58 / 119
58話 親衛隊 その1
しおりを挟む「鉄巨人が8体……! 不味いわよ、ミル!」
「ああ、だが……それよりも危険なのはあの奥だ」
突如起動した鉄巨人……その数は8体に上るが、ミルドレア達に攻撃を仕掛けてくる気配はない。中央に敷かれたカーペットにそのまま並ぶように彼らは整列し、剣を構えたのだ。その状態から微動だにする様子を見せない。
「鉄巨人が整列……こんなことって……一体何が起こってるの!?」
「後ろへ下がれ、エスメラルダ……どうやら、思っている以上に事態は深刻なようだ」
8体の鉄巨人の整列を見て、ミルドレアは真顔になった。これ程の表情は初めてかもしれない。彼の表情に驚いたエスメラルダはすぐに後方へと移動した。
そして、程なくして中央の階段の上に位置していた棺が開かれる……中から出てきたのは……。
「……少女?」
後方へと移動したエスメラルダが真っ先に声をあげた。棺から現れたのは、どのように見ても10代の少女に他ならなかった。しかし、頭には獣耳が生えており、立ち上がる少女には尻尾も生えている。
腹の出るデザインの服を着ており、下はミニスカートにスパッツという出で立ちだ。両腕には黒色の指の部分の開いた、肘まで隠すグローブを付けている。服装は全体的に青色であり、スパッツは黒といったカラーリングになっている。
髪も黒髪であり、表情はあどけなさが残っている。非常に端整な顔立ちではあるが、目は獣のように瞳孔が収縮しており、眠たそうな雰囲気であった。
「あ~~、良く寝たぜ……まだ、眠いけどな……頭がおかしい」
彼女は自らの頭を掻きながら、人間のように言葉を発したのだ。目をこすりながら、寝起きの人間のように欠伸をかいている。獣耳などからも明らかに人間ではないが、構造上は非常に近い存在であることが伺えた。
「言葉を……話した!?」
「予想はできていたが……さすがに、驚きだ」
ミルドレアとは違い、エスメラルダの表情はとてつもなく驚いている印象だ。目の前の獣耳の美しい少女……壁画の状態や、周囲の鉄巨人の態度からもどういった存在なのかは明白だ。それだけに、エスメラルダは一層の恐怖が拭えないでいた。
鉄巨人は欠伸をしながら階段を下りてくる少女に対して跪いていた。そこには圧倒的な主従関係を感じさせた。少女も鉄巨人に何も言わない。
「あ? なんだ、お前ら? この感じは……人間か?」
階段を降り切ったところで、少女はミルドレア達の存在に気付く。眠たそうな表情は幾分、マシになっていた。
「その通りだ。まさか、人語を操るモンスターが居るとはな。驚いたぞ」
ミルドレアの挑発的な言葉。彼はその少女を見て、アドレナリンをさらに分泌させていたのだ。鉄巨人8体を跪かせる存在……彼女が壁画の中央に描かれていたことからも、親衛隊のトップであることは間違いない。
「ああ、数百年以上は経過してんのか? はは、この奥地まで人間が来れるとはな。鉄巨人の包囲網が敷いてあったはずだが……特に、男の方は相当強いな」
青い服の少女は、その可愛らしい外見からは想像しにくい言葉使いながらも、ミルドレアを賞賛しているようだった。エスメラルダはさらに後方へと退く……彼女から発せられる強大な気配に恐れおののいているからだ。
「正確には1000年ほど経過している。この場所は、俺たちが入らなければ、作動しなかったのか?」
念の為、ミルドレアは確認をした。自らの行為でこのような強大な存在を起こしてしまったのではないかという思いからだ。
「いや、私はどうせ目覚めてたぜ。まあ、そんな心配すんな、どうせ人間は滅ぶ。それに変わりはねぇよ」
そう言いながら、青い服の少女は豪快に笑い出した。無邪気な彼女の言葉。恐ろしい程自然に出ている言葉だ。ミルドレアも少し戦慄を覚えた。
「俺たちが探索をしなくても目覚めていたということか……それは、少し安心した」
ミルドレアの背後のエスメラルダはもはや言葉が出ない。指揮官の立場にあるであろう少女の言葉……人間は滅ぶ……。その言葉が恐ろしい程にエスメラルダの中で実感できていたのだ。
その理由としては、8体の鉄巨人が挙げられる。この8体だけで、周辺の国家を滅ぼすには十分な戦力だ。それだけに、エスメラルダの震えは止まらないでいた。
そして目の前の少女の強さ……エスメラルダとミルドレア、二人がサーチの魔法で戦力を計算していたが、イマイチ上限がわからないでいた。鉄巨人を従えていることと、圧倒的な気配からもレベル400を超えることは確実であるが。
「可能なら教えてくれ。お前はフィアゼスの親衛隊なのか?」
「ああ、そうだぜ。ジェシカ様の側近の一人、アテナだ」
アテナと名乗る少女は簡単に素性を明かす。まるで息をするかのようなカミングアウトだ。圧倒的な余裕と言えるのかもしれない。
「つーか、ヘカーテの野郎! 私の可愛いフェンリルまで持って行きやがって! なんでむさ苦しい鉄巨人しか居ないんだよ! あの野郎、見つけたら制裁してやる!」
ミルドレア達が臨戦態勢を取る中、アテナは急に怒りを露わにし、周囲の鉄巨人を蹴り始めた。鉄巨人は困ったような悲鳴を上げながら転がってゆく。手加減はしているのか、ダメージはないようだ。転がった鉄巨人はそのまま、寂しそうな表情と声を上げつつ、元に位置に戻って行った。
「まあ、いいや。とりあえず、目の前の人間で憂さ晴らしするか。寝起きの私は機嫌が悪いからな。頼むから、少しの間は持ってくれよ?」
そしてアテナも臨戦態勢を取った。先ほどまでの波動とはさらに異質なものがミルドレア達を襲う。恐ろしいまでの波動……ミルドレアの表情は真の好敵手に出会えたそれに変化していた。
「フィアゼスの側近が相手か……相手にとって不足はないな」
人生最大の好敵手。ミルドレアの中に生まれた言葉だ。彼の表情は戦闘狂を越えた人ならざる者へと変化しており、エスメラルダの身体をさらに後ろへと後退させた。今宵、この瞬間、頂上決戦ともいうべき戦いが繰り広げられることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる