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オマケの一コマ
オマケ 1
しおりを挟む「はぇ?………結婚、ですか?」
「そう。宰相のとこの三男のエディカ、いるだろう?婿に来たいって。どうする?」
「いやいや、婚約無くなったばかりなのですが…。」
「すぐ結婚したいって。」
「えぇー……。」
アメリは困惑していた。つい先日、ヒューリックとの婚約が無くなり独り身になった彼女は、それでも変わらない毎日に満足していた。昔から没頭していた研究は歯止めなく新しい物を生み出していく。アメリはそれが快感だった。やめられないのである。
彼女が前世の記憶持ちだと言うことは相変わらず極小数人しか知られぬ極秘事項なのだが、アメリ自身そのことについては特に気にした様子はない。元々、自分の好きなこと以外には無頓着なところがある。親はそれを心配し、婚約者を宛てがったが失敗してしまった。
このことに深く反省した両親は結婚についてはあまり強く語らなくなった。アメリの弟と妹は、まだ大好きな姉が自分と一緒にいてくれるとわかって毎日大はしゃぎである。
ヒューリックが平民になりアメリが攫って繊維工場に放り投げられて1ヶ月後。アメリは公爵家の庭で兄と話をしていた。そうしたら、とんだもないことを言い出したのだ。
宰相の息子であるエディカ・ルーベルトが婿養子に来たいと言い出した。兄とは同級生であり、現在は王都にある研究室で新薬を発明する為に日々生活している。そんな彼がアメリとヒューリックの婚約が無くなったと知った瞬間、アメリの兄に飛びついて自分が婿養子に行くと騒ぎ出したそうだ。
アメリの兄は最初驚いたが、根っからの薬草オタクであるエディカが公爵家の研究所に前々から興味があると言っていたのを思い出したのである。自分では決められないとエディカに伝え、宰相殿にまず話をしなければいけないだろう?そう言えばエディカは目の色を変えて行動をはじめた。
そして、あれから数日後。宰相である父を説得し半ば強引にアメリと接触しようとするエディカを抑え、今に至る。アメリは驚きを隠せず動揺しているが、話の内容は理解したのか大きく息を吐き出した。
「その、エディカ様とは数回顔をあわせたことはありますが…なんです、その異様な執着は…。」
「前々からアメリのことを気に入っていたこともあるんだけどね。今回のことで頭のネジが飛んでしまったというか…。」
「そういうタイプには見えない方でしたが……今は結婚とか考える余裕はないのです。」
「あいつが婿に来たらアメリが始めたがっていた研究の一つ、進められそうなんだけどねぇ。」
アメリの兄は含みを持たせて言うと、アメリは研究と言う言葉に微かな動きをみせた。今、彼女の頭の中ではエディカが婿養子に来たときの想像をして計算をしているのだろう。
始めたがっていた研究とは、隣国で採集される雑草の活用方法である。アメリがそれを見た瞬間に、わかったのはそれが前世で生えていたものと酷似していたドクダミであることに気づいた。ドクダミは確かに生命力が強く独特な臭いもするので、この世界では嫌煙されている。アメリはそれを有効活用して新たに化粧水を作ろうと考えていたのだ。
ただ、アメリが前世で専攻していたのは機械工学であったため薬草には詳しくない。そこで、調度良い人材であるエディカを引き入れて研究すれば、すぐに活用できるだろう。
確かにアメリからしたらいい話だが、一つ気になることある。う~ん、とアメリは唸り、悩む。アメリは結婚したくない理由がある。
「(……男と結婚はやっぱ気が引ける。なんたって俺は前世、男なんだから。)」
成長していくに連れ、女の子の気持ちがわかるようになるかと思ったアメリだが残念ながら心はずっと男のままだった。体はすっかり見慣れてしまって違和感は無くなったが、どうしてもお貴族様のダンスやお茶会、マナーなどを学ぶのが辛かった。
アメリは考えた。どうしたらこの辛い生活を続けなくて済むのか。そうして思いつくのである。技術者になればそう簡単に婚約などしなくて住むのでは?と。残念ながらその思惑は外れ、早い段階でヒューリックと婚約が決まり今まで続いたが、アメリはそれで良かった。
自分に全く興味のない男と結婚してしまえば互いに関わることもないだろう。これはちょっとした投資だ!アメリは意気込んだ。しかし、ヒューリックは思いの外…阿呆だった。自分の好きなことを続ける為の犠牲とでも思って我慢することも多かったのだが、残念ながら婚約は解消、現在に至る。
「むむ……、しかし……。」
「まっ、一度会ってみればいいよ。あいつは変人だが意外と話が合うんじゃないかな?アメリも早く新しく婚約者決めないと候補を父上に決められてしまうよ?」
「困ったな。」
ここまで育ててくれた両親には感謝をしているが、如何せん彼らが選ぶ男どもは脳筋が多く女癖悪い噂が多い。何故そんな奴ばかり選んでくるのか…まるで男を意識しないアメリを焚き付けたいのだろうが、心が男なので無意味なのだが…前世の自分に似た体格の男は気持ち悪いと思ってしまうので、体格の良い男は全て対象外だと両親には話していた。ヒューリックは全てが平均的で筋肉質というわけでも無かった。だからまだ平気だったのだ。
そんな男を選ばれてしまっては大変である。気は乗らないが、ここは兄の話に乗るのが良さそうだと、半分諦めたような表情でアメリはエディカと会うことに了承したのだった。
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