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「工房を建てますかミャ?」
「うん。それがあった方が製造効率上がるって!」
「はいミャ。ではどこに建てますかミャ?」

 ミャーニー宅で、彼が開く土地区画マップを見て俺たちは悩む。
 ここに居るのは俺とワオール、ドミンゴ、そしてメネネトさんだ。

「意外と狭いデスね」
「そうだなぁ。武器防具屋と雑貨。今はここが中心だけども、クーはまだ広げるって言ってたよな?」
「あぁ。拡張しなきゃ町にはならないからな」

 だがここでふと俺は気づいた。
 にゃんごたちの店を中心に保つ為には、東西南北等しく拡張していかなきゃならないことを!
 そしてドミンゴとメネネトさんが、工房は中心部よりも離れている方がいいと言う。
 何故か?

「何故っていうか、だいたいそんなもんだよな」
「そうデスね。どのゲームでもこういう施設は、中心部から離れた所によくあります。全てではないデスが」

 うぅん。中心部は買い物エリアになるだろ?
 作ってすぐ売りに行けるって、いいと思うんだけどなぁ。
 それに今のクエストだと、中心部から離れたところでたかが知れてる距離だ。
 拡張すれば当然、中心部もずれていく。
 いや、可能な限りあの場所を中心にしたいけど。

「どちらにしろ、今のこのクエストの規模でしたら、どこに作ってもあまり変わりミャせんミャよ」
「そうそう。近いうちに壁も拡張するけどさ、でもその前に工房作っておこうよ。小さいのでいいからさ」
「うぅーん。まぁ確かに壁の拡張とかからやってたら、工房出来るのはずっと先になるだろうな」
「なるほどデスね。ところでここを拠点にしているプレイヤーは、何百……あー、何十人ぐらいなんデスか?」

 何十?
 ドミンゴとミャーニーと顔を見合わせ、それからメネネトさんを見て俺たちは顔を振る。

「十人もいねーよ」
「残念ながらいませんミャ」
「NPCの方が多いぐらい」

 と、俺たちは口々に言う。
 その時のメネネトさんの顔は、まるで人形のように生気のない顔だった。





 工房はまったく手付かずの区画、壁に近い位置に作った。
 敷地面積は雑貨屋や武具店と同じ面積。
 樫の丸太の皮を剥ぎ、そのまま柱として使ったので加工の手間無し。あとは屋根組を造って完成だ。
 足元はやや薄めの煉瓦を敷き詰め、その上に作業台をいくつか設置した。同じく竈も。

「鍛冶で使う窯は異次元ショップから購入します。あと井戸も」
「え? そんな物まで売ってるのか!?」
「はい。これは私が購入しますね。私の我が儘で作って貰ったのデスから」
「で、でも……」

 異次元ショップってことは、課金だろ?
 そんなものをひとりに出させるなんて……。
 だけど既に彼女は異次元ショップを見ているようで、俺には見えない何かの操作をし始めた。
 そしてポンっと小型の窯が出現する。

「これ一つで同時に十人まで作業が出来るんデス」
「え……どう見てもひとり用……」
「そこはゲームデスからね。気にしたら負けデスよ」
「そうそう。クー、早くMMO慣れしろよ」
「クーさんって、初心者なんですか?」

 頷くと、メネネトさんが珍しい物でも見るような目を向けてくる。
 いや、誰だって最初は初心者でしょ?
 め、珍しくなんかないじゃん。

「とまぁおいといて、あとは井戸――は、屋根の無いところでもいいデスね」
「まぁ水を溜める為のものだし……て、課金アイテムにそんな物まであったとはなー」

 そんな感じで井戸もポン。
 異次元ショップを見ると、どちらも2500円と高額……。
 お、俺だって工房を必要とする者のひとり。
 なにか……なにかお役に立たねば。

「あ……流し台?」
「それはあっても無くてもいいんデスよ。裁縫や調薬で、素材を洗う工程もあるデスよ。でもザルに入れて、井戸水で洗えばいいデスから。ちょっと手間はかかるデスけどね」
「手間……」

 でもその些細な手間が、少しでも無くなるのは嬉しい。
 こっちは若干安くて2000円か。

 俺が使う。
 俺が使う。
 俺が使う。
 
 だから……ゴクリ。

 ポチった。

「えぇぇ!? な、流し台買ったんですか!?」
「うわー、人生かけてる奴はやっぱ違うなー」
「ふへ……ふへへへへ……か、買ったじええええぇぇぇぇっ!」
『ウオッホオォォォォォッ!』

 課金残高、残り4500円……。





 ゲーム内では夜が明け、リアルでは夕方になる時刻。
 狩りに出ていた二組が戻ってきて、メネネトさんを紹介した。

「生産スキルは鍛冶と皮。あとは採掘と掘削デス。まだレベル1ですし、素材が無いので本格的にやるのは、まだ先になりますが、よろしくお願いしますデス」
「「よろしくお願いしまーす」」

 双子と渚さんの声がハモる。その後でユキト君の小さく「よろ」という声が聞こえた。
 
「な、なんだかその……テレますね、こういうのって」
「え、そうなの?」
「そもそも初めの町で、こんな少人数しかいないなんて有り得ないデスから」
「あ、ここ町じゃあ――」
「わかってます」

 そう言ってメネネトさんは笑った。

 それから双子は夕飯落ち。渚さんもだ。
 メネネトさんが筋力上げの為に採掘をしたいというので、ドミンゴとユキト君が護衛をして隠しダンジョンの入り口へと案内。
 穴の底も石なので、十分採掘できる。

 俺は夕飯まで伐採しようかな。
 夜はもう一軒家を建てて、その後はワオールを暴れさせてやろう。

 狩場までの時間が掛かるのがなぁ……。
 テレポート欲しいけど……スキルポイントがなぁ。

 駆け足でもあの森まで二十分ちょい掛かる。
 全力で走ればその半分以下になるだろうが、いかんせんHPのペナルティがなぁ……。

「けど、50メートル走ってマイナス1……だよな」

 防具のおかげでだいぶんHPも増えた。
 どのくらい減るかわからないが、100ぐらいなら平気なんじゃ?
 ポーション飲めばいいんだし。そのポーションだって自前で用意できるんだぜ。

「あれ? 全力で走ってもいいんじゃないか?」

 考えたって埒が明かない。
 わからないなら、やってみるべし!

「ワオール、走るぞ!」
『ワホンッ』

 植林場は近すぎる。
 だから俺は走った。
 森に向かって――そして――。

「HP、50も減らなかったな」
『ワオン』
『ゲギャギャ』
「それに息も切れてない」
『オォンッ』
『ゲッギャーッ』
「五月蠅いなぁもうっ。俺は伐採しに来てんだよ!!」
『ギャッギャッギャーッ!』

 振りかぶった斧は、木こりの斧だった。

「ああぁぁっ、耐久度減ったじゃないかっ!! くっそ、くたばれゴブリンっ」
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