『婚約破棄された瞬間、前世の記憶が戻ってここが「推し」のいる世界だと気づきました。恋愛はもう結構ですので、推しに全力で貢ぎます。

放浪人

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第17話:王都帰還と凱旋

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「キャァァァァッ! レオンハルト様ァァァッ!」 「エリザベート様、素敵ですわ! お似合いですーッ!」

王都のメインストリートは、熱狂の渦に包まれていた。 空からは花びらが雪のように舞い散り、建物の窓という窓から人々が身を乗り出して手を振っている。 その光景は、建国記念のパレードすら霞むほどの、かつてない規模の熱気に満ちていた。

私は今、レオンハルト様の操る白馬の後ろに乗せられ、彼の逞しい背中にしがみつきながら、その光景を眺めていた。 特等席もいいところだ。 密着度は高いし、彼の体温は伝わってくるし、何より「私たちは公認の仲です」と全身でアピールしているようなものだ。

(……最高。この景色を見るために、私は今まで稼いできたのね)

私は彼の背中に頬を寄せ、感慨に浸っていた。 前世の記憶にあるゲーム画面では、彼はいつも日陰にいた。 誰にも認められず、孤独に戦い、ひっそりと死んでいく。 そんな彼が今、光の当たる場所で、万雷の拍手を浴びている。

「……エリザベート。少し、掴む力が強くないか? 腹が苦しいのだが」

前の方から、困り果てたような、でもどこか嬉しそうな声が聞こえる。

「気のせいです、レオン様。これは民衆の熱気に対する私の緊張の表れ……ということにしておいてください。あと、落馬したら国の経済が止まりますので、安全対策(セーフティ)です」

「……お前の安全対策は、俺の肋骨を砕く勢いだな」

彼は小さく笑うと、片手で手綱を操りながら、もう片方の手で私の手をそっと覆った。 その瞬間、沿道の黄色い悲鳴がさらに1オクターブ上がった。

「見て! 今、手を重ねたわ!」 「尊い……! なんて絵になるお二人なの!」 「もう結婚しちゃえよ!」

民衆の煽りが素晴らしい。 サクラを仕込んだ覚えはないが、どうやら王都の民は皆、優秀なカプ厨(カップリング好き)だったようだ。

隊列はゆっくりと、しかし確実に王城へと近づいていく。 私たちの後ろには、荷馬車に積まれたブラック・ドラゴンの巨大な首。 その禍々しくも圧倒的な存在感は、誰の目にも明らかだった。 これが「真実」だ。 第一王子がダンスを踊っている間に、第三王子が何を討ち取ってきたか。 言葉などいらない。この圧倒的な「戦果」こそが、王都の空気を支配していた。

「……見えてきたな」

レオンハルト様の声が引き締まる。 通りの先、丘の上にそびえ立つ白亜の巨城。 この国の政治の中枢であり、長らく彼を拒絶し続けてきた場所。

「行きましょう。正面玄関から堂々と」

「ああ。……今度こそ、胸を張って」

私たちは視線を交わし、王城の正門へと馬を進めた。

                    ◇

王城の前庭。 そこには、物々しい雰囲気が漂っていた。

「と、止まれ! これより先は王宮である! 許可なき者の立ち入りは禁ず!」

立ち塞がったのは、ジュリアン殿下の私兵たちだった。 煌びやかなだけで実戦経験のない彼らは、レオンハルト様の背後に控える歴戦の騎士たちと、血の匂いを漂わせた傭兵団を見て、明らかに腰が引けている。

「許可ならある」

レオンハルト様は馬から降りることなく、冷然と言い放った。

「第一に、俺はこの国の第三王子レオンハルト・ヴァン・アークライドである。自分の家に帰るのに、門番の許可が必要か?」

「ぐっ……そ、それは……」

「第二に、俺は今回のスタンピード鎮圧の報告に来た。国家の存亡に関わる重大事案だ。これを妨げる者は、国家反逆罪に問われる覚悟があるのか?」

彼は聖剣の柄に手をかけた。 抜いてはいない。 だが、そこから漏れ出る「覇気」だけで、私兵たちはビリビリと震え上がった。 本物の修羅場をくぐり抜けてきた者の殺気。 温室育ちの兵士たちが耐えられるものではない。

「ひッ……!?」 「ど、道を……道を空けろぉ!」

私兵たちが蜘蛛の子を散らすように左右に逃げる。 門が開かれた。

「……口ほどにもないわね。私の店のクレーマーの方がまだ根性があるわ」

私が呟くと、レオンハルト様は苦笑した。

「お前の店の客層はどうなっているんだ。……行くぞ」

私たちは城内へと足を踏み入れた。 廊下ですれ違う貴族や文官たちが、ギョッとした顔で道を開ける。 泥と返り血(今は洗い流しているが、匂いは残っている)を纏った武装集団が、王宮の赤絨毯を踏みしめて歩く姿は、異様であり、痛快でもあった。

目指すは「謁見の間」。 今頃、そこでは定例の御前会議が開かれているはずだ。 ジュリアン殿下が、自分の虚偽の功績を報告しようとしている、まさにその場所へ。

                    ◇

謁見の間。 重厚な扉の向こうから、ジュリアン殿下の甲高い声が聞こえてくる。

「――というわけで! 余の迅速かつ的確な遠隔指示により、魔物の群れは霧散したのである! 北の森が消し飛んだのも、余が秘密裏に開発させていた新兵器の威力によるものだ!」

中では、貴族たちの拍手がパラパラと響いている。 おそらく、半数は呆れ、半数は媚びへつらっているのだろう。

「いやあ、さすがはジュリアン殿下!」 「国を守れるのは殿下しかおりませんな!」 「それに比べて第三王子は……敵前逃亡したという噂ですが?」

「ハハハ! あやつは臆病風に吹かれてどこかへ消えたのだろう。王家の面汚しよ。廃嫡を正式に決定すべきだな」

会話の内容に、私のこめかみに青筋が浮かぶ。 隣を見ると、レオンハルト様も静かに、しかし激しい怒りを瞳に宿していた。 自分のことではない。 共に戦い、傷つき、死んでいった兵士たちの名誉を汚されたことへの怒りだ。

「……行くぞ」

「はい。派手に行きましょう」

レオンハルト様が、扉の前に立つ衛兵に目配せをした。 衛兵たちは、本来なら止めるべき立場だ。 しかし、彼らもまた、窓の外のパレードを見ていたのだろう。 あるいは、レオンハルト様の纏う王者の空気に飲まれたのか。 無言で敬礼し、扉に手をかけた。

ギィィィィィィィィィ……ッ!

重々しい音と共に、巨大な扉が開かれる。

「な、なんだ!? 会議中だぞ!」

ジュリアン殿下が玉座の階段の上から叫ぶ。 その場にいた大臣、将軍、高位貴族たちが一斉に振り返る。

そして、彼らは見た。

逆光の中に立つ、二つの影を。 漆黒のコートを翻し、腰に聖剣を佩いた黒髪の英雄。 そしてその隣に並び立つ、夜空のドレスを纏った銀髪の美姫。 背後には、彼らに付き従う屈強な騎士たち。

「レ、レオンハルト……!?」

ジュリアン殿下が、幽霊でも見たかのように目を見開いた。 ワイングラスを取り落とし、赤い液体が絨毯に染みを作る。

「ごきげんよう、兄上」

レオンハルト様は、静かに、しかし大広間の隅々まで届く声で言った。

「ただいま戻りました。……敵前逃亡した臆病者が、お土産を持って」

カツン、カツン。 靴音が響く。 私たちは真っ直ぐに、玉座へと向かって歩き出した。 誰も止めない。 いや、その圧倒的な存在感に、誰も動けなかったのだ。

「き、貴様……! 生きていたのか!?」

「残念でしたか? ですが、死ぬわけにはいきませんでした。……この国には、まだ守るべき民と、正すべき歪みが残っていましたので」

レオンハルト様は玉座の階段の下で足を止めた。 そして、鋭い視線をジュリアン殿下……ではなく、そのさらに奥。 玉座に深々と腰掛け、目を閉じて沈黙を守っている初老の男性へと向けた。

国王、フリードリヒ陛下。 長らく病床に伏せっているとされ、政務をジュリアンに任せていた現国王だ。 今日の会議に出席していること自体が珍しい。

「父上。……レオンハルト、ただいま帰還いたしました」

レオンハルト様が片膝をつき、臣下の礼をとる。 私もそれに倣い、優雅にカーテシーをした。

国王陛下が、ゆっくりと目を開けた。 その瞳は、病人のそれではない。 鋭く、すべてを見透かすような古鷹の目だった。

「……面を上げよ、レオンハルト」

しゃがれた、威厳のある声。

「そして、報告せよ。……外の騒ぎは、余の耳にも届いておる」

「ち、父上! 騙されてはいけません!」

ジュリアン殿下が慌てて割り込んだ。

「こやつは、民衆を扇動し、余の功績を横取りしようとしているのです! 魔物を倒したのは余です! こやつはただ、パレードをして目立とうとしているだけの卑怯者です!」

「黙りなさい、ジュリアン」

国王の一喝。 ジュリアン殿下がヒッと息を呑んで縮み上がる。

「余は、レオンハルトに聞いておる。……申せ。そなたは北で何を見て、何を為してきた?」

レオンハルト様は立ち上がった。 そして、懐から一つの「石」を取り出した。 魔神が消滅した後に残った、漆黒の核石だ。

「私は、北の森で『魔神』と交戦しました。……兄上が放置したスタンピードの果てに生まれた、災厄の化身です」

会場がどよめく。 魔神。御伽噺の存在。

「騎士団からの救援はありませんでした。物資もありませんでした。あったのは、エリザベート嬢が私財を投じて集めた傭兵と、彼女の商会が運んでくれた武器だけです」

彼は淡々と事実を語った。

「私は戦いました。何度も死にかけました。ですが……勝ちました」

彼は黒い石を、ジュリアンの足元に転がした。 ゴロリ、と不気味な音を立てて転がる石。

「これが証拠です。そして外には、私が斬り落としたドラゴンの首があります。……兄上、貴方の『新兵器』とやらで倒したのなら、その残骸はどこにありますか?」

「そ、それは……消滅したのだ! 威力が凄すぎて!」

「ほう。ドラゴンは消滅したのに、森の木々は残っているのですか? おかしな話ですね」

レオンハルト様の論理的な追求に、ジュリアン殿下は脂汗を流して視線を泳がせる。

「う、うるさい! とにかく余がやったのだ! 貴様は嘘つきだ! 衛兵! この不敬者を捕らえろ!」

ジュリアンが叫ぶが、衛兵たちは動かない。 彼らもまた、誰が真の王たる器か、肌で感じ取っているのだ。

「……見苦しいぞ、ジュリアン」

国王陛下が、深く溜息をついた。 そして、ゆっくりと玉座から立ち上がった。 病弱だと言われていたその足取りは、驚くほどしっかりしていた。

「余は病床にありながらも、全て見ていた。……王都の空が赤く染まった夜、誰が剣を取り、誰が酒を飲んでいたかをな」

「ち、父上……?」

「レオンハルトよ。よくぞ戻った。そしてエリザベート嬢。……ハルティア公爵家の財力と行動力、見事であった」

国王陛下の言葉に、私は深く頭を下げた。

「恐縮でございます、陛下。すべては……『推し』のためでございます」

「……推し?」

国王陛下が怪訝な顔をする。 しまった。つい本音が。

「い、いえ! 国のため、愛国心ゆえの行動でございます!」

「ふむ。まあよい。……さて」

国王陛下は、会場にいる全貴族を見渡した。

「これより、『真実』を明らかにする。ジュリアン、そしてレオンハルト。双方の言い分、および提出された証拠を精査し、次期国王にふさわしい者が誰かを……今ここで裁定する!」

御前会議は、一瞬にして『弾劾裁判』の場へと変わった。 これはチャンスだ。 レオンハルト様が持ち帰った武功だけではない。 私が集めた「裏帳簿」や「横領の証拠」が火を吹く時が来たのだ。

私は懐に入れた分厚い書類の束を確認し、ニヤリと笑った。

「殿下、準備はいいですか?」

小声で尋ねると、レオンハルト様は力強く頷いた。

「ああ。……もう遠慮はしない。この国を蝕む病巣を、俺の手で切除する」

彼は聖剣の柄を握りしめた。 その横顔は、かつての「日陰の王子」ではない。 光の中に立つ、次代の王の顔だった。

「では、始めましょうか。……『ざまぁ』の時間を」

私は扇子をバチリと閉じた。 その音は、第一王子ジュリアンの終わりの始まりを告げる号砲のように、静まり返った広間に響き渡った。
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