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第六章:王都包囲と新時代
第60話 始まりの物語
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あれから一年が過ぎた。エーデルラント王国は見違えるように生まれ変わった。エリオット王の公正な統治と、私、ヴィクトリア宰相の大胆な改革によって、国はかつてないほどの平和と繁栄を謳歌していた。
重税は廃止され民の暮らしは豊かになった。新しい法律が制定され、身分に関係なく誰もが法の下に平等となった。軍隊は国を守る誇り高き組織へと生まれ変わり、近隣諸国との関係も良好だ。
かつての腐敗と絶望はもはやどこにもない。人々は未来への希望を語り、その顔は笑顔に満ち溢れていた。
そして今日、王都では革命一周年を記念する盛大な祝祭が開かれていた。大通りは色とりどりの花と旗で飾られ、人々は歌い踊り、新しい時代の到来を祝福している。
そのパレードの中心、一台の豪華な馬車の上から私とエリオットはその光景を見下ろしていた。沿道を埋め尽くした民衆から、割れんばかりの歓声が上がる。
「エリオット陛下、万歳!」 「ヴィクトリア宰相閣下、万歳!」
彼らの熱狂的な声援に、私は馬上から笑顔で手を振って応えた。一年前、私がこの王都に入ってきた時は、彼らの目は恐怖に怯えていた。しかし今はどうだろう。その瞳に宿るのは、私とエリオットへの心からの敬愛と信頼の光だ。
(……ああ。私はこの光景を見るために、戦ってきたのだ)
胸の奥から熱いものが込み上げてくる。私の戦いは間違ってはいなかった。そう確信できる瞬間だった。
パレードが終わり夜になると、王宮の庭園ではささやかな祝宴が開かれた。集まったのはこの革命を支えてくれた仲間たちだけだ。父ゲルハルト、コンラート、セドリック伯爵、マルクス子爵、辺境の諸侯たち。皆、晴れやかな顔で酒を酌み交わし、互いの労をねぎらっている。
私はその賑わいの輪から少しだけ離れ、一人、月明かりが差し込むテラスに出ていた。この一年、本当に色々なことがあった。まるで嵐のような日々だった。その一つ一つを思い出していると、背後から静かな声がかかった。
「……一人で何を考えているんだい、ヴィクトリア」
エリオットだった。彼も喧騒を離れて私を探しに来てくれたのだろう。
「……陛下。いえ、エリオット」
「この一年、本当にご苦労だった。君がいなければ今のこの国はなかった。……心から感謝する」
彼は私の隣に立つと、同じように庭園の夜景を見つめた。
「……いいえ。私こそ貴方がいてくれたから、ここまで来られたのですわ。貴方が信じてくれたから、私は戦い抜くことができた」
私たちはしばらく無言で夜景を見つめていた。心地よい沈黙。もはや言葉は必要なかった。互いの心が深く通じ合っているのが分かったから。
やがてエリオットが、意を決したように口を開いた。
「……ヴィクトリア。君に話がある」
その声はいつになく真剣で、少しだけ緊張しているようだった。彼は私の両手を優しく取った。その手は少しだけ震えている。
「……この国はようやく平和になった。そしてこれからも君と私で守り、育てていかなければならない。……そのためには、我々の絆をもっと強く確かなものにする必要があると思うんだ」
彼は私の瞳をまっすぐに見つめた。その瞳の奥には燃えるような熱い想いが宿っている。
「……私は、私の隣に立つのはただの優秀な宰相だけでは嫌だ。……私が欲しいのは国を共に治めるパートナーであり、そして人生を共に歩む妻だ」
妻。その言葉に私の心臓が大きく跳ねた。
「……ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。……私と、結婚してほしい。王妃として私を支えてくれとは言わない。これからも宰相として、そして一人の女性として、私の隣で、共に生きてはくれないだろうか」
それは王からの命令ではなかった。一人の男からの、不器用で、しかし心からのプロポーズ。
涙が溢れて止まらなかった。嬉しくて、愛おしくて。私はずっとこの言葉を待っていたのかもしれない。
私は涙に濡れた顔で精一杯の笑顔を作った。そして私の人生で最も大切な返事を彼に告げた。
「……はい。喜んで、エリオット」
その瞬間、夜空に一際大きな祝福の花火が打ち上がった。まるで我々二人の未来を照らし出すかのように。
彼は私を優しく抱きしめた。その腕の中で、私は心からの安らぎを感じていた。
『「女は黙って従え」と婚約破棄されたので、実家の軍隊を率いて王都を包囲しますわ』
私のその物語は、ここで一旦終わりを告げる。しかし、それは決して本当の終わりではない。
国王エリオットと、宰相にして王妃となったヴィクトリア。二人が手を取り合って築いていく新しい国の物語。そして、二人の愛の物語。
それは、今、始まったばかりなのだから。
これは終わりの物語ではない。 そう、始まりの物語なのである。
【了】
重税は廃止され民の暮らしは豊かになった。新しい法律が制定され、身分に関係なく誰もが法の下に平等となった。軍隊は国を守る誇り高き組織へと生まれ変わり、近隣諸国との関係も良好だ。
かつての腐敗と絶望はもはやどこにもない。人々は未来への希望を語り、その顔は笑顔に満ち溢れていた。
そして今日、王都では革命一周年を記念する盛大な祝祭が開かれていた。大通りは色とりどりの花と旗で飾られ、人々は歌い踊り、新しい時代の到来を祝福している。
そのパレードの中心、一台の豪華な馬車の上から私とエリオットはその光景を見下ろしていた。沿道を埋め尽くした民衆から、割れんばかりの歓声が上がる。
「エリオット陛下、万歳!」 「ヴィクトリア宰相閣下、万歳!」
彼らの熱狂的な声援に、私は馬上から笑顔で手を振って応えた。一年前、私がこの王都に入ってきた時は、彼らの目は恐怖に怯えていた。しかし今はどうだろう。その瞳に宿るのは、私とエリオットへの心からの敬愛と信頼の光だ。
(……ああ。私はこの光景を見るために、戦ってきたのだ)
胸の奥から熱いものが込み上げてくる。私の戦いは間違ってはいなかった。そう確信できる瞬間だった。
パレードが終わり夜になると、王宮の庭園ではささやかな祝宴が開かれた。集まったのはこの革命を支えてくれた仲間たちだけだ。父ゲルハルト、コンラート、セドリック伯爵、マルクス子爵、辺境の諸侯たち。皆、晴れやかな顔で酒を酌み交わし、互いの労をねぎらっている。
私はその賑わいの輪から少しだけ離れ、一人、月明かりが差し込むテラスに出ていた。この一年、本当に色々なことがあった。まるで嵐のような日々だった。その一つ一つを思い出していると、背後から静かな声がかかった。
「……一人で何を考えているんだい、ヴィクトリア」
エリオットだった。彼も喧騒を離れて私を探しに来てくれたのだろう。
「……陛下。いえ、エリオット」
「この一年、本当にご苦労だった。君がいなければ今のこの国はなかった。……心から感謝する」
彼は私の隣に立つと、同じように庭園の夜景を見つめた。
「……いいえ。私こそ貴方がいてくれたから、ここまで来られたのですわ。貴方が信じてくれたから、私は戦い抜くことができた」
私たちはしばらく無言で夜景を見つめていた。心地よい沈黙。もはや言葉は必要なかった。互いの心が深く通じ合っているのが分かったから。
やがてエリオットが、意を決したように口を開いた。
「……ヴィクトリア。君に話がある」
その声はいつになく真剣で、少しだけ緊張しているようだった。彼は私の両手を優しく取った。その手は少しだけ震えている。
「……この国はようやく平和になった。そしてこれからも君と私で守り、育てていかなければならない。……そのためには、我々の絆をもっと強く確かなものにする必要があると思うんだ」
彼は私の瞳をまっすぐに見つめた。その瞳の奥には燃えるような熱い想いが宿っている。
「……私は、私の隣に立つのはただの優秀な宰相だけでは嫌だ。……私が欲しいのは国を共に治めるパートナーであり、そして人生を共に歩む妻だ」
妻。その言葉に私の心臓が大きく跳ねた。
「……ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク。……私と、結婚してほしい。王妃として私を支えてくれとは言わない。これからも宰相として、そして一人の女性として、私の隣で、共に生きてはくれないだろうか」
それは王からの命令ではなかった。一人の男からの、不器用で、しかし心からのプロポーズ。
涙が溢れて止まらなかった。嬉しくて、愛おしくて。私はずっとこの言葉を待っていたのかもしれない。
私は涙に濡れた顔で精一杯の笑顔を作った。そして私の人生で最も大切な返事を彼に告げた。
「……はい。喜んで、エリオット」
その瞬間、夜空に一際大きな祝福の花火が打ち上がった。まるで我々二人の未来を照らし出すかのように。
彼は私を優しく抱きしめた。その腕の中で、私は心からの安らぎを感じていた。
『「女は黙って従え」と婚約破棄されたので、実家の軍隊を率いて王都を包囲しますわ』
私のその物語は、ここで一旦終わりを告げる。しかし、それは決して本当の終わりではない。
国王エリオットと、宰相にして王妃となったヴィクトリア。二人が手を取り合って築いていく新しい国の物語。そして、二人の愛の物語。
それは、今、始まったばかりなのだから。
これは終わりの物語ではない。 そう、始まりの物語なのである。
【了】
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