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23:擬人化

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 ブラックドラゴンが立ち去ってから五日間。
 戻ってくるかもってのを考えて、俺たちは砂漠に滞在した。町にいるときに襲われたら、関係ない人にまで被害が出るからなぁ。
 けど、ブラックドラゴンが戻ってくる気配はない。
 よく分からないけど、諦めてくれたんだろうか。

 町へ戻ったのは更に二日後だ。

「ジャイアントバジリスク!? あなた方がバジリスクを倒した方だったのですね」

 ギルドに素材を持って行くと、それを見た職員が立ち上がる。
 
「おかげでモンスターたちを町から遠ざけることが出来ました。職員一同、感謝いたしますわ」
「あー……ども。えっと、買取お願いします」
「あ、はいっ。もちろんです」

 カートが拡張できたおかげで、素材の量も多い。
 贅沢言えば5トントラック並みの大きさまで拡張してくれればなぁ。

「やぁ。君たちがジャイアントバジリスクを倒した冒険者か。見たところ二人のようだが、パーティーには入っているのか?」
「え?」

 急に声を掛けられた。
 と思ったら──

「よかったら俺たちのパーティーにっ」
「おい、先に声を掛けたのは俺だぞっ」
「ねぇ、私たちのところに来ない? 女の子連れだもの。男ばかりのパーティーじゃ彼女のことが心配でしょう?」
「そういう意味だそりゃ。逆にあんたんところだと女ばっかりだろうっ」
「ってことで、我々のパーティーはどうだい? うちは男女二人ずつでバランスもとれているよ」
「そう言うならうちだって!」

 ちょっ。え?
 あっという間に俺たちは囲まれてしまった。
 いったいいくつのパーティーが勧誘に来てんだよ。

 一方的にばんばん話しまくる冒険者たち。
 でも俺、冒険者じゃなくって一般キャンパーなんだけど。しかもキャンパー歴数カ月。初心者同然だ。
 
 それに、パーティーならもう入ってるしな。
 俺のこと、銀次郎のこともある。事情を知る人間を増やす必要はない。

「あ、お待たせしまし……た……。えっと、大丈夫でしょうか?」
「あ、どうも。大丈夫です」

 査定額は驚きの金貨十五枚。
 ジャイアントバジリスク二頭のうち、一頭はブラックドラゴンが踏みつけてしまったのでスプラッタに。
 俺が倒した一頭も、鱗が凍り付いて状態のいいものは少なかった。
 それでもこの値段だ。

「もう少し体を傷つけないような倒し方がないかなぁ」
「大型モンスターでは難しいでしょうねぇ。それに、素材を傷めずに剥ぎ取れるようでしたら、買取価格はもっと下がりますよ」
「取れる数が少ないから高額、か。それもそうか」
「はい。それで……どうされます、後ろの冒険者さんたち?」

 言われて振り返ると、さっきより人数が増えている気がする。
 
「そんなに冒険者って、人手不足なのか?」
「そういう訳ではないのですが……。えぇっと、タックさんでしたよね、お名前」
「あ、あぁ」

 拓海なんだけど、アイラがタックって呼んでるの聞いたんだろう。

「タックさんは魔術師ですよね? しかもかなり腕の立つ」
「え、俺が魔術師?」
「魔法、お使いになりましたよね?」
「あぁ……はい」
「魔術師は冒険者の中で、最も少ないので。特に範囲魔法が使えるような術者は更に少ないですからね」

 それでみんな必死なのか。
 でも俺──

「俺、魔術師じゃないんで。そもそも冒険者じゃないし、仲間ならもういるから必要ない」
「そ、そうですか。だそうですのでみなさん、しつこく勧誘なさらないでくださいね」

 ギルドの職員のお姉さんがそう言うと、集まった冒険者たちが残念そうに解散した。
 が、何パーティーかは残ったままだ。
 なんか獲物を狙うハイエナみたいで怖い。

 お金を持って外に出ると、中を覗いていたアイラが心配そうに駆けて来た。

「なんだか大勢に囲まれてたけど、大丈夫?」
「ん、平気だ。ただのパーティー勧誘だよ。それよりさ、まとまったお金が溜まったし、山越えの準備をしようと思うんだ」
「ほんと!? よかった」

 これでアイラにまともな武器を買ってやれる。
 まずは防寒具を買うために店へと移動。
 すると数組の冒険者パーティーが、俺を追ってやってくる。

 あぁあ、こういうしつこい奴ら嫌いなんだよなぁ。
 そういう行動がマイナス印象与えるって、わっかんねいのかねぇ。

 すっとひとりが俺たちの前に躍り出る。

「やぁ、タック、だっけ?」
「違います」
「え、違うってさっきは──」
「しつこいのは嫌いなんで」
 
 無視して行こうとしたが、ひとりが俺の腕を掴んだ。

「まぁ話ぐらい聞けって。俺たちはこの砂漠の町ゾッソを拠点に活動している冒険者パーティーだ」
「俺たち、山を越えて北を目指しているんで。それじゃあ」
「ちょ、だから待てって!」

 男の腕に力が加えられたのが分かる。

「うっ……な、なんだ。なんでビクともしない」
「掴んでるだけなら離してくれないか。男と腕を組む趣味なんてないんだからさ」
「くっ。ま、魔術師のくせに、なんてバカ力なんだっ。この野郎!」

 ぽこんっと男が俺の顔を殴った。
 おいおい、パーティーに勧誘しようってのに、なんで殴るんだよ。
 力で相手を支配しようってのか?

「タ、タック!?」
「やっぱりタックって名前なんじゃねーか!」
「いえ違います。タックはただ呼びやすくするためのあだ名。あんたらに気安く呼ばれたくないね」
「ぐっ……くそ! 優しくしてやってんのに、調子に乗るな!」

 え、これが優しくしてるのか?
 またまたご冗談を。
 なんて思っていたら、ふいに背中を引っ張られた。

「こんなドラゴンモドキなんか連れやがって!」
「おいっ。突然脈絡もなく銀次郎を──」
「グギャッ!」

 小人ドラゴンのフリをした銀次郎が、抗議の声を上げて男に噛みつこうとした。
 だが、その前に男は吹っ飛んだ。

「下賤な雄め。その方に触れることは、わたくしが許しませんわよ」

 静かに、だが反論を許さないという圧を発して立つのは、漆黒の髪に褐色肌、瞳だけが金色に輝く美少女。
 冒険者だけでなく、道行く人たちも足を止めて彼女に見惚れた。

 俺だけが彼女を呆れた顔を見つめる。

 どこからどうみても人間にしか見えないけど、俺は確信している。

 こいつは──ブラックドラゴンだ!
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