G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 吉転魚編 -

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『…では、次の質問に参りたいと思います』


ADのお姉さんは、プロデューサーから受け取った一枚の用紙に視線を落とし、顔を上げてそのまま僕らを見た。


『今の皆さんである"アンナファミリー"とは、どんな人たち…でしょうか。グループというか集まりというか』


…どんな人たち?

んー?

僕らメンバーは、それぞれ首を傾げて考えたり、互いを見合ったり、直接「なんだと思う?」って聞き合ったりしてた…。


『じゃあ、どなたか代表して。ご回答を』


お姉さんがそう言うと『だったらアンナさんだろ。代表』って秋良さんが言ったもんだから、その流れで『えっ、私?うん。じゃあ私が…』と、アンナさんが答えることに。

『初めはただの《仲良しグループの愛称》だったんです。アンナファミリーって。それを考えたのが詩織で…』

『はーい。そうでーす。私です』


アンナさんの説明の途中に、詩織が突然手を挙げて周りの笑いを誘ったけど、そのままアンナさんの説明は続いた。


『最初は、私と雄二と詩織の3人から始まって…次に(美容院のお客様だった)春華ちゃんを詩織が誘って、春華ちゃんの彼氏の秋良くんも詩織が誘って、それで啓介くんと大基くんも入って…信吾くんもそのままメンバーになって…鈴ちゃんもメンバーに入りたいって言ってくれて…鮎美ちゃんも入ることになって…』

『…で、はい。ありがとうございます。結局のところ…アンナファミリーというのは』


色々頑張って長々と、説明してくれたアンナさん。けど確かに…その回答では《アンナファミリーとは何なのか》は伝わらなかったかも。


『あぁいいよ!じゃあ俺が代わって説明するわ』


秋良さんが立ち上がって、お姉さんにそういった。
それを見て《あぁ、やっぱり》って感じに笑う、啓介さんと大基さん。それと詩織。


『アンナさんの言うとおり、初めは俺らは《ただの仲良しグループ》だったんだよ。それで《職種は違うけど、お互いファッションに関わる仕事なんだから、いつか一緒に何かできたらいいね》って言ってるだけの』

『あー。はいはい』


ADのお姉さんは、丁寧にウンウンと頷いた。


『だけどある日、信吾が《街の娘らに復讐したい!》って言って俺らの前に現れて、詩織とし始めたときから、俺らは《ただの仲良しグループ》じゃなくて《金魚や詩織たちを有名にする》ための仲間の集まりになったんだ』

『ご説明の途中にすみません。えっと…復讐?というのは…?』


秋良さんの話が終わるか終わってないかのうちに、お姉さんは僕らに次の質問を投げかけた。


「それなら…信吾が説明してあげたら?」


詩織が小さく笑って、小声でそう言ってチラリと僕を見た。


『あの!僕…大学生になってから、早瀬ヶ池の街の女の子たちに、見た目がダサい田舎者ってバカにされてて…ある時、凄く悔しいって思ったんです。それで…』


カメラが僕へと向けられた…ADのお姉さんも僕を見る。


『それで、復讐?女の子たちに…?』

『…はい。この金魚の姿で…』

『金魚?あー。《僕だって女の子になると、こんなに可愛いんだぞ!》って。《こんなに金魚みたいに可愛いんだから!街の女の子たち!女装した僕をバカにできないでしょ!》って…?』

『…えぇと…あ…はい…』


話せば話すほど、声のトーンが小さくなっていく僕…。


『初めは女装なことを隠してたんです!金魚っていう本物の女の子のフリをして』


今度は詩織が声を張って、お姉さんにそう言った。
カメラもそれを追うように詩織に向けられる。


『でも初めから、信吾が好きで女装してたんじゃなくて、信吾が女装を始めるきっかけになったのは、菊江さんなんですけど』

『菊江さん…?』


ADのお姉さんはキョロキョロ。僕らを見てもそこに菊江さんはいない。
だって、菊江さんは…。


『菊江さんってその人だよ、お姉さん。横にいる…ほら』


啓介さんと大基さんが立ち上がって、菊江さんを指差した…。
お姉さんも目を丸くして、そこに座っている菊江さんをじっと見る。


『そうよぉ。私がオカマの菊江よぉ♪』

『オカ…えっ待ってください!』


ADのお姉さんは《オカマ》という言葉に、先日の収録日で僕と詩織が話していたことを思い出したのかな。
あの日にも、菊江さんの話をしていたから。

それでADのお姉さんだけじゃない。
他の収録スタッフの人たちも、プロデューサーも《あぁ!あの時の収録日に語られてた人かぁ!》って、そんな感じに反応してた。

カメラは今度は、菊江さんの方へと慌てて向けられた。

菊江さんは慣れた感じに、ゆっくりと立ち上がって誇らし気にポーズをとった。


『すみません。あなたもアンナファミリーのお一人…』

『じゃないわよぉ!例えるなら…そうね。私はアンナファミリーのご近所さんってとこかしら』

『ご近所さん…?』


菊江さんはポーズをとったまま、カメラを指差した。


『あなた達!聞いて驚きなさぁい!あのお兄ちゃんの女装姿、本物の女の子よりもずっとずーっと可愛いでしょう?あの天才的才能よ!あんなキラキラダイヤの原石を、あの街の中から見つけてきて、アンナちゃんに初めて紹介してあげたのが…ほらほら!そうよ!この私…なーのよーぉ♪』


あまりの菊江さんの、慣れた感じの語りの迫力に、ADのお姉さんはしばらく呆然としてた。


『そうなんだよ!俺らや信吾のことを語らせたいんだったら、菊江さんの存在は必要不可欠なんだよ!』


秋良さんがまた立ち上がって、大きな声でそう言った。


『ちょっ…ちょっと待ってください!』


一旦、質問を止めたお姉さんは「プロデューサー、どうしますか?」と、訊きにこの場を離れた。
そして、聞こえないんだけど…何かを相談し合って…。


『すみませーん。席を一つ増やしまーす』


体の大きな男性スタッフさんの一人が、椅子を持ってきて…どこに置こうか迷ってる。


『待ちなさいよぉ。私が座るんだったら…ここでしょ?』






…菊江さんは、僕と詩織との真ん中に座った。


『あの…すみません。そこは…』


男性スタッフさんが、菊江さんの元へと駆け寄ると…。


『いいのよぉ!私のお喋りパートが済んだら、立ち退いてあげるからぁ!さぁ収録再開よぉ!』

『いいよいいよ棚田くん。このまま収録再開してやって』


そのプロデューサーの一言で、収録は再開された。






『…一昨年おととしの秋のことよぉ。私は甘心麺ってラーメン屋にいたのぉ。その日は珍しく満席。お客さんがいっぱいだったのよね。そこにあのお兄ちゃんが入店してきて…だけど私の隣の席がたまたま空いてたの。だから《お兄ちゃん!ここ空いてるわよぉ!》って。私の隣に座らせてあげたの。それからお兄ちゃん、頼んだラーメンを啜りはじめたわぁ。私は、そんなお兄ちゃんの横顔を見てたの。そしたら、お兄ちゃんも振り向いて私を見て…その時、私の身体中に電気がビビビッて走ったの!…あら!?このお兄ちゃん、が凄く可愛いんじゃない!?まさか!?嘘ぉ原石!?もしかして!?…って私、直感したのよぉ…』


菊江さんのそんな一人語りを…カメラを向け、静かに収録を続けるスタッフさん達。

そんな思い出と心の内をしばらく語り、十分に満足した菊江さんは『ごめんなさい。お邪魔して申し訳なかったわね』と一言言って、席を立った…。






『…それでは次の質問に参りますが、これが最後の質問になるかもしれません』


ADのお姉さんがそう司会進行していたころ、菊江さんは…プロデューサーの計らいで、今もまだ僕と詩織との真ん中に座って…にこにこ笑顔でいた。


『…はい。アンナファミリーの皆さんのご活躍があり、紆余曲折ありながらも、女装した岩塚信吾さんと岡本詩織さんがこの街で一番…と言いますか、有名になられた頃までの様々な思い出を、ここで思う存分語ってもらえませんか。宜しくお願い致します…』














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