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第六章:王都包囲と新時代
第55話 崩れ落ちる王子
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「……王位を譲る……だと?」
父である国王から告げられた非情な言葉。アルフォンスはその意味がすぐには理解できなかった。自分の耳を疑った。
「……父上、今何と……?王位は、この長男である私が継ぐはず……。そのような馬鹿な……」
彼のうろたえた声が、静まり返った玉座の間に虚しく響く。しかし老王はもはや彼のことなど見てはいなかった。その視線はただ、まっすぐに未来を託した次男エリオットに注がれている。
「エリオット、貴様!一体父上に何を吹き込んだのだ!この王位簒奪者めが!」
アルフォンスは憎しみに顔を歪ませ、弟に掴みかかろうとした。しかしそのだらしない体は、エリオットの側にいた近衛騎士にあっさりと押さえつけられてしまう。
「離せ!私を誰だと思っている!私は王子だぞ!」
彼は見苦しく暴れた。その無様な姿に、周りの貴族たちはもはや軽蔑の視線さえ向けなかった。ただ憐れな道化師を見るかのような、冷たい無関心だけがそこにはあった。
「……兄上」
エリオットが哀れみの目で兄を見た。
「もうお分かりでしょう。貴方には誰もついてこない。貴方の時代は終わったのです」
「終わっただと……?終わらせはせん!私がいる限り終わらせものか!兵を出せ!今すぐ兵を出すのだ!あの生意気な女狐と、この裏切り者の弟を八つ裂きにしてくれるわ!」
アルフォンスは狂ったように叫んだ。しかし彼の命令に動く兵士は一人もいない。彼らは皆、新しい王となるエリオットの指示を待っているのだ。
「……なぜだ。なぜ動かん!貴様ら、私の命令が聞けんのか!」
その時、玉座の間を護衛していた近衛騎士団の団長がゆっくりと前に進み出た。彼は今までアルフォンスに絶対の忠誠を誓っていたはずの男だった。彼はアルフォンスの前に立つと、カチャリと音を立てて腰の剣を床に置いた。そしてその場に跪く。しかしその忠誠の礼は、アルフォンスに捧げられたものではなかった。
「……エリオット新国王陛下に忠誠を」
その言葉と行動が全てを物語っていた。もはやアルフォ-ンスは誰からも王子として扱われてはいないのだ。
「……あ……あ……」
アルフォンスの顔から血の気が引いていく。彼の世界が音を立てて崩れていくのがわかった。生まれながらの王子。次期国王として全てを与えられ、全てが許されてきた人生。その絶対的だったはずの足場が、今完全に崩壊したのだ。
彼は周りを見回した。媚びへつらっていた貴族たち。彼を恐れていた騎士たち。その誰もが自分に背を向けている。彼らは皆、新しい太陽であるエリオットの方だけを見ている。
自分はもう誰からも必要とされていない。その残酷な事実が、彼の脆弱な精神を完全に破壊した。
「……いやだ。いやだ、いやだ、いやだぁぁぁっ!」
アルフォンスは耳を塞ぎ、子供のように叫びながらその場に崩れ落ちた。そして堰を切ったように泣き出した。しゃくり上げ、鼻水を垂らし、床を転げ回る。その姿はもはや王族のそれではなく、ただの全てを失った哀れな男の末路だった。
崩れ落ちる王子。彼がヴィクトリアに投げつけた「女は黙って従え」という傲慢な言葉。その言葉が今、何百倍にもなって彼自身に突き刺さっていた。彼こそが時代の変化の前に、ただ黙って従うしかなかったのだ。
エリオトは、その兄の無様な姿を一瞥すると、静かに騎士団長に命じた。
「……兄上を北の塔へ。今後一切誰とも面会はさせないように。……命までは取らない。それが弟としての最後の情けだ」
「はっ」
騎士たちが泣きじゃくるアルフォンスを両脇から抱え上げ、引きずっていく。彼は最後まで「私は王だ」と意味不明な言葉を叫び続けていた。
これこそが彼が迎えるべき結末だった。戦場で華々しく死ぬのでもなく、断頭台の露と消えるのでもない。ただ誰からも忘れ去られ、歴史の片隅で惨めに生きながらえる。それこそが彼のような愚か者に対する、最大にして最高の罰なのだ。
玉座の間には静寂が戻った。一つの醜い時代が完全に終わりを告げた瞬間だった。そしてエリオットは新しい王として最初の仕事に取り掛かる。それは城壁の上の兵士たちに武器を置かせ、固く閉ざされた王都の門を開け放つ命令を下すことだった。彼の愛する女性が待つ、その場所へ続く門を。
父である国王から告げられた非情な言葉。アルフォンスはその意味がすぐには理解できなかった。自分の耳を疑った。
「……父上、今何と……?王位は、この長男である私が継ぐはず……。そのような馬鹿な……」
彼のうろたえた声が、静まり返った玉座の間に虚しく響く。しかし老王はもはや彼のことなど見てはいなかった。その視線はただ、まっすぐに未来を託した次男エリオットに注がれている。
「エリオット、貴様!一体父上に何を吹き込んだのだ!この王位簒奪者めが!」
アルフォンスは憎しみに顔を歪ませ、弟に掴みかかろうとした。しかしそのだらしない体は、エリオットの側にいた近衛騎士にあっさりと押さえつけられてしまう。
「離せ!私を誰だと思っている!私は王子だぞ!」
彼は見苦しく暴れた。その無様な姿に、周りの貴族たちはもはや軽蔑の視線さえ向けなかった。ただ憐れな道化師を見るかのような、冷たい無関心だけがそこにはあった。
「……兄上」
エリオットが哀れみの目で兄を見た。
「もうお分かりでしょう。貴方には誰もついてこない。貴方の時代は終わったのです」
「終わっただと……?終わらせはせん!私がいる限り終わらせものか!兵を出せ!今すぐ兵を出すのだ!あの生意気な女狐と、この裏切り者の弟を八つ裂きにしてくれるわ!」
アルフォンスは狂ったように叫んだ。しかし彼の命令に動く兵士は一人もいない。彼らは皆、新しい王となるエリオットの指示を待っているのだ。
「……なぜだ。なぜ動かん!貴様ら、私の命令が聞けんのか!」
その時、玉座の間を護衛していた近衛騎士団の団長がゆっくりと前に進み出た。彼は今までアルフォンスに絶対の忠誠を誓っていたはずの男だった。彼はアルフォンスの前に立つと、カチャリと音を立てて腰の剣を床に置いた。そしてその場に跪く。しかしその忠誠の礼は、アルフォンスに捧げられたものではなかった。
「……エリオット新国王陛下に忠誠を」
その言葉と行動が全てを物語っていた。もはやアルフォ-ンスは誰からも王子として扱われてはいないのだ。
「……あ……あ……」
アルフォンスの顔から血の気が引いていく。彼の世界が音を立てて崩れていくのがわかった。生まれながらの王子。次期国王として全てを与えられ、全てが許されてきた人生。その絶対的だったはずの足場が、今完全に崩壊したのだ。
彼は周りを見回した。媚びへつらっていた貴族たち。彼を恐れていた騎士たち。その誰もが自分に背を向けている。彼らは皆、新しい太陽であるエリオットの方だけを見ている。
自分はもう誰からも必要とされていない。その残酷な事実が、彼の脆弱な精神を完全に破壊した。
「……いやだ。いやだ、いやだ、いやだぁぁぁっ!」
アルフォンスは耳を塞ぎ、子供のように叫びながらその場に崩れ落ちた。そして堰を切ったように泣き出した。しゃくり上げ、鼻水を垂らし、床を転げ回る。その姿はもはや王族のそれではなく、ただの全てを失った哀れな男の末路だった。
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エリオトは、その兄の無様な姿を一瞥すると、静かに騎士団長に命じた。
「……兄上を北の塔へ。今後一切誰とも面会はさせないように。……命までは取らない。それが弟としての最後の情けだ」
「はっ」
騎士たちが泣きじゃくるアルフォンスを両脇から抱え上げ、引きずっていく。彼は最後まで「私は王だ」と意味不明な言葉を叫び続けていた。
これこそが彼が迎えるべき結末だった。戦場で華々しく死ぬのでもなく、断頭台の露と消えるのでもない。ただ誰からも忘れ去られ、歴史の片隅で惨めに生きながらえる。それこそが彼のような愚か者に対する、最大にして最高の罰なのだ。
玉座の間には静寂が戻った。一つの醜い時代が完全に終わりを告げた瞬間だった。そしてエリオットは新しい王として最初の仕事に取り掛かる。それは城壁の上の兵士たちに武器を置かせ、固く閉ざされた王都の門を開け放つ命令を下すことだった。彼の愛する女性が待つ、その場所へ続く門を。
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