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「階段……見つけた!?」

 森の迷宮が解放されて三日後、俺たちは下りの階段を発見した。
 
「我々が初の発見者だろうか?」
「さぁ、それは分からねえな」
「魔法陣、なかったら一番乗りね」
「あぁ、セシリアの言う通りだ。キャロン、転移魔法陣用のマジックアイテム頼むよ」
「心得ました。ふふ、ドキドキしますねぇ」

 階段を下りた先に魔法陣があれば、既にどこかのパーティーが到着していることになる。
 無ければ俺たちが一番乗りだ。
 魔法陣を設置すれば報酬も貰えるし、ダンジョンの行動や生息するモンスターの情報、何をドロップするかを伝えれば後日、それにも報酬が出る。

 逸る気を抑えようと思っても、自然を足は小走りになった。

「はぁ……これだから若者は……走ってこけたら痛いじゃすみませんよっ」

 後ろからディアンの声が聞こえた。
 俺たち十代組の、いい兄貴分だよこの人は。

「リヴァ、見た前! 魔法陣が──」

 アレスの興奮気味な声に階下を見る。

「ぃ……やったぁ!! 魔法陣がないぞっ」
「ま、まだ喜ぶのは早いですよぉ。少し横の方に設置されているかもしれないですし」
「そうです。一番下まで降りて、ちゃんと確認してから喜びましょう」

 俺とアレスが真っ先に階段を降り切って、そして左右を確認する。
 顔を見合わせ、二人で笑った。

「なら喜んでもいいよな」
「あぁ、大いに喜ぼう! 我々が一番乗りだ!!」
「よっしゃー!!!」

 互いの拳をぶつけ合い、それから万歳。

「はいはい、喜ぶのはその辺にしてくださいね。キャロン、魔法陣を。右奥通路からモンスターの気配」
「ディアンの兄貴は事務的だなぁ」
「お兄ちゃんの言うことは聞くように。さ、戦闘準備だ。一階のモンスターよりは強くなっているだろうから気を抜かないように」

 とはいえ、直ぐに倒してしまう訳にもいかない。調査、しなければならないのだから。
 まずは外見──。

「昆虫型だな」

 見た目は完全にコオロギだ。あれがもう少し平らだったらGと勘違いするかもしれない。
 コオロギでよかったと思いつつも、そのサイズは大型犬並み。
 視覚的にはやっぱりGと変わらないか。

「さぁて、どんな攻撃をしてくるかなっと──」
「ブラックインセクトのダンジョン版だ。前脚の小さな棘は、一本一本が刃のようになっているから気を付けるんだっ」
「了解。当たらなきゃいいってことだろ」

 どんなに鋭い刃を何十本と備えていようと、二足で立ち上がれないだろうから振り回すのも容易じゃないはず。
 正面でやり合わなければ攻撃は届かないってことだ。

 ブラックインセクトの手前で跳躍し、後ろに回り込む。そのままハンマーで腹を叩く──つもりだった。

『ギチチチチチチチチチチチチチチチチチ』
「ぐわっ。くそ、耳が痛ぇ!」

 耳、そして頭も割れそうだっ。
 羽根を擦り合わせて音を出してるのかよっ。本物の虫みたいなことしやがって、クソが!
 こちらがふらついている間に、コウロギ野郎が回れ右をして俺の方に。

 が、直後に奴の羽根が宙を舞う。

「リヴァ、今!」
「あぁ、助かった。サンキュー、セシリア」

 セシリアの風の魔法が、ブラックインセクトの羽根を根元から切り裂いていた。
 羽根を失えば音は出せない。
 じわじわ痛ぶってみたが、他に特殊な攻撃手段はないようだ。

「もう止めさしてもいいか?」
「うん、そうしよう。どうやら地上のブラックインセクトと変わらないんじゃないかな」

 アレスの一言で、ハンマーから短剣モードに持ち帰る。
 そして頭部を一閃。

 首を切り落とされたブラックインセクトは、ピクピクと痙攣した後、しばらくしてどぉっと倒れた。
 死体が解けるようにして地面に吸い込まれると、残ったのは半透明の魔石だった。

「虫は明かりに寄って来るとは言うけど、コオロギもそうだっけ?」
「はは。ドロップする魔石はランダムだからね。たまたまだろう」
「ちなみにコオロギも明かりに寄ってきますよぉ。あ、魔法陣の設置、出来ましたぁ」
  
 これで設置報酬ゲットだな。





 地下二階は、森林エリアのようだった。
 階段を下りてすぐは洞窟だが、左右の道をどっちに進んでも五〇メートルほどで角があり、それを曲がるとすぐに外へと出る。
 出た先が森林だ。
 木々が生い茂っているのでマッピングは難しいだろうな。

「あまり先へは進まず、情報を集めたら一度上に戻りませんか?」
「ディアン様の意見に賛成です。これじゃあ方角もまったく分かりませんしぃ」
「私はどちらでもいいが、リヴァたちはどうだい?」

 どこを見ても木、茂み、木、茂みだ。方角を知る材料になりそうなものが確かにない。
 目印になるようなものを立てることもできるが、その材料がないしな。一度上に出てそれを準備した方がいいかもしれない。

「分かった。いったん上に出ようぜ。で、美味い物が食いたい」
「お風呂も入りたい」
「あ、それいいですね! 私も入りたいですぅ」
「はは、風呂が出来ているといいんだけどね」

 残念ながら、俺たちが出発した三日前には──なかった。

 道を引き返して魔法陣まで戻って来ると、二番手らしきパーティーがいた。

「クソ! だからあの時、右の道だと言ったんだ!」
「バ、バーロン様が左だと仰ったではないですかっ」
「貴様っ、俺に口答えする気か!?」

 ……あぁ、嫌な奴らに遭遇しなたぁ。さっさと上に上がりたいのに。

「また侯爵家のご子息だね。嫌な縁があるようだ」
「縁なんてのはいいものだけ来てくれればいいんだけどなぁ」
「はは、同感だ」

 奴らは無視してさっさと魔法陣に乗ってしまおう。

 向こうもこちらに気づき、またもや睨んでくる。

「勝ったと思うな! 本当だったら僕らが一番にここに来ていたのだからな!!」
「二番目おめでとう。次は一番目指して頑張れよ。俺たちは上に戻るから、そっちが有利だぜ」
「くっ。き、貴様あぁぁーっ!」
「バーロン様、止しましょうよ。スティアン様に叱られますってっ」
「えぇい、うるさい! 奴らに分からせてや──」

 その先は何を言ったのかは分からない。
 奴のセリフを聞き終える前に、魔法陣で地上に戻ったからだ。

 そして地上の魔法陣から出て来た俺たちは、周辺にいたギルド職員や冒険者らに拍手で迎えられた。
 

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