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104話 作戦会議 その1
しおりを挟む「なんとお礼を言ったらいいか……」
「い、いえ。気にしないでください。無事でよかった……とは言えない状況ですが」
オードリーの村の住民。生き残った者たちは、心から春人達に感謝をしていた。春人も恐縮しているが、とても素直に喜べない状況だ。
1万人ほどの人口のどのくらいが死亡したのか……それは現段階ではとても数えられない程だ。生き残った住民たちも、生きる望みを失っているかのようだ。次に闇の軍勢に攻め込まれたら、一気に全滅も在り得る状況だ。春人としても他人事にはなれなかった。
「今後については、仲間たちと相談します。依頼を受けたのは俺達ですので……必ず、闇の軍勢の脅威を取り除いてみせます」
「あ、ありがとうございます!」
住人の女性は春人に涙ながらにお礼を言った。自らも家族を失っているのだろうか、春人の言葉は非常に励みになったようだ。
そして、春人は軽く会釈をして、アメリアたちの元まで戻った。ビーストテイマーやナラクノハナのメンバーも揃っている。村の中央付近の広場にて、彼らは集まっていた。
「村の人たちは、とりあえずは落ち着いたみたいだね。悲しみは消えるはずはないが」
戻って来た春人に声をかけたのは神妙な表情をしているリグドだ。彼も心の中は春人と変わりがない。同時に怒りすら感じているようだ。
「そうですね……何百人死んだのか。被害は相当に大きいです」
「こういうと不謹慎かもしれないけどな、お前らが攻め入ったから、被害は最小限になったんだと思うぜ? 本来なら何千人と死んでもおかしくない状況のはずだ」
ディランも春人自身にフォローを入れる。彼の言葉は非常に的を射ていた。本来であれば、村自体が全滅していてもおかしくない事態だ。それを、推定犠牲者1000人以下で抑えることに成功したのだ。春人達が有無を言わさず攻め込んだ結果と言えるだろう。
「ま、結果論だけど上手く行ったことは事実ね。様子見をしていたら、次々と殺されただろうし。もちろん、慎重に様子見をするのも重要だけど」
「そうですわね。決して、ナラクノハナの方々を悪く言うのではないですが」
「まあ、フォローありがとうと言っておくよ」
アメリアとレナもナラクノハナのメンバーを悪く言うつもりなど毛頭ない。リグドも二人のフォローには感謝した。相手の能力が分からない段階では慎重になるのは定石だからだ。強行突破が成功したのは、春人達の実力が高かったからだと言える。
「それで、高宮春人だっけ? 相手の頭目である二人の実力はどうだい? 勝てそうだったかい?」
「えっと……そうですね……」
ニルヴァーナからの質問に春人は考えを巡らせる。実際にランファーリと剣を交えた事実と、レヴィンの印象からの推測だ。
「レヴィンという男はなんとも言えないですが……仮面のランファーリの方は、負ける相手ではないと思います。これに関しては正確かと」
春人は発言としては自信なさ気ではあったが、ランファーリには勝てるということには相当な自信を持っていた。だが、問題が生じている。
「あんたの勝てるでは参考にならないね。あんたレベル換算だと幾つだい?」
ニルヴァーナの冷静な突っ込みが入る。春人のレベルをある程度予測しているような口ぶりだ。リグドやディランも次の春人自身の言葉を待った。
「900弱……880程度かと……あはは」
春人はナラクノハナのメンバーに自らのレベルを告げる。ニルヴァーナは予想通りと言った表情をしていたが、リグドとディランはそうは行かなかった。
「880だと……!? そんな人間が存在しているのか……!?」
「まあ、鉄巨人が最強の存在ではないとは思っていたが……その2倍以上かよ……」
リグドもディランも言葉が詰まっている印象だ。アメリアのレベル600にも驚きではあるが、それをさらに2段階ほど上回る性能だ。流石の二人も開いた口が塞がらないといった感じになっていた。
「あなた達は、フィアゼスの親衛隊のことは知らないの?」
「親衛隊? 鉄巨人なら知っているが……まあ、他にも居ることは想像が付いていたが」
アメリアの質問に答えたのはリグドだ。その言葉で、彼女はジラークの文献などの存在をナラクノハナは知らないことを理解した。
「本来ならば、情報共有すべき事態ですが……神聖国が拡散することを否定していましたからね。マシュマト王国には上手く伝わっていなかったようですわね」
「……? なんのことだ?」
ディランも意味がわかっていないといった表情だ。ニルヴァーナの表情は変わっていないが、意味のわからなさでは他の二人と変わらないだろう。
「どこから話せばいいのかわからないけど……まあ、フィアゼスの親衛隊で鬼のように強い連中が居てね……」
アメリア達としても隠す意味のない情報だ。しかも同じ依頼をこなすナラクノハナになら、共有しておくべき情報でもある。彼女は、ナラクノハナに神聖国での情報を話し出した。
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「レベル1200だと……? しかも二人も……!? さらに、眷属の狼も720に達しているのか……?」
ディランとリグドの驚きは想像以上の現象であると言えた……彼らも話の流れから、鉄巨人以上の親衛隊の存在を予想はしていたのだ。だが、アメリアから聞かされた内容は彼らの予想をはるかに超えていた。
レベル1200のアテナとヘカーテの存在……さらに、レベル720を誇るケルベロスとフェンリルの存在だ。
4体とも、最強クラスの冒険者として有名なアメリアの実力を上回っている。春人ですら、単独ではアテナとヘカーテには勝てないレベルだ。そんな存在が野に放たれていた。本来であれば、各国のギルドや王族に伝えなければならない事態と言えた。
「初めて聞いたね……。ギルドマスターなら知っていそうだけどさ」
「上手く伝聞しなかった理由は神聖国の圧力があると思います」
ニルヴァーナは驚きこそしていないが、明らかに目を見開いている。さすがの彼女でも予想外のレベルだったようだ。親衛隊の情報が上手く伝わらなかった理由は神聖国の圧力は大いに関係していた。彼らは、フィアゼスを信奉している為に、親衛隊との摩擦を嫌う傾向にあるのだ。
「親衛隊の面子も暗躍している気配はないですし。人間を襲わないことにも同意してくれた印象でしたから」
「いや、全く根拠のないものだな……それは」
リグドは春人の発言には異論を唱える。春人は実際に対峙したからこそ、アテナの言葉が信じられるものであると理解できたが、立ち会っていないリグド達が不信感を抱くのは至極当然であった。
「まあ、どのみちレベル1200もの化け物が暴れたらどうしようもないよ。人間を襲わないとした言葉を信じるしかないね」
ニルヴァーナは表情を変えずに言ってのけた。まさに彼女の言う通りだ。大陸統一の最重要戦力であったアテナ達の行動については見守る以外に道はない。彼女たちは、1000年前に大陸中の国家を併合させた強者なのだから。
単純に当時の大陸の国家戦力と、現在の国家戦力とは比べられないが、1000年前には大陸の統一という偉業を成し遂げた者たち……まさにその強さは常軌を逸していると言える。
「確かに、親衛隊は鉄巨人だけなわけはないと思っていたが……そこまでの強者が居たとはね……」
「はははっ、やはり世界は面白いな……」
先ほどよりは冷静さを取り戻したリグドとディランではあるが、まだまだ信じられないといった表情をしている。自らの自信が消失していっているのかもしれない。冒険者としても春人やアメリアに大きく差をつけられているのだ。彼らの自信の喪失は仕方のないことであった。
「だが、それでもニルヴァーナは負けていないがな」
「そうだね、彼女の地の利を活かせば十分な戦力を発揮できる」
ディランとリグド、彼らにとってありえない程の話を聞いた本日。それでも、ニルヴァーナへの信頼は揺るがなかった。単純な戦闘能力だけであれば、いかにニルヴァーナといえども分が悪い。
だが、彼女には地の利を活かすスナイパーライフルがある。反応できない長距離からの狙撃は実力差を補って余りある程の利点であった。事実、自らのホームグラウンドで戦うことによって戦闘能力が向上する者は多い。
「少し話がずれてしまったね。闇の軍勢に対してどのように対処するかを話し合おうか」
「そうですね」
リグドは咳ばらいをして、場の雰囲気を戻した。春人もそれに続く。闇の軍勢に対する作戦会議はその後、すぐに始まった。
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