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 ルガーウルフ狩りを初めて半月近くが経った。依頼の期日まで約二カ月ほどだ。
 なのにまだレア個体を一頭も見つけられていない。

 夜の間に必死に探し回って、陽が登ると同時にテントに戻って寝る。
 そんな暮らしが続いたある日だ。

 ──新月ノ夜ニ探セ。

 眠っているとそんな声が聞こえた──気がした。
 寝ぼけて辺りを見渡しても、いるのはセシリアだけ。
 声は渋みのある男の声だったし、彼女ではない。

 夢か。うん、寝よう。

 新月──新月ね。
 月の出ない夜じゃん。

 んー、今って月はどんなだっけ? まぁいいや。

 目覚めていつものように森を散策して秋の味覚拾い。それから適当に狩りをして、暗くなったら本番へ。
 ふと夢の中の言葉が気になって空を見上げると、今夜は半月だった。
 ただなんとなく……。

「うぅん。セシリア、半月ってあの向きだっけ?」
「ん? 下半月だよ。もうすぐ月が見えない、真っくぁなようになうね」

 下半月……下弦の月ってやつか。
 じゃあ新月に向かって月が欠けてんだな。

 新月の夜に探せ──あれはどういう意味なんだ?

 その日の晩も、レア個体は発見できず。
 翌日眠っている間にまた夢を見た──いや聞いた。

 ──ルガーウルフノ変異種ハ、月ノ出ナイ新月ノ夜ニ現レル。
 ──ソレ以外ハ巣穴カラ出テコヌゾ。

「んー……声だけ聞こえる夢か……お告げかな?」 

 最近は早めに切り上げてくることが多かったせいで、暗いうちから寝て、昼前には起きるようになっていた。

 今夜はルガーウルフ狩りを止めて、別のモンスターを狙おう。
 先日の獣人たちを襲ったホブゴブリンだ。
 奴ら、未だに獣人を探しているのか、時々丘の向こうの平原をうろついているのを見かけた。
 集落まで三日の距離だ。そこまで出向いて行かれると大変なことになる。

「ということで、ホブゴブリン討伐をしようと思う。あいつらって確か光物が好きで集めてるんじゃなかったっけ?」

 言ってから、それはゴブリンだったかなと思いだす。

「んー、分からない。でも退治すうの、賛成」
「よし。とにかく行ってみるか」

 巣穴の場所は聞いてある。平原の北西部で、ちょうどこの森を突っ切った先あたりだ。
 昼過ぎには移動し、森を抜けるのに三時間ほどかかった。
 更に一時間ほど歩くと、山の斜面にホブゴブリンの姿を発見。
 徘徊しているのではない。木々の隙間から、奴の背後に洞窟があるのが確認できた。
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