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第28話:それぞれの末路、そして光の中へ
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「アルフォンス・フォン・エルグランドよ」
国王は、一度、ゆっくりと目を閉じた。
我が子を、自らの手で断罪する、その辛さに耐えるように。
そして、再び目を開けた時、その瞳には、父親としての情ではなく、王としての、揺るぎない威厳だけが宿っていた。
「お前は、本日を以て、王太子の位を剥奪する」
「——なっ!? そ、そんな、父上!?」
王太子が、信じられないという顔で父を見上げる。
それは、彼にとって、死刑宣告よりも、遥かに重い罰だったかもしれない。
プライドだけが肥大化した彼から、その地位を奪うことこそが、最大の罰なのだ。
「偽りの聖女の言葉に惑わされ、真の聖女を追放し、国に多大なる不利益をもたらした。あまつさえ、ヴァインベルク公爵家に対し、礼を失するばかりか、国家間の争いの火種を作りかけた。その罪、万死に値する!」
国王の叱責が、雷鳴のように響き渡る。
「本来であれば、死罪とするところ……。だが、お前がイザベラに唆されたという点を鑑み、最後の情けをかける。北の果て、聖レクイエム修道院にて、己の犯した罪を、生涯をかけて悔い改めるがよい! 二度と、この王都の地を踏むことは許さん!」
「そ、そんな……いやだ……いやだぁっ! 父上、お許しを! 私は、私はただ、イザベラを愛して……!」
王太子は、子供のように泣き叫び、無様に父に許しを乞うた。
しかし、国王の決意は揺るがない。
騎士たちが、泣き喚く元王太子を両脇から抱え、イザベラと同じように、儀式場から引きずって行った。
こうして、私を陥れた者たちは、その罪に相応しい、惨めな末路を迎えた。
偽りの聖女は、光の届かない牢獄で、永遠に闇を彷徨う。
愚かな王子は、全ての地位を失い、凍てつく最果ての地で、生涯、意味のない祈りを続けるだけの存在となる。
あまりにもあっけない、しかし、当然の結末。
私の心の中に、澱のように溜まっていた、彼らに対するわだかまりが、すぅっと、春の雪解け水のように消えていくのを感じた。
全ての決着がついた儀式場に、静けさが戻る。
残された国王は、まるで十年も歳を取ったかのように、疲弊しきった顔で、私たちに向き直った。
「……ヴァインベルク公爵。そして、リリアーナ嬢。この度のこと、王家として、心より謝罪する。本当に、申し訳なかった」
国王は、深々と、その頭を下げた。
一国の王が、公爵と、平民の少女に。
それは、この国の歴史上、前代未聞の光景だった。
アレクシス様は、それに答えることなく、ただ静かに、私の手を、優しく引いた。
「帰ろう、リリアーナ」
その声は、驚くほど優しく、そして温かかった。
「私たちの、家へ」
「……はいっ」
私は、涙で濡れた瞳で、しかし、満面の笑みで、力強く頷いた。
もう、ここに用はない。
私の居場所は、この虚飾に満ちた王宮ではない。
彼のいる、あの北の大地なのだから。
アレクシス様にエスコートされ、私は、咲き乱れる花々の中を、ゆっくりと歩き出す。
国王も、大臣たちも、騎士たちも、誰もが道を開け、私たちを見送る。
その視線には、畏怖と、そして、真の聖女に対する、紛れもない尊敬の念が込められていた。
儀式場から一歩、外へ出ると、王宮の庭は、私の放った生命の光で、まるで常春の国のように輝いていた。
その光景は、まるで、私たちの新たな門出を、世界中が祝福してくれているかのようだった。
繋がれた手から伝わる、彼の温もり。
もう二度と、この手を離さない。
そう心に誓いながら、私は、愛する人の待つ、本当の我が家へと、帰るのだった。
国王は、一度、ゆっくりと目を閉じた。
我が子を、自らの手で断罪する、その辛さに耐えるように。
そして、再び目を開けた時、その瞳には、父親としての情ではなく、王としての、揺るぎない威厳だけが宿っていた。
「お前は、本日を以て、王太子の位を剥奪する」
「——なっ!? そ、そんな、父上!?」
王太子が、信じられないという顔で父を見上げる。
それは、彼にとって、死刑宣告よりも、遥かに重い罰だったかもしれない。
プライドだけが肥大化した彼から、その地位を奪うことこそが、最大の罰なのだ。
「偽りの聖女の言葉に惑わされ、真の聖女を追放し、国に多大なる不利益をもたらした。あまつさえ、ヴァインベルク公爵家に対し、礼を失するばかりか、国家間の争いの火種を作りかけた。その罪、万死に値する!」
国王の叱責が、雷鳴のように響き渡る。
「本来であれば、死罪とするところ……。だが、お前がイザベラに唆されたという点を鑑み、最後の情けをかける。北の果て、聖レクイエム修道院にて、己の犯した罪を、生涯をかけて悔い改めるがよい! 二度と、この王都の地を踏むことは許さん!」
「そ、そんな……いやだ……いやだぁっ! 父上、お許しを! 私は、私はただ、イザベラを愛して……!」
王太子は、子供のように泣き叫び、無様に父に許しを乞うた。
しかし、国王の決意は揺るがない。
騎士たちが、泣き喚く元王太子を両脇から抱え、イザベラと同じように、儀式場から引きずって行った。
こうして、私を陥れた者たちは、その罪に相応しい、惨めな末路を迎えた。
偽りの聖女は、光の届かない牢獄で、永遠に闇を彷徨う。
愚かな王子は、全ての地位を失い、凍てつく最果ての地で、生涯、意味のない祈りを続けるだけの存在となる。
あまりにもあっけない、しかし、当然の結末。
私の心の中に、澱のように溜まっていた、彼らに対するわだかまりが、すぅっと、春の雪解け水のように消えていくのを感じた。
全ての決着がついた儀式場に、静けさが戻る。
残された国王は、まるで十年も歳を取ったかのように、疲弊しきった顔で、私たちに向き直った。
「……ヴァインベルク公爵。そして、リリアーナ嬢。この度のこと、王家として、心より謝罪する。本当に、申し訳なかった」
国王は、深々と、その頭を下げた。
一国の王が、公爵と、平民の少女に。
それは、この国の歴史上、前代未聞の光景だった。
アレクシス様は、それに答えることなく、ただ静かに、私の手を、優しく引いた。
「帰ろう、リリアーナ」
その声は、驚くほど優しく、そして温かかった。
「私たちの、家へ」
「……はいっ」
私は、涙で濡れた瞳で、しかし、満面の笑みで、力強く頷いた。
もう、ここに用はない。
私の居場所は、この虚飾に満ちた王宮ではない。
彼のいる、あの北の大地なのだから。
アレクシス様にエスコートされ、私は、咲き乱れる花々の中を、ゆっくりと歩き出す。
国王も、大臣たちも、騎士たちも、誰もが道を開け、私たちを見送る。
その視線には、畏怖と、そして、真の聖女に対する、紛れもない尊敬の念が込められていた。
儀式場から一歩、外へ出ると、王宮の庭は、私の放った生命の光で、まるで常春の国のように輝いていた。
その光景は、まるで、私たちの新たな門出を、世界中が祝福してくれているかのようだった。
繋がれた手から伝わる、彼の温もり。
もう二度と、この手を離さない。
そう心に誓いながら、私は、愛する人の待つ、本当の我が家へと、帰るのだった。
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