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七話 見つけたものは?後編
しおりを挟むsideバルダッサーレ
「ラファがついていてくれる。ゆっくりおやすみ?」
ラファを見て、私を見る。
キュウッとさらに服にしがみつく……その様子がなんとも可愛らしい。
「ダメみたいですね。仕方ありませんわね。治療のためとはいえ、少し無理に指を入れてしまいましたから……かなり怖かったのでしょう。……同じ女として……よくわかりますわ。
しかたありません。
バルダッサーレ様、何かありましたら夜中でも構いません、お呼びくださいませ。血でよにごれていたので、着替えだけはすませましたし。食事をすぐにおもちしますわ。」
そう言ってラファとミカエレが出て行く。汚れ物や後片付けをしてメイドたちも出て行くとアキラと二人になった、
「アキラ。大丈夫だよ。」
何度も優しく伝える。
ここは安全だと。
頭と背中を優しく撫でていると少しずつだが、体から強張りが消えていくのがわかる。
程なくして、ノックの音がする。
ビクリとアキラの体が硬直して、ギュッしがみつく。
どれだけ、怖い思いをしたのだろうか?
しかし、同じ女性にも安心できないとは……女性すらもこの子に何かしたのか。
「とりあえずはミルクリゾットにしましたわ。果実水と召し上がってくださいませ。……明日片付けますから食べたらそのままで。バルダッサーレ様のも同じもので申し訳ありませんが。」
「いや、かまわん。」
「では、失礼いたします……バルダッサーレ様?信じておりますからね?」
「大丈夫だ。わかっている。」
一礼して、メイド共にラファが出て行く。
まったく、信用がない。
「さあ、アキラ。温かいうちに食べよう。」
しかし、食欲がないのか首を振ってしがみつく。
だが、失われた血や体力を回復するには食べるしかないのだ。
少しでも食べさせなければ……子供とはいえ、軽すぎるし。
食事すら満足に食べさせてもらえなかったのだろう。
「なら、食べさせてやろう。だから、一口でもいいから食べろ?ほら、喉も渇いているだろ?大丈夫。離れないからね?」
コクリと頷く。
「ほら口を開けて?」
小さな口が開いて中からピンクの小さな舌が見える。
心臓がドクリと音を立てた。
それを抑え込み、小さな口に少し冷ましたリゾットを入れてやる。
パクリと食べて、モグモグと口を動かす。コクンと飲み込むまでを凝視してしまった。
口にあったのか、頰が緩んだ。
果実水にはトルセという植物の茎が刺さっていて、中が空洞になっているため吸い上げて飲み込めるので子供や女性などが使うものだ。
カップをあげて茎を口に持っていく。最初は不思議な顔をしていたが、私が吸い上げ飲むのを見せると使い方がわかったらしい。そのまま、もう一度口に持っていく。
初めは顔を赤らめ、躊躇していたが…程なく口に含み飲み込む。トロリと甘い液体に少し微笑む。
何と可愛らしいことか……。
もっと、微笑んでほしい。
「さあ、もうすこしお食べ。」
「うん…。」
ようやく返事を返すアキラは、差し出す匙を口にいれる。
パクリ……モグモグと数度繰り返したところで、目がトロリと溶け出す。
体にも熱が戻り、指先も温かくなり始めた。
どうやら体を温める作用のものが入れられていたらしい。
温まった体が、次第に睡魔に負けていくように瞳が揺らぎ始める。
唇についたリゾットを舌でペロリと舐めとってやる。
アキラは、夢うつつになっていてふわりと微笑んで眠りに引き込まれてしまった。
相手は子供だ。
私は何度この言葉を浮かべたか……。ラファにも念を押されるほど惹かれているのが漏れていたのだろうか?
しかし、このように美しく可愛らしい子は初めて見た。
こんな子にあのような非道、よもやよくやれたものだ。
500年ごとの制約など意味をなさないことを身に染みさせるか?
そもそも、ずっと制約など忘れていたくせに?
別に我らは人族に踏み込む気などない。
というより関わりたくもない。
同じ人族同士でいくらでも殺し合えばよかろうに。
昔は、人族の娘が差し出されていた……が、ある時にいらないとかえした。
なぜなら最悪な娘だったからだと記されていたなあ。
その直後からこの世界ではないところから召喚したとされる娘を連れて来るようになった。
黒目黒髪の娘を。
時の一族の王……私の祖先だが……は、その娘を哀れに思い受け入れたという。
以来500年ごとに生贄が送られいたが……。
この1500年ほど生贄は来なくなっていたはずなのだ……。だから、安心していたのだが、間違いであったようだ。
不可侵を破ることもしていないが、人族で何かがあったのか……。
いきなりの生贄の復活に……血生臭いものを感じる。
かわいそうなのはこの子だ……わけもわからず、知らない世界に連れてこられ酷いことをされて……。
まだ親の愛情が必要な年であろうに。
人とはなんと、残酷で身勝手な生き物なのか……遠い昔に袂を分かったのは善だったと今ほど思うことはない。
しかし……魔法を持たない人族は、どのようにこの世界へ人を召喚するのか……調べて無効にすべきなのかもしれない。
すっかり寝入ってしまったか?
だがその手にはしっかりと私のシャツを握りしめている。
仕方がない。
このまま抱いて寝るしかないか。
抱き上げても離さない手に、何故か嬉しいと思う。
……ふ、多分……出会いは偶然ではなく必然なのだろう。
私はこの子に、既に惹かれ始めている……いつかこの子を愛することになるだろう予感がする。
一人の女性として……その予感はいつしか確信として胸の奥に宿ることになる。
ベッドに体を横たえ、胸に抱えるように眠りにつく。
その夜見た夢は、宝物を胸に抱き幸せに微笑む自分自身の姿だった…。
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