実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

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そして出会う俺とお前

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 「少しは落ち着いた?」
 「あぁ…ぐずっ…ぐずっ…。」
 「泣き過ぎだろ…擦ると腫れるぞ。あー…ほら、タオル。」
 「ありがとぅ……。」




 声ちっちゃ!興奮して頭に血が上っていたのか、あれから少し喚いてロンバウトは泣き出した。そりゃもう大粒の涙を流して、しゃくり上げて、子供みたいにさ。流石にそうなると心配になってベッドから飛び起きた俺である。

 寝室にある一人がけのソファに座らせ、泣き止むまで待つとやっと会話が出来そうなくらいに落ち着いてくれた。一事は貞操の危機だったが、なんとか大丈夫そうである。

 目も耳も、鼻だって真っ赤にして号泣したもんだからロンバウトは今までに無いくらい情けない顔をしている。俺が泣かせたわけじゃないなに…罪悪感…。




 「あのな?今までの行動でお前が俺の事好いてくれてるのはわかってんだけど、…そこまで執着する理由って、それだけ?」
 「………私、まだアルディウスに謝ってないんだ。気持ちが先走って、我慢出来なくて…。」
 「あっ、確かに謝られてないわ。」
 「あの時は本当にすまなかった。未熟な私は、君の心を手にいれようとするのに必死で、大切な君をとても傷つけた。」
 「あれは精神的にかなり辛かったんだからな。誰も味方いないし、家族も頼りにならないし。」
 「誰も味方がいなくなれば、アルディウスは私だけを見てくれると思った。それに泣く君があまりに可愛くてつい虐めてしまった。愚かなことだった。本当に、本当に申し訳なかったと思っている…。深く反省したのに、また私は我慢が効かない…迷惑ばかりかけてる…ごめん、なさい……。」




 そうロンバウトが言うと深々と頭を下げた。サラリと黒髪が揺れる。手に握りしめられたタオルはクチャクチャになっていた。涙声で肩を震わせるロンバウト。

 嘘は言っていないんだろう。俺は直感が働くから、嘘も見抜ける。今のロンバウトは、本当に反省して謝っているのがひしひしと伝わるのだ。

 少し前に、タサファンに言われたことを思い出した。好きな子ほど苛めたくなる…あれ。あれが病みすぎて頭のネジ外れまくったのかロンバウト……いや、それはそれで怖い。




 「昔と今じゃ全然違うし、お前の好みは可愛い子なら無理して俺に執着するなよ。もう気にしないから。」
 「やだ!やだよアルディウス!そんなこと言わないでくれ!見た目じゃないんだ、アルディウスが好きなんだ、ずっと…。頼むから、そんなこと言わないで……私からアルディウスを奪わないで……。」




 だからお前のアルディウスじゃないって。とは流石に言えなかった。嗚咽を漏らして縋りつくロンバウトがあまりに小さく見えてしまったのだ。

 俺は同情なんてしないし、まだロンバウトのことを完全に許せるほど心が広いわけじゃない。それでも、今のロンバウトを見てしまったら、俺は振り払うことが出来ない。

 幼い頃の姿が重なって見えたのは気のせいだろうか。子供のように泣きじゃくる彼を、俺は見つめることしか出来なかった。


 
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