器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔

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8:パーティーに加えますか?

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 呼び出してもいないのに、突然浮かんだステータスボードに焦った。
 ルナをパーティーに入れますかだって? いったい、どういうことなんだ。

「ど、どうしたのよ?」
「うにゃ~?」
「え、いや……」

 あれ? 二人にはステータスボードが見えていないのか?
 見えているなら驚くと思うんだけど、そんな様子もまったくない。

「あの……手、離してよ」
「手? あぁ!? ごめんっ」

 彼女の手を握ったままだった。
 慌てて離すと、ステータスボードも消滅。手を握ることが前提なのか?

「ルナ、も、もう一度握手しないか?」
「へ? い、嫌よっ。気持ち悪いっ」
「き、気持ち悪い!?」

 気持ち悪いなんて言われたの、初めてだ……ちょっと、いやかなりショック。
 そんな俺の腕を引っ張るにゃびが「おいにゃも」と手を差し出す。

「あ、あぁ、にゃびもよろし──出た!」
「にゃー?」

 さっきとは浮かんだ文字が違う。



【ネコマタにゃびは従魔ですが、パーティーに加えますか?】
【はい / いいえ】



 従魔もパーティーに加えられるのか。
 あ、消えた。

 握手して満足したにゃびが、俺の手を離したのが原因らしい。
 やっぱり握手なのか。

 うぅん、ステータスボード上でパーティーを組めるってことなんだろうか?
 いや、それしかないよな。

 パーティーを組むと、相手のステータスも見えるようになるとか?
 相手が持っているスキルが分かれば、それに合わせてこちらも動きやすくはなる。
 特ににゃびはこれから一緒に行動するんだし、パーティーに入れてもいいかもしれない。
 一時的だけど、ここを脱出するまではルナも……。

 でもどうやって握手する?
 さっき気持ち悪いって言われたばかりだし。

 ちょっと時間を開けよう。





「調味料も全部私の背負い袋の中にあってよかったわ」
「あぁ、久しぶりにちゃんと味のする料理だ」
「そういえばあんた、荷物はその包と腰のポーチだけ?」
「あー、俺、元々は荷物持ちだったんだけど、その荷物も全部持っていかれてさ」

 リーダーのルイックは、一階を攻略中に拾ったドロップアイテムすら手放したくなかったってことだ。

「せっこい連中ねぇ」
「パ、パーティーと言えばさ、地上に出るまで俺とパーティーを組まないか?」
「わ、私と!? なんでよ、私と組んで、あんたにどんなメリットがあるって言うのっ」
「うーん、メリットか……。ひとりじゃないって、ことかな?」
「は? な、なによ、それ。バカじゃないの」

 気持ち悪いの次はバカか……俺、よっぽど嫌われてるみたいだな。
 落ち込む俺の袖を、にゃびが掴んでくいくいっと引く。

「ルナは人間にいっぱい騙されたにゃ。だからきっとロイドのことも、信用できにゃいんだにゃあ」

 彼女が騙された?
 騙されて奴隷になった、とかだろうか。

 奴隷ってのは借金の形だったり、口減らしに売られたりするのが一般的だ。
 一般的であって、そうじゃない方法で奴隷にされる人もいるのは間違いない。
 ルナは後者の方なんだろうか。

「ルナ。俺のことを信用しなくてもいい。だけど地上に出るまでの間だけ、協力してくれないか?」
「……協力?」
「そう。協力だ。俺、ここまで上がってくるまでに、二週間以上かかってるんだ。ロクな食事も出来ず、ずっとひとりでさ」

 俺も騙された。
 たった半年とはいえ、仲間だと思っていたんだ。
 適正職のない俺でも、パーティーに加えてくれた四人をずっと仲間だと思っていたんだ。
 出来ることを必死にして、少しでも恩を返せるように頑張った。

 ライザの魔力が枯渇気味の時には、プチ・ヒールでみんなを治癒し、ブレンダの代りにプチ・ファイアで敵を釣り、後衛の二人が襲われそうになったら短剣でモンスターの足止めをした。
 野宿での見張りだって、俺は他の四人より長くやってたし、清算の分配だってみんなより少なくても文句のひとつも言ったことがない。
 俺は戦闘ではそれほど役に立てていないから、その自覚があるから。

 彼らを仲間だと思っていたから、それでもいいって思えていたんだ。

「俺も人を信じるのが怖いよ。また裏切られて、今度こそ死ぬんじゃないかと思ってね」
「わ、私が裏切るっていうの!?」
「怖いのは人間だ。普段は優しく話しかけて来るのに、突然掌を返すんだ。そして笑顔で『ごめんね』って言うんだぜ。そう言って、俺を見捨てて自分達だけ逃げるんだ。俺が何十匹ものモンスターに追われていても、笑っていたんだ、あいつらは」
「ぅ……」
「人間……怖いにゃあ。あいつらは笑ってはいにゃかったにゃ。凄く怯えていたにゃ」

 ルナとにゃび、それとコポトを見捨てた奴らのことか。
 怖くて、それで自分たちが助かりたい一心で三人を見捨てたんだな。

「地上に出るまでの、協力は……するわ。私だって外には出なきゃいけないし。でも……パーティーのことは、少し考えさせて」
「あぁ、もちろんだよ。ありがとう、協力してくれて」

 その日は階段でそのまま野宿することに。

「じゃあひとりずつ、交代で見張りってことでいいかな? にゃびも出来るのか?」
「出来るにゃ」
「んー、じゃあルナ、俺、にゃびでいいかな」

 彼女とにゃびがしっかり眠れるように。
 
 二人が頷き、さっそく俺とにゃびが眠ることに。
 硬い床で眠るのにも慣れた。
 幸い、ダンジョン内は特殊階層を覗いて、一定の温度に保たれている。だから毛布がなくても、服をしっかり着ていれば風邪をひくこともない。

「にゃ、にゃ」
「ん、にゃび?」

 階段の踊り場で横になる俺の懐に、にゃびが潜り込んで来た。
 そのまま体を丸めると、小刻みに震え始める。

 主人の──いや、親友の死を思い出して悲しんでいるのかな。

 背中を優しく撫でてやると、にゃびの震えは止まって──そして寝息が聞こえ始めた。





「そろそろ交代するよ」
「もう?」
「うん。誰かが見張りをしてくれているっていう安心感のおかげで、久しぶりによく眠れたよ」

 安全地帯にいたって、ひとりだとやっぱり心細かった。
 にゃびが温かかったこともあって、短い時間だけどぐっすり眠ることが出来た。

「そう……野宿はあと二回で済むと思うわ」
「町に戻ったら、柔らかいパンと野菜たっぷりの料理が食いたいな。あと風呂に入って、ベッドで眠りたい」

 今の俺にとって、何物にも代えがたい贅沢だ。
 モンスターからのドロップアイテムは、高そうな奴だけいくつか持って来ている。
 にゃびとルナもいるから、もう少しアイテムを拾って帰れそう。
 三人が数日泊まれるぐらいの稼ぎにはなるはず。

「あの……考えたんだけど」
「ん?」
「だからその、パーティー……のこと」
「あ、うん」

 ルナはそっぽを向いて俺から視線を逸らし、ぽつり、ぽつりと話を始めた。

「私の故郷は、ここから西に十日ほどの森にあるの。兎人の集落よ。その森は元々、人間の領主の土地だった」

 だけど領主は特に開拓する訳でもなく、ほったらかしにしていた。
 そこで兎人が森をにモンスターが住みつかないよう管理するから、移住させて欲しいと頼んだ。

「近くの村が時々モンスターに襲われていたし、領主は兎人の居住を許してくれたの。それが一五〇年ぐらい前の話よ」
「へぇ。その森にはモンスターがいないの?」
「住んでいたのはゴブリンとコボルトだったから、ご先祖が退治したから今はいない」

 兎人は約束を守った。
 森で薬草を栽培し、それをタダで人間に分けるなどして助け合ってくらしていたそうだ。

 それが一年前、突然──

「新しい領主が来て、勝手に領地内に住み着くことは許さないと」
「え、約束を破ったってこと?」

 彼女は頷いた。
 一五〇年ほど前の領主との取り決めは、ちゃんと書面で残っている。
 だけどそれすらも、

「あいつは『そんな紙切れは存在しない』って。集落にも写しはあるのに、それを見ても『デッチあげるためのものだろう』って」
「それ、分かっててやってるんだろうな。兎人を追い出すために。でも追い出してどうするつもりなんだ?」
「追い出したいんじゃない。お金が欲しいのよ」

 この先も森で暮らしたいなら、土地代を支払え──そう要求してきたそうだ。
 人間だってそうやって、土地の持ち主に賃貸料を支払うのが当たり前。
 そう言われてしまえば拒否することは出来ないと。

「でも私たちにそんなお金はないから、若者が外に出てお金を稼ぐことにしたの。領主は口利きしてやると言って、私たちを屋敷に呼び出したの」

 働き先を世話してやる。
 そう言われたのに、集められた若い兎人たちは奴隷商人に売り飛ばされた。
 そのお金が集落へ渡ったのか、領主が着服したのかそれは分からない。
 でも、十中八九、着服したんだろうなと、話を聞いていて思った。

「私、人間は嫌い」
「うん、嫌いになっても仕方ないね。ごめん、同じ人間として恥ずかしいよ」
「……変な奴」

 それから暫く彼女は膝を抱えて、長い耳を項垂らせて俯いた。

「私、お金が必要なの」
「いくら?」

 俺の問いに彼女は首を振る。

「集落のみんなが、これまで通り安全に暮らせる金額。いくらか、分からないわ」
「冒険者になって一攫千金でも出来ればなぁ」
「登録に必要なお金なんて持ってないし、そんなのに使うぐらいなら仕送りした方がマシよ」

 冒険者ギルドへの登録は、銀貨三〇枚だ。
 銅貨三〇枚もあれば安い宿に泊まって、夜と朝の分の食事代にもなる。
 銀貨一枚は銅貨百枚分。銀貨三〇枚だと、百日は宿に泊まれる金額だ。
 決して安くはない。

「冒険者登録はしない。でも……お金は必要なの。だからあんた、私を買って!」
「え、か、買う!? 待って、俺お金なんて持ってないし、君を買うなんて出来ないよっ」
「分割でいいの。あんたの稼ぎの少しを私に分けて。お願い!」
「それは……ねぇ、だったらパーティーを組もうよ。メリットはある。俺はもう裏切られたくない。裏切るような奴とパーティーは組みたくない。君は、俺を裏切らないだろ?」
「あ、あたりまえよっ」

 冒険者登録をしてある俺なら、ギルドにドロップ品の売却を頼める。別にメンバー全員がギルドに登録しないといけない訳じゃないからね。
 三人で狩をして稼ぎ、売却は俺がやる。

「清算はちゃんと三等分だ。まぁにゃびがお金を必要かどうか分からないけどさ」
「三等分……そんなにくれるの?」
「いや、そんなにっていうか、当たり前の分配だけど」

 俺もその当たり前を貰っていなかったんだけどさ。

「どう? 俺とパーティー、組まないか?」

 それから彼女は小さく頷いた。

「じゃあ、これからよろしく」

 そう言って、自然な形で右手を差し出した。
 ルナもさっきみたいに「気持ち悪い」とは言わず、普通に俺の手に触れた。

 そして浮かぶステータスボードと文字。

 怪しまれないうちにさっさとパーティーを組んでしまおう。

【はい】のほうに触れると、今度は【ルナリアさんとパーティーを組みました】という文字が浮かぶ。
 ステータスボードに何か追加されたかな?

「なっ。え、なにこれ!?」
「え?」

 ルナが驚いたように身を引く。
 彼女が手を離したから、ステータスボードが消えた。

「あれ? い、今何か浮かんでいたわよね? 青白く光っているような、文字とか線があったわよね?」

 ……まさか、パーティーを組むとその相手にも見えるってこと!?

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