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第五章:正義の進軍
第48話 諸侯たちの選択
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バウマイスター伯爵が下した決断は早かった。日没を待たずして彼は城の門を開き、ローゼンベルク軍に全面降伏した。いや、降伏ではない。彼は自らの軍を率いて、我々の正義の軍に加わることを選択したのだ。
「……ヴィクトリア殿。愚かな私をお許しいただきたい。これよりこのバウマイスター、貴女様に忠誠を誓いまする」
私の前に跪く彼の顔に、もはや迷いはなかった。恐怖からではない。彼は自らの意志で、新しい時代を選んだのだ。
「顔をお上げなさい、伯爵。貴殿の勇気ある決断、歓迎いたしますわ」
バウマイスター伯爵のこの選択は、決定的な引き金となった。彼の動きを知った街道沿いの他の諸侯たちも、まるで堰を切ったように次々と我々に恭順の意を示し始めたのだ。
ある者は恐怖から。ある者は宰相への不満から。そしてある者は、我々が掲げる新しい時代への希望から。理由は様々だった。しかし彼らの選択は皆、同じだった。
使者が次々と我々の陣営を訪れる。彼らはそれぞれの主君からの親書と、忠誠の証として多額の軍資金や食料を携えていた。
「東のシュナイダー子爵が降伏!」 「南のヴェルナー男爵も我らへの合流を決意したとのこと!」
勝利の報が雪崩のように舞い込んでくる。我がローゼンベルク軍は王都へ近づくにつれて、その数をさらに膨れ上がらせていった。七千だった兵力は瞬く間に八千、九千と増えていく。もはや王都の近衛兵の数と遜色ない大軍勢となっていた。
そして増えたのは兵の数だけではない。我々の進軍を歓迎し協力してくれる民衆の支持。それこそが何よりも心強い力だった。
私は降伏してきた諸侯たちを寛大に扱った。彼らの領地を奪うことも、財産を没収することもしなかった。それどころか彼らのこれまでの地位を保証し、新しい国の礎を共に築こうと呼びかけた。
私のそのやり方は、彼らを心服させるには十分だった。彼らは恐怖で支配する宰相とは全く違う、私の新しいリーダーシップの形に感銘を受けていた。
「……すごいな、ヴィクトリア。お前はもはやただの将軍ではない。一国の女王の器だ」
父が私の隣でしみじみと呟いた。その言葉に私は少し照れくさそうに笑った。
「気が早いですわ、父上。まだ何も始まってはおりません」
しかし私の胸の内には確かな手応えがあった。この戦は勝てる。いや、すでに勝っているのかもしれない、と。
戦の勝敗は戦場だけで決まるものではない。人心を掌握した者。大義を掲げた者。未来を示した者。その者が最終的な勝者となるのだ。
そして今、その全ては私の手の中にあった。
もちろん全ての諸侯が我々になびいた訳ではない。中には最後まで王家への忠誠を貫き、城に立て籠もることを選んだ頑固な貴族もいた。
「……どうする?力でねじ伏せるか?」
コンラートの問いに、私は首を振った。
「いいえ。その必要はないわ。彼らは孤立している。王都からの援軍も見込めない。放っておけばいずれ自滅するでしょう」
私は無駄な戦いは避けた。我々の目的は彼らを滅ぼすことではない。王都の首を取ることなのだから。
我々の進軍は続いた。諸侯たちの選択はもはや大勢が決した。彼らは沈みゆく泥船である王家から、我々という新しい方舟へと次々と乗り換えてきたのだ。宰相がこの惨状を知った時、一体どんな顔をするだろうか。
私は東の空を見据えた。王都はもう目と鼻の先だ。盤上の駒は全て私の色に染まりつつある。
残るは敵の王将(キング)、ただ一つ。その首を獲るための最後の一手を打つ時が来た。
私は一人の伝令を呼び寄せた。彼に託すのは王都への最後通牒。戦乱を終わらせるための最後の警告だ。この警告を彼らが受け入れるか否か。それによって王都の運命は決まることになる。血の雨が降るか、それとも新しい光が差すのか。全ての選択は、彼らの手に委ねられたのだ。
「……ヴィクトリア殿。愚かな私をお許しいただきたい。これよりこのバウマイスター、貴女様に忠誠を誓いまする」
私の前に跪く彼の顔に、もはや迷いはなかった。恐怖からではない。彼は自らの意志で、新しい時代を選んだのだ。
「顔をお上げなさい、伯爵。貴殿の勇気ある決断、歓迎いたしますわ」
バウマイスター伯爵のこの選択は、決定的な引き金となった。彼の動きを知った街道沿いの他の諸侯たちも、まるで堰を切ったように次々と我々に恭順の意を示し始めたのだ。
ある者は恐怖から。ある者は宰相への不満から。そしてある者は、我々が掲げる新しい時代への希望から。理由は様々だった。しかし彼らの選択は皆、同じだった。
使者が次々と我々の陣営を訪れる。彼らはそれぞれの主君からの親書と、忠誠の証として多額の軍資金や食料を携えていた。
「東のシュナイダー子爵が降伏!」 「南のヴェルナー男爵も我らへの合流を決意したとのこと!」
勝利の報が雪崩のように舞い込んでくる。我がローゼンベルク軍は王都へ近づくにつれて、その数をさらに膨れ上がらせていった。七千だった兵力は瞬く間に八千、九千と増えていく。もはや王都の近衛兵の数と遜色ない大軍勢となっていた。
そして増えたのは兵の数だけではない。我々の進軍を歓迎し協力してくれる民衆の支持。それこそが何よりも心強い力だった。
私は降伏してきた諸侯たちを寛大に扱った。彼らの領地を奪うことも、財産を没収することもしなかった。それどころか彼らのこれまでの地位を保証し、新しい国の礎を共に築こうと呼びかけた。
私のそのやり方は、彼らを心服させるには十分だった。彼らは恐怖で支配する宰相とは全く違う、私の新しいリーダーシップの形に感銘を受けていた。
「……すごいな、ヴィクトリア。お前はもはやただの将軍ではない。一国の女王の器だ」
父が私の隣でしみじみと呟いた。その言葉に私は少し照れくさそうに笑った。
「気が早いですわ、父上。まだ何も始まってはおりません」
しかし私の胸の内には確かな手応えがあった。この戦は勝てる。いや、すでに勝っているのかもしれない、と。
戦の勝敗は戦場だけで決まるものではない。人心を掌握した者。大義を掲げた者。未来を示した者。その者が最終的な勝者となるのだ。
そして今、その全ては私の手の中にあった。
もちろん全ての諸侯が我々になびいた訳ではない。中には最後まで王家への忠誠を貫き、城に立て籠もることを選んだ頑固な貴族もいた。
「……どうする?力でねじ伏せるか?」
コンラートの問いに、私は首を振った。
「いいえ。その必要はないわ。彼らは孤立している。王都からの援軍も見込めない。放っておけばいずれ自滅するでしょう」
私は無駄な戦いは避けた。我々の目的は彼らを滅ぼすことではない。王都の首を取ることなのだから。
我々の進軍は続いた。諸侯たちの選択はもはや大勢が決した。彼らは沈みゆく泥船である王家から、我々という新しい方舟へと次々と乗り換えてきたのだ。宰相がこの惨状を知った時、一体どんな顔をするだろうか。
私は東の空を見据えた。王都はもう目と鼻の先だ。盤上の駒は全て私の色に染まりつつある。
残るは敵の王将(キング)、ただ一つ。その首を獲るための最後の一手を打つ時が来た。
私は一人の伝令を呼び寄せた。彼に託すのは王都への最後通牒。戦乱を終わらせるための最後の警告だ。この警告を彼らが受け入れるか否か。それによって王都の運命は決まることになる。血の雨が降るか、それとも新しい光が差すのか。全ての選択は、彼らの手に委ねられたのだ。
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