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第七話「聖女(自称)と慈善パレード」
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「リュシア様。背筋が1ミリ緩んでおりますわよ」
「……はい、マダム」
「紅茶を飲む際の小指の角度、それは『慈愛』ではなく『妥協』の角度です。修正なさいませ」
「……仰せのままに」
ヴァルモン公爵邸のサンルーム。私は死んだ魚のような目で、ティーカップを持ち直した。
目の前では、マダム・エルゼが鷹のような鋭い眼光で私の一挙手一投足を監視している。
前回、わざと粗相をして落第を狙ったはずが、なぜか「型破りな天才」と勘違いされ、授業の難易度がハードモードからナイトメアモードに昇格してしまったのだ。
「素晴らしい修正です。その指先から、国母としての揺るぎない決意を感じますわ」
ただ指を伸ばしただけで、どうやったらそこまで深読みできるのか。この国の貴族は皆、妄想検定一級でも持っているのだろうか。
「今日はこれくらいに致しましょう。午後からは、レオンハルト殿下とのご公務がありますから」
マダムの言葉に、私はガクリと項垂れた。
公務。
それはつまり、レオンハルト殿下の隣でニコニコと微笑み、民衆に「仲睦まじい二人」を見せつけるという、婚約破棄希望者にとっては拷問のような時間だ。
「……今日のご公務は、何でしたっけ」
「王都の下町視察です。なんでも、最近巷で話題の『聖女様』が、貧しい人々に施しを行うパレードをなさるそうで。殿下は、その警備状況と民の様子を確認なさりたいとのこと」
私は弾かれたように顔を上げた。
聖女様。セレナだ。
施しのパレード?
(来た! これよ!)
私の脳内で、久々に希望のファンファーレが鳴り響いた。
聖女セレナが民衆に慈愛を振りまき、絶大な人気を獲得する。
対して、悪役令嬢である私は、その人気に嫉妬して難癖をつける。
民衆は思うだろう。「なんて心の狭い女だ」「あんな冷血な公爵令嬢より、聖女様の方が王太子妃にふさわしい」と!
「行きます! すぐに準備します!」
私は勢いよく立ち上がった。
待っててね、セレナ。今日こそ私が、あなたの引き立て役になってあげるから!
◇
王都の下町広場は、凄まじい熱気に包まれていた。
「聖女様だ! 聖女様がいらっしゃったぞ!」
「パンを配ってくださるそうだ!」
「ああ、なんて美しいんだ……!」
広場の中央には急ごしらえのステージが組まれ、その上でピンク色のドレスを着たセレナが、籠いっぱいのパンを抱えて微笑んでいた。
背後には神殿の聖歌隊が控え、神々しいBGMを奏でている。演出過剰だが、効果は抜群だ。
その様子を、私は少し離れた場所から眺めていた。もちろん、隣には変装(といってもフードを被っただけの簡易的なものだが)をしたレオンハルト殿下がいる。
「……すごい人気だな」
レオンハルトが感心したように、あるいは警戒するように呟く。
「ええ、素晴らしいですわ。彼女こそ、民を救う希望の光……。それに比べて私なんて、ただ見ているだけの無力な存在」
私はすかさず自虐を挟んだ。
さあ、私を比較して幻滅してくれ。
しかし、レオンハルトは私の手を取り、愛おしそうに囁いた。
「何を言うんだ、リュシア。君はこうして、危険を冒してまで現場に足を運び、民の現状をその目で見ようとしている。高みの見物を決め込む貴族が多い中、君のその姿勢こそが尊い」
……また始まった。
私が「帰りましょう」と言う前に、広場の様子がおかしくなった。
「ほら、お腹を空かせた子羊たちよ! 私の愛を受け取りなさい!」
セレナが籠の中のパンを、客席に向かって放り投げ始めたのだ。
まるで鯉に餌をやるような手つきである。
パンが宙を舞う。
それに群がる民衆。
「俺のだ! 俺が先に取った!」
「どけ! 踏むな!」
「ああっ、子供が倒れたぞ!」
あっという間に、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
我先にとパンを奪い合う大人たち。突き飛ばされる老人。泣き叫ぶ子供。
セレナはステージの上で「あらあら、まあまあ」と困った顔をしているが、止める様子はない。むしろ、その混乱を楽しんでいるようにすら見える。
(……は?)
私のこめかみに、青筋が浮かんだ。
前世の社畜魂、もとい事務処理能力が、警報を鳴らし始めた。
効率が悪い。
動線確保ができていない。
リスク管理がゼロだ。
あんな配り方をすれば、力の弱い者が割を食い、怪我人が出るのは明白ではないか。
あれは「施し」ではない。ただの「バラマキ」による自己満足だ。
「……ありえない」
私が低く呟くと、レオンハルトが心配そうに覗き込んできた。
「リュシア? やはり気分が悪いなら戻ろうか」
「いいえ、殿下。戻りません」
私はフードをバサリと脱ぎ捨てた。
銀髪が陽光に輝く。
周囲の視線が一斉に私に集まる中、私はカツカツとヒールの音を響かせて、人ごみの中へと歩き出した。
「リュシア!?」
レオンハルトの静止を振り切り、私はステージの前に仁王立ちした。
そして、よく通る声で叫んだ。
「そこまでよ! 全員、動きを止めなさい!」
公爵令嬢特有の威圧感あふれる声に、争っていた民衆たちが一瞬で静まり返る。
ステージ上のセレナが、目を丸くして私を見た。
「り、リュシア様? どうしてここに……まさか、私の慈善活動を邪魔しに来たのですか?」
彼女はすぐに「いじめられるヒロイン」の表情を作り、涙声で訴えた。
「ひどいです! 私はただ、皆さんに幸せを分け与えたいだけなのに……!」
「黙りなさい」
私はピシャリと言い放った。
「あなたのそれは『施し』ではありません。ただの『餌やり』です。民を獣か何かと勘違いしていなくて?」
会場が凍りついた。
言った。言ってやった。
さあ、これで私は「聖女の善意を踏みにじる高慢な悪役令嬢」だ。民衆よ、私を罵れ! 石を投げろ!
しかし、私の口は止まらなかった。前世でイベント運営を仕切っていた経験が、勝手に私を動かしてしまう。
「いいこと? 効率的に配布を行いたいなら、まずは列を作りなさい! そこの広場の入り口から、蛇行するようにロープを張って! 衛兵、何をしているの、さっさと誘導しなさい!」
私の指示に、呆然としていた衛兵たちが「は、はいッ!」と反射的に動き出した。
「老人と子供、妊婦は優先レーンを作りなさい! ステージ右側に誘導して! 屈強な男たちは左側! 絶対に走らせないこと!」
「セレナ! あなたもパンを投げるのをやめなさい! 地べたに落ちたものを食べさせる気? 衛生観念はどうなっているの!」
「神官たち! 突っ立って歌っている暇があったら、パンを袋詰めしなさい! 一人二つまで、公平に行き渡るように数を管理して!」
矢継ぎ早に飛ぶ指示。
最初は戸惑っていた民衆も、衛兵も、そして神官たちも、私のあまりの剣幕と的確な指示に、言われるがままに動き始めた。
ものの十分もしないうちに、広場の混乱は嘘のように収束した。
整然と並んだ列。
スムーズに行われる配布。
「ありがとう」「ありがとう」とパンを受け取る子供たちの笑顔。
私は腕組みをして、その光景を眺めながら鼻を鳴らした。
「……ふん。最初からこうすればいいのよ」
ふと我に返る。
……あれ?
私、何してるんだっけ?
邪魔をするつもりが、めちゃくちゃ優秀な現場監督になっていないか?
恐る恐る振り返ると、そこにはフードを脱いだレオンハルト殿下が立っていた。
その瞳は、感動で潤み、キラキラと輝いていた。
「……リュシア」
「あ、あの、殿下。これはその、単にイライラして……」
「君は、またしても……」
レオンハルトがゆっくりと近づいてくる。
広場にいた民衆たちも、パンを食べる手を止めて、私たちを見つめている。
「君は、聖女の顔を立てることもできたはずだ。黙って見ていれば、君が悪く言われることもなかった。だが君は、泥をかぶる覚悟で、民の安全を最優先に考え、介入した」
「違います。ただ段取りが悪すぎて気持ち悪かっただけで……」
「『施し』という美名に酔いしれ、民を危険に晒していた聖女に対し、君は『秩序』と『公平』を与えた。これこそが、真の統治者の姿だ!」
レオンハルトが高らかに宣言すると、広場からワッと歓声が上がった。
「そうだ! あの令嬢が指示してくれなきゃ、俺たち怪我してたぞ!」
「パンを投げつけるなんて、今思えば馬鹿にされてたようなもんだ!」
「ちゃんと子供やお年寄りを優先してくれた……あの方こそ、本当の意味で俺たちを見てくれている!」
「白銀の髪……まるで白薔薇のような気高さだ!」
誰かが叫んだ。
「白薔薇の令嬢、万歳!」
「リュシア様、万歳!」
大合唱が巻き起こる。
違う。
私は悪役令嬢だ。
「餌やり」とか言ったのよ? もっと怒ってよ!
セレナがステージの隅で、屈辱に顔を歪めているのが見えた。
彼女の手には、配りきれなかったパンが握りつぶされている。
ごめん、セレナ。本当に邪魔するつもりじゃなかったの。職業病が出ただけなの。
レオンハルトが私の隣に並び、そっと肩を抱いた。
そして、民衆に向かって手を振る。
その胸元で、例の光が、もはや隠しきれないほど強く瞬いた。
【星冠値:66 → 70】
70。
新たな領域への突入だ。
レオンハルトの私を見る目が、これまでとは違う熱を帯びている。ただの溺愛ではない。崇拝にも似た、重い、重い信頼。
「リュシア。君は証明した。君こそが、この国を導く母であることを」
「……帰り、たい」
私は小さく呟いた。
歓声と拍手の中心で、私の心は虚無だった。
◇
翌日。
私の元に、一通の招待状が届いた。
差出人は、大神殿。
封蝋には、厳重な「極秘」の印が押されている。
「お嬢様、これは……」
マリーが警戒したように眉を寄せる。
大神殿からの呼び出し。
本来なら名誉なことだが、今の私にとっては地雷の予感しかしない。
昨日のパレードでセレナの面目を潰してしまった件についてのクレームか、それとも――。
「……行くしかないわね」
私は招待状を指先で弾いた。
もしかしたら、神殿側が「あんな不敬な女は認めん!」と、私を断罪してくれるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、私は再び、逃れられない運命の渦へと足を踏み入れる覚悟を決めた。
「……はい、マダム」
「紅茶を飲む際の小指の角度、それは『慈愛』ではなく『妥協』の角度です。修正なさいませ」
「……仰せのままに」
ヴァルモン公爵邸のサンルーム。私は死んだ魚のような目で、ティーカップを持ち直した。
目の前では、マダム・エルゼが鷹のような鋭い眼光で私の一挙手一投足を監視している。
前回、わざと粗相をして落第を狙ったはずが、なぜか「型破りな天才」と勘違いされ、授業の難易度がハードモードからナイトメアモードに昇格してしまったのだ。
「素晴らしい修正です。その指先から、国母としての揺るぎない決意を感じますわ」
ただ指を伸ばしただけで、どうやったらそこまで深読みできるのか。この国の貴族は皆、妄想検定一級でも持っているのだろうか。
「今日はこれくらいに致しましょう。午後からは、レオンハルト殿下とのご公務がありますから」
マダムの言葉に、私はガクリと項垂れた。
公務。
それはつまり、レオンハルト殿下の隣でニコニコと微笑み、民衆に「仲睦まじい二人」を見せつけるという、婚約破棄希望者にとっては拷問のような時間だ。
「……今日のご公務は、何でしたっけ」
「王都の下町視察です。なんでも、最近巷で話題の『聖女様』が、貧しい人々に施しを行うパレードをなさるそうで。殿下は、その警備状況と民の様子を確認なさりたいとのこと」
私は弾かれたように顔を上げた。
聖女様。セレナだ。
施しのパレード?
(来た! これよ!)
私の脳内で、久々に希望のファンファーレが鳴り響いた。
聖女セレナが民衆に慈愛を振りまき、絶大な人気を獲得する。
対して、悪役令嬢である私は、その人気に嫉妬して難癖をつける。
民衆は思うだろう。「なんて心の狭い女だ」「あんな冷血な公爵令嬢より、聖女様の方が王太子妃にふさわしい」と!
「行きます! すぐに準備します!」
私は勢いよく立ち上がった。
待っててね、セレナ。今日こそ私が、あなたの引き立て役になってあげるから!
◇
王都の下町広場は、凄まじい熱気に包まれていた。
「聖女様だ! 聖女様がいらっしゃったぞ!」
「パンを配ってくださるそうだ!」
「ああ、なんて美しいんだ……!」
広場の中央には急ごしらえのステージが組まれ、その上でピンク色のドレスを着たセレナが、籠いっぱいのパンを抱えて微笑んでいた。
背後には神殿の聖歌隊が控え、神々しいBGMを奏でている。演出過剰だが、効果は抜群だ。
その様子を、私は少し離れた場所から眺めていた。もちろん、隣には変装(といってもフードを被っただけの簡易的なものだが)をしたレオンハルト殿下がいる。
「……すごい人気だな」
レオンハルトが感心したように、あるいは警戒するように呟く。
「ええ、素晴らしいですわ。彼女こそ、民を救う希望の光……。それに比べて私なんて、ただ見ているだけの無力な存在」
私はすかさず自虐を挟んだ。
さあ、私を比較して幻滅してくれ。
しかし、レオンハルトは私の手を取り、愛おしそうに囁いた。
「何を言うんだ、リュシア。君はこうして、危険を冒してまで現場に足を運び、民の現状をその目で見ようとしている。高みの見物を決め込む貴族が多い中、君のその姿勢こそが尊い」
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「ほら、お腹を空かせた子羊たちよ! 私の愛を受け取りなさい!」
セレナが籠の中のパンを、客席に向かって放り投げ始めたのだ。
まるで鯉に餌をやるような手つきである。
パンが宙を舞う。
それに群がる民衆。
「俺のだ! 俺が先に取った!」
「どけ! 踏むな!」
「ああっ、子供が倒れたぞ!」
あっという間に、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
我先にとパンを奪い合う大人たち。突き飛ばされる老人。泣き叫ぶ子供。
セレナはステージの上で「あらあら、まあまあ」と困った顔をしているが、止める様子はない。むしろ、その混乱を楽しんでいるようにすら見える。
(……は?)
私のこめかみに、青筋が浮かんだ。
前世の社畜魂、もとい事務処理能力が、警報を鳴らし始めた。
効率が悪い。
動線確保ができていない。
リスク管理がゼロだ。
あんな配り方をすれば、力の弱い者が割を食い、怪我人が出るのは明白ではないか。
あれは「施し」ではない。ただの「バラマキ」による自己満足だ。
「……ありえない」
私が低く呟くと、レオンハルトが心配そうに覗き込んできた。
「リュシア? やはり気分が悪いなら戻ろうか」
「いいえ、殿下。戻りません」
私はフードをバサリと脱ぎ捨てた。
銀髪が陽光に輝く。
周囲の視線が一斉に私に集まる中、私はカツカツとヒールの音を響かせて、人ごみの中へと歩き出した。
「リュシア!?」
レオンハルトの静止を振り切り、私はステージの前に仁王立ちした。
そして、よく通る声で叫んだ。
「そこまでよ! 全員、動きを止めなさい!」
公爵令嬢特有の威圧感あふれる声に、争っていた民衆たちが一瞬で静まり返る。
ステージ上のセレナが、目を丸くして私を見た。
「り、リュシア様? どうしてここに……まさか、私の慈善活動を邪魔しに来たのですか?」
彼女はすぐに「いじめられるヒロイン」の表情を作り、涙声で訴えた。
「ひどいです! 私はただ、皆さんに幸せを分け与えたいだけなのに……!」
「黙りなさい」
私はピシャリと言い放った。
「あなたのそれは『施し』ではありません。ただの『餌やり』です。民を獣か何かと勘違いしていなくて?」
会場が凍りついた。
言った。言ってやった。
さあ、これで私は「聖女の善意を踏みにじる高慢な悪役令嬢」だ。民衆よ、私を罵れ! 石を投げろ!
しかし、私の口は止まらなかった。前世でイベント運営を仕切っていた経験が、勝手に私を動かしてしまう。
「いいこと? 効率的に配布を行いたいなら、まずは列を作りなさい! そこの広場の入り口から、蛇行するようにロープを張って! 衛兵、何をしているの、さっさと誘導しなさい!」
私の指示に、呆然としていた衛兵たちが「は、はいッ!」と反射的に動き出した。
「老人と子供、妊婦は優先レーンを作りなさい! ステージ右側に誘導して! 屈強な男たちは左側! 絶対に走らせないこと!」
「セレナ! あなたもパンを投げるのをやめなさい! 地べたに落ちたものを食べさせる気? 衛生観念はどうなっているの!」
「神官たち! 突っ立って歌っている暇があったら、パンを袋詰めしなさい! 一人二つまで、公平に行き渡るように数を管理して!」
矢継ぎ早に飛ぶ指示。
最初は戸惑っていた民衆も、衛兵も、そして神官たちも、私のあまりの剣幕と的確な指示に、言われるがままに動き始めた。
ものの十分もしないうちに、広場の混乱は嘘のように収束した。
整然と並んだ列。
スムーズに行われる配布。
「ありがとう」「ありがとう」とパンを受け取る子供たちの笑顔。
私は腕組みをして、その光景を眺めながら鼻を鳴らした。
「……ふん。最初からこうすればいいのよ」
ふと我に返る。
……あれ?
私、何してるんだっけ?
邪魔をするつもりが、めちゃくちゃ優秀な現場監督になっていないか?
恐る恐る振り返ると、そこにはフードを脱いだレオンハルト殿下が立っていた。
その瞳は、感動で潤み、キラキラと輝いていた。
「……リュシア」
「あ、あの、殿下。これはその、単にイライラして……」
「君は、またしても……」
レオンハルトがゆっくりと近づいてくる。
広場にいた民衆たちも、パンを食べる手を止めて、私たちを見つめている。
「君は、聖女の顔を立てることもできたはずだ。黙って見ていれば、君が悪く言われることもなかった。だが君は、泥をかぶる覚悟で、民の安全を最優先に考え、介入した」
「違います。ただ段取りが悪すぎて気持ち悪かっただけで……」
「『施し』という美名に酔いしれ、民を危険に晒していた聖女に対し、君は『秩序』と『公平』を与えた。これこそが、真の統治者の姿だ!」
レオンハルトが高らかに宣言すると、広場からワッと歓声が上がった。
「そうだ! あの令嬢が指示してくれなきゃ、俺たち怪我してたぞ!」
「パンを投げつけるなんて、今思えば馬鹿にされてたようなもんだ!」
「ちゃんと子供やお年寄りを優先してくれた……あの方こそ、本当の意味で俺たちを見てくれている!」
「白銀の髪……まるで白薔薇のような気高さだ!」
誰かが叫んだ。
「白薔薇の令嬢、万歳!」
「リュシア様、万歳!」
大合唱が巻き起こる。
違う。
私は悪役令嬢だ。
「餌やり」とか言ったのよ? もっと怒ってよ!
セレナがステージの隅で、屈辱に顔を歪めているのが見えた。
彼女の手には、配りきれなかったパンが握りつぶされている。
ごめん、セレナ。本当に邪魔するつもりじゃなかったの。職業病が出ただけなの。
レオンハルトが私の隣に並び、そっと肩を抱いた。
そして、民衆に向かって手を振る。
その胸元で、例の光が、もはや隠しきれないほど強く瞬いた。
【星冠値:66 → 70】
70。
新たな領域への突入だ。
レオンハルトの私を見る目が、これまでとは違う熱を帯びている。ただの溺愛ではない。崇拝にも似た、重い、重い信頼。
「リュシア。君は証明した。君こそが、この国を導く母であることを」
「……帰り、たい」
私は小さく呟いた。
歓声と拍手の中心で、私の心は虚無だった。
◇
翌日。
私の元に、一通の招待状が届いた。
差出人は、大神殿。
封蝋には、厳重な「極秘」の印が押されている。
「お嬢様、これは……」
マリーが警戒したように眉を寄せる。
大神殿からの呼び出し。
本来なら名誉なことだが、今の私にとっては地雷の予感しかしない。
昨日のパレードでセレナの面目を潰してしまった件についてのクレームか、それとも――。
「……行くしかないわね」
私は招待状を指先で弾いた。
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