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84話 グリモワール王国 その2
しおりを挟む「あのさ、アメリア」
「なに、春人?」
砂漠をある程度進んだ先。都であるマグノイアから50キロメートルほど進んだ地点に春人達は居た。テントを張り、スコーピオンの軍勢たちを待っている。既にある程度の居場所はわかっており、できるだけ街に被害を及ぼさないように囮になっているのだ。
「マグノイアで兵士たちの装備を見たよね。相当強そうなイメージがあったけど、あれでもヘルスコーピオン達に及ばないのかな?」
春人はマグノイアの兵士たちの装備品を思い出していた。鋼の剣などの装備もあったが、銃などの飛び道具も普通に存在していたのだ。それだけではなく、重火器や大砲などの装備もあった。現代の日本の自衛隊の装備と比較してもそこまで見劣りはしないで在ろう装備だ。
銃撃が音速以上で飛ぶことを知っている春人からすれば、多少疑問が残る結果であった。
「レベル180のスコーピオン達にただの銃撃が通用すると思う? あと素人の剣撃とか。大砲でも厳しいのが現状よ」
「そうなんだ。そっか……確かに、鉄巨人の一撃の方がはるかに強いと思えるしね」
春人はオルランド遺跡で初めて鉄巨人と戦ったときのことを思い出していた。鉄巨人から振り下ろされる通常攻撃ですら大砲以上と言える攻撃だ。見た目だけでは判断できないものがそこにはあった。収束しているエネルギー量が違うのだ。
「春人様はそういったことには疎いですのね。それだけの力をお持ちですのに」
「ああ、すみません」
「いえ、責めているわけではありませんが」
近くに座るレナの言葉だ。春人は申し訳ないような気持ちになったが、彼女としても責めているわけではなかった。
「魔法や闘気を操る者からすれば、見た目の派手さが必ずしも力の強さにはなりませんから。驚異的な強さを誇る春人様があまり認識されていないのは魅力にもつながりますわ」
レナなりの誉め言葉だ。春人としても悪い気はしないのか少し照れてしまう。だが、すぐにアメリアにつねられたのは言うまでもなかった。
「全く、油断も隙もないんだから」
「アメリア……えと、別に今のは……」
「なに?」
「いえ、なんでもないです」
アメリアの笑顔の視線。春人は強張りを覚え、それ以上なにも言えなくなった。いつの時代も女性の方が真なる権力は上なのだ。世界が変われど、そのことに変化はない。
「春人が疑問に思っているのは、大砲みたいな高火力でスコーピオンを仕留めきれないことでしょ?」
「え、まあそういうことかな」
アメリアの予測に春人は的を射ていた為に頷いた。彼の疑問はまさにそこにあったのだ。今まで特に気にはしていなかったが、圧倒的な火力を誇る大砲の一撃でもスコーピオン達を仕留められない。
それと比べて、春人の通常攻撃はスコーピオンの身体を切り裂くには十分な威力を誇っていたのだ。
「単純に春人の攻撃が大砲以上ってだけよ。魔法的な力が宿ってるんだから、通常の兵器以上の破壊力になることは必然だわ」
アメリアの言葉は至極真っ当なものであった。闘気を付与した春人の一撃は大砲の攻撃をも凌駕している。ただそれだけのことであった。また、鉄巨人の一撃も大砲以上の攻撃と言えるが、春人は現在はそんな鉄巨人の攻撃をも捌けるようになっている。
レベルは880に達しており、レベル400の鉄巨人の2倍以上を誇っている春人。まだまだ上限を見せておらず、彼の才能は留まることを知らない。現代のみならず、歴代でも最強クラスの才能を持つ人間であると言われているのだ。当然、彼に銃弾などの攻撃は一切通用しない。それはアメリア達にも言えることである。
「マスター。兵器とマスターの物理攻撃……派手さでは兵器が上回っていますが、破壊力はマスターの攻撃の方が上です。それはマスターの半分の実力である私でも、スコーピオンを討伐できることからも容易に想像ができます」
影状態からいつの間にか人間の形態になったサキアがそこに居た。春人の疑問に対して、的確な回答をする。
「そういうことか。まあ、ある程度わかってたことだけど、確信が出来て良かったよ。この世界では通常の兵器はそこまで強くはないってことか」
「そういうことね。でも、大砲くらいならまだしも、圧倒的に強力な攻撃は別の話になるわ。グリモワールにも強力な破壊兵器があるとか噂されてるっけ?」
「……グリモワールの切り札。おそらく存在している」
アメリアの疑問に答えたのはルナだ。彼女はグリモワール王国が切り札を隠していることを予見していた。テラーボムのことであり、噂レベルでは周囲にも伝わっていたのだ。
「圧倒的な範囲を灰燼に帰すとされていますわ。冒険者を忌み嫌うグリモワールですもの。もしかしたら、今回の作戦に投入してくるのかもしれませんわ」
レナの言葉に春人やアメリアの表情は変わる。
「破壊兵器……それほど強力なんですか?」
「1キロメートル以上を破壊するのではないかと言われています。もしもそんな兵器を、冒険者のことなど考えずに導入するのだとしたら……上空から投下される可能性がありますわね」
春人の質問にレナは頷きならが答えた。そして、彼らは無意識の内に上空に目を向けた。本日は晴天であり、太陽が強く砂漠を照らしている。彼女の予測は偶然ながらビンゴであったのだ。グリモワール王国は春人たちを含めて消しにかかっている。
「そういえば、以前に暗殺されかけたって言ってたっけ?」
「そんなこともありましたわね。もちろん、返り討ちにいたしましたが」
アメリアは思い出したかのように話した。レナとルナが暗殺されかけた時の話である。春人にとっては初耳だったが、彼がこちらに来る前にそういうことがあったのだ。
「自らの脅威になるものは容赦せずに排除する。そういった組織はどの国にも存在しているのかもしれません。グリモワールも例外ではないですわね」
焦った様子を見せないレナではあるが、春人としては一大事の出来事を聞いてしまったのだ。本人よりも春人の方が驚いている。だが、レナとルナからすれば、それほど驚くことでもない。
呪われた者として疎まれ続けた毎日……彼女たちの命を狙う者は多かったと言える。召喚の能力を身に着け、Sランク冒険者の地位に立つことにより、その刺客から振り切ったとも言えるのだ。今の彼女たちは幸せであった。だからこそ、笑っていられる。
「ま、そんなわけだから。私達も気を付けた方がいいかもね。6000万ゴールドを支払うのを躊躇されて殺されるかもよ」
「ま、まさか……」
アメリアの言葉に春人はたじたじになってしまう。いくら自分が強いとはいえ、暗殺という言葉は春人にとっては気分の良いものではなかった。
「まあ、なにが起きてもいいように警戒するに越したことはないわ。グリモワール王国の上層部は信用しない方が良さそうだし」
「その通りですわね。都の方から不穏な動きがないか警戒しておきますわ」
そう言いながら、レナはマグノイアの方向に意識を集中させた。彼女はスコーピオン討伐に参加しないということになる。春人を含め、誰も彼女を咎めなかった。
戦力的には、春人、アメリア、ルナの3人で十分だからだ。
「……来た」
そして、微かな地響きが彼らの周囲にこだました。その振動に真っ先に気付いたのはルナだ。気付くと同時にユニコーンを召喚する。瞬時に白い美しい馬が彼女の前に降り立った。
「来たわね。リザードロードとギガスコーピオン合わせて30体……」
アメリアの視線の先には緑の精鋭と巨大な尻尾を逆立てたサソリ達が姿を現していた。巨大な剣と盾を構えるリザードロード。そして、ヘルスコーピオンよりも遥かに巨大な体躯を誇るギガスコーピオンは醜悪な吐息を漏らしながら春人たちを見据えている。そのモンスターたちの背後にもヘルスコーピオンが何十体と群れを作っていた。
6000万ゴールドクラスの討伐依頼……通常の冒険者であれば、一目散に逃げ出しているほどに、敵のレベルは高かった。こんな集団が都であるマグノイアを襲えば数時間とかからず滅び去ってしまうかもしれない。
「春人、どうする?」
「俺が先陣を切るよ。サキア、援護してね」
「畏まりました、マスター。敵は相当に強力です、全力でマスターを援護いたします」
影状態のサキアは声だけではあったが、春人の指示通り援護を行うようだ。彼の影の中で戦闘準備を完了させていた。
そして、サキアの戦闘準備完了を感じた春人はそのまま全力でリザードロードとギガスコーピオンに突進を開始した。ユニバースソードを携え、レベル880を誇る怪物の蹂躙が始まったのだ。
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