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5話

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「やめてよ、どうしてこんなことをするの? リシェル……!」

「なによ、うるさいわね! 私はもう侯爵様の婚約者なのよ? 私に逆らったらどうなるか……分かるでしょ? ローザハウスは、今日からリシェルハウスになるんだから! 何回も言わせないで!」


 リシェルは面倒くさそうな顔をしかめながら、私をデナン様の執事によって外へと押し出そうと必死だった。私が抵抗し、執事はさらに力を掛けてくる。その反動で棚に置いてあったグラスや食器類が割れていく。


「あっ、私の大切な食器類が……!」


 割れた食器などの中にはお爺様から貰った物や、手作りの物が含まれていた。私はそれらが割れたことで、一瞬、目の前がブラックアウトしてしまう。


「ああ~もう! 私の物を勝手に割らないでよね! もう姉さまの物なんて、このハウスに1つもないんだから! 後で弁償してもらうからそのつもりで。請求書を送りつけるわ!」

「り、リシェル……! あなたという人は……」

 リシェルは私のグラスや食器類が割れたことを本気で怒っているようだった。信じられない光景だ……なぜ、私の所有物が壊されて、妹のリシェルが怒っているのか。まったく意味が分からない。


「ちょっとあなた達、さっさと姉さまを外へと追い出してよ! まったく使えないんだから……これ以上、部屋の物を壊したら、あなた達だって、ただじゃおかないわよ!?」

「も、申し訳ありません!」

「すみません、ローザ様。そういうことですから、すぐに出て行っていただきます」

「そんな……あり得ないわ、こんなこと……!」

「ローザ様……!」


 ローザハウスで働いていた使用人達は私の味方をしてくれている。しかし……


「デナン・モルドレート様を敵に回すことになるぞ? それでも良いなら向かって来い」

「ううっ……そ、それは……!」


 私を助けようとしてくれた使用人も居たけれど、デナン様の名前を出されると流石に腰が引けたのか、その場に立ち尽くしていた。


「リシェルーーーー!!」

「あはははは、姉さま。そんな大きな声出せたんですね、初めて知りました。でも無駄ですよ……あなたの声に耳を傾ける人なんて誰も居ませんから。あはははははっ!!」


 私の渾身の叫び声は、リシェルにはまったく届いていなかった。どういうことかしら? お父様やお母様の居る本邸に行けば必ず今日の事態は知られているはず。

「駄目……何も考えられない。とにかく、実家に向かわないと……!」


 執事達によって私はローザハウスを追い出されてしまった。しかも物理的に……。こんな理不尽なことがあって良いわけがない。私は御者に頼みすぐに実家へ向かうように依頼した。


 リシェルの横暴をお父様やお母様に伝えるために……。
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