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第五章:正義の進軍
第50話 王都の門前にて
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若き騎士ライナーが王都の城門にたどり着いたのは深夜のことだった。城壁の上から降り注ぐ松明の光が、彼がただ一人でありローゼンベルクの使者の旗を掲げていることを照らし出す。
「開門せよ!ローゼンベルク公爵代理、ヴィクトリア様からの最後通牒を携えてきた!」
ライナーの凛とした声が夜の静寂を破る。城壁の上はしばらくざわついていたが、やがて小さな通用門がギシリと音を立てて開かれた。彼はそこから一人、王都の中へと足を踏り入れた。
その頃、王宮の玉座の間ではアルフォンス王子とリヒター宰相が少数の側近だけを集め、今後の対策を練っていた。しかしそれはもはや会議と呼べるようなものではなかった。ただ互いを罵り合い、責任をなすりつけ合うだけの醜い言い争いだ。
「これも全て宰相、貴様の失策のせいだ!なぜあの小娘一人始末できんのだ!」 「それはこちらのセリフですな、殿下!貴方様がもう少し賢明であられたなら、このような事態には!」
その醜悪な光景を、玉座に座る老国王はただ虚な目で見ているだけだった。もはや彼に国を治める力は残されていなかった。
そこへ、ライナーが引き立てられてきたのだ。彼はその異様な雰囲気にも臆することなく玉座の前に進み出ると、高らかにヴィクトリアからの最後通牒を読み上げた。
しんと、玉座の間が静まり返る。誰もがそのあまりに傲慢で不遜な要求に言葉を失った。
最初に静寂を破ったのは、アルフォンス王子の甲高い笑い声だった。
「……は、ははは!はーっはっはっは!狂ったか、あの女は!この私に身柄を引き渡せだと!?笑わせてくれる!」
彼の顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「聞け、使者よ!その小娘に伝えておけ!この王都の城壁を舐めるなと!お前たち反逆者どもは、この城門の前で野晒しとなり王国中の笑いものとなるのだ!」
「殿下、お待ちを!」
宰相が慌てて制止しようとする。彼はこの要求がただの脅しではないことを理解していた。しかしプライドを傷つけられたアルフォンスは、もはや誰の言うことも聞かなかった。
「ええい煩い!この臆病者めが!……おい、誰か!その使者の首を刎ねよ!そしてその首をあの小娘の元へ送り届けてやれ!それが我々の答えだ!」
その残酷な命令に、近衛騎士たちも一瞬ためらった。使者を斬ることは古来からの禁忌。それを破ることは、王家がもはや人の道をも外れたことを天下に示すようなものだ。
しかし王子の狂気に満ちた目に逆らえる者はいなかった。一人の騎士が剣を抜き、ライナーに迫る。ライナーは決して目をつぶらなかった。彼は死を覚悟し、ただ静かにその時を待った。
その、瞬間だった。
「――おやめなさい、兄上」
凛とした声が玉座の間に響いた。声の主は、今までずっと沈黙を守っていたエリオット第二王子だった。
「……エリオット!貴様、今私に指図したのか!?」
「指図ではありません。忠告です。これ以上、王家の名誉を汚すおつもりですか」
エリオットはゆっくりと立ち上がるとライナーの前に立った。まるで彼を庇うように。
「……この使者の命は私が預かります。彼を殺すことは許しません」
「き、貴様……!まさか反逆者に内通して……!」
アルフォンスの言葉を遮り、宰相が前に出た。
「……殿下。ここはエリオット殿下のお顔を立てましょう。使者の首を刎ねても状況は好転しませぬ。……それよりもこの者を地下牢へ。ヴィクトリアを生け捕りにした際の交渉材料として使えます」
宰相の言葉にアルフォンスは不満げだったが、渋々頷いた。こうしてライナーは一命を取り留めた。しかし我々の最後の警告は、事実上拒絶されたのだ。
夜が明け、朝日が地平線を照らし始めた頃。ライナーが戻ってこない、その事実が王都の答えを物語っていた。
私の本陣には重い沈黙が流れていた。兵士たちは皆、固唾を飲んで私の次の一言を待っている。平和的解決への最後の望みは絶たれたのだ。
私はゆっくりと立ち上がった。そして眼下に広がる王都を見据えた。朝日を浴びてその白い城壁は美しく輝いている。しかしその美しさとは裏腹に、あの都は今、狂気に満ちている。
(……ごめんなさい、ライナー。あなたの勇気を無駄にはしないわ) (……そしてごめんなさい、エリオット殿下。私はあなたの愛する都を火の海にしなければならないかもしれない)
私は全ての感傷を振り払った。もう迷っている時間はない。
私は丘の上に立ち、集まった全ての将軍たちに向かって、静かに、しかしはっきりと最後の命令を下した。
「……全軍に伝えなさい」
皆が息を呑むのが分かった。
「――これより王都の包囲を開始する。蟻の這い出る隙間もないほど、完全な包囲網を敷け」
私の言葉に皆、力強くうなずいた。
「夜明けと共に我々の全ての旗を掲げなさい。そして角笛を吹き鳴らすのです。あの傲慢な王都の者たちに、絶望の夜明けが来たことを知らせるために」
王都の門前にて。私の長い旅路は、ついに最終目的地へと辿り着いた。ここから先は神々の領域。歴史の審判が下される聖なる戦いが始まろうとしていた。
第六章『王都包囲と、新時代』の幕開けだった。
「開門せよ!ローゼンベルク公爵代理、ヴィクトリア様からの最後通牒を携えてきた!」
ライナーの凛とした声が夜の静寂を破る。城壁の上はしばらくざわついていたが、やがて小さな通用門がギシリと音を立てて開かれた。彼はそこから一人、王都の中へと足を踏り入れた。
その頃、王宮の玉座の間ではアルフォンス王子とリヒター宰相が少数の側近だけを集め、今後の対策を練っていた。しかしそれはもはや会議と呼べるようなものではなかった。ただ互いを罵り合い、責任をなすりつけ合うだけの醜い言い争いだ。
「これも全て宰相、貴様の失策のせいだ!なぜあの小娘一人始末できんのだ!」 「それはこちらのセリフですな、殿下!貴方様がもう少し賢明であられたなら、このような事態には!」
その醜悪な光景を、玉座に座る老国王はただ虚な目で見ているだけだった。もはや彼に国を治める力は残されていなかった。
そこへ、ライナーが引き立てられてきたのだ。彼はその異様な雰囲気にも臆することなく玉座の前に進み出ると、高らかにヴィクトリアからの最後通牒を読み上げた。
しんと、玉座の間が静まり返る。誰もがそのあまりに傲慢で不遜な要求に言葉を失った。
最初に静寂を破ったのは、アルフォンス王子の甲高い笑い声だった。
「……は、ははは!はーっはっはっは!狂ったか、あの女は!この私に身柄を引き渡せだと!?笑わせてくれる!」
彼の顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「聞け、使者よ!その小娘に伝えておけ!この王都の城壁を舐めるなと!お前たち反逆者どもは、この城門の前で野晒しとなり王国中の笑いものとなるのだ!」
「殿下、お待ちを!」
宰相が慌てて制止しようとする。彼はこの要求がただの脅しではないことを理解していた。しかしプライドを傷つけられたアルフォンスは、もはや誰の言うことも聞かなかった。
「ええい煩い!この臆病者めが!……おい、誰か!その使者の首を刎ねよ!そしてその首をあの小娘の元へ送り届けてやれ!それが我々の答えだ!」
その残酷な命令に、近衛騎士たちも一瞬ためらった。使者を斬ることは古来からの禁忌。それを破ることは、王家がもはや人の道をも外れたことを天下に示すようなものだ。
しかし王子の狂気に満ちた目に逆らえる者はいなかった。一人の騎士が剣を抜き、ライナーに迫る。ライナーは決して目をつぶらなかった。彼は死を覚悟し、ただ静かにその時を待った。
その、瞬間だった。
「――おやめなさい、兄上」
凛とした声が玉座の間に響いた。声の主は、今までずっと沈黙を守っていたエリオット第二王子だった。
「……エリオット!貴様、今私に指図したのか!?」
「指図ではありません。忠告です。これ以上、王家の名誉を汚すおつもりですか」
エリオットはゆっくりと立ち上がるとライナーの前に立った。まるで彼を庇うように。
「……この使者の命は私が預かります。彼を殺すことは許しません」
「き、貴様……!まさか反逆者に内通して……!」
アルフォンスの言葉を遮り、宰相が前に出た。
「……殿下。ここはエリオット殿下のお顔を立てましょう。使者の首を刎ねても状況は好転しませぬ。……それよりもこの者を地下牢へ。ヴィクトリアを生け捕りにした際の交渉材料として使えます」
宰相の言葉にアルフォンスは不満げだったが、渋々頷いた。こうしてライナーは一命を取り留めた。しかし我々の最後の警告は、事実上拒絶されたのだ。
夜が明け、朝日が地平線を照らし始めた頃。ライナーが戻ってこない、その事実が王都の答えを物語っていた。
私の本陣には重い沈黙が流れていた。兵士たちは皆、固唾を飲んで私の次の一言を待っている。平和的解決への最後の望みは絶たれたのだ。
私はゆっくりと立ち上がった。そして眼下に広がる王都を見据えた。朝日を浴びてその白い城壁は美しく輝いている。しかしその美しさとは裏腹に、あの都は今、狂気に満ちている。
(……ごめんなさい、ライナー。あなたの勇気を無駄にはしないわ) (……そしてごめんなさい、エリオット殿下。私はあなたの愛する都を火の海にしなければならないかもしれない)
私は全ての感傷を振り払った。もう迷っている時間はない。
私は丘の上に立ち、集まった全ての将軍たちに向かって、静かに、しかしはっきりと最後の命令を下した。
「……全軍に伝えなさい」
皆が息を呑むのが分かった。
「――これより王都の包囲を開始する。蟻の這い出る隙間もないほど、完全な包囲網を敷け」
私の言葉に皆、力強くうなずいた。
「夜明けと共に我々の全ての旗を掲げなさい。そして角笛を吹き鳴らすのです。あの傲慢な王都の者たちに、絶望の夜明けが来たことを知らせるために」
王都の門前にて。私の長い旅路は、ついに最終目的地へと辿り着いた。ここから先は神々の領域。歴史の審判が下される聖なる戦いが始まろうとしていた。
第六章『王都包囲と、新時代』の幕開けだった。
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