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第23話:舞い散る氷片と、背中のぬくもり
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「――凍てつけ」
アレクシス公爵の、静かな詠唱が、森の淀んだ空気に響き渡った。
その一言が、引き金だった。
彼が構えた剣の切っ先から、絶対零度の冷気が、まるで吹雪のように、前方へと解き放たれる。
バリバリバリバリッ!!
凄まじい音と共に、襲いかかってきた泥の魔物たちが、次々と、その場に凍りついていく。
ぬるぬると動いていたその体は、一瞬にして、禍々しい形をした、黒い氷の彫像へと姿を変えた。
しかし、攻撃は、それで終わりではなかった。
「――砕けろ」
パリンッ!!
彼が、そう呟いた瞬間。
氷像と化した魔物たちは、一斉に、木っ端微塵に砕け散った。
黒い氷の破片が、キラキラと光を反射しながら、雪のように舞い散る。
その光景は、あまりにも美しく、そして、あまりにも、圧倒的だった。
「……すごい……」
私の口から、思わず、感嘆のため息が漏れた。
護衛の騎士たちも、ハンスも、皆、言葉を失って、その場に立ち尽くしている。
これが、『氷の公爵』の、本当の力。
一人で、一個師団にも匹敵すると言われる、その魔法の力。
噂には聞いていた。
でも、実際に目の当たりにすると、その威力は、想像を、遥かに超えていた。
残っていた数体の魔物が、恐れをなして、湖へと逃げ帰ろうとする。
しかし、アレクシス公爵は、それを見逃さなかった。
「逃がさん」
彼の剣が、再び、青い光を放つ。
次の瞬間、湖の水面が、岸辺から、みるみるうちに凍りついていった。
逃げ遅れた魔物たちは、湖ごと、巨大な氷塊の中に閉じ込められてしまう。
ほんの、数分の出来事。
あれほどいた魔物の群れは、跡形もなく、殲滅されていた。
森に、再び、静寂が戻る。
しかし、先ほどまでの不気味な静けさとは違う。
それは、絶対的な強者の支配する、清浄な静けさだった。
「……ふぅ」
アレクシス公爵は、剣についた氷を払うと、静かに鞘に納めた。
そして、すぐに、私の方を振り返った。
その顔から、先ほどまでの『戦士』の鋭さは消え、いつもの、不器用な男の顔に戻っている。
「イザベラ。怪我は、ないか?」
彼は、私の肩を掴み、心配そうに、私の顔を覗き込んできた。
「え、ええ……大丈夫ですわ。あなた様が、守ってくださいましたから」
私は、まだ興奮の冷めやらぬまま、そう答えるのが精一杯だった。
さっきまでの、神々しいまでの強さはどこへやら。
今は、私の心配ばかりしている。
そのギャップに、私の心臓が、またしても、きゅん、と鳴った。
「そうか。良かった」
彼は、心底、安堵したように、息をついた。
その手が、私の肩を、ぽん、と優しく叩く。
その、大きな手の、ぬくもり。
そして、私を庇ってくれた、広い背中の、ぬくもり。
それが、私の心に、じんわりと、広がっていく。
怖い、なんて気持ちは、もうどこにもなかった。
この人がいれば、大丈夫。
心の底から、そう思えた。
「公爵閣下! お見事でした!」
「さすがは、シュヴァルツシルト公爵様……!」
護衛の騎士たちが、尊敬と畏怖の入り混じった目で、彼に駆け寄ってくる。
しかし、彼は、そんな賞賛の声には、興味がなさそうに、ただ、じっと、黒く凍りついた湖を見つめていた。
「問題は、こいつらを生み出した、元凶だ」
彼の瞳が、再び、鋭い光を宿す。
「この湖の底に、何かある」
彼の言葉に、私たちは、ゴクリと息を呑み、凍てついた湖の、暗い水底へと、視線を向けたのだった。
アレクシス公爵の、静かな詠唱が、森の淀んだ空気に響き渡った。
その一言が、引き金だった。
彼が構えた剣の切っ先から、絶対零度の冷気が、まるで吹雪のように、前方へと解き放たれる。
バリバリバリバリッ!!
凄まじい音と共に、襲いかかってきた泥の魔物たちが、次々と、その場に凍りついていく。
ぬるぬると動いていたその体は、一瞬にして、禍々しい形をした、黒い氷の彫像へと姿を変えた。
しかし、攻撃は、それで終わりではなかった。
「――砕けろ」
パリンッ!!
彼が、そう呟いた瞬間。
氷像と化した魔物たちは、一斉に、木っ端微塵に砕け散った。
黒い氷の破片が、キラキラと光を反射しながら、雪のように舞い散る。
その光景は、あまりにも美しく、そして、あまりにも、圧倒的だった。
「……すごい……」
私の口から、思わず、感嘆のため息が漏れた。
護衛の騎士たちも、ハンスも、皆、言葉を失って、その場に立ち尽くしている。
これが、『氷の公爵』の、本当の力。
一人で、一個師団にも匹敵すると言われる、その魔法の力。
噂には聞いていた。
でも、実際に目の当たりにすると、その威力は、想像を、遥かに超えていた。
残っていた数体の魔物が、恐れをなして、湖へと逃げ帰ろうとする。
しかし、アレクシス公爵は、それを見逃さなかった。
「逃がさん」
彼の剣が、再び、青い光を放つ。
次の瞬間、湖の水面が、岸辺から、みるみるうちに凍りついていった。
逃げ遅れた魔物たちは、湖ごと、巨大な氷塊の中に閉じ込められてしまう。
ほんの、数分の出来事。
あれほどいた魔物の群れは、跡形もなく、殲滅されていた。
森に、再び、静寂が戻る。
しかし、先ほどまでの不気味な静けさとは違う。
それは、絶対的な強者の支配する、清浄な静けさだった。
「……ふぅ」
アレクシス公爵は、剣についた氷を払うと、静かに鞘に納めた。
そして、すぐに、私の方を振り返った。
その顔から、先ほどまでの『戦士』の鋭さは消え、いつもの、不器用な男の顔に戻っている。
「イザベラ。怪我は、ないか?」
彼は、私の肩を掴み、心配そうに、私の顔を覗き込んできた。
「え、ええ……大丈夫ですわ。あなた様が、守ってくださいましたから」
私は、まだ興奮の冷めやらぬまま、そう答えるのが精一杯だった。
さっきまでの、神々しいまでの強さはどこへやら。
今は、私の心配ばかりしている。
そのギャップに、私の心臓が、またしても、きゅん、と鳴った。
「そうか。良かった」
彼は、心底、安堵したように、息をついた。
その手が、私の肩を、ぽん、と優しく叩く。
その、大きな手の、ぬくもり。
そして、私を庇ってくれた、広い背中の、ぬくもり。
それが、私の心に、じんわりと、広がっていく。
怖い、なんて気持ちは、もうどこにもなかった。
この人がいれば、大丈夫。
心の底から、そう思えた。
「公爵閣下! お見事でした!」
「さすがは、シュヴァルツシルト公爵様……!」
護衛の騎士たちが、尊敬と畏怖の入り混じった目で、彼に駆け寄ってくる。
しかし、彼は、そんな賞賛の声には、興味がなさそうに、ただ、じっと、黒く凍りついた湖を見つめていた。
「問題は、こいつらを生み出した、元凶だ」
彼の瞳が、再び、鋭い光を宿す。
「この湖の底に、何かある」
彼の言葉に、私たちは、ゴクリと息を呑み、凍てついた湖の、暗い水底へと、視線を向けたのだった。
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