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103話 闇の軍勢 その5
しおりを挟むオードリーの村でいきなり出会った強敵二人。名はレヴィンとランファーリ。どちらも正体不明の人物であり、春人ですら警戒が必要な相手であった。
「さて、提案なんだが」
ソード&メイジの二人との膠着状態は続いていたが、それを打ち破ったのがレヴィンの言葉だ。春人とアメリアの警戒が一瞬だが弱まる。
「俺達がこの村を制圧したのは、ただの気まぐれだ。奴隷としての人間どもは既に北から連れ出しているしな。近い内にマシュマト王国はいただくが、今ではない。どうだ? ここらでお開きと行かないか?」
あまりにも身勝手な発言だ。春人の神経は逆撫でされる。どの口が言うのだろうか、と春人は小声で口ずさんでいた。
「ふざけるな……気まぐれでこんなことをしたのか?」
「くっくっくっ……先ほどの話と被るが、強者は弱者をいたぶるものだろう? 貴様自身はどうか知らんが、そういった者を見た経験はあるんじゃないのか?」
「……」
はらわたが煮えくり返る想いと、同時に訪れる納得の想い。強者が弱者をいたぶる光景というものは春人も何度も見て来た。日本に居た頃は身を持って経験したことだ。こちらに来てからも何度かそんな経験はある。目の前の男だけを責めたところで意味はない。春人はそんな不思議な感情に至っていた。
「春人、難しいこと考えなくていいから。雑念は命取りよ? あいつらが気に入らないからぶっ飛ばすだけ、それだけわかっていれば十分よ。私たちは正義の味方なんかじゃないんだから」
「アメリア……そうだったね。非常に無駄なことを考えていたみたいだ」
「ええ、その意気よ」
突如響いたアメリアの言葉。春人の中に生まれていた雑念は一気に解消された。決して無視をして良いことではないが、今考えることではない。彼女の言う通り、目の前の強敵が相手では命取りに成りかねないからだ。
「ふん、まあいい。どのみち、ここで全力でやり合うのは得策ではないな。わざわざこちらの手の内を見せることになりかねん」
レヴィンは軽く舌打ちをすると後方へと移動した。ランファーリも後方へと退いている。その間に割って入ったのは、数十体に上る黒騎士であった。
「逃げるようですわね。そんなことが可能とお思いですか?」
「ここまでしておいて、調子が良すぎる。許さない」
春人達の後ろに居たレナとルナの二人は、硬流球を黒騎士相手に飛ばす。彼女たちもレヴィン達を逃すなど微塵も考えてはいなかった。彼らが、闇の軍勢のボスクラスであれば、危険は最初に排除するというのが、定石だからだ。
レナとルナの強力な硬流球は空中を高速で失踪し、次々と黒騎士の鎧を破壊していった。球状の金属による、単純な物理攻撃ではあるが、その破壊力はグリモワール王国の大砲以上であると推察できる。
そんな二人の攻撃に合わせるかのように、春人とアメリアの二人は標的をレヴィンとランファーリに絞ったのだ。後方へと下がった二人との距離を一気に縮める。
「ちっ、そう簡単には振り切れないか」
「始末いたしましょうか」
一気に距離を縮めた春人達ではあるが、ランファーリは焦った様子を見せずにこちらへと迫って来た。そして手のひらから武器を生み出し攻撃を開始する。今度は剣のような刃がランファーリの右腕から出現した。その刃は春人のユニバースソードと交錯する。
さらに、彼女は間髪入れずに、左腕からも槍を生み出し、春人に突き出したのだ。春人はその槍の攻撃を紙一重で回避する。やはり、防御を貫通するというイメージが先行してしまっていた。それほどまでに、ランファーリの一撃は強力ということを意味していたのだ。
「マスター……この者は危険です」
「ああ、速攻で決める……!」
春人は加減などできない相手であると悟り、全力でユニバースソードを振り払った。サキアも懸念していた通り、ランファーリは相当に強敵だ。サキアの防御も貫通してくる可能性があり、春人としても一刻も早く仕留める必要が出て来ていた。
「……! 強い……!」
刃を交えたランファーリであるが、レベル880にもなる春人の全力の攻撃を受けきることは叶わなかったようだ。攻撃を受けたわけではないが、そのまま力負けをして後方へと弾き飛ばされた。
さらに鍔迫り合いをしていたランファーリの刃はすこし砕けている。完全に春人が上回ったと言えるだろう。表情は仮面によって読み取れないが、わずかに動揺している様子が見て取れた。
「随分なやられようだな。大丈夫なのか?」
「ええ……ダメージ自体は負っていません」
レヴィンの近くまでランファーリは後退する。お互い怪我などを負っているわけではないが、相応の強さを実感していた。春人の中では確かな手ごたえが生まれている。
「春人、あのランファーリとかいうの……なんとかなりそう?」
「うん、なんとか行けるかな。ただ……なんだろうか……いまいち実態が掴めないな。彼女は妙な感じだ」
春人は刃を交えた段階で、多少の違和感を感じていた。これがどういったことなのかは、彼自身にもわかっていない。
「ランファーリと剣を交えて、打ち破る相手を誉めるべきだろうが……。ランファーリ、俺はお前を少し買い被っていたのかもしれんな」
レヴィンの言葉は冷静ではあったが、ランファーリにとっては屈辱な一言であった。ランファーリ自身は仮面で隠れている為に、どのように感じたのかは不明ではあるが。
「……レヴィン、一旦引くとしましょうか。ここでの目的は終えました」
「ああ、いいだろう。俺の手の内まで見せては、相手を有利にさせるだけだからな」
「……」
レヴィンとランファーリは本格的に逃走を開始した。先ほどまでの後方へ退いた形とは明らかに違う。こちらを警戒しながらも、見事な身のこなしで春人達から距離を取り、視界から消えて行ったのだ。春人たちの前に残ったのは黒騎士の残骸……数十体分の結晶石だけとなっていた。
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「逃げられたわね……まあ、被害を大きくしない意味でも良かったんだろうけど」
「ああ、そうだね。でも……やっぱり、悔しいよ」
春人達の手によって、黒騎士のほとんどは始末することに成功していた。しかし、頭目の二人は逃がした結果となってしまった。村にわずかに残っている生き残りのことも考えると、この場所で戦わなかったのは良かったのかもしれないが、春人の中では悔しさが残っていた。
「春人さまの気持ちはお察しいたしますわ。わたくしも、気持ちとしては同じです」
「うん、あいつらは許せない。必ず、制裁を受けてもらう」
レナもルナも表情には出していないが、心の中は春人と同じ気持ちだ。村の中には幾つもの死体の山が出来ているのだ。それを見ただけでも、誰もが同じ気持ちになると言えるだろう。
「まあ、あの二人はかなりの強さだわ。手の内がわからない状況で、いきなり正面から戦うのは危険だったわよ」
「うん……罠があったかもしれないからね」
春人の見立てでは二人共、相当な実力者だ。しかし、単純な実力で言えば、自分が負けるとは思えなかった。それは、アテナやヘカーテと言った超が付く程の強敵を見た反動であるとも言えるのだろう。
しかし、彼の中では別の違和感も感じている。それがなんなのかは現在でもわかっていない。そういった違和感があった以上、深追いはしなくて正解だったのだろう。春人もそのように思っていた。
「とにかく、依頼は達成していないけど仕切り直しね。村に敵が残っているなんてオチないわよね」
「それは問題ないかと。気配は静まりかえっています」
「うん、私の警戒網にも引っかからない」
周囲の警戒に人一倍長けているサキア、そしてルナである。この二人が同じ意見ということは相当に信頼できることを意味するのだ。春人達はすこし緊張を解いた。そして、ちょうどそんな時である、ナラクノハナのメンバーが現れたのは。
「よう、お疲れさん。俺達の出る幕はなかったな」
ディランの無骨な言葉に反応するように、春人達は振り返った。彼の後ろには、リグドとニルヴァーナの姿もあったのだ。こうして、3組はオードリーの村で合流を果たした。
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