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83話 グリモワール王国 その1
しおりを挟む大国グリモワール。基礎的な魔法技術の発祥地ともされている、大陸最古の国家である。歴史としては5000年以上を誇り、その間にも王家の血筋は断絶を繰り返していた。
現在はリオンネージュ家、4代国王カースド・リオンネージュがトップを務めている。
年齢は24歳という若さであり、新しい物を取り入れることに抵抗を感じることのない青年であった。国王という立場ではあるが、会議室での話し合いにも普段着で出席している。
「陛下、宜しいのですか? 呪われたイングウェイ家の者たちに1度ならず2度までも功績を与えてしまっては……」
会議室に並び立つのはカースド国王の側近である複数名の大臣参謀たちだ。それぞれが、内政の各部門のトップをになっている。カードスに話しかけた大臣は軍事部門の最高責任者だ。
「何を言っているリヒャルト? お前たちの部隊がもっとしっかりしていれば、最初のスコーピオン討伐は終わっていたはずだ? 4000万ゴールドの報酬をかけて依頼に出したのは、お前たちが不甲斐ないからだぞ?」
「も、申し訳ございません……」
カースドの突き刺さるような言葉に、リヒャルトは退かざるを得なかった。グリモワールは現在では大国と呼ぶには値しない軍事力となっている。魔法の発祥地ではあるが、1000年前には一度、フィアゼスによって占領されているのだ。その後からの衰退は大きいものがあった。
「呪われた民から生まれた、さらに規格外の者か……レナとルナ。だが、生まれなどで差別をしては新たな時代について行くことはできなってしまう。実力主義の世界だ……我々も考えを改める必要が出て来ているな」
「賛成です、陛下。現在は東のマシュマト王国がその最たるものでしょう。魔法の能力と科学技術の両方を上手く取り入れている」
内政の魔法部門担当の大臣であるランスロットが口を開いた。年齢も28歳とカードスに最も近い年齢となっており、カースドの意見に賛同している数少ない理解者だ。カースドもランスロットの言葉に満足したような表情をとった。
「ランスロットは大局を見ているな。どのみち、我々の現在の戦力ではリザード達を打ち倒すことは不可能だ。彼らの協力は必ず必要になる」
カースドの重い発言。周囲の大臣たちも理解はしていたのか、黙り込んでしまう。彼らも王国そのものの存亡がかかっては、面子などと言っている場合ではないことはわかっているのだ。
「しかし、陛下。何も冒険者連中だけに手柄を与える必要はありません。この戦いを一つの実験と捉えては如何でしょうか?」
「マーカスか」
次に言葉を開いたのは化学部門担当のマーカス・グロウだ。52歳になる変人との意見が多い人物である。頭は相当に切れるが、近づき辛い雰囲気を醸し出している。
「実験というのはどういうことだ?」
「はい。私の部署で開発しました毒ガス爆弾「テラーボム」の使用の実験です」
マーカスの発言に周りの大臣たちの顔色が変化した。
「馬鹿な! あれを使うつもりなのか!?」
「リヒャルト、軍事部門の君には申し訳ないが、レベル180の低級のスコーピオンですら君たちの大砲の攻撃が通用していなかった。大砲の一撃は人間を粉みじんにするほどの破壊力があります。しかし、高レベルの冒険者であればガードされてしまう。それはなぜだと思うね?」
マーカスの説法とも取れる言葉にリヒャルトは声を出せない。彼の質問の答えは、リヒャルトにはわからなかったからだ。
「魔法による防御があるからだよ。戦士タイプであれば闘気によるガードと言われているが、概念は同じだ。我々は魔法発祥の地の出身者だ。これを答えられないのは不味いんじゃないかね?」
「……くっ」
リヒャルトはさらに沈み込んでしまう。先ほどカードスに叱責を受けたばかりである為に猶更だ。そんな彼を見据えながら、マーカスは続けた。
「魔法の技術と科学技術……現在ではその最先端はマシュマト王国などと言われていますが……。テラーボムの使用により、各国に我々の能力を見せつけるのです。その為にも、冒険者には引き付け役を担ってもらうというのが得策ですな」
マーカスはリヒャルトとは違い冷静そのものだ。しかし、その考えは相当に悪を感じさせるものであった。だが、自信満々に語る彼の言葉をくみ取ったのか、カースドも彼の意見を否定することはなかった。
「悪くない考えだ。だが、間違っても冒険者には命中させるな」
「テラーボムの爆発半径はおよそ1キロメートルになります。そして毒ガスの散布半径はおよそ10キロメートル。多少の被害は免れますまい」
カースドの顔色が変化した。だが、マーカスは悪びれる様子もなく話を続ける。
「陛下。そろそろ、我々グリモワール王国が大陸の覇権を取るべきではないですかな?フィアゼスに占領され1000年が経過しています。あの者に魔法の技術は奪われ……独立後は衰退の一途を辿っているのが現状ですぞ」
カースドは表情を硬直させてはいるが、マーカスの話を真剣に聞いていた。その通りだ、といった考えが巡っているようだ。
かつての最強国家としての威厳。それは数千年も前の話であり、現在のトップの者たちに当時の血族の者は存在しない。だが、その意志は受け継いでいるとの確信はカースドも持っているのだ。
「グリモワール王国の西の大地。辺境の地域ではありますが、バイアシール地方にて未確認の廃村が発見されました。ゴーストタウンのようなものです」
「未確認の村跡だと? 確かにあの地域は面積も広く調査が十分には生き渡っていないが……」
「財宝などが発見されておりますゆえ、腕利きの冒険者に調査を依頼する予定です。大陸の覇権を握るに当たって、未確認の地域はなくしておく必要がありますからな」
マーカスの話はかなりずれた内容となっている。だが、それを疑問視する者は誰も居ない。カースドですら違和感を覚えていない為だ。話はそのまま続けられる。
「だが、強力なモンスターが存在する可能性もあるだろう? 腕利きの冒険者に依頼をする場合は経費も相当なものになるぞ」
「いざとなれば、テラーボムを投下いたします。魔法生命体などの装甲を貫くのに最も確実なことは、単純な破壊力ですからな。それに加えて、ポイズンリザード以上の猛毒を散布いたします。常人であれば、ひと呼吸であの世まで連れて行く代物。
陛下としても6000万ゴールドを支払うことは躊躇われるでしょう? トネ共和国との折半とはいえ、決して安い額ではない」
マーカスはさりげなく、話をスコーピオンとリザードの軍勢の話へと戻す。彼の考えでは冒険者もろとも毒ガス兵器で仕留める手筈なのだ。
「仕留められるのだな?」
「はい、間違いなく。呪われたイングウェイの姉妹を含め、高宮春人、アメリア・ランドルフも犠牲になってもらいましょう。なに、広大な砂漠での出来事です。他の民たちに被害は及びますまい」
マーカスはマッドサイエンティストの本性を見せたのか、不気味な笑みを浮かべていた。マーカスを完全に信頼しているわけではないカースドであったが、彼としてもグリモワールの繁栄は願っているのだ。
その為の多少の犠牲……さらに、今後敵として立ちはだかる可能性のある強力な冒険者を始末できるのであれば、それに越したことはないと考えていた。
父の代から化学部門のトップとして仕えて来たマーカス。彼の言葉を信じてみてもいいかもしれない。カースドの心の中にそんな感情が芽生えていた。
「目下の脅威の排除。そして、事故による冒険者たちの死亡。周辺諸国にはそのように報告いたしましょう。信じられないかもしれませんが、テラーボムを脅威に感じ、どの国に対しても牽制になるでしょうな」
「半径1キロを消滅させ、尚且つ周辺10キロメートルに超強力な毒ガスを散布か。この数百年を紐解いても、間違いなく最強クラスの爆撃であろう。スコーピオン達は広大な砂漠を移動しているが、冒険者たちとの抗争中であれば、必ず滞在場所はわかる。命中させるのも容易いか」
「はい、陛下。我々の隠し玉を使用するときが来たのですぞ」
マーカスの表情はさらに不気味に笑っていた。自らが創り出した最強の破壊兵器。その試運転にはもってこいの状況なのだ。レベル320を誇るギガスコーピオンたちだけではなく、最強クラスの冒険者たちをも巻き込む一撃。彼らを消滅させられれば、自分が間接的に最強であるとの証拠にもなる。
マーカスは個人戦力での最強などには興味がなかった。組織としての強さであろうが、いかに強い存在でいられるか。ある意味で正々堂々などは生温いことであると一笑に付していると言えるだろう。
「よかろう、マーカス。お前に託してみよう。グリモワール王国の栄光の旗頭となってくれることを期待しているぞ」
「ありがたきお言葉。必ずや陛下の期待に応えてみせます」
マーカスはカースドに対し、深々と頭を下げた。失敗は許されない、確実に冒険者を含めてモンスターを始末するのだ。この作戦は最初の一歩でしかない。東のマシュマト王国を始め、敵対する勢力の鎮圧が休みなしに待っているのだ。軍事部門のリヒャルトなどには期待は出来ないでいた。
「陛下! 本当に良いのですか? これは各国に対する宣戦布告のようなものですぞ!?」
リヒャルトはここにきて慌てふためいていた。男らしい髭を生やした戦士といった風貌の彼ではあるが、現在は焦り切っているためかその影も見られない。
「リヒャルト、お前は兵たちに伝えよ。今後の戦争の為に英気を養っておけとな」
「へ、陛下……」
カースドに信奉しているランスロットの表情に変化はないが、リヒャルトを始め、何人かの大臣たちは尻込みをしているのか、腰が引けていた。マーカスに至っては満面の笑みを浮かべている。
「ご安心くださいませ、陛下。しばらくはテラーボムの破壊力で牽制は可能でしょう。その間に、戦力を整えれば良いだけです」
「ふむ、戦力の心当たりはあるのか?」
「はい。西のゴーストタウンの調査依頼を予定している「レヴァントソード」という冒険者パーティを引き込むのがよろしいかと。Sランク冒険者であり、戦力は折り紙付きです」
マーカスは余裕の表情を見せている。テラーボムで春人達を始末し、レヴァントソードは引き込むことを考えている辺り、レヴァントソードは引き込みやすいと判断しているのだ。
「レヴァントソード……マシュマト王国が誇る4人組の冒険者パーティだな。恐ろしい実力者集団との噂だが」
「はい、陛下。かなり稼いでいる集団ですので、金はかかりますが。善悪への頓着は薄い連中かと思われます。引き込みやすいと言えるでしょう」
マーカスの話はある意味で現実味を帯びていた。化学部門が誇る最強兵器。春人達を囮としてモンスターをおびき出し、冒険者ごと消滅させる。各国への牽制と脅威の排除というメリットのある攻撃だ。
そしてテラーボムで牽制をしている間に、レヴァントソードなどを引き込み戦力の増強を図る。カースドとしても大まかなプランは理解できた。後は実行する勇気だ。グリモワールの繁栄は急務とも言える状況であった。しかし先代、先々代の国王も含め、この何十年かはほとんど進んでいないのが現状だ。
彼はスコーピオンやリザードに滅ぼされかけているこの状況を繁栄の原動力とすることにしたのだ。カースドはマーカスの提案を全面的に呑むことを決意した。
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