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1話 婚約破棄をされましたが……

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「ネフィラ、済まないが私とは別れてもらおうか」

「えっ……スタイン様?」


 突然のスタイン・ハルベルト公爵令息の言葉に私は耳を疑った。えっ、どういうこと? といった心境だ。

「別れるってどういうことでしょうか?」

「決まっているだろう、婚約破棄ということだ。私は幼馴染のマーシオと婚約することにしたからな」

「ま、マーシオ令嬢と……?」

「ああ、そういうことだ」


 マーシオ・フォルブース公爵令嬢……地位としてはスタイン様とほぼ同じと言えるだろうか。二人が幼馴染だったことにも驚きだけれど、北の広大な大地を管理するハルベルト家と、南の広大な大地を管理するフォルブース家。

 その家系の二人が婚約をするということか。貴族の地位向上という意味では、とても喜ばしいことなのかもしれないけれど。いえ、今はそんなことを言っている場合ではないわ。


「とにかくわかったな? ネフィラとの婚約破棄は残念だが、やはり真実の愛には勝てないのだよ。ふふふふふ」

「そ、そんな……スタイン様! なんとか考え直していただけませんか!?」

「それは無理な注文だな、ネフィラ」


 その後、何度も彼への説得を試みたけれど、スタイン様が首を縦に振ることは一度としてなかった。最後は激昂して、部屋から追い出される始末だったし。

 嘘でしょ……こんな理不尽な形で、私の1年近い婚約が終わってしまうなんて……。スタイン様との婚約は一体、何の意味があったのだろうか?

 私は自然と流れ出る涙を拭いながら考えていたけれど、結局、答えが出ることはなかった。



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「スタイン様がマーシオ様と婚約するだと……?」

「はい、お父様。それが理由で本日、婚約破棄を言い渡されました……」

「なんと……そんなことが」


 屋敷に帰り、私は婚約破棄の件をお父様に伝えた。お父様は信じられないという風に唸っている。私も同じ気持ちだけれど、紛れもなく事実なのだ。


「北と南の公爵家の力が増すことになるな……これは王家にとっては、あまり喜ばしいことではないはずだ」

「お父様……?」


 お父様から出た言葉は意外なものだった。確かにその通りかもしれないけれど……。


「お前の幼馴染でもある、セシル・クリンジ王太子殿下に相談してみるのが良いだろう。単純に貴族が力をつけ過ぎるのも問題だし、それ以上に、今回の一件は理不尽過ぎる」

「セシル様ですか……な、なるほど……」


 確かにセシル王太子殿下は昔からの知り合いではあるけれど……彼と連絡を取るというのは緊張してしまう。最近は会っていなかったし、私の初恋の人でもあったから。
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