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 自動運転の車が普及したこの時代。
 極稀に発生する、自動運転装置の故障による事故。
 まさにその事故の被害者となった俺は、右手を骨折。腕だけならまだしも、指まで折れていた。
 あぁ……作りかけの模型が七つと、母さんに頼まれていたDYI、最近興味が出たビーズアクセサリその他etcetc……。

 何も作れない……こんな地獄ってあるだろうか。 

「だったらさ栗木、VRゲーやればいいんじゃね?」
「なんでそうなる?」
「いやさ。昨日から始まった新作の『FreeStyle Adventure』ってのがさ、物作り系スキル満載だった――」
「何それ今すぐ詳しく聞かせてお願いします教えろ」

 俺は大学の友人に掴みかかり詰め寄る。

 こうして有力な情報を入手し、大学の帰りには家電量販店へと向かった。
 VR専用のバイザーと、『FreeStyle Adventure』というゲームの登録用プレイチケットを購入するために。

 骨折したことでアルバイトも出来なくなり、かわりに時間が出来た。
 骨折したことで、加害者と車のメーカーから治療費と慰謝料も入る。

 完璧だ!

 意気揚々と自宅へ帰ると、左手一本でなんとかセットを行う。
 バイザーには個別コードがあって、それをゲームのクライアントに認識させなきゃならなかった。
 認識完了まで十分程度掛るみたい。
 じゃあ今のうちに公式サイトを少しでも見てみようっと。

 と思ったけど、ほとんど情報が何もない!?
 わかったのは、固定された職業というものがなく、持っているスキルで自由にプレイできるってこと。
 キャラクターのレベルもなく、あるのはスキルレベルのみ。
 ステータスは筋力と耐久、魔力の三つだけ。
 重い物を持ったり運んだり、振り回したりすれば筋力が上がり、ダメージを受けていれば耐久が。魔力はもちろん、魔法を使えば上がる。
 わかりやすいと言えばわかりやすい仕様かな。

 物語の背景としては、未開の地を開拓し、冒険の舞台を切り開け――か。
 よぉし、切り開こうじゃないの!

 他に情報といえば……登録キャンペーン?
 あ、認識終わったみたいだ。さっそくログイン!





『ようこそ、『FreeStyle Adventure』へ。これよりキャラクター作成のサポートをさせていただきます』

 ログインボタンを押して少しすると意識が遠のき――と思ったら草原に立っていた。
 キャラクターを作るとかいう声が聞こえるから、ここは俗に言うログインロビーって所だろう。

「は、はじめまして。栗木 望と言います。VRゲームは初めてです」
『初めましてクリキノゾムさん。私はサポート専用ですので、アバターの無いAIとなります。声《・》だけであることをご了承ください』
「あ、はい」

 凄いな。AIってことは人工知能だよね。
 キャラクター作成のサポートもしてくれるのか。
 いろいろわからないこともあったし、これなら安心できる。

 まずキャラクター名を決めることから始まった。
 ここは安直ではあるけれど、自分が覚えやすいという意味も込めて『クー』にした。
 栗木の「くー」だ。

 次が大問題になるスキルの選択。

「何をどう取ったらいいのか、さっぱりわからないんだけど……」
『クー様はVRゲーム初心者ということで、こちらでいくつか質問をさせて頂きます。その解答や会話の流れから、お勧めのスキルを一覧に致します』
「おぉ、助かる。ありがとう」
『いえ、これも仕事ですから。それでは……クー様はこの『FreeStyle Adventure』でどういったプレイをなさりたいのですか? 例えば――』
「物作りがしたい! どんなものが作れますか!?」

 姿の見えない声だけの存在に、俺は興奮気味に尋ねる。
 何が作れるんだろう。どんな物が造れるのだろう。むしろ創れる!?
 そう考えただけで顔が緩んでしまう。

『凡そファンタジーの世界で作れそうな物でしたら、時間と資材とがあれば作成可能です』
「ほんと!? じ、じゃあ自分で家を建てたりとか?」
『もちろんです。なんでしたらお城の建築も可能ですよ』

 はい城頂きましたーっ!
 金のシャチホコは必須♪
 でもそうなると、金が必要な訳で。きっと砂金や鉱山から金鉱石とか集めなきゃいけないんだろうな。
 あぁ、それすら楽しそうじゃん。
 もうにやけちゃうね。顔緩みっぱなしだね。

『……物を作られるのが好きなようですが、ゲーム内での冒険などは如何ですか?』
「あ、はい。物を作るためには素材やお金が必要です。それらを手に入れるために、モンスターと戦うのも仕方ないかなーと思います」
『では冒険と物作り、比重はどのくらいで?』
「うーん……出来れば8:2で物作りメインにしたいんですが。残り2の冒険で素材が集まるか不安もある」
『素直な気持ちをお聞きしたいので、今の回答で十分です。それでは――お勧めスキルのリストをお作りしましたので、ホログラムディスプレイに投影いたします』

 AIがそう言うと、直ぐに可視化されたスキルリストが浮かび上がった。
 お勧め……とは言うけど、それでも50近いスキルがあるんですけど。

『生産に関わるスキルは全てお出ししております。また素材集めに役立つ戦闘系スキルも一部お勧めに入れております』
「そっか。このスキルの横にある括弧内の数字は?」
『獲得に必要なスキルポイントとなります。最初に与えられるポイントは100。全て消費して多くのスキルを獲得することも出来ますし、ポイントを残すことも出来ます。ただし――』

 ここで紹介されたスキルは、ゲーム内でも獲得が可能。だけど必要ポイントがここでの十倍以上に膨らむとAIは教えてくれる。
 欲しいスキルは今この場で取っておいたほうがいいってことか。

「戦闘スキルのほうが、必要ポイントが多いんですね」
『はい。最初から様々なスキルを使って強くなり過ぎる方が、冒険らしくございませんから』
「そっか。そりゃあそうだな。段々と強くなっていくから楽しいんだろうし」

 俺は段々と作れる物がグレードアップしていくのを想像するだけで、涎が出そうです。

『スキル獲得後、登録キャンペーンである【ユニークスキル】のランダム付与を行わせて頂きます』
「え? ユニークって、唯一のとか、珍しいっていう意味の?」
『はい。ただここでの【ユニークスキル】は違う意味として受け取って頂けると助かります。具体的に申しますと――』

 今現在、プレイヤーが獲得できるスキルは、初期スキルだけ。それだけで100種類以上あるのだけど。
 それらスキルを極めていくと、上位スキルが発生したりもする。もちろん上位スキルにも必要ポイントがある。

 ちなみにスキルポイントは、モンスターを倒すと貰える仕組みになっている。

『スキルは全部で五段階。キャラクター作成時に獲得できるのは五段階中の一段階目。キャンペーンで付与されるのは、二段階目と三段階目の中からランダムで決まります』
「じゃあちょっとだけ良いスキルを、最初からひとつだけ貰えるってことなんですね」
『はい。キャンセルは九回まで受付ておりますので、好みのスキルが十回以内で出ることをお祈りいたします』
「そっか。じゃあまずは100ポイントを使って、欲しいスキルを選ばなきゃな」

 お勧めのスキルの説明をひとつずつ聞き、いろいろ悩んだ結果取ったスキルはこれだ。

*********************************************

 名前:クー
 HP:100/100  MP:50/50
 筋力:1  耐久:1  魔力:1

【獲得スキル】
『夜目:LV1』『鷹の目:LV1』『逃走:LV1』
『採取:LV1』『掘削:LV1』『採掘:LV1』『伐採:LV1』
『調薬:LV1』『加工:LV1』『製錬:LV1』『錬成:LV1』
『分解:LV1』『錬金:LV1』『成形:LV1』『解体:LV1』
『木工:LV1』『大工:LV1』『栽培:LV1』『農耕:LV1』
『石工:LV1』『釣り:LV1』『鑑定:LV1』

*********************************************

 これで100ポイント全部使いきった。
 ゲーム内じゃあ必要ポイント十倍以上だし、残しても勿体ないだけ。
 それにしても、随分たくさん取れたなぁ。
 最初の三つは戦闘系スキルだからなのか、必要ポイントは5~10と多い。
 残りは全部生産系で、3~5ポイントだ。生産重視にしたから沢山取れたんだろうな。
 武器攻撃のスキルとか、魔法スキルとか、軒並み10ポイントだし、こういうので揃えるとスキル十個がせいぜいなんだろう。

『見事に物作り特化ですね。今後、ステータス等の確認はスマホから行ってください』

 うん。モンスターと戦える気のしないスキル構成だ。
 問題ない。
 力仕事をすれば筋力が上がるって書いてあったし、物作りしながらステータスupだって出来るんだ!

『それでは【ユニークスキル】の付与を行います。そちらの箱から紙を一枚、お引きください』

 くじ引き形式!
 うん、わかりやすいけど……。
 突然現れた箱から紙を一枚引き抜く。金色で縁取られた紙だった。

『おめでとうございます! 三段階目のスキル『ライトニング』でございま――』
「却下。次」
『……攻撃魔法の中でも、派手なエフェクトで人気のある雷属性ですのに。あ、お次は第二段階のスキル『アロー・レイン』で――』
「却下」
『物理攻撃スキルの中でも、比較的早く登場する範囲スキルです。最初から範囲攻撃があると、冒険がとても楽になりますよ?』
「俺が欲しいのは物作りスキルの上位版!!」

 そうして次々と攻撃系スキルばかりを引き当てていく。

「次――が最後なんだよね。もし希望する物が最後まで出なかったら?」
『……スキルポイント10を付与させて頂きます』

 まぁそれでもいいか。

『お、おめでとうございます! 三段階目『獣魔召喚』です!』
「却下」
『お待ちくださいっ。こ、このスキルは貴方にとって必要になること間違いなしです!』
「え、どうして?」
『攻撃スキルをお持ちでないでしょう? このスキルは獣魔族モンスターを一体召喚し、使役するものです』
「ふむふむ」

 召喚したモンスターは当然ながら戦闘も出来る。
 そして何より――。

『ろ、労働力にもなるんです! 物作りを手伝って貰うことだって、出来るかもしれませんよ?』
「ほんとに!? じゃあ決定」
『ほっ。では『獣魔召喚』を付与させて頂きます。では最後にクー様のアバターを決めて頂きます。サポートを受けられますか?』
「お願いします」

 そして出来上がった俺のアバターが目の前に現れる。
 浅黄色の髪と緑色の瞳をした人間の男だ。
 すこぶるイケメンではないが、それでも実物よりは美形に作られているな。

『身長や体格を弄ることも可能ですが、どういたしますか?』
「リアルの身長が183センチと長身なんだけど、身長は弄ると体感が変わると聞いたし……」
『左様でございますね。身長は大きく弄りますと、距離感が掴み難くなってしまうかと』
「じゃあこのままで。出来れば筋肉をすこーしだけ盛って貰っていいですか?」
『畏まりました』

 おぉ。腹筋が少しだけ割れた!
 憧れだったんだよー、腹筋。
 プラモとか模型作りやってると、インドアな印象持たれてさぁ。
 そういうの、俺は嫌なんだよね。

「いい感じ。これで決定で」
『畏まりました。それではアバターの作成を完了し、意識の移行を行います』

 すると俺の視界が一度暗転。再び光が灯ると、アバターが無くなって……いや、俺の意識がアバターに移ったのか。
 まぁ自分の姿を確認するには、鏡でもないと無理な訳で。

『それではこれより――』
「よし! じゃあ早速っ――"獣魔召喚"!」
『え? ここでそれしますか? いや出来ますけど―』

 驚いたようなAIの声が聞こえたけれど、俺は突き出した拳から放たれる光に魅入っていた。
 光はやがて収束し、形を成す。

『あ、おめでとうございます。『ワイルドウルフキング』です。魔法は使えませんが、戦闘能力が高く、力自慢の獣魔です』

 AIの紹介が終わった瞬間、ガラスが弾けるような音がして一匹の獣が現れた。
 それは二足歩行の狼。
 でも狼男とか、そういう類には見えない。
 もっとコミカルな、それでいてカッコ可愛い感じか。

『ワオォォォォォォォォォン!!』

 顔を上げ遠吠えするその姿はとても頼りになりそうだ。

「一緒に物作り、頑張ろうな!」
『ワオオォォォ……ォ?』
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