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第十四話「公開検証会:泣き芸が通じない日」
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決戦の日が来た。
王宮前広場は、早朝から異様な熱気に包まれていた。
中央に設置された特設ステージ。その周囲を囲むのは、好奇心に満ちた民衆、メモ帳を構えた新聞記者たち、そして冷ややかな目で事態を見守る各国の来賓。
さらに最前列には、王立魔術研究所の学者や、最高峰の医師団がずらりと並んでいる。
「……まるで処刑台ね」
私は貴賓席からその光景を見下ろし、小さく呟いた。
隣には、今日も今日とて距離ゼロセンチメートルでレオンハルト殿下が座っている。
「緊張しているのかい、リュシア? 手が冷たい」
彼は私の手を包み込み、心配そうに覗き込んでくる。
緊張? まさか。
私は武者震いしているのだ。
今日こそ、セレナの化けの皮が剥がれる。彼女がインチキ聖女だと露見すれば、それを推薦し、検証会までお膳立てした私の責任も問われるはず。「見る目がなかった」として、婚約者失格の烙印を押されるチャンスだ。
「いいえ、殿下。私はただ、真実が明らかになる瞬間が待ち遠しいだけですわ」
「……君は本当に強いな。自らが矢面に立つリスクを負いながら、それでも正義を貫こうとするなんて」
レオンハルトは感極まったように私の手を握りしめた。
最近、彼の感動のハードルが低すぎて、呼吸をするだけで褒められそうな勢いだ。
◇
正午の鐘が鳴り響く。
ファンファーレと共に、主役が登場した。
「聖女様だ!」
「おお、なんて神々しい……!」
純白のドレスに身を包んだセレナが、ステージに現れた。
その表情は、いつもの可憐な笑顔ではない。どこか追い詰められたような、それでいて異様に高揚した、鬼気迫るものがある。
彼女の手には、あの紫がかった光を放つ杖が握られていた。
「皆さま! 本日は私の祈りが、神に届くことを証明いたします!」
セレナが高らかに宣言すると、信者たちからワッと歓声が上がった。
ステージの上には、医師団によって選定された三名の患者が車椅子で待機している。いずれも現代医学では治療困難とされる重病患者たちだ。
「さあ、神よ! 迷える子羊に救いの光を!」
セレナが杖を掲げた。
瞬間、ドス黒い紫色の閃光が走り、会場全体がビリビリと震えた。
(……うわ、気持ち悪っ)
私は反射的に眉をひそめた。
神聖な光ではない。これはもっと、粘着質で、生き物の生命力を無理やりねじ曲げるような、不快な魔力だ。
光が患者たちを包み込む。
すると、今までぐったりしていた患者たちが、痙攣したようにビクンと跳ね、次の瞬間には車椅子から立ち上がったのだ。
「おおっ! 立った! 歩いたぞ!」
「奇跡だ! 本物の奇跡だ!」
会場が爆発的な歓声に包まれる。
患者たちは「痛くない! 体が軽い!」と叫びながら、ステージを走り回っている。
一見すれば、完全な治癒に見えるだろう。
セレナが勝ち誇ったように私を見上げた。
その目は「どうよ!」と言わんばかりに血走っている。
しかし。
私は冷静に、手元の資料と魔導モニターを確認していた。
隣に控えていた監査官エルダが、青ざめた顔で報告してくる。
「リュシア様……数値が異常です」
「ええ、見えていますわ」
私はマイクを手に取り、立ち上がった。
会場の喧騒を一瞬で断ち切るように、私の声が響き渡る。
「そこまでです。……検証を中断します」
シン、と静まり返る広場。
セレナが激昂して叫んだ。
「な、何を言っているのですか!? 見ての通り、彼らは治ったではありませんか! 約束通り、私を認めてください!」
「認める? 何をですの?」
私は階段を降り、ステージへと歩み寄った。
レオンハルトが護衛として私の背後にぴたりとつく。
「医師団長、彼らのバイタルデータを読み上げてください」
指名された医師団長が、震える声で答えた。
「は、はい……。患者たちの心拍数は通常の三倍、血圧は測定不能なほど上昇しています。さらに、細胞の分裂速度が異常に加速しており……このままでは、数時間後に多臓器不全で死亡する恐れがあります!」
「なっ……!?」
歓声が悲鳴に変わる。
ステージ上で走り回っていた患者たちが、突然苦しそうに胸を押さえてうずくまり始めた。
「これは『治癒』ではありません。魔薬による一時的な『興奮状態』……いわば、命の前借りです」
私は冷徹に断言した。
「セレナさん。あなたは彼らの寿命を燃やして、元気になったように見せかけただけ。……これは医療行為ではなく、殺人未遂ですわよ?」
「ち、違います! これは好転反応で……神の試練で……!」
セレナが後ずさる。
私はさらに追撃の手を緩めない。
「魔術研究所の解析班、魔力波形の結果は?」
「はい! 聖属性反応ゼロ! 代わりに、禁忌指定されている『古代呪術』特有の波形が検出されました! この杖は、術者の生命力をも吸い上げる危険なアーティファクトです!」
証拠は出揃った。
科学と魔法、そして医学の三方向から、彼女の奇跡は完全に否定された。
「ひっ……ううっ……!」
逃げ場を失ったセレナは、その場に膝から崩れ落ちた。
そして、両手で顔を覆い、震えながら声を絞り出した。
「うう……ひどい……ひどいですぅ……!」
出た。
伝家の宝刀、「泣き落とし」。
彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、民衆に向かって訴えかけた。
「私はただ、皆を救いたかっただけなのに……! リュシア様が、怖い顔で私を責めるから……魔法が乱れてしまったんですぅ! 全部、リュシア様の圧力のせいです!」
お得意の被害者ムーブだ。
「悪役令嬢にいじめられて失敗した可憐なヒロイン」を演じることで、同情票を集めようという魂胆だろう。
以前なら、これでコロッと騙される貴族もいただろう。
だが、今日は違う。
私は懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。
「……そう来ると思っていましたわ」
私は書類を広げ、読み上げた。
「これは、検証会に先立ち、あなたが署名した『誓約同意書』です。第四条、『当日のあらゆる結果について、外部環境や他者の言動を言い訳にせず、全責任を負うものとする』。……ここに、あなたのサインがありますわね?」
「え……?」
「さらに、ここには『万が一、禁術を使用した場合は即座に身柄を拘束されることに同意する』という条項もあります。……泣いても無駄です。これは『契約』ですから」
私は冷ややかに書類を突きつけた。
感情論ではない。
「可哀想」かどうかなど関係ない。
契約書にサインをした以上、泣こうが喚こうが、責任は取ってもらう。それが大人の社会というものだ。
セレナは口をパクパクと開閉させ、言葉を失った。
民衆たちの目も、もはや同情ではなく、軽蔑と恐怖に変わっていた。
「嘘つきめ……俺たちの親父を殺す気だったのか!」
「契約書まで書いておいて、人のせいにするなんて」
「やっぱりリュシア様が正しかったんだ!」
完璧な論破。
物理的な証拠と、法的な契約書による二重のチェックメイト。
私は心の中でガッツポーズをした。
これでセレナは退場。私は「厳しすぎる」と批判されるかもしれないが、少なくとも「無能な婚約者」という汚名は……あれ?
ふと横を見ると、レオンハルト殿下が震えていた。
その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちている。
「……美しい」
え?
「情に流されず、涙に惑わされず、ただ厳格に『法』と『契約』を執行するその姿……。これぞ、私が求めていた王妃の姿だ!」
レオンハルトの声がマイクを通して広場中に響き渡る。
「悪を裁くのに、剣はいらない。暴力もいらない。ただ、真実という名の光があればいい。……リュシア、君は今日、この国に『法治』という新たな正義を示したのだ!」
うおおおおおっ!
民衆が大歓声を上げる。
「法治の女神!」
「鉄の女宰相!」
「リュシア様万歳!」
違う。
私はただ、事務的に処理しただけだ。
なんで英雄扱いになってるの!?
ドクン、ドクン。
レオンハルトの胸元が、太陽よりも眩しく輝き出した。
【星冠値:88 → 90】
90。
未知の領域。
もはや「溺愛」とかいうレベルではない。これは「崇拝」だ。
「……もう、逃がさない」
レオンハルトが私の腰を抱き寄せた。その力は、今までよりも強く、そして確信に満ちていた。
「君のその厳しさが、私を支えてくれる。君となら、どんな困難な治世も乗り越えられる。……愛している、我が魂の半身よ」
私は遠い目をした。
公開処刑を行ったのは私の方だったはずなのに、なぜか私自身が「王妃」という名の処刑台に固定されてしまった気がする。
その時だった。
ステージ上でへたり込んでいたセレナが、ゆらりと立ち上がった。
彼女の瞳から、理性の光が消えていた。
手にした杖が、どす黒く脈打っている。
「……認めない」
彼女の口から、低く、しゃがれた声が漏れた。
「認めないわよ……こんなの! 私が主役なのに! なんであんたばっかり!」
セレナが杖を私に向けた。
その切っ先から、どす黒い霧のようなものが噴き出す。
「魔女はあんたよ! リュシア! あんたが黒幕なのよ!」
彼女は狂ったように叫んだ。
「あんたが私の力を吸い取って、自分の名声に変えたんでしょ!? そうよ、あんたこそが国を滅ぼす『本物の魔女』なのよぉぉぉッ!」
暴論にも程がある。
しかし、その言葉と共に、彼女の杖が炸裂した。
衝撃波が広がり、医師団や護衛たちが吹き飛ばされる。
「リュシア!」
レオンハルトが瞬時に私を庇い、剣を抜いた。
しかし、セレナの狙いは私たちではなかった。
彼女は杖を天に突き上げ、何か呪文のようなものを唱え始めた。
「いでよ、深淵の契約者! 私の全てを捧げるから、あの女を殺して!」
空が割れた。
真昼の青空に、亀裂が走り、そこから巨大な「何か」が覗き込んだ。
「……え?」
私は呆然と見上げた。
これは乙女ゲームにはなかった展開だ。
ただの恋愛トラブルだったはずが、いきなりジャンルが「ダークファンタジー」に変わった。
「カイル殿下……これがあなたの狙い?」
広場の隅で、ニヤリと笑う第二王子の姿が見えた気がした。
セレナの暴走は、単なるヒステリーではない。誰かが意図的に仕組んだ、王都崩壊の序曲だったのだ。
「守るぞ、リュシア! 私の背中から離れるな!」
レオンハルトが叫ぶ。
私は彼にしがみつきながら、心の中で絶叫した。
(婚約破棄どころか、世界が破滅しそうなんですけどー!?)
私の「平穏な隠居生活」は、もはや夢のまた夢となっていた。
王宮前広場は、早朝から異様な熱気に包まれていた。
中央に設置された特設ステージ。その周囲を囲むのは、好奇心に満ちた民衆、メモ帳を構えた新聞記者たち、そして冷ややかな目で事態を見守る各国の来賓。
さらに最前列には、王立魔術研究所の学者や、最高峰の医師団がずらりと並んでいる。
「……まるで処刑台ね」
私は貴賓席からその光景を見下ろし、小さく呟いた。
隣には、今日も今日とて距離ゼロセンチメートルでレオンハルト殿下が座っている。
「緊張しているのかい、リュシア? 手が冷たい」
彼は私の手を包み込み、心配そうに覗き込んでくる。
緊張? まさか。
私は武者震いしているのだ。
今日こそ、セレナの化けの皮が剥がれる。彼女がインチキ聖女だと露見すれば、それを推薦し、検証会までお膳立てした私の責任も問われるはず。「見る目がなかった」として、婚約者失格の烙印を押されるチャンスだ。
「いいえ、殿下。私はただ、真実が明らかになる瞬間が待ち遠しいだけですわ」
「……君は本当に強いな。自らが矢面に立つリスクを負いながら、それでも正義を貫こうとするなんて」
レオンハルトは感極まったように私の手を握りしめた。
最近、彼の感動のハードルが低すぎて、呼吸をするだけで褒められそうな勢いだ。
◇
正午の鐘が鳴り響く。
ファンファーレと共に、主役が登場した。
「聖女様だ!」
「おお、なんて神々しい……!」
純白のドレスに身を包んだセレナが、ステージに現れた。
その表情は、いつもの可憐な笑顔ではない。どこか追い詰められたような、それでいて異様に高揚した、鬼気迫るものがある。
彼女の手には、あの紫がかった光を放つ杖が握られていた。
「皆さま! 本日は私の祈りが、神に届くことを証明いたします!」
セレナが高らかに宣言すると、信者たちからワッと歓声が上がった。
ステージの上には、医師団によって選定された三名の患者が車椅子で待機している。いずれも現代医学では治療困難とされる重病患者たちだ。
「さあ、神よ! 迷える子羊に救いの光を!」
セレナが杖を掲げた。
瞬間、ドス黒い紫色の閃光が走り、会場全体がビリビリと震えた。
(……うわ、気持ち悪っ)
私は反射的に眉をひそめた。
神聖な光ではない。これはもっと、粘着質で、生き物の生命力を無理やりねじ曲げるような、不快な魔力だ。
光が患者たちを包み込む。
すると、今までぐったりしていた患者たちが、痙攣したようにビクンと跳ね、次の瞬間には車椅子から立ち上がったのだ。
「おおっ! 立った! 歩いたぞ!」
「奇跡だ! 本物の奇跡だ!」
会場が爆発的な歓声に包まれる。
患者たちは「痛くない! 体が軽い!」と叫びながら、ステージを走り回っている。
一見すれば、完全な治癒に見えるだろう。
セレナが勝ち誇ったように私を見上げた。
その目は「どうよ!」と言わんばかりに血走っている。
しかし。
私は冷静に、手元の資料と魔導モニターを確認していた。
隣に控えていた監査官エルダが、青ざめた顔で報告してくる。
「リュシア様……数値が異常です」
「ええ、見えていますわ」
私はマイクを手に取り、立ち上がった。
会場の喧騒を一瞬で断ち切るように、私の声が響き渡る。
「そこまでです。……検証を中断します」
シン、と静まり返る広場。
セレナが激昂して叫んだ。
「な、何を言っているのですか!? 見ての通り、彼らは治ったではありませんか! 約束通り、私を認めてください!」
「認める? 何をですの?」
私は階段を降り、ステージへと歩み寄った。
レオンハルトが護衛として私の背後にぴたりとつく。
「医師団長、彼らのバイタルデータを読み上げてください」
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「は、はい……。患者たちの心拍数は通常の三倍、血圧は測定不能なほど上昇しています。さらに、細胞の分裂速度が異常に加速しており……このままでは、数時間後に多臓器不全で死亡する恐れがあります!」
「なっ……!?」
歓声が悲鳴に変わる。
ステージ上で走り回っていた患者たちが、突然苦しそうに胸を押さえてうずくまり始めた。
「これは『治癒』ではありません。魔薬による一時的な『興奮状態』……いわば、命の前借りです」
私は冷徹に断言した。
「セレナさん。あなたは彼らの寿命を燃やして、元気になったように見せかけただけ。……これは医療行為ではなく、殺人未遂ですわよ?」
「ち、違います! これは好転反応で……神の試練で……!」
セレナが後ずさる。
私はさらに追撃の手を緩めない。
「魔術研究所の解析班、魔力波形の結果は?」
「はい! 聖属性反応ゼロ! 代わりに、禁忌指定されている『古代呪術』特有の波形が検出されました! この杖は、術者の生命力をも吸い上げる危険なアーティファクトです!」
証拠は出揃った。
科学と魔法、そして医学の三方向から、彼女の奇跡は完全に否定された。
「ひっ……ううっ……!」
逃げ場を失ったセレナは、その場に膝から崩れ落ちた。
そして、両手で顔を覆い、震えながら声を絞り出した。
「うう……ひどい……ひどいですぅ……!」
出た。
伝家の宝刀、「泣き落とし」。
彼女は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、民衆に向かって訴えかけた。
「私はただ、皆を救いたかっただけなのに……! リュシア様が、怖い顔で私を責めるから……魔法が乱れてしまったんですぅ! 全部、リュシア様の圧力のせいです!」
お得意の被害者ムーブだ。
「悪役令嬢にいじめられて失敗した可憐なヒロイン」を演じることで、同情票を集めようという魂胆だろう。
以前なら、これでコロッと騙される貴族もいただろう。
だが、今日は違う。
私は懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。
「……そう来ると思っていましたわ」
私は書類を広げ、読み上げた。
「これは、検証会に先立ち、あなたが署名した『誓約同意書』です。第四条、『当日のあらゆる結果について、外部環境や他者の言動を言い訳にせず、全責任を負うものとする』。……ここに、あなたのサインがありますわね?」
「え……?」
「さらに、ここには『万が一、禁術を使用した場合は即座に身柄を拘束されることに同意する』という条項もあります。……泣いても無駄です。これは『契約』ですから」
私は冷ややかに書類を突きつけた。
感情論ではない。
「可哀想」かどうかなど関係ない。
契約書にサインをした以上、泣こうが喚こうが、責任は取ってもらう。それが大人の社会というものだ。
セレナは口をパクパクと開閉させ、言葉を失った。
民衆たちの目も、もはや同情ではなく、軽蔑と恐怖に変わっていた。
「嘘つきめ……俺たちの親父を殺す気だったのか!」
「契約書まで書いておいて、人のせいにするなんて」
「やっぱりリュシア様が正しかったんだ!」
完璧な論破。
物理的な証拠と、法的な契約書による二重のチェックメイト。
私は心の中でガッツポーズをした。
これでセレナは退場。私は「厳しすぎる」と批判されるかもしれないが、少なくとも「無能な婚約者」という汚名は……あれ?
ふと横を見ると、レオンハルト殿下が震えていた。
その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちている。
「……美しい」
え?
「情に流されず、涙に惑わされず、ただ厳格に『法』と『契約』を執行するその姿……。これぞ、私が求めていた王妃の姿だ!」
レオンハルトの声がマイクを通して広場中に響き渡る。
「悪を裁くのに、剣はいらない。暴力もいらない。ただ、真実という名の光があればいい。……リュシア、君は今日、この国に『法治』という新たな正義を示したのだ!」
うおおおおおっ!
民衆が大歓声を上げる。
「法治の女神!」
「鉄の女宰相!」
「リュシア様万歳!」
違う。
私はただ、事務的に処理しただけだ。
なんで英雄扱いになってるの!?
ドクン、ドクン。
レオンハルトの胸元が、太陽よりも眩しく輝き出した。
【星冠値:88 → 90】
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「……もう、逃がさない」
レオンハルトが私の腰を抱き寄せた。その力は、今までよりも強く、そして確信に満ちていた。
「君のその厳しさが、私を支えてくれる。君となら、どんな困難な治世も乗り越えられる。……愛している、我が魂の半身よ」
私は遠い目をした。
公開処刑を行ったのは私の方だったはずなのに、なぜか私自身が「王妃」という名の処刑台に固定されてしまった気がする。
その時だった。
ステージ上でへたり込んでいたセレナが、ゆらりと立ち上がった。
彼女の瞳から、理性の光が消えていた。
手にした杖が、どす黒く脈打っている。
「……認めない」
彼女の口から、低く、しゃがれた声が漏れた。
「認めないわよ……こんなの! 私が主役なのに! なんであんたばっかり!」
セレナが杖を私に向けた。
その切っ先から、どす黒い霧のようなものが噴き出す。
「魔女はあんたよ! リュシア! あんたが黒幕なのよ!」
彼女は狂ったように叫んだ。
「あんたが私の力を吸い取って、自分の名声に変えたんでしょ!? そうよ、あんたこそが国を滅ぼす『本物の魔女』なのよぉぉぉッ!」
暴論にも程がある。
しかし、その言葉と共に、彼女の杖が炸裂した。
衝撃波が広がり、医師団や護衛たちが吹き飛ばされる。
「リュシア!」
レオンハルトが瞬時に私を庇い、剣を抜いた。
しかし、セレナの狙いは私たちではなかった。
彼女は杖を天に突き上げ、何か呪文のようなものを唱え始めた。
「いでよ、深淵の契約者! 私の全てを捧げるから、あの女を殺して!」
空が割れた。
真昼の青空に、亀裂が走り、そこから巨大な「何か」が覗き込んだ。
「……え?」
私は呆然と見上げた。
これは乙女ゲームにはなかった展開だ。
ただの恋愛トラブルだったはずが、いきなりジャンルが「ダークファンタジー」に変わった。
「カイル殿下……これがあなたの狙い?」
広場の隅で、ニヤリと笑う第二王子の姿が見えた気がした。
セレナの暴走は、単なるヒステリーではない。誰かが意図的に仕組んだ、王都崩壊の序曲だったのだ。
「守るぞ、リュシア! 私の背中から離れるな!」
レオンハルトが叫ぶ。
私は彼にしがみつきながら、心の中で絶叫した。
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