婚約破棄の悲しみはお兄様が癒してくれました

3話

　私は全てをアンデル兄さまに話した。無言で聞いていた兄さまだけれど、話し終えると同時に口を開く。


「あのベガ様が婚約破棄を……？　しかも、より高位の公爵令嬢と付き合う為にお前を捨てたというのか……？」

「そうですね。私としても信じられませんが……」

「そうだろうな。私としても信じられないことだ」


　アンデル兄さまは私とベガ様の婚約を非常に喜んでくれていた。それだけに虚無感も大きいのだと思うわ。


「ストーム侯爵家は何を考えているんだ？　いくら、マリン・フォーグ公爵令嬢との仲が良いからと言って……フリーダに婚約破棄を言い渡すなんて」


　アンデル兄さまもかなり動揺しているようだった。それ程に婚約破棄というのは不名誉なことなのだ。ベガ様の家系にもダメージを与えることは必至だと言えるだろう。


「兄さま……私としても分からないことが多く混乱しています」

「ああ、そうだろうな。フリーダは何も考えなくて良いさ。代わりに私が調査をしてみよう」

「兄さま……申し訳ございません……」

「気にするな、フリーダ。可愛い妹の為だからな。何も気を遣う必要はないさ」


　そう言って私を抱いてくれる兄さま。暖かい両腕が私の背中まで来ていた。


「ありがとうございます、兄さま。本当になんてお礼を言ったらいいか……」

「ふふ、本当に気にする必要はないさ。それから、ベガ様は慰謝料を支払わないと言ったそうだが……」

「は、はい」


　婚約破棄を一方的にした身としては信じられない発言だった。当然、アンデル兄さまにも伝えてある。


「慰謝料の支払いは絶対にしないとベガ様は言っていましたが……大丈夫でしょうか？」


「まあ、その辺りは交渉次第さ。フリーダが気にすることではない。それよりも……」


「兄さま？」


「後のことは任せておけ。フリーダには決して悲しい思いはさせないからな」

「えと……兄さま？」


　アンデル兄さまの言葉の意味が分からなかった。私に対して何かをしてくれるということだろうか？


「まずはベガ様の慰謝料の交渉……それから……」


　アンデル兄さまは何やら一人で考え込んでいる様子だった。あまり声を掛けられる状況ではなかったので、一応は黙っておく。


「慰謝料は必ず貰わなければならないな……あとは、フリーダの今後か。パーティーへ出席させ、今度こそ信頼ある人物にめぐり合わせなければ……」


　兄さまの独り言はわずかだけれど聞こえていた。私に対しての今後を考えてくれているみたいね。なんだかとても悪い気がしてしまうわ……。