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10話 バルカンの訪問 その2
しおりを挟む(バルカン・ヨーゼフ伯爵視点)
「わかっただろう、ジョージ。このままボイコットを続けるのは、お前の家族にとっても大変なことになる。現場監督の給料は決して安くはなかったはずだ。それがなくなっても良いのか?」
「……」
ジョージは先ほどまでの自信がなくなっているのか、無言を貫いていた。この現場監督を落とすのは難しくはなさそうだ。代表者が下りたとなれば後の雑兵どももすぐに折れるだろうしな。
「私だけの一存では決められません……他の者達の意見も必要かと」
「それは分かっている。しかし、ジョージ、他の者達の説得はお前がするのだ」
「わ、私がですか……?」
「そうだ、現場監督は作業員の行動を管理する責務があるだろう? 家族を路頭に迷わせたくなければ、私の言う通りにするんだな」
現場監督の給料は他の作業員と比べて一線を画している。この給料を賄えるだけの仕事を探すのは困難なはずだ。私に対して生意気な態度を取ったこと、後悔するんだな。ふはははははは。
「このジョージ、家族を犠牲にするつもりはありません……」
「ふむ、当然の発言だな」
「しかし、同時に今の立場として、ヨーゼフ伯爵に従うことはできません。こちらは交渉をしたいと考えているのです」
「な、なんだと……? 貴様、大切な家族を見捨てるつもりか!?」
「そういうわけではありません。しかし、私達にとって、アリサ様も大切だということです。彼女は厳しい労働時間の改善にも動いてくれましたからね」
「なに……?」
アリサの奴、そんなところにまで関りを持っていたのか? 忌々しい奴だ……。ここに来てジョージの瞳が元に戻っていた。先ほどまでの自信を取り戻したような……なんて奴だ。
「どうしましょうか? バルカン様。現場監督は交渉を望んでいるようですが……」
「交渉……」
「はい、ヨーゼフ伯爵。私達が再び作業を実行するための交渉……幾つかの事柄を約束して欲しいのです。お話だけでも聞いて頂けますか?」
幾つかの事柄の要求……普通に考えればそんなことを聞く必要はない。交渉などには応じず、兵を差し向けるのは最終手段だとしても半強制的に仕事をさせる方が効率的だ。しかし、目の前の男から感じる信念は家族を犠牲にしてでも意見を通すと言っているようなものだった。
先ほどまでは非常に動揺していた男が、今は微塵も動揺を感じさせない。くそ、本当に忌々しい連中だ……それにアリサもこれ程、信頼されていたとは……。
「どんな要求だ? 言ってみろ」
「ありがとうございます、ヨーゼフ伯爵。では早速、お話いたしますが、アリサ様への謝罪と私達の賃上げ、さらにアリサ様の案を正式に採用していただきたい」
「なんだと……!?」
なんという屈辱的な要求だ、信じられん! アリサへの謝罪だけでも酷いのに、さらに賃上げまで要求してくるだと?
「何のつもりだ貴様……」
「アリサ様への謝罪と彼女の案の採用は普通のことだと思います。賃上げについては過酷な労働環境になっておりましたので、作業員達のモチベーションを上げる為に必要なことだと思っております」
馬鹿な……そんあ無茶な要求を呑めるはずがない。やはり、私設軍を使って強制的に労働させるのが正解だったか……?
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