7 / 31
第七話「聖女(自称)と慈善パレード」
「リュシア様。背筋が1ミリ緩んでおりますわよ」
「……はい、マダム」
「紅茶を飲む際の小指の角度、それは『慈愛』ではなく『妥協』の角度です。修正なさいませ」
「……仰せのままに」
ヴァルモン公爵邸のサンルーム。私は死んだ魚のような目で、ティーカップを持ち直した。
目の前では、マダム・エルゼが鷹のような鋭い眼光で私の一挙手一投足を監視している。
前回、わざと粗相をして落第を狙ったはずが、なぜか「型破りな天才」と勘違いされ、授業の難易度がハードモードからナイトメアモードに昇格してしまったのだ。
「素晴らしい修正です。その指先から、国母としての揺るぎない決意を感じますわ」
ただ指を伸ばしただけで、どうやったらそこまで深読みできるのか。この国の貴族は皆、妄想検定一級でも持っているのだろうか。
「今日はこれくらいに致しましょう。午後からは、レオンハルト殿下とのご公務がありますから」
マダムの言葉に、私はガクリと項垂れた。
公務。
それはつまり、レオンハルト殿下の隣でニコニコと微笑み、民衆に「仲睦まじい二人」を見せつけるという、婚約破棄希望者にとっては拷問のような時間だ。
「……今日のご公務は、何でしたっけ」
「王都の下町視察です。なんでも、最近巷で話題の『聖女様』が、貧しい人々に施しを行うパレードをなさるそうで。殿下は、その警備状況と民の様子を確認なさりたいとのこと」
私は弾かれたように顔を上げた。
聖女様。セレナだ。
施しのパレード?
(来た! これよ!)
私の脳内で、久々に希望のファンファーレが鳴り響いた。
聖女セレナが民衆に慈愛を振りまき、絶大な人気を獲得する。
対して、悪役令嬢である私は、その人気に嫉妬して難癖をつける。
民衆は思うだろう。「なんて心の狭い女だ」「あんな冷血な公爵令嬢より、聖女様の方が王太子妃にふさわしい」と!
「行きます! すぐに準備します!」
私は勢いよく立ち上がった。
待っててね、セレナ。今日こそ私が、あなたの引き立て役になってあげるから!
◇
王都の下町広場は、凄まじい熱気に包まれていた。
「聖女様だ! 聖女様がいらっしゃったぞ!」
「パンを配ってくださるそうだ!」
「ああ、なんて美しいんだ……!」
広場の中央には急ごしらえのステージが組まれ、その上でピンク色のドレスを着たセレナが、籠いっぱいのパンを抱えて微笑んでいた。
背後には神殿の聖歌隊が控え、神々しいBGMを奏でている。演出過剰だが、効果は抜群だ。
その様子を、私は少し離れた場所から眺めていた。もちろん、隣には変装(といってもフードを被っただけの簡易的なものだが)をしたレオンハルト殿下がいる。
「……すごい人気だな」
レオンハルトが感心したように、あるいは警戒するように呟く。
「ええ、素晴らしいですわ。彼女こそ、民を救う希望の光……。それに比べて私なんて、ただ見ているだけの無力な存在」
私はすかさず自虐を挟んだ。
さあ、私を比較して幻滅してくれ。
しかし、レオンハルトは私の手を取り、愛おしそうに囁いた。
「何を言うんだ、リュシア。君はこうして、危険を冒してまで現場に足を運び、民の現状をその目で見ようとしている。高みの見物を決め込む貴族が多い中、君のその姿勢こそが尊い」
……また始まった。
私が「帰りましょう」と言う前に、広場の様子がおかしくなった。
「ほら、お腹を空かせた子羊たちよ! 私の愛を受け取りなさい!」
セレナが籠の中のパンを、客席に向かって放り投げ始めたのだ。
まるで鯉に餌をやるような手つきである。
パンが宙を舞う。
それに群がる民衆。
「俺のだ! 俺が先に取った!」
「どけ! 踏むな!」
「ああっ、子供が倒れたぞ!」
あっという間に、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
我先にとパンを奪い合う大人たち。突き飛ばされる老人。泣き叫ぶ子供。
セレナはステージの上で「あらあら、まあまあ」と困った顔をしているが、止める様子はない。むしろ、その混乱を楽しんでいるようにすら見える。
(……は?)
私のこめかみに、青筋が浮かんだ。
前世の社畜魂、もとい事務処理能力が、警報を鳴らし始めた。
効率が悪い。
動線確保ができていない。
リスク管理がゼロだ。
あんな配り方をすれば、力の弱い者が割を食い、怪我人が出るのは明白ではないか。
あれは「施し」ではない。ただの「バラマキ」による自己満足だ。
「……ありえない」
私が低く呟くと、レオンハルトが心配そうに覗き込んできた。
「リュシア? やはり気分が悪いなら戻ろうか」
「いいえ、殿下。戻りません」
私はフードをバサリと脱ぎ捨てた。
銀髪が陽光に輝く。
周囲の視線が一斉に私に集まる中、私はカツカツとヒールの音を響かせて、人ごみの中へと歩き出した。
「リュシア!?」
レオンハルトの静止を振り切り、私はステージの前に仁王立ちした。
そして、よく通る声で叫んだ。
「そこまでよ! 全員、動きを止めなさい!」
公爵令嬢特有の威圧感あふれる声に、争っていた民衆たちが一瞬で静まり返る。
ステージ上のセレナが、目を丸くして私を見た。
「り、リュシア様? どうしてここに……まさか、私の慈善活動を邪魔しに来たのですか?」
彼女はすぐに「いじめられるヒロイン」の表情を作り、涙声で訴えた。
「ひどいです! 私はただ、皆さんに幸せを分け与えたいだけなのに……!」
「黙りなさい」
私はピシャリと言い放った。
「あなたのそれは『施し』ではありません。ただの『餌やり』です。民を獣か何かと勘違いしていなくて?」
会場が凍りついた。
言った。言ってやった。
さあ、これで私は「聖女の善意を踏みにじる高慢な悪役令嬢」だ。民衆よ、私を罵れ! 石を投げろ!
しかし、私の口は止まらなかった。前世でイベント運営を仕切っていた経験が、勝手に私を動かしてしまう。
「いいこと? 効率的に配布を行いたいなら、まずは列を作りなさい! そこの広場の入り口から、蛇行するようにロープを張って! 衛兵、何をしているの、さっさと誘導しなさい!」
私の指示に、呆然としていた衛兵たちが「は、はいッ!」と反射的に動き出した。
「老人と子供、妊婦は優先レーンを作りなさい! ステージ右側に誘導して! 屈強な男たちは左側! 絶対に走らせないこと!」
「セレナ! あなたもパンを投げるのをやめなさい! 地べたに落ちたものを食べさせる気? 衛生観念はどうなっているの!」
「神官たち! 突っ立って歌っている暇があったら、パンを袋詰めしなさい! 一人二つまで、公平に行き渡るように数を管理して!」
矢継ぎ早に飛ぶ指示。
最初は戸惑っていた民衆も、衛兵も、そして神官たちも、私のあまりの剣幕と的確な指示に、言われるがままに動き始めた。
ものの十分もしないうちに、広場の混乱は嘘のように収束した。
整然と並んだ列。
スムーズに行われる配布。
「ありがとう」「ありがとう」とパンを受け取る子供たちの笑顔。
私は腕組みをして、その光景を眺めながら鼻を鳴らした。
「……ふん。最初からこうすればいいのよ」
ふと我に返る。
……あれ?
私、何してるんだっけ?
邪魔をするつもりが、めちゃくちゃ優秀な現場監督になっていないか?
恐る恐る振り返ると、そこにはフードを脱いだレオンハルト殿下が立っていた。
その瞳は、感動で潤み、キラキラと輝いていた。
「……リュシア」
「あ、あの、殿下。これはその、単にイライラして……」
「君は、またしても……」
レオンハルトがゆっくりと近づいてくる。
広場にいた民衆たちも、パンを食べる手を止めて、私たちを見つめている。
「君は、聖女の顔を立てることもできたはずだ。黙って見ていれば、君が悪く言われることもなかった。だが君は、泥をかぶる覚悟で、民の安全を最優先に考え、介入した」
「違います。ただ段取りが悪すぎて気持ち悪かっただけで……」
「『施し』という美名に酔いしれ、民を危険に晒していた聖女に対し、君は『秩序』と『公平』を与えた。これこそが、真の統治者の姿だ!」
レオンハルトが高らかに宣言すると、広場からワッと歓声が上がった。
「そうだ! あの令嬢が指示してくれなきゃ、俺たち怪我してたぞ!」
「パンを投げつけるなんて、今思えば馬鹿にされてたようなもんだ!」
「ちゃんと子供やお年寄りを優先してくれた……あの方こそ、本当の意味で俺たちを見てくれている!」
「白銀の髪……まるで白薔薇のような気高さだ!」
誰かが叫んだ。
「白薔薇の令嬢、万歳!」
「リュシア様、万歳!」
大合唱が巻き起こる。
違う。
私は悪役令嬢だ。
「餌やり」とか言ったのよ? もっと怒ってよ!
セレナがステージの隅で、屈辱に顔を歪めているのが見えた。
彼女の手には、配りきれなかったパンが握りつぶされている。
ごめん、セレナ。本当に邪魔するつもりじゃなかったの。職業病が出ただけなの。
レオンハルトが私の隣に並び、そっと肩を抱いた。
そして、民衆に向かって手を振る。
その胸元で、例の光が、もはや隠しきれないほど強く瞬いた。
【星冠値:66 → 70】
70。
新たな領域への突入だ。
レオンハルトの私を見る目が、これまでとは違う熱を帯びている。ただの溺愛ではない。崇拝にも似た、重い、重い信頼。
「リュシア。君は証明した。君こそが、この国を導く母であることを」
「……帰り、たい」
私は小さく呟いた。
歓声と拍手の中心で、私の心は虚無だった。
◇
翌日。
私の元に、一通の招待状が届いた。
差出人は、大神殿。
封蝋には、厳重な「極秘」の印が押されている。
「お嬢様、これは……」
マリーが警戒したように眉を寄せる。
大神殿からの呼び出し。
本来なら名誉なことだが、今の私にとっては地雷の予感しかしない。
昨日のパレードでセレナの面目を潰してしまった件についてのクレームか、それとも――。
「……行くしかないわね」
私は招待状を指先で弾いた。
もしかしたら、神殿側が「あんな不敬な女は認めん!」と、私を断罪してくれるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、私は再び、逃れられない運命の渦へと足を踏み入れる覚悟を決めた。
「……はい、マダム」
「紅茶を飲む際の小指の角度、それは『慈愛』ではなく『妥協』の角度です。修正なさいませ」
「……仰せのままに」
ヴァルモン公爵邸のサンルーム。私は死んだ魚のような目で、ティーカップを持ち直した。
目の前では、マダム・エルゼが鷹のような鋭い眼光で私の一挙手一投足を監視している。
前回、わざと粗相をして落第を狙ったはずが、なぜか「型破りな天才」と勘違いされ、授業の難易度がハードモードからナイトメアモードに昇格してしまったのだ。
「素晴らしい修正です。その指先から、国母としての揺るぎない決意を感じますわ」
ただ指を伸ばしただけで、どうやったらそこまで深読みできるのか。この国の貴族は皆、妄想検定一級でも持っているのだろうか。
「今日はこれくらいに致しましょう。午後からは、レオンハルト殿下とのご公務がありますから」
マダムの言葉に、私はガクリと項垂れた。
公務。
それはつまり、レオンハルト殿下の隣でニコニコと微笑み、民衆に「仲睦まじい二人」を見せつけるという、婚約破棄希望者にとっては拷問のような時間だ。
「……今日のご公務は、何でしたっけ」
「王都の下町視察です。なんでも、最近巷で話題の『聖女様』が、貧しい人々に施しを行うパレードをなさるそうで。殿下は、その警備状況と民の様子を確認なさりたいとのこと」
私は弾かれたように顔を上げた。
聖女様。セレナだ。
施しのパレード?
(来た! これよ!)
私の脳内で、久々に希望のファンファーレが鳴り響いた。
聖女セレナが民衆に慈愛を振りまき、絶大な人気を獲得する。
対して、悪役令嬢である私は、その人気に嫉妬して難癖をつける。
民衆は思うだろう。「なんて心の狭い女だ」「あんな冷血な公爵令嬢より、聖女様の方が王太子妃にふさわしい」と!
「行きます! すぐに準備します!」
私は勢いよく立ち上がった。
待っててね、セレナ。今日こそ私が、あなたの引き立て役になってあげるから!
◇
王都の下町広場は、凄まじい熱気に包まれていた。
「聖女様だ! 聖女様がいらっしゃったぞ!」
「パンを配ってくださるそうだ!」
「ああ、なんて美しいんだ……!」
広場の中央には急ごしらえのステージが組まれ、その上でピンク色のドレスを着たセレナが、籠いっぱいのパンを抱えて微笑んでいた。
背後には神殿の聖歌隊が控え、神々しいBGMを奏でている。演出過剰だが、効果は抜群だ。
その様子を、私は少し離れた場所から眺めていた。もちろん、隣には変装(といってもフードを被っただけの簡易的なものだが)をしたレオンハルト殿下がいる。
「……すごい人気だな」
レオンハルトが感心したように、あるいは警戒するように呟く。
「ええ、素晴らしいですわ。彼女こそ、民を救う希望の光……。それに比べて私なんて、ただ見ているだけの無力な存在」
私はすかさず自虐を挟んだ。
さあ、私を比較して幻滅してくれ。
しかし、レオンハルトは私の手を取り、愛おしそうに囁いた。
「何を言うんだ、リュシア。君はこうして、危険を冒してまで現場に足を運び、民の現状をその目で見ようとしている。高みの見物を決め込む貴族が多い中、君のその姿勢こそが尊い」
……また始まった。
私が「帰りましょう」と言う前に、広場の様子がおかしくなった。
「ほら、お腹を空かせた子羊たちよ! 私の愛を受け取りなさい!」
セレナが籠の中のパンを、客席に向かって放り投げ始めたのだ。
まるで鯉に餌をやるような手つきである。
パンが宙を舞う。
それに群がる民衆。
「俺のだ! 俺が先に取った!」
「どけ! 踏むな!」
「ああっ、子供が倒れたぞ!」
あっという間に、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
我先にとパンを奪い合う大人たち。突き飛ばされる老人。泣き叫ぶ子供。
セレナはステージの上で「あらあら、まあまあ」と困った顔をしているが、止める様子はない。むしろ、その混乱を楽しんでいるようにすら見える。
(……は?)
私のこめかみに、青筋が浮かんだ。
前世の社畜魂、もとい事務処理能力が、警報を鳴らし始めた。
効率が悪い。
動線確保ができていない。
リスク管理がゼロだ。
あんな配り方をすれば、力の弱い者が割を食い、怪我人が出るのは明白ではないか。
あれは「施し」ではない。ただの「バラマキ」による自己満足だ。
「……ありえない」
私が低く呟くと、レオンハルトが心配そうに覗き込んできた。
「リュシア? やはり気分が悪いなら戻ろうか」
「いいえ、殿下。戻りません」
私はフードをバサリと脱ぎ捨てた。
銀髪が陽光に輝く。
周囲の視線が一斉に私に集まる中、私はカツカツとヒールの音を響かせて、人ごみの中へと歩き出した。
「リュシア!?」
レオンハルトの静止を振り切り、私はステージの前に仁王立ちした。
そして、よく通る声で叫んだ。
「そこまでよ! 全員、動きを止めなさい!」
公爵令嬢特有の威圧感あふれる声に、争っていた民衆たちが一瞬で静まり返る。
ステージ上のセレナが、目を丸くして私を見た。
「り、リュシア様? どうしてここに……まさか、私の慈善活動を邪魔しに来たのですか?」
彼女はすぐに「いじめられるヒロイン」の表情を作り、涙声で訴えた。
「ひどいです! 私はただ、皆さんに幸せを分け与えたいだけなのに……!」
「黙りなさい」
私はピシャリと言い放った。
「あなたのそれは『施し』ではありません。ただの『餌やり』です。民を獣か何かと勘違いしていなくて?」
会場が凍りついた。
言った。言ってやった。
さあ、これで私は「聖女の善意を踏みにじる高慢な悪役令嬢」だ。民衆よ、私を罵れ! 石を投げろ!
しかし、私の口は止まらなかった。前世でイベント運営を仕切っていた経験が、勝手に私を動かしてしまう。
「いいこと? 効率的に配布を行いたいなら、まずは列を作りなさい! そこの広場の入り口から、蛇行するようにロープを張って! 衛兵、何をしているの、さっさと誘導しなさい!」
私の指示に、呆然としていた衛兵たちが「は、はいッ!」と反射的に動き出した。
「老人と子供、妊婦は優先レーンを作りなさい! ステージ右側に誘導して! 屈強な男たちは左側! 絶対に走らせないこと!」
「セレナ! あなたもパンを投げるのをやめなさい! 地べたに落ちたものを食べさせる気? 衛生観念はどうなっているの!」
「神官たち! 突っ立って歌っている暇があったら、パンを袋詰めしなさい! 一人二つまで、公平に行き渡るように数を管理して!」
矢継ぎ早に飛ぶ指示。
最初は戸惑っていた民衆も、衛兵も、そして神官たちも、私のあまりの剣幕と的確な指示に、言われるがままに動き始めた。
ものの十分もしないうちに、広場の混乱は嘘のように収束した。
整然と並んだ列。
スムーズに行われる配布。
「ありがとう」「ありがとう」とパンを受け取る子供たちの笑顔。
私は腕組みをして、その光景を眺めながら鼻を鳴らした。
「……ふん。最初からこうすればいいのよ」
ふと我に返る。
……あれ?
私、何してるんだっけ?
邪魔をするつもりが、めちゃくちゃ優秀な現場監督になっていないか?
恐る恐る振り返ると、そこにはフードを脱いだレオンハルト殿下が立っていた。
その瞳は、感動で潤み、キラキラと輝いていた。
「……リュシア」
「あ、あの、殿下。これはその、単にイライラして……」
「君は、またしても……」
レオンハルトがゆっくりと近づいてくる。
広場にいた民衆たちも、パンを食べる手を止めて、私たちを見つめている。
「君は、聖女の顔を立てることもできたはずだ。黙って見ていれば、君が悪く言われることもなかった。だが君は、泥をかぶる覚悟で、民の安全を最優先に考え、介入した」
「違います。ただ段取りが悪すぎて気持ち悪かっただけで……」
「『施し』という美名に酔いしれ、民を危険に晒していた聖女に対し、君は『秩序』と『公平』を与えた。これこそが、真の統治者の姿だ!」
レオンハルトが高らかに宣言すると、広場からワッと歓声が上がった。
「そうだ! あの令嬢が指示してくれなきゃ、俺たち怪我してたぞ!」
「パンを投げつけるなんて、今思えば馬鹿にされてたようなもんだ!」
「ちゃんと子供やお年寄りを優先してくれた……あの方こそ、本当の意味で俺たちを見てくれている!」
「白銀の髪……まるで白薔薇のような気高さだ!」
誰かが叫んだ。
「白薔薇の令嬢、万歳!」
「リュシア様、万歳!」
大合唱が巻き起こる。
違う。
私は悪役令嬢だ。
「餌やり」とか言ったのよ? もっと怒ってよ!
セレナがステージの隅で、屈辱に顔を歪めているのが見えた。
彼女の手には、配りきれなかったパンが握りつぶされている。
ごめん、セレナ。本当に邪魔するつもりじゃなかったの。職業病が出ただけなの。
レオンハルトが私の隣に並び、そっと肩を抱いた。
そして、民衆に向かって手を振る。
その胸元で、例の光が、もはや隠しきれないほど強く瞬いた。
【星冠値:66 → 70】
70。
新たな領域への突入だ。
レオンハルトの私を見る目が、これまでとは違う熱を帯びている。ただの溺愛ではない。崇拝にも似た、重い、重い信頼。
「リュシア。君は証明した。君こそが、この国を導く母であることを」
「……帰り、たい」
私は小さく呟いた。
歓声と拍手の中心で、私の心は虚無だった。
◇
翌日。
私の元に、一通の招待状が届いた。
差出人は、大神殿。
封蝋には、厳重な「極秘」の印が押されている。
「お嬢様、これは……」
マリーが警戒したように眉を寄せる。
大神殿からの呼び出し。
本来なら名誉なことだが、今の私にとっては地雷の予感しかしない。
昨日のパレードでセレナの面目を潰してしまった件についてのクレームか、それとも――。
「……行くしかないわね」
私は招待状を指先で弾いた。
もしかしたら、神殿側が「あんな不敬な女は認めん!」と、私を断罪してくれるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、私は再び、逃れられない運命の渦へと足を踏み入れる覚悟を決めた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました
黒崎隼人
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私の夢は、破滅フラグを回避して「悠々自適なニート生活」を送ること!そのために王太子との婚約を破棄しようとしただけなのに…「疲れたわ」と呟けば政敵が消え、「甘いものが食べたい」と言えば新商品が国を潤し、「虫が嫌」と漏らせば魔物の巣が消滅!? 私は何もしていないのに、超有能な側近たちの暴走(という名の忠誠心)が止まらない!やめて!私は聖女でも策略家でもない、ただの無能な怠け者なのよ!本人の意思とは裏腹に、勘違いで国を救ってしまう悪役令嬢の、全力で何もしない救国ファンタジー、ここに開幕!
離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる!
前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。
「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。
一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……?
これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!
お前との婚約は、ここで破棄する!
もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約破棄された王太子妃候補は第一王子に気に入られたようです。
永野水貴
恋愛
侯爵令嬢エヴェリーナは未来の王太子妃として育てられたが、突然に婚約破棄された。
王太子は真に愛する女性と結婚したいというのだった。
その女性はエヴェリーナとは正反対で、エヴェリーナは影で貶められるようになる。
そんなある日、王太子の兄といわれる第一王子ジルベルトが現れる。
ジルベルトは王太子を上回る素質を持つと噂される人物で、なぜかエヴェリーナに興味を示し…?
※「小説家になろう」にも載せています