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第五章:正義の進軍
第49話 最後の警告
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我々の大軍勢はついに、王都の目と鼻の先にある最後の都市、『王の盾(ケーニヒスシルト)』の目前まで到達した。この都市はその名の通り、古くから王都を守る最後の砦として機能してきた軍事都市だ。高い城壁と強固な守備隊を擁している。
しかしその城門は固く閉ざされたまま、抵抗の意思を示してはいなかった。彼らもまた竜騎士団の壊滅と、周辺諸侯の雪崩を打ったような降伏の報を受け、戦意を喪失しているのだろう。
私は軍を都市の手前の平原に停止させた。そして全軍が見渡せる小高い丘の上に本陣を構える。そこからは王の盾の城壁の向こうに、王都の白い尖塔群がぼんやりと霞んで見えた。長い旅だった。しかしその旅もようやく終わりを告げようとしている。
私は一人の伝令を呼び出した。年の頃二十歳そこそこの若く、しかし瞳に強い意志の光を宿した騎士だ。
「……あなたの名を聞かせて」
「はっ!ライナーと申します!」
「そう、ライナー。あなたにこの戦の雌雄を決する重要な役目を与えます。……覚悟はよろしいですね?」
「はい!この命に懸けましても!」
ライナーは緊張に顔を紅潮させながらも、はっきりとした声で答えた。私は彼に一枚の羊皮紙を手渡した。そこには私がしたためた王家への最後通牒が記されている。
「これを王都の玉座の間にいる国王陛下、アルフォンス第一王子、そしてリヒター宰相の元へ届けなさい。……これはローゼンベルク家からの最後の警告です」
その羊皮紙には、こう記されていた。
『エーデルラント国王陛下、並びにアルフォンス第一王子、リヒター宰相に告ぐ。
汝らの圧政と腐敗はすでに天の許すところではない。民は汝らを見限り、諸侯は我らが正義の旗の下に集った。もはや汝らに勝ち目はない。
よってここに最後の慈悲を以て勧告する。
一、国政を壟断せし宰相リヒター、並びにその傀儡たる第一王子アルフォンスは、その身柄を我らに引き渡すこと。彼らの罪は新しく設立される貴族議会において公正に裁かれるであろう。
二、国王陛下は全ての実権を放棄し、第二王子エリオット殿下を摂政とすること。さすれば陛下の生命と王家としての名誉は保証する。
三、全ての武器を捨て、王都の門を開け放つこと。
以上の要求を受け入れるのであれば、我らは王都に一滴の血も流すことはないと約束する。しかしもしこの最後の警告を無視し、愚かな抵抗を続けるというのであれば、我らはこの十万の軍勢を以て王都を包囲し、火の海と化すであろう。
返答の期限は、明日の日の出まで。
ローゼンベルク公爵代理 戦姫 ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク』
それは降伏勧告というよりも、もはや新しい支配者からの命令書に近かった。
「……ライナー。あなたはおそらく殺されるかもしれない。それでも行けますか?」
私の問いに、ライナーは笑って答えた。
「ヴィクトリア様こそ我が女神。その女神のお使いを果たせるのなら、本望にございます」
彼は一頭の白馬に跨ると、ローゼンベルクの旗指物だけを持ち、たった一人で王都へと向かっていった。七千五百の全軍がその小さな後ろ姿を静かに見送る。彼の勇気は我々全員の誇りだった。
ライナーの姿が地平線の向こうに消えていく。私はただ空を見上げていた。穏やかな春の空。この空の下で、明日、血の雨が降るのか。それとも新しい光が差すのか。
全ては王都のあの三人の愚かな男たちの決断にかかっている。
父が私の隣に立った。
「……ヴィクトリア。もし奴らが要求を飲まなかったら」
「その時は戦うまでです、父上」
私はきっぱりと言った。
「私はもう覚悟を決めました。この国を変えるためならば、私は喜んで悪魔にでもなりますわ」
私の瞳に宿る揺るぎない決意を見て、父は何も言わずただ力強く頷いた。
時間は静かに流れていく。ライナーが王都の門にたどり着くのは、おそらく今夜の真夜中頃だろう。そこから彼が玉座の間へ通され我々の要求が伝えられる。そして彼らが決断を下す。
長い、長い夜が始まろうとしていた。王都の、そしてこの王国の運命を決める最後の夜が。私はただ静かにその答えを待っていた。最後の警告。それが平和への扉を開く鍵となることを、心のどこかで祈りながら。
しかしその城門は固く閉ざされたまま、抵抗の意思を示してはいなかった。彼らもまた竜騎士団の壊滅と、周辺諸侯の雪崩を打ったような降伏の報を受け、戦意を喪失しているのだろう。
私は軍を都市の手前の平原に停止させた。そして全軍が見渡せる小高い丘の上に本陣を構える。そこからは王の盾の城壁の向こうに、王都の白い尖塔群がぼんやりと霞んで見えた。長い旅だった。しかしその旅もようやく終わりを告げようとしている。
私は一人の伝令を呼び出した。年の頃二十歳そこそこの若く、しかし瞳に強い意志の光を宿した騎士だ。
「……あなたの名を聞かせて」
「はっ!ライナーと申します!」
「そう、ライナー。あなたにこの戦の雌雄を決する重要な役目を与えます。……覚悟はよろしいですね?」
「はい!この命に懸けましても!」
ライナーは緊張に顔を紅潮させながらも、はっきりとした声で答えた。私は彼に一枚の羊皮紙を手渡した。そこには私がしたためた王家への最後通牒が記されている。
「これを王都の玉座の間にいる国王陛下、アルフォンス第一王子、そしてリヒター宰相の元へ届けなさい。……これはローゼンベルク家からの最後の警告です」
その羊皮紙には、こう記されていた。
『エーデルラント国王陛下、並びにアルフォンス第一王子、リヒター宰相に告ぐ。
汝らの圧政と腐敗はすでに天の許すところではない。民は汝らを見限り、諸侯は我らが正義の旗の下に集った。もはや汝らに勝ち目はない。
よってここに最後の慈悲を以て勧告する。
一、国政を壟断せし宰相リヒター、並びにその傀儡たる第一王子アルフォンスは、その身柄を我らに引き渡すこと。彼らの罪は新しく設立される貴族議会において公正に裁かれるであろう。
二、国王陛下は全ての実権を放棄し、第二王子エリオット殿下を摂政とすること。さすれば陛下の生命と王家としての名誉は保証する。
三、全ての武器を捨て、王都の門を開け放つこと。
以上の要求を受け入れるのであれば、我らは王都に一滴の血も流すことはないと約束する。しかしもしこの最後の警告を無視し、愚かな抵抗を続けるというのであれば、我らはこの十万の軍勢を以て王都を包囲し、火の海と化すであろう。
返答の期限は、明日の日の出まで。
ローゼンベルク公爵代理 戦姫 ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク』
それは降伏勧告というよりも、もはや新しい支配者からの命令書に近かった。
「……ライナー。あなたはおそらく殺されるかもしれない。それでも行けますか?」
私の問いに、ライナーは笑って答えた。
「ヴィクトリア様こそ我が女神。その女神のお使いを果たせるのなら、本望にございます」
彼は一頭の白馬に跨ると、ローゼンベルクの旗指物だけを持ち、たった一人で王都へと向かっていった。七千五百の全軍がその小さな後ろ姿を静かに見送る。彼の勇気は我々全員の誇りだった。
ライナーの姿が地平線の向こうに消えていく。私はただ空を見上げていた。穏やかな春の空。この空の下で、明日、血の雨が降るのか。それとも新しい光が差すのか。
全ては王都のあの三人の愚かな男たちの決断にかかっている。
父が私の隣に立った。
「……ヴィクトリア。もし奴らが要求を飲まなかったら」
「その時は戦うまでです、父上」
私はきっぱりと言った。
「私はもう覚悟を決めました。この国を変えるためならば、私は喜んで悪魔にでもなりますわ」
私の瞳に宿る揺るぎない決意を見て、父は何も言わずただ力強く頷いた。
時間は静かに流れていく。ライナーが王都の門にたどり着くのは、おそらく今夜の真夜中頃だろう。そこから彼が玉座の間へ通され我々の要求が伝えられる。そして彼らが決断を下す。
長い、長い夜が始まろうとしていた。王都の、そしてこの王国の運命を決める最後の夜が。私はただ静かにその答えを待っていた。最後の警告。それが平和への扉を開く鍵となることを、心のどこかで祈りながら。
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