしました。」


 アメリはそう言って紅茶に砂糖を入れて満足げにしている。そこからは工場長から説明が始まった。曰く、隣国との取引で新たに手に入れた特殊な繊維で新たに事業を始めるにあたって人員を集めている最中なのだそうだ。そこで平民になり手の空いたヒューリックを使うことをアメリが決めたのだそうだ。小国の王様は反対したが、アメリはいい機会だといって強行し、現在に至る。ここで少し働くということを学ぶと良い。そういって工場長はヒューリックに工場で配布している制服を渡した。徐々に状況が読み込めてきた彼は戸惑ったままの表情でまたおろおろと工場長とアメリを見比べることを繰り返した。

 そんな彼の様子にアメリは気にした様子もなく紅茶を楽しんでいる。有無を言わさずに工場長が今後について説明を始める。近くに住み込みの寮があり、そこで生活をしろと言われてしまえばヒューリックはいてもたってもいられずに声を荒げてしまう。


 「お、俺は情けをかけてもらえるような人間ではありません!」
 「知っています。ですが私には何も問題はありませんでした。ことが大きくなってしまいましたが、大問題にはなりませんでしたから。身一つでここまで来たでしょう?では、ここで生活を始めたほうが身のためだと思いますよ?どうです?」
 「で、でも…。」
 「根性をここで叩きなおして真っ当な人間になればよいです。なかなか、ここでの仕事は楽しいものですよ。手先は器用なほうでしたね?担当場所は工場長に任せますが、何かあれば私が対処しましょう。総責任者は私ですからね。」


 にっこりと笑って、これで話は終わりと言わんばかりにアメルは用事があるからと言って部屋から出て行ってしまった。それからヒューリックは工場長に長々と今後の説明を受けた。一般的な平民の生活などヒューリックは知らないが、好待遇であることはよくわかった。なんでこんな自分を受け入れたのかヒューリックには見当がつかなかったが、工場長はニンマリとして満足そうに話す。

 この特殊商業区画のほとんどが奴隷だった者たちや行き場のない平民であることを話した。アメルは自分の気に入った者は受け入れるタイプであり、この場所に誇りを持っていると断言しているのだと。ここにいる間はほとんど犯罪にも巻き込まれないし差別もない。自身を見つめ直すいい機会だろう?気楽にな、と言って工場長は笑ったのだった。


 「俺は、彼女に…許されているのでしょうか?」
 「もともと眼中になかったからこうなってるんだろ。残念だったな。まぁ、責任感は人一番強いお方だから、決めたからにはそう簡単に見捨てられないだろう。良かったじゃないか。」
 「そうですか…。」
 「そんな顔をするくらいなら、調子に乗らなきゃよかったのによ。」
 「いつも顔色の変わらない彼女を当時は気に入らなくて…浅はかな考えでとんでもないことをしてしまった自覚はあります。もうどうしようも出来ないことも。チャンスを与えてくださったならば、一生をかけて償うことにします。」
 「おう、そうしな。」


 その後、ヒューリックは献身的に務めた。手先の器用さを生かした男性物の刺繍を施したシルクの服は爆発的な人気を誇り、アメリの片腕として働き続けた。ヒューリックを先頭に活躍を続けたことで、アメリの特殊商業区画はさらに拡大し、一国を勝る大都市となったのだった。そんな彼女はいつも自信満々に呟くのだ。


 「はい、何も問題ありません。」と。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい

キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。 妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。 そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。 だけどそれは、彼女の求めた展開だった。

貴方のことなんて愛していませんよ?~ハーレム要員だと思われていた私は、ただのビジネスライクな婚約者でした~

キョウキョウ
恋愛
妹、幼馴染、同級生など数多くの令嬢たちと愛し合っているランベルト王子は、私の婚約者だった。 ある日、ランベルト王子から婚約者の立場をとある令嬢に譲ってくれとお願いされた。 その令嬢とは、新しく増えた愛人のことである。 婚約破棄の手続きを進めて、私はランベルト王子の婚約者ではなくなった。 婚約者じゃなくなったので、これからは他人として振る舞います。 だから今後も、私のことを愛人の1人として扱ったり、頼ったりするのは止めて下さい。

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

婚約破棄された私は、号泣しながらケーキを食べた~限界に達したので、これからは自分の幸せのために生きることにしました~

キョウキョウ
恋愛
 幼い頃から辛くて苦しい妃教育に耐えてきたオリヴィア。厳しい授業と課題に、何度も心が折れそうになった。特に辛かったのは、王妃にふさわしい体型維持のために食事制限を命じられたこと。  とても頑張った。お腹いっぱいに食べたいのを我慢して、必死で痩せて、体型を整えて。でも、その努力は無駄になった。  婚約相手のマルク王子から、無慈悲に告げられた別れの言葉。唐突に、婚約を破棄すると言われたオリヴィア。  アイリーンという令嬢をイジメたという、いわれのない罪で責められて限界に達した。もう無理。これ以上は耐えられない。  そしてオリヴィアは、会場のテーブルに置いてあったデザートのケーキを手づかみで食べた。食べながら泣いた。空腹の辛さから解放された気持ちよさと、ケーキの美味しさに涙が出たのだった。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

幸せな人生を送りたいなんて贅沢は言いませんわ。ただゆっくりお昼寝くらいは自由にしたいわね

りりん
恋愛
皇帝陛下に婚約破棄された侯爵令嬢ユーリアは、その後形ばかりの側妃として召し上げられた。公務の出来ない皇妃の代わりに公務を行うだけの為に。 皇帝に愛される事もなく、話す事すらなく、寝る時間も削ってただ公務だけを熟す日々。 そしてユーリアは、たった一人執務室の中で儚くなった。 もし生まれ変われるなら、お昼寝くらいは自由に出来るものに生まれ変わりたい。そう願いながら

処理中です...