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第五話「護衛増員で逃げ道が消えました」
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舞踏会から一夜明けた、ヴァルモン公爵邸。
私は自室のベッドの上で、頭を抱えていた。
「外堀を埋める、って言ってたわよね……」
昨夜のレオンハルト殿下の言葉が、呪いのようにリフレインする。
あのキラキラした笑顔で言われたのが余計に怖い。ポジティブ王太子の「埋める」は、物理的にコンクリートで固めるレベルの拘束力を意味するからだ。
だが、私もただ震えているだけではない。
来月には『白花の儀』がある。そこで「再選定」が行われ、私が王太子の婚約者としてふさわしくないと判断されれば、晴れて自由の身だ。
つまり、この一ヶ月間、ひたすら好感度(星冠値)を下げる行動を取り続ければいい。
「マリー、作戦を変更するわ」
私は控えている侍女のマリーに向かって宣言した。
「今日から私は『引きこもり』になります」
マリーが眉ひとつ動かさずに手帳を開く。
「引きこもり、ですか。記録しておきます」
「そうよ。恋愛シミュレーションゲームの鉄則、それは『接触頻度』。会わなければイベントは起きないし、好感度も上がらない。むしろ、『最近あいつ付き合い悪いな』と思われて、自然消滅を狙えるわ」
名付けて、『徹底的な無視&引きこもり作戦』。
私は今日から一歩も部屋を出ない。殿下が来ても「気分が優れません」と仮病を使って追い返す。
地味だが、これが一番確実なはずだ。
そう決意して、私は優雅に紅茶を一口飲んだ。
その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――。
窓の外から、軍靴の足音が聞こえてきた。それも一人や二人ではない。数百人規模の行進の音だ。
何事かと窓辺に駆け寄った私は、我が目を疑った。
公爵邸の庭が、銀色の鎧に埋め尽くされていた。
「え……?」
整列しているのは、王国の精鋭中の精鋭、近衛騎士団。
その先頭に、見慣れた黄金の髪の青年が立っていた。
「殿下!?」
私は思わず窓を開けて叫んだ。
レオンハルト殿下は私を見上げると、爽やかに手を振った。
「やあ、リュシア。顔色が悪いと聞いたが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですけど、これは一体!?」
「君を守るための『外堀』だよ」
彼は事もなげに言った。
「昨夜、君は『再選定』を受けた。それはつまり、君を失脚させたい勢力――例えば反対派貴族や、君に嫉妬する者たち――が、君に危害を加える可能性が高まったということだ」
まあ、確かにセレナあたりは何かしてくるかもしれないけれど。
でも、これはやりすぎだ。庭の芝生が騎士のブーツで死んでしまう。
「ですから、ヴァルモン公爵邸の警備レベルを『国家最高重要拠点』に引き上げた。今日からこの騎士団一個大隊が、屋敷の周囲を二十四時間警護する」
「い、一個大隊!? 五百人もいるじゃないですか!」
「安心したまえ。鼠一匹、蟻一匹通さない。もちろん、君への不審な郵便物や、毒物の混入がないか、すべての搬入物をチェックさせてもらう」
私はめまいがした。
これでは引きこもり以前の問題だ。完全な『包囲網』ではないか。
「殿下、お引き取りください! 私は静かに過ごしたいんです!」
私は叫んで、窓をバタンと閉め、カーテンを引いた。
これで「拒絶」の意志は伝わったはずだ。
普通の神経なら、「ああ、嫌われたんだな」と思って帰るはずだ。
しかし、数分後。
ドンドンドン、と私の部屋のドアが激しく叩かれた。
「リュシア! 開けてくれ! 無事か!?」
レオンハルトの声だ。
え、なんで屋敷の中にいるの? 騎士団は外だけじゃないの?
「入らないでください! 私は一人になりたいんです!」
「やはりか……! リュシア、君は今、何かに怯えているな?」
ドア越しに、彼の悲痛な声が響く。
「先ほど窓を閉めた時の君の表情……あれは私を拒絶したのではない。何か『見えない敵』から逃れようとする、必死な顔だった」
違います。あなたから逃れようとしたんです。
「まさか、すでに脅迫状が届いているのか? 『王太子に助けを求めれば、実家に火を放つ』とでも書かれていたか?」
「届いてません! 妄想です!」
「君は優しいから、私を巻き込まないために嘘をついているんだな……。くそっ、私の到着が遅れたばかりに、君をそこまで追い詰めてしまうとは!」
バンッ!!
ドアが蹴破られた。
えええええ!?
鍵をかけていたはずの重厚なドアが、物理的に破壊されて開いた。
踏み込んできたレオンハルトは、剣を抜き放ち、殺気立った目で部屋の中を見回した。
「曲者はどこだ! リュシアを脅す卑劣な輩は、私が斬る!」
部屋には私とマリーしかいない。
私はベッドの上でポカンとし、マリーは無表情で壊れたドアの破片を拾っている。
「……誰も、いない?」
レオンハルトは剣を下ろし、私を見た。
私は震える声で言った。
「だ、だから言ったじゃないですか。一人になりたいって……。殿下の顔を見ると、その……胸が苦しくなるんです(ストレスで)」
これならどうだ。直球の拒絶だ。
しかし、レオンハルトは剣を床に落とし、駆け寄って私を抱きしめた。
「リュシア……!」
「ひゃっ!?」
「私の顔を見ると胸が苦しい……それほどまでに、君は精神的に追い詰められていたのか。私への愛と、私を守らなければという義務感の板挟みで、心が悲鳴を上げているんだね」
ドクン、ドクン。
彼の心臓の音が聞こえる。
そして、私の視界の隅で、彼の胸元の光が強烈に輝いた。
【星冠値:55 → 60】
――ピキーン。
何かが、世界の設定レベルで書き換わる音がした。
60。
それは《星冠の誓約》における第二の節目。
「公的固定」の段階だ。
「……決めたよ、リュシア」
レオンハルトは私を抱きしめたまま、低い声で囁いた。
その声には、有無を言わせぬ王者の覇気が宿っていた。
「君が恐怖で部屋から出られないなら、私が君を外へ連れ出す。そして、国中の誰が見ても『リュシアこそが王太子の唯一の相手』であると認識させる」
「は……?」
「騎士団長! 『星冠の馬車』を回せ!」
彼が叫ぶと、廊下に控えていた騎士たちが「ハッ!」と応じた。
数十分後。
私は強制的に着替えさせられ、屋敷の玄関前に連れ出されていた。
そこにあったのは、黄金の装飾が施された、王家専用の馬車だった。
しかも、ただの馬車ではない。側面に描かれた王家の紋章の隣に、なんとヴァルモン家の紋章(銀の薔薇)が魔法的に焼き付けられているではないか。
「こ、これは……?」
「星冠値が60を超えたことにより、誓約の魔術が発動したんだ」
レオンハルトは満足げに説明した。
「この馬車は、王族とその『正当な伴侶』しか乗ることができない。つまり、君がこれに乗ってパレードをすれば、君の地位は法的に固定される。もはや誰が何を言おうと、君は私の隣に座る権利がある」
嘘でしょ。
引きこもりたかったのに、パレード!?
「さあ、乗るんだ。民衆に君の笑顔を見せてやってくれ。そうすれば、陰でコソコソ動く反対派も手出しできなくなる」
私は半泣きで馬車に押し込まれた。
レオンハルトが隣に座り、私の腰に手を回す。
馬車が動き出すと、沿道にはいつの間にか集まった市民たちが歓声を上げていた。
「見ろ! 王太子殿下とリュシア様だ!」
「王家の馬車に、二つの紋章が並んでいるぞ!」
「やはり神託なんて関係ない、お二人の絆は本物なんだ!」
窓の外から聞こえる祝福の声。
私は死んだ魚のような目で手を振り返した。
(終わった……。引きこもり作戦が、まさかの凱旋パレードになるなんて)
隣のレオンハルトは、これ以上ないほど幸せそうに微笑んでいる。
「見なさい、リュシア。民も君を求めている。君が閉じこもる必要なんて、どこにもないんだ」
違うんです。求めてないんです。
私はただ、静かに婚約破棄されたいだけなんです。
屋敷に戻った頃には、私はぐったりと疲れ果てていた。
公的固定。
その効果は凄まじかった。
屋敷に届く郵便物の宛名が、勝手に『王太子妃内定者 リュシア様』に書き換わっていたり、夕食のメニューに王家直伝のスープが追加されていたり。
世界そのものが、私を「王太子妃」という型枠に嵌め込もうとしている。
「……もう、逃げ場がない」
私がソファに沈み込んでいると、執事が恭しく銀のお盆を持ってきた。
その上には、一通の豪奢な封筒が載っている。
王家の紋章入りの、最高重要書類だ。
「殿下からの追加の贈り物でございます」
「……今度は何? もう驚かないわよ」
私はやけくそ気味に封筒を開けた。
中に入っていた書類を見て、私の思考は凍りついた。
『王太子妃教育カリキュラム開始のお知らせ』
『担当講師:鬼の侯爵夫人 マダム・エルゼ』
「ひっ……!」
私は悲鳴を上げた。
マダム・エルゼ。
それは社交界で最も恐れられる、礼儀作法の鬼教官。彼女の指導を受けた令嬢は、あまりの厳しさに半分が修道院へ逃げ出し、残りの半分は完璧な淑女(という名の兵士)に改造されるという伝説の人物だ。
「白花の儀に向けて、君を完璧に仕上げるために招聘した。明日から毎日、彼女が屋敷に来る」
いつの間にか背後に立っていたレオンハルトが、爽やかに告げた。
「逃げ場がないなら、強くなればいい。君ならきっと、マダム・エルゼをも唸らせる最高の王妃になれるはずだ」
私の目の前が真っ暗になった。
護衛による物理的封鎖。
誓約による社会的固定。
そして今、教育による精神的改造が始まろうとしている。
私の「婚約破棄計画」は、完全に詰みの様相を呈していた。
私は自室のベッドの上で、頭を抱えていた。
「外堀を埋める、って言ってたわよね……」
昨夜のレオンハルト殿下の言葉が、呪いのようにリフレインする。
あのキラキラした笑顔で言われたのが余計に怖い。ポジティブ王太子の「埋める」は、物理的にコンクリートで固めるレベルの拘束力を意味するからだ。
だが、私もただ震えているだけではない。
来月には『白花の儀』がある。そこで「再選定」が行われ、私が王太子の婚約者としてふさわしくないと判断されれば、晴れて自由の身だ。
つまり、この一ヶ月間、ひたすら好感度(星冠値)を下げる行動を取り続ければいい。
「マリー、作戦を変更するわ」
私は控えている侍女のマリーに向かって宣言した。
「今日から私は『引きこもり』になります」
マリーが眉ひとつ動かさずに手帳を開く。
「引きこもり、ですか。記録しておきます」
「そうよ。恋愛シミュレーションゲームの鉄則、それは『接触頻度』。会わなければイベントは起きないし、好感度も上がらない。むしろ、『最近あいつ付き合い悪いな』と思われて、自然消滅を狙えるわ」
名付けて、『徹底的な無視&引きこもり作戦』。
私は今日から一歩も部屋を出ない。殿下が来ても「気分が優れません」と仮病を使って追い返す。
地味だが、これが一番確実なはずだ。
そう決意して、私は優雅に紅茶を一口飲んだ。
その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――。
窓の外から、軍靴の足音が聞こえてきた。それも一人や二人ではない。数百人規模の行進の音だ。
何事かと窓辺に駆け寄った私は、我が目を疑った。
公爵邸の庭が、銀色の鎧に埋め尽くされていた。
「え……?」
整列しているのは、王国の精鋭中の精鋭、近衛騎士団。
その先頭に、見慣れた黄金の髪の青年が立っていた。
「殿下!?」
私は思わず窓を開けて叫んだ。
レオンハルト殿下は私を見上げると、爽やかに手を振った。
「やあ、リュシア。顔色が悪いと聞いたが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですけど、これは一体!?」
「君を守るための『外堀』だよ」
彼は事もなげに言った。
「昨夜、君は『再選定』を受けた。それはつまり、君を失脚させたい勢力――例えば反対派貴族や、君に嫉妬する者たち――が、君に危害を加える可能性が高まったということだ」
まあ、確かにセレナあたりは何かしてくるかもしれないけれど。
でも、これはやりすぎだ。庭の芝生が騎士のブーツで死んでしまう。
「ですから、ヴァルモン公爵邸の警備レベルを『国家最高重要拠点』に引き上げた。今日からこの騎士団一個大隊が、屋敷の周囲を二十四時間警護する」
「い、一個大隊!? 五百人もいるじゃないですか!」
「安心したまえ。鼠一匹、蟻一匹通さない。もちろん、君への不審な郵便物や、毒物の混入がないか、すべての搬入物をチェックさせてもらう」
私はめまいがした。
これでは引きこもり以前の問題だ。完全な『包囲網』ではないか。
「殿下、お引き取りください! 私は静かに過ごしたいんです!」
私は叫んで、窓をバタンと閉め、カーテンを引いた。
これで「拒絶」の意志は伝わったはずだ。
普通の神経なら、「ああ、嫌われたんだな」と思って帰るはずだ。
しかし、数分後。
ドンドンドン、と私の部屋のドアが激しく叩かれた。
「リュシア! 開けてくれ! 無事か!?」
レオンハルトの声だ。
え、なんで屋敷の中にいるの? 騎士団は外だけじゃないの?
「入らないでください! 私は一人になりたいんです!」
「やはりか……! リュシア、君は今、何かに怯えているな?」
ドア越しに、彼の悲痛な声が響く。
「先ほど窓を閉めた時の君の表情……あれは私を拒絶したのではない。何か『見えない敵』から逃れようとする、必死な顔だった」
違います。あなたから逃れようとしたんです。
「まさか、すでに脅迫状が届いているのか? 『王太子に助けを求めれば、実家に火を放つ』とでも書かれていたか?」
「届いてません! 妄想です!」
「君は優しいから、私を巻き込まないために嘘をついているんだな……。くそっ、私の到着が遅れたばかりに、君をそこまで追い詰めてしまうとは!」
バンッ!!
ドアが蹴破られた。
えええええ!?
鍵をかけていたはずの重厚なドアが、物理的に破壊されて開いた。
踏み込んできたレオンハルトは、剣を抜き放ち、殺気立った目で部屋の中を見回した。
「曲者はどこだ! リュシアを脅す卑劣な輩は、私が斬る!」
部屋には私とマリーしかいない。
私はベッドの上でポカンとし、マリーは無表情で壊れたドアの破片を拾っている。
「……誰も、いない?」
レオンハルトは剣を下ろし、私を見た。
私は震える声で言った。
「だ、だから言ったじゃないですか。一人になりたいって……。殿下の顔を見ると、その……胸が苦しくなるんです(ストレスで)」
これならどうだ。直球の拒絶だ。
しかし、レオンハルトは剣を床に落とし、駆け寄って私を抱きしめた。
「リュシア……!」
「ひゃっ!?」
「私の顔を見ると胸が苦しい……それほどまでに、君は精神的に追い詰められていたのか。私への愛と、私を守らなければという義務感の板挟みで、心が悲鳴を上げているんだね」
ドクン、ドクン。
彼の心臓の音が聞こえる。
そして、私の視界の隅で、彼の胸元の光が強烈に輝いた。
【星冠値:55 → 60】
――ピキーン。
何かが、世界の設定レベルで書き換わる音がした。
60。
それは《星冠の誓約》における第二の節目。
「公的固定」の段階だ。
「……決めたよ、リュシア」
レオンハルトは私を抱きしめたまま、低い声で囁いた。
その声には、有無を言わせぬ王者の覇気が宿っていた。
「君が恐怖で部屋から出られないなら、私が君を外へ連れ出す。そして、国中の誰が見ても『リュシアこそが王太子の唯一の相手』であると認識させる」
「は……?」
「騎士団長! 『星冠の馬車』を回せ!」
彼が叫ぶと、廊下に控えていた騎士たちが「ハッ!」と応じた。
数十分後。
私は強制的に着替えさせられ、屋敷の玄関前に連れ出されていた。
そこにあったのは、黄金の装飾が施された、王家専用の馬車だった。
しかも、ただの馬車ではない。側面に描かれた王家の紋章の隣に、なんとヴァルモン家の紋章(銀の薔薇)が魔法的に焼き付けられているではないか。
「こ、これは……?」
「星冠値が60を超えたことにより、誓約の魔術が発動したんだ」
レオンハルトは満足げに説明した。
「この馬車は、王族とその『正当な伴侶』しか乗ることができない。つまり、君がこれに乗ってパレードをすれば、君の地位は法的に固定される。もはや誰が何を言おうと、君は私の隣に座る権利がある」
嘘でしょ。
引きこもりたかったのに、パレード!?
「さあ、乗るんだ。民衆に君の笑顔を見せてやってくれ。そうすれば、陰でコソコソ動く反対派も手出しできなくなる」
私は半泣きで馬車に押し込まれた。
レオンハルトが隣に座り、私の腰に手を回す。
馬車が動き出すと、沿道にはいつの間にか集まった市民たちが歓声を上げていた。
「見ろ! 王太子殿下とリュシア様だ!」
「王家の馬車に、二つの紋章が並んでいるぞ!」
「やはり神託なんて関係ない、お二人の絆は本物なんだ!」
窓の外から聞こえる祝福の声。
私は死んだ魚のような目で手を振り返した。
(終わった……。引きこもり作戦が、まさかの凱旋パレードになるなんて)
隣のレオンハルトは、これ以上ないほど幸せそうに微笑んでいる。
「見なさい、リュシア。民も君を求めている。君が閉じこもる必要なんて、どこにもないんだ」
違うんです。求めてないんです。
私はただ、静かに婚約破棄されたいだけなんです。
屋敷に戻った頃には、私はぐったりと疲れ果てていた。
公的固定。
その効果は凄まじかった。
屋敷に届く郵便物の宛名が、勝手に『王太子妃内定者 リュシア様』に書き換わっていたり、夕食のメニューに王家直伝のスープが追加されていたり。
世界そのものが、私を「王太子妃」という型枠に嵌め込もうとしている。
「……もう、逃げ場がない」
私がソファに沈み込んでいると、執事が恭しく銀のお盆を持ってきた。
その上には、一通の豪奢な封筒が載っている。
王家の紋章入りの、最高重要書類だ。
「殿下からの追加の贈り物でございます」
「……今度は何? もう驚かないわよ」
私はやけくそ気味に封筒を開けた。
中に入っていた書類を見て、私の思考は凍りついた。
『王太子妃教育カリキュラム開始のお知らせ』
『担当講師:鬼の侯爵夫人 マダム・エルゼ』
「ひっ……!」
私は悲鳴を上げた。
マダム・エルゼ。
それは社交界で最も恐れられる、礼儀作法の鬼教官。彼女の指導を受けた令嬢は、あまりの厳しさに半分が修道院へ逃げ出し、残りの半分は完璧な淑女(という名の兵士)に改造されるという伝説の人物だ。
「白花の儀に向けて、君を完璧に仕上げるために招聘した。明日から毎日、彼女が屋敷に来る」
いつの間にか背後に立っていたレオンハルトが、爽やかに告げた。
「逃げ場がないなら、強くなればいい。君ならきっと、マダム・エルゼをも唸らせる最高の王妃になれるはずだ」
私の目の前が真っ暗になった。
護衛による物理的封鎖。
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