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第一幕:虚飾の檻、苦悩の日々
第6話:運命の布告と北への道
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王都を出発してから、既に十日が過ぎようとしていた。馬車の旅は想像以上に過酷で、私の体は疲労困憊していた。舗装されていない道も多く、揺れは酷く、夜は粗末な宿屋か、時には野営をすることもあった。
護衛として付けられた数名の兵士たちは寡黙で、私に必要以上の言葉をかけることはない。彼らにとって、私は厄介な荷物でしかないのだろう。それでも、食事や寝床の準備は最低限行ってくれるし、道中の安全も確保してくれている。それだけでも感謝しなければならないのかもしれない。
窓の外の景色は、日を追うごとに荒涼としたものへと変わっていった。緑豊かな森は姿を消し、ごつごつとした岩肌の山々や、枯れ木が目立つ荒野が広がるようになった。空気もひんやりとしてきて、北へ近づいていることを実感させられる。
(グレイウォール領は、もうすぐなのかしら……)
カシアン・グレイウォール。その名を思うと、今でも胸がざわつく。彼が私を正妻として迎えると言ったのは、一体どういう意図からなのだろうか。ヴァレリウス公爵家との繋がりを求める政略的なものか、あるいは、単に世継ぎを産むための道具としてか。どちらにしても、そこに愛情など存在しないことは明らかだった。
そんなことを考えていると、馬車が不意に速度を落とし、やがて止まった。
「どうしたのですか?」
私が御者に尋ねると、彼は前方を指差した。
「あれが、グレイウォール領の最初の関所でございます、奥様」
彼の言葉に、私は窓から身を乗り出して外を見た。そこには、石造りの堅牢な関所がそびえ立ち、厳しい顔つきの兵士たちが警備にあたっていた。そして、関所の向こうには、雪を頂いた険しい山脈が連なり、まるで世界の果てのような光景が広がっていた。
(ここが……私の新しい人生の始まりの場所……)
ゴクリと唾を飲み込む。緊張と不安で、心臓が早鐘を打っていた。
やがて、馬車は関所を通過し、再び走り始めた。道はさらに険しくなり、空気は一層冷たさを増していく。そして、数時間後、ついに馬車は一つの城砦の前に到着した。
黒曜石のような黒い石材で築かれたその城は、威圧的で、どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。城壁は高く、窓は小さく、まるで外部からの侵入を一切拒むかのように頑固に口を閉ざしている。これが、氷の辺境伯カシアン・グレイウォールの居城、グレイロック城。
「奥様、ご到着でございます」
御者の言葉に促され、私はゆっくりと馬車を降りた。城門の前には、数名の家臣らしき者たちが整列し、私を待っていた。彼らの表情は硬く、私を歓迎しているようには到底見えなかった。
そして、その中心に立つ一人の男に、私の視線は釘付けになった。
背が高く、肩幅の広い、鍛え上げられた体躯。黒髪を短く刈り込み、その顔には幾筋かの古い傷跡が刻まれている。そして、何よりも印象的だったのは、その瞳。氷のように冷たく、全てを見透かすような鋭い光を宿した灰色の瞳。
彼こそが、カシアン・グレイウォール。私の夫となる男。
彼は私を一瞥すると、感情の読めない声で短く言った。
「……よく来た。セラフィナ・フォン・ヴァレリウス」
その声は、まるで冬の北風のように冷たく、私の心を凍てつかせた。ああ、やはり、この男に温情など期待できるはずもなかったのだ。私の不遇な運命は、まだ始まったばかりなのだと、この時、私は痛感したのだった。
護衛として付けられた数名の兵士たちは寡黙で、私に必要以上の言葉をかけることはない。彼らにとって、私は厄介な荷物でしかないのだろう。それでも、食事や寝床の準備は最低限行ってくれるし、道中の安全も確保してくれている。それだけでも感謝しなければならないのかもしれない。
窓の外の景色は、日を追うごとに荒涼としたものへと変わっていった。緑豊かな森は姿を消し、ごつごつとした岩肌の山々や、枯れ木が目立つ荒野が広がるようになった。空気もひんやりとしてきて、北へ近づいていることを実感させられる。
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そんなことを考えていると、馬車が不意に速度を落とし、やがて止まった。
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私が御者に尋ねると、彼は前方を指差した。
「あれが、グレイウォール領の最初の関所でございます、奥様」
彼の言葉に、私は窓から身を乗り出して外を見た。そこには、石造りの堅牢な関所がそびえ立ち、厳しい顔つきの兵士たちが警備にあたっていた。そして、関所の向こうには、雪を頂いた険しい山脈が連なり、まるで世界の果てのような光景が広がっていた。
(ここが……私の新しい人生の始まりの場所……)
ゴクリと唾を飲み込む。緊張と不安で、心臓が早鐘を打っていた。
やがて、馬車は関所を通過し、再び走り始めた。道はさらに険しくなり、空気は一層冷たさを増していく。そして、数時間後、ついに馬車は一つの城砦の前に到着した。
黒曜石のような黒い石材で築かれたその城は、威圧的で、どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。城壁は高く、窓は小さく、まるで外部からの侵入を一切拒むかのように頑固に口を閉ざしている。これが、氷の辺境伯カシアン・グレイウォールの居城、グレイロック城。
「奥様、ご到着でございます」
御者の言葉に促され、私はゆっくりと馬車を降りた。城門の前には、数名の家臣らしき者たちが整列し、私を待っていた。彼らの表情は硬く、私を歓迎しているようには到底見えなかった。
そして、その中心に立つ一人の男に、私の視線は釘付けになった。
背が高く、肩幅の広い、鍛え上げられた体躯。黒髪を短く刈り込み、その顔には幾筋かの古い傷跡が刻まれている。そして、何よりも印象的だったのは、その瞳。氷のように冷たく、全てを見透かすような鋭い光を宿した灰色の瞳。
彼こそが、カシアン・グレイウォール。私の夫となる男。
彼は私を一瞥すると、感情の読めない声で短く言った。
「……よく来た。セラフィナ・フォン・ヴァレリウス」
その声は、まるで冬の北風のように冷たく、私の心を凍てつかせた。ああ、やはり、この男に温情など期待できるはずもなかったのだ。私の不遇な運命は、まだ始まったばかりなのだと、この時、私は痛感したのだった。
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