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第五章:正義の進軍
第47話 王都震撼
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ローゼンベルク軍が王都へ迫りつつある。その第一報が王宮にもたらされた時、多くの貴族たちはそれを鼻で笑った。
「辺境の田舎娘が何を血迷ったか」 「すぐに竜騎士団が蹴散らしてくれるわ」
彼らは王家の絶対的な軍事力を信じて疑わなかった。宰相リヒターもまた余裕の表情を崩さなかった。全ては彼の筋書き通り。ヴィクトリアは今頃、南の森で竜騎士団の罠にかかり、無惨な死を遂げているはずだった。
しかしその楽観的な空気が一変するのに、時間はかからなかった。竜騎士団、壊滅。団長ヴォルフラム、討ち死に。その信じがたい第二報がもたらされた時、王宮は阿鼻叫喚の地獄へと叩き落された。
「……う、嘘だ。何かの間違いだ!」
玉座の間でアルフォンス第一王子は、報告に来た伝令兵の胸ぐらを掴み叫んだ。その顔は血の気を失い、恐怖に引きつっている。
「竜騎士団が負けるはずがない!あの王国最強の騎士団が、たかが女一人に!」
「そ、それが……。敵は見たこともない兵器を使い……。炎と鉄の矢で、一瞬のうちに……」
「黙れ、黙れ、黙れぇっ!」
アルフォンスは伝令兵を突き飛ばすと、その場にへたり込んだ。もはや王子の威厳など欠片もなかった。ただ恐怖に怯える子供のようだった。
その醜態を、宰相リヒターは冷たい怒りに満ちた目で見下ろしていた。彼の顔からも完全に余裕の色は消え失せていた。その額には脂汗が浮かんでいる。
(……なぜだ。なぜ私の完璧な計画が……)
竜騎士団が南の森にいることを、なぜヴィクトリアが知っていたのか。いや、それ以前に、なぜ彼女が北のルートから現れるなどという奇策を思いついたのか。こちらの情報がどこかで漏れていたとしか考えられない。
(……裏切り者。我が陣営の中に、裏切り者がいるのか……?)
宰相の心に疑心暗鬼の毒が広がっていく。彼は周りにいる側近たちを一人一人、猜疑の目で睨みつけた。誰もが敵に見える。
「……宰相閣下!いかがいたしますか!?このままでは奴ら、王都まで攻め込んできますぞ!」
貴族の一人が半狂乱で叫ぶ。その声にはっと我に返った宰相は、残された理性をかき集め命令を下した。
「……慌てるな!まだ負けたわけではない!この王都には鉄壁の城壁と、一万の近衛兵がいるのだ!」
彼は自らを鼓舞するように叫んだ。
「直ちに全ての城門を固く閉ざせ!市民の出入りは一切禁ずる!そして近衛兵を城壁の上に配置し、籠城の準備を整えよ!ローゼンベルクの田舎者どもに、この偉大なる王都の守りがどれほど硬いものか、思い知らせてやるのだ!」
宰相の号令一下、王都は一瞬にしてその表情を変えた。華やかで活気に満ちていた平和な都は、門を閉ざされた巨大な牢獄へと変貌した。街には武装した兵士たちが溢れ、市民たちは恐怖に怯えながら家に閉じこもる。王都は震撼していた。その繁栄がいかに脆い砂上の楼閣であったかを、人々は今、思い知らされていた。
その混乱の只中で、一人冷静に状況を見つめている男がいた。第二王子、エリオット。彼は自室の窓から慌ただしく動き回る兵士たちの姿を見下ろし、深くため息をついた。
(……兄上も宰相も、もう終わりだ)
彼は確信していた。ヴィクトリアの勝利を。そしてこの腐敗した時代の終わりを。
彼の元にはすでに中立派の重鎮セドリック伯爵から密使が訪れていた。『天秤は傾いた。王子、貴殿が立つべき場所は玉座の隣ではありますまい』。その言葉の意味を、エリオットは痛いほど理解していた。
エリオットは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。そこには彼に賛同する、少数の、しかし志を同じくする若手の貴族や騎士たちの名が記されている。彼らは水面下で来るべきその日のために準備を整えてきた。王都が内側から開かれる、その瞬間を。
「……ヴィクトリア。君が来るのを待っている」
彼は東の空に向かって静かに呟いた。その声には国の未来を憂う王族としての覚悟と、そして一人の男としての彼女への密かな想いが込められていた。
王都、震撼。それは旧時代の断末魔の叫び。そして新しい時代の産声を告げるファンファーレでもあった。運命の時は、刻一刻と迫っていた。
「辺境の田舎娘が何を血迷ったか」 「すぐに竜騎士団が蹴散らしてくれるわ」
彼らは王家の絶対的な軍事力を信じて疑わなかった。宰相リヒターもまた余裕の表情を崩さなかった。全ては彼の筋書き通り。ヴィクトリアは今頃、南の森で竜騎士団の罠にかかり、無惨な死を遂げているはずだった。
しかしその楽観的な空気が一変するのに、時間はかからなかった。竜騎士団、壊滅。団長ヴォルフラム、討ち死に。その信じがたい第二報がもたらされた時、王宮は阿鼻叫喚の地獄へと叩き落された。
「……う、嘘だ。何かの間違いだ!」
玉座の間でアルフォンス第一王子は、報告に来た伝令兵の胸ぐらを掴み叫んだ。その顔は血の気を失い、恐怖に引きつっている。
「竜騎士団が負けるはずがない!あの王国最強の騎士団が、たかが女一人に!」
「そ、それが……。敵は見たこともない兵器を使い……。炎と鉄の矢で、一瞬のうちに……」
「黙れ、黙れ、黙れぇっ!」
アルフォンスは伝令兵を突き飛ばすと、その場にへたり込んだ。もはや王子の威厳など欠片もなかった。ただ恐怖に怯える子供のようだった。
その醜態を、宰相リヒターは冷たい怒りに満ちた目で見下ろしていた。彼の顔からも完全に余裕の色は消え失せていた。その額には脂汗が浮かんでいる。
(……なぜだ。なぜ私の完璧な計画が……)
竜騎士団が南の森にいることを、なぜヴィクトリアが知っていたのか。いや、それ以前に、なぜ彼女が北のルートから現れるなどという奇策を思いついたのか。こちらの情報がどこかで漏れていたとしか考えられない。
(……裏切り者。我が陣営の中に、裏切り者がいるのか……?)
宰相の心に疑心暗鬼の毒が広がっていく。彼は周りにいる側近たちを一人一人、猜疑の目で睨みつけた。誰もが敵に見える。
「……宰相閣下!いかがいたしますか!?このままでは奴ら、王都まで攻め込んできますぞ!」
貴族の一人が半狂乱で叫ぶ。その声にはっと我に返った宰相は、残された理性をかき集め命令を下した。
「……慌てるな!まだ負けたわけではない!この王都には鉄壁の城壁と、一万の近衛兵がいるのだ!」
彼は自らを鼓舞するように叫んだ。
「直ちに全ての城門を固く閉ざせ!市民の出入りは一切禁ずる!そして近衛兵を城壁の上に配置し、籠城の準備を整えよ!ローゼンベルクの田舎者どもに、この偉大なる王都の守りがどれほど硬いものか、思い知らせてやるのだ!」
宰相の号令一下、王都は一瞬にしてその表情を変えた。華やかで活気に満ちていた平和な都は、門を閉ざされた巨大な牢獄へと変貌した。街には武装した兵士たちが溢れ、市民たちは恐怖に怯えながら家に閉じこもる。王都は震撼していた。その繁栄がいかに脆い砂上の楼閣であったかを、人々は今、思い知らされていた。
その混乱の只中で、一人冷静に状況を見つめている男がいた。第二王子、エリオット。彼は自室の窓から慌ただしく動き回る兵士たちの姿を見下ろし、深くため息をついた。
(……兄上も宰相も、もう終わりだ)
彼は確信していた。ヴィクトリアの勝利を。そしてこの腐敗した時代の終わりを。
彼の元にはすでに中立派の重鎮セドリック伯爵から密使が訪れていた。『天秤は傾いた。王子、貴殿が立つべき場所は玉座の隣ではありますまい』。その言葉の意味を、エリオットは痛いほど理解していた。
エリオットは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。そこには彼に賛同する、少数の、しかし志を同じくする若手の貴族や騎士たちの名が記されている。彼らは水面下で来るべきその日のために準備を整えてきた。王都が内側から開かれる、その瞬間を。
「……ヴィクトリア。君が来るのを待っている」
彼は東の空に向かって静かに呟いた。その声には国の未来を憂う王族としての覚悟と、そして一人の男としての彼女への密かな想いが込められていた。
王都、震撼。それは旧時代の断末魔の叫び。そして新しい時代の産声を告げるファンファーレでもあった。運命の時は、刻一刻と迫っていた。
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