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52話 それぞれの出発 その2
しおりを挟む「330……!?」
「ああ」
ジラークより、ユニコーンのレベルを聞いたアルマークとイオ。仰天のあまり、自分たちの耳を疑っている。そんな彼らの姿を見て、レナとルナはどこかご満悦だった。
「嫌ですわ、わたくし自慢など好みませんのに……」
「……ブイ」
レナはわざとらしく、明後日の方向に目をやりながら顔を紅潮させ、ルナは無表情でピースサインをしている。自分たちの強さに自信がある証拠だ。
「まあ、スコーピオンの軍勢を相手にするんだ。そのくらいの戦力は必ず必要になるだろう。それにしてもユニコーンを2体か……最も驚きなのは、お前たちはさらに上ということだな」
「あ、そういうことか……ええっ? レナさん達って強さどのくらいなの!?」
「レベル換算で330以上……ってことですよね?」
「ふふ……」
イオとアルマーク、二人の質問には彼女たちは頷くだけで、それ以上はなにも言うことはなかった。Sランク冒険者の実力を垣間見た瞬間でもあったが、必要以上に強さを誇示したくない印象も伺えたので、アルマーク達もそこで話題を終えることにした。
「さてと、話しは変わるがお前達の体調は大丈夫か?」
ジラークも空気を呼んでか、話を変更させる。昨日の寄宿舎での話題に話を移動させたのだ。
「あ、はい。神経毒による体調は昨日の段階で完全に戻りました」
「はい、私もアルマークと同じです。でもゴイシュはどうなるのかな?」
ゴイシュの名前が出てくるだけで、アルマークの表情が強張る。元気そうにしてはいても、やはり昨日の事態は衝撃的だったのだろう。
「ゴイシュは現在、ギルドの地下に幽閉されている。今後の処遇はレジール王国の法にかけられるようだ」
「レジール王国の? そういえば、穏健派が勢力として巻き返したと聞いておりましたわ。イスルギ様たちが強硬派の勢力を弱めたと。なるほど、王国であれば罰についても心配はないでしょうね」
レナはジラークの話から、レジールの現在の情勢について思い出していた。現在の王国は現国王であるハインリッヒが実権を握ることに成功しており、共和制への舵を切り出しているのだった。
変革と言う意味ではアーカーシャも同じであるが、アーカーシャは法の整備そのものものが曖昧なので、ゴイシュ達の処遇はレジール王国へ託すことに決まったのだ。
「なんにせよ、良かったです……。ゴイシュにはちゃんとした罰が下るようで」
「だね、アルマーク。……あれ、エミル?」
イオはギルド本部に入ってくる二人の影にいち早く気付いた。その影はデート中の春人とエミルの二人であった。
「腕組んで歩いてるよ、ホント仲いいよね」
「で、でも……アメリアさんに見つかったら大丈夫なのかな……」
「春人さまは、いけないお人ですわね、本当に。エミルさまも、思った以上に積極的な方のようですわ」
ギルド内部にも仲睦まじく入ってくる二人に対して、アルマークやレナ達は微笑ましいながらも、春人の今後を心配していた。
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「あ、あの……エミル」
「なんですか?」
左腕にもたれかかるようにくっついているエミルに、春人は照れながら声をかけた。
「ギルド内でこの状態は色々と不味いよ……ほら、向こうにはレナさんたちも居るし」
「春人さんは嫌ですか? 私とこうして歩くのは」
「いや、そんなわけはないけど……」
春人としても、エミルにこんなことをして貰えるのは嫌なわけもなく、内心では相当に喜んでいる。あまり必要なくなったかもしれないが、偽の恋人という肩書きもあるので、こうしてくっついている意味合いは大きいと言えるだろう。
「なら、もう少しこのままで」
「う、うん……」
春人も積極的なエミルに戸惑いながらも、周囲の羨望に近い眼差しを楽しむことにした。バーモンドの酒場にも来る冒険者はあからさまに悔しそうな顔をしている。看板娘は春人が手をつけていると思い込んでいる為だ。
「そういえば、アメリアさん達は大丈夫でしょうか?」
「ああ、アメリアとサキアかな? まあ、今日は下見だけだからね。色々と考えたけど、本格的な最深部の攻略は3日後。いよいよ、オルランド遺跡の最深部だ」
アメリアとサキアは二人で、オルランド遺跡の下見に行っている。パイロヒドラが外に出てきてないかなど、念の為の確認だ。
春人としてもオルランド遺跡の最深部攻略は気持ちが高鳴った。転生されてから、明確な目的のなかった彼ではあるが、いよいよ冒険者としての目的を達成できる時が来たのだ。
「まだ、隠しエリアはあるみたいだけど、とりあえず初めての遺跡踏破の瞬間だ。やっぱり嬉しいよ」
「春人さん……気を付けてくださいね? 私は「海鳴り」で待っています。必ず、ご無事で帰って来てくださいね」
「う、うん……エミル、その言葉は……」
「あ、ご、ごめんなさい……私、変なこと言いました!」
「待っています」の下りが、二人にとって恥ずかしい言葉だったのか、エミルも顔を真っ赤にして春人から離れた。春人自身も別の方向を向いている。
「やっほー、春人」
「マスター、偵察に行って来ました」
そんな時、聞こえてきたのはアメリアとサキアの声だ。春人はすぐに二人と分かり、後ろを向いた。
「あ、アメリア……! て、偵察はどうだったの?」
「なんでエミルとこんなところに居るのよ? エミル、凄い可愛らしい格好してるし」
「え? あ、ありがとうございます……」
アメリアは舐めまわすようにエミルの格好を見ていた。特に黄土色のスカートはそれなりの短さもあり、男の目を惹くデザインになっていた。
彼女の脚の白さと細さが良く見えている。実際、ギルドの何人の男が彼女のスカート姿を目に焼き付けたかわからない。
「春人は綺麗なエミル、視線をぶつけまくってたわけね?」
「う……否定はできないけど……」
「そ、そうだったんですか? う、嬉しいです」
「え? あ、そ、そう……?」
春人の確認のような質問に対して、最後にエミルは「はい」と付け加えた。それを聞いた春人は勘違いをしてしまう……今日のエミルの服装は自分に見せる為の物なのではないかと。もちろん、それは正しいことではあったが、春人としては確信までは持てなかった。
「マスター、とても寂しいです。私にもたくさん、愛がほしいです」
「うわっ! さ、サキア……!」
サキアは人間形態のまま、春人にしがみついた。彼女の服装は黒いボロボロのドレスなので、そのまま春人に抱き着くと、周囲からは奴隷少女を買ったように見えているのだ。
「あんた……満更でもないでしょ? ねえ」
アメリアの表情は笑っていない。とても可愛らしい笑顔ではあるが。
「春人さん? これは浮気でしょうか? 恋人の目の前でするなんて大胆な方ですね」
エミルもアメリアに負けないくらい可愛らしい笑顔ではあるが、決して内心は笑っていなかった。相当な嫉妬心を剥き出しにしている。
「あの~エミルさん? 浮気と言うのはどういう……。まさか、偽の恋人関係にかかってるの?」
たじたじになりながらも、春人は質問をしてみたが、彼女からの返答はなかった。おそろしい二人からの視線に苛まれながらも、サキアは春人の身体から離れようとしない。
「サキア……君が離れてくれたら、色々解決するかも……」
「拒否します、マスター。私はマスターの命令に背いています。後で身体で償わせてください」
「あ、いや……! なにを言ってるのかな~? サキアは……!」
サキアはわざと言っているのか、明らかに場の空気は凍っている。後程、身体で償うというのも含め全て真実ではあるが、彼女なりの大胆な牽制であった。
「は、春人さん! サキアさんと夜は何をしてるんですか!?」
サキアの言葉を本気にしているのか、エミルは今にも泣きだしそうな勢いで彼を追い詰めた。彼女にそんな顔をされては泣き出したいのは春人も同じだ。
「いや……一緒のベッドでは寝てないよ? あくまでサキアは床で……というか寝ると言う行為はしてないと思うけど……」
「はい、私は睡眠を必要としませんので……ですが、偶にマスターの隣に行ってます。マスターは心優しいので、私を襲ったりはしませんが……今後はもう少し大胆に攻めてみます」
「ちょ、サキア!? そんなことしてたのか? なんか温度を感じるときもあったけど……」
春人に抱き着いているサキアはものすごいカミングアウトをしながら、深々と頭を下げている。
マスターの命令を聞かない下僕を演じることで、マスターから厳しい仕置きを待ちわびているサキアであった。
この場での彼女の行動はマスターを自分の物にしたいという気持ちの現れであり、全て計算して行っている。失礼な行動に関しては、全て夜の営みで償おうとしているのだ。普通の人間では引いてしまうような行為もデスシャドーである自分ならば、身体を壊すことなく行える……そういった自信からくる行為でもある。
実際、デスシャドーは手足が切り飛ばされても、元に戻せるだけの「再生能力」のスキルも備わっているのだ。
「マスター、私は「再生能力」があります。信義の花などのアイテムを使わずとも身体を再生することが可能です。人間には試せないことも、どうぞお試しください。痛みや苦しみは伝わりますので……マスターの性癖を満たせると思います」
「あの……俺はなんで変態のレッテルが貼られてるのかな……? そんなに俺は変態に見えるのか?」
春人は全く怒っているわけではなく、むしろ現状を楽しんですらいるが、自分の性癖が歪であると思われているところには苦笑いを浮かべるしかなかった。
サキアとしては、春人は変態であるとは思っていないが、手っ取り早く既成事実を作ろうとしているのだ。彼女なりの誘惑でもあった。そして、その行為は彼女の見た目の良さや春人の経験不足とかみ合い、かなり効果は高い。春人も現在の彼女の言葉には、とても心を動かされている……絶対にアメリアとエミルの前では言えないが。
自分に絶対服従であり、様々な格好をさせられるだけでなく、行為そのものを、いつでも好きな時に好きなだけ行うことができ、苦悶の表情も拝むことができる……。
さらに後腐れなく元に戻すことも可能な「再生能力」……ゴイシュ辺りが手にしていれば大変なことになっていたであろうサキアであった。
そんな考えに至った春人は思わずサキアを抱きしめる。兄のような気持ちで彼女を労わった。
「マスター?」
「サキアの気持ちは凄く嬉しいよ。それだけに、本当に危険な人物に取られなくて良かった」
「マスター……はい、私もマスターに拾われて心から嬉しく思います。デスシャドーは主人を選べませんから」
サキアも流れに身を任せるように春人にしがみついていた。
「なにそれ? ずるいし……なんかいい話になってない? ずるい、ずるい」
「もう……春人さんは……知りません」
納得はいかないながらも、アメリアとエミルは二人に対して笑顔を向けていた。少し、ギスギスしていた雰囲気が和らいだと言えるだろうか。
「うわ~……春人さん、大変だね。デスシャドーのあの子も含んで3人に攻められるなんて……」
「攻められる……う、うん……昨日のイオみたいなものかな……」
「も、もう! アルマークは何を想像してるの! バカ!」
「い、痛いよ、イオ……!」
アルマークは昨日の自分に攻められるイオの姿を想像していたが、恥ずかしくなったイオはアルマークの頬をつねっていた。
「みなさん、盛り過ぎですわ……全く」
「……節操がない。……でも、羨ましい」
現在、恋人募集中のレナとルナは、目の前のカップルや修羅場待ったなしの春人達を見据えながら、羨ましい気持ちでいっぱいだった。
「なかなか微笑ましい光景だ。お前達も、すぐに彼氏ならば作れるだろ? 求婚もされているんじゃないのか?」
「私達も、誰でも良いというわけではありませんのよ? 春人さまが相手であれば、すぐに承諾いたしますが、うふふ」
「……春人は格好いいと思う」
ジラークに反論するかのようにレナは言った。そして、レナとルナは春人の方向へ目をやる。冗談も入っている二人ではあるが、その瞳は本気のものであることも伺えた。
そして、春人達のギルドでのイザコザはその後もしばらく続いた。
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