G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 大逆転編 -

page.673

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池田さんが《取引先の不動産屋に任せていれば安心》だと思っている根拠は…。


『ちゃ…ちゃんと確保してあるらしいんだよ。このビルからマジで転居となった場合の、転居先の事務所ビルが』

『池田さん。それ…本当に信じていて大丈夫なんですか?でもそれを信じていい確証はないんですよね?』

『だから僕は知らないよ!だから…そっちの担当じゃないんだから』


こんな詰め問答を続けていたら、ずっと堂々巡り。
そんな返答で、詩織が納得できるわけがない。


『じゃあ…訊いてみてください。渡部副社長さんに』

『はぁ!?』


池田さんが、最近見てなかったほどの驚きの表情を僕らに見せた…。




61歳の渡部俊彦副社長の性格を…ふと想像してみる…。

おっとりしてて、従業員のみんなにとても優しい渡部副社長。
何でもかんでも「いいよ、いいよ」って言ってそうな《ぽかぽか陽だまりみたいな人》なイメージ。

もちろん、取引先を疑ったり、それを厳しく追求するようなタイプ…なんて絶対見えない。
別に61歳って年齢は、性格には全然関係ないけど。


『渡部副社長にそんな失礼なこと、訊けるわけないだろ!』


詩織も、池田さんのその返答には、一瞬『…ん?』と考えるような表情を見せて…どうやら『確かに』と思ったんだろう。

そんな、詩織と池田さんとのやり取りを、静かに見守ってる僕と鈴ちゃん。


『んー、そうね。じゃあ…掛けて』

『掛けて?…って?』

『相手の不動産屋さんに!だから、で・ん・わ!』


ずっと驚きの表情だった池田さん。
今度は…驚きの表情に、ちょっと恐れ慄く要素も盛り付けられた。


『はぁぁっ!なっ何言ってんのぉ!?…しっ詩織ちゃん!?』


立ち上がり、腰に左手を当てて《ウンウン》と、池田さんに『おやりなさい!』と言わんばかりの頷きを見せる詩織。


「すっごく頼りになるね!こういうときの詩織ちゃん。私好き」


僕に小声でそう呟き、まるで映画のヒーローを目の当たりにしたような、可愛いウキウキ笑顔を見せる鈴ちゃん。
僕は、詩織のその行動力にちょっと驚きだけど…。


『いゃ…でも』

『やーって!池田さん!』

『そんなことをしたら…』

『全部私が責任取るから!ぜーんぶ私のせいにしていいから!お願い!!』


お互い、これ以上ないくらいな真剣な眼差しで、睨み合う詩織と池田さん。


『私からも、お願いします…池田さん』


鈴ちゃんも品よく立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。


「えぇ…」


ゆっくりと…鈴ちゃんと詩織を順に何度も見る池田さん。


『わーかったよ!やるよ…』


今度は、鈴ちゃんと詩織がお互いを見合って《まずは第1段階クリアだね》って、確認し合ったように微笑んだ。


『池田さん。ほんとに「詩織わたしに無理矢理やらされた」って、私のせいにしていいから』

『いいよ、そんな気ぃ遣わなくても。僕は僕の責任で…やる…から…』


詩織と鈴ちゃんは、どう思っただろう。
僕は《自分の責任でやるんだ》と言った池田さんを…ちょっとだけ見直した。

池田さんは、ズボンのポケットから自分のスマホを取り出し、取引先の不動産屋に電…。


『待ってー!!』
『ええっ!?』


詩織が、池田さんが電話しようとしたところを慌てて止めた…?


『池田さんの個人の電話番号が、不動産屋さんの電話記録に残っちゃうじゃない!あっちの電話で電話して!!』


そう言って詩織が指差した先には…控え室の長机の端に据え付けられた電話機。


『あぁ…そっか。なるほど…ごめん。確か、不動産屋の電話番号は…』


また詩織と鈴ちゃんが見合う。
鈴ちゃんは、瞳をキラキラさせたにっこり顔。詩織はちょっとプンプンな微怒り顔。
詩織の表情から『んもぅ池田さんったら!ほんっと、おっちょこちょいなんだから!』って聞こえてきそう。

池田さんは電話機の受話器を取り、スマホの電話帳を見ながら電話を掛けはじめた…。




『…あ。もしもし。えっと、"不動産のプロパティ&コネクト" さんですか?…あ、はい。私…はい。あのぉいつもお世話になっております、冴嶋プロダクションの池田と申します…実は、6月1日期限の貸事務所ビル返却に伴う、次のご用意物件についてなんですけど…えぇ…ちょっとお話しが聞きた…はい。はい…あーはい…えぇ、まぁ…』


受話器から小さく漏れて聞こえてくる声から察するに…相手は女性の従業員。
初めは、細心の注意を払って話していた池田さんだけど…。





『えーぇ。あー!そーうですかー。わははは。担当の者が他の事務作業をしてて忙しい?そーりゃあ電話を代われ!なーんていうほうが酷って話ですよねーぇ。そりゃあ仕方な…ですよねーぇ!ねーぇ。では…またしばらく経ってから、こちらから電…えっ?はい…はい。はーい…』


…詩織が池田さんの真横に立って、右掌を差し出した。


『…はー…えっ?ちょ、ちょっと待ってください?』


池田さんが電話の保留ボタンを押して、詩織を見た。


『なっ、何?』

『代わって』

『はぁ!?』


池田さんも『はぁ!?』だけど、僕だって正直に言って『ええっ!?』って心境…。
だっ、大丈夫なの?詩織…。


『私に代わって!話させて!』


詩織が池田さんの手から無理矢理、受話器を取ろうとしたら…池田さんは受話器を詩織の手の届かないところまで腕を伸ばして、それを避けようとした。


『いや…なんで!?』

『いっ池田さんじゃ…話にならないっ!』

『いやいやいや…待って!待ーっ…ぷ!』

『貸ーしーて!!』


池田さんが手に握った受話器を、ぶつかり合いながらも右手を伸ばして、奪い取ろうと軽い揉み合いになった詩織。
そのときたまたま、詩織の右胸が池田さんの額に思いっきり当たったらしく…。

それで池田さんは一瞬気が緩んでしまい、遂に詩織に受話器を奪われてしまった。


『だ、駄目だって!頼む!詩織ちゃん…』


少しの間、互いを見合った詩織と池田さん。


『だから!駄っ!!』


池田さんは、言葉では『駄目だ!!』とは言っていたけど、暴れてまで詩織を強制的に制止しようとはしなかった。

保留ボタンを押し、息を整える詩織。


『はぁ…コホン。代わりました。私…弊所の人事部長で《事務所移転対策プロジェクト》の担当責任者の、と申します!』


「ちょっ…えぇっ!?何言ってるの!詩織ちゃん!」

「しっ!黙ってて!!」


小声で、また詩織に制止された池田さん。

《事務所移転対策プロジェクト》が立ち上がってるっていうのは嘘。
その担当責任者が、高須賀あずさ部長だってのも…詩織の嘘。
そして詩織が高須賀部長、本人だってのも…当然ながら嘘。

詩織って本当に…こういうときの大胆さと勇気と行動力が、ほんと凄い!!
ちょっと心配だけど…。




「僕、知らないよ!!どうなっても!!」


詩織は無視して電話に集中…。


『…この件の担当者が今代われない?何故です? 忙しい事務作業って一体何をされているの? こちらも不動産契約中の大切な取引先ですよね!!』













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