G.F. -ゴールドフイッシュ-

筆鼬

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G.F. - 大逆転編 -

page.662

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詩織が荒井に微笑んで見せた。


『仮にもし本当に、私たちがあなた達のことを逆利用して、売名に成功したって言うのなら…私たち、相当頭が良いってことになるけど…いいの?』


詩織を睨み、何か反論したげに唇を震わすけど…結局何も言い返せない荒井。


『それは逆に、荒井さん達がよっぽど頭が悪いって言ってるこ…』

『黙れ!このクソ女ァ!私のほうがお前なんかより、何百倍も頭良いわ!!』


いや。それは無い。
僕も「頭良いね」って、何度か言われたことはあるけど…詩織は僕なんかより、ずっと頭が良いって思う。

ほら…詩織も勝利を確信したかのように、またいつものように『きゃはははー♪』って笑ってるし。


『…オイ…なに笑ってんだよ!この!!』
『もう止めて!(荒井)里美ちゃん!』


片山が荒井を、体を張って止めた。


『《威圧的なゴリ押し》だけじゃ勝てない!この子には!』


詩織は冷静に、その様子を伺って…。


『ふぅ…じゃあ、そういうことでね。私たち本当に急いでるから』
『だから!簡単には行かせないって言ってんの!』


今度は藤川が、詩織の進行を妨げた。


『だから!スタッフさん達を待たせてるって言ってるじゃない!』

『まだ話は終わってない!逃がさないから!』


詩織と藤川が睨み合う。


『逃げるんじゃない!口喧嘩だったらいつでも相手になってあげるけど、今日だけは都合が悪いって言ってんの!お願いだから退いてってば!』

『今日だから邪魔する意味があるの!スタッフたちを長時間待たせて、目一杯怒られて幻滅されればいいわ!!』


…酷っ!
これが《業界の先輩》と名乗る者の姿かよ!

個人的な報復のために、その業界を巻き込んで迷惑を掛けていいのか!


『じゃあ言いたいことを早く言ってよ!早く!!』


詩織がそう言って藤川をかす。


『だから!嘘までいてまで、そこまでしてあなた達は、有名になりたいの!?って言いたいの!』

『…なに?嘘って』

『ほんと、失望したわ…』

『嘘って何なの?だから説明してってば!』


藤川は、一度軽く目を閉じて息を払った…。


『…幾らで買ったのよ』

『買った?だから何を!?』


あーぁ。そうやってしらばっくれるんだぁ…。
藤川はそんなふうに、残念そうな目で詩織を見た。


『ライターよ。お金で書かせたんでしょ?嘘だらけのエピソード』

『は…エピソード?嘘??』


ライター。
それは《タバコに火を着けるあの道具》のことじゃない。

ストーリーの筋書きや脚本を書く職…!!



僕は急に頭にピンときた!
言いたいことは、そういうことか!!




藤川は僕を睨んだ。


『この男子がラーメン屋に入って?曇るからって眼鏡をとって?それをオカマが見て?目が可愛いかったからって女装を勧めて?変な美容院から女の子たちへの復讐が始まって?二人であの女の子の街の一番になれた?…そんな小説か漫画みたいな出来事が、滅多にあるわけないじゃない!!』


藤川が、ここまで僕らの軌跡について詳しいのは…《ドライ・リハーサル》で放映された、あの再現ドラマを観ていたからだ!

間違いなく《カメラ・リハーサル》じゃない。
だって《カメリハ》では、あの再現ドラマは《もう観たから省略》されてたんだから。

なるほど…あのスタッフさん達と観衆のなかに居たんだ…。

じゃあ《カメリハ》の時間帯は?
自分たちの番組収録の時間だった…ってことか。

そうか…それが先に終わって、ここに来たんだ…。


『あれは作り話なんかじゃない!』

『じゃあ作り話じゃなかったら、何だっていうの!』

『だから事実ってことよ!』




…あれ?
雫ちゃんが居ない…?

キョロキョロと周りを見て振り向くと…遠く僕らの控え室のドアが開いてる?
そこから、雫ちゃんが飛び出て駆けてくるのを僕は見た。


「待ってー!だったら!これを見てー!!」


手提げ鞄を手に下げた雫ちゃんが息を切らし、またここへと戻ってきた。


『だから!ド素人はしゃしゃり出ないでって…』

『はぁ…事実である証拠は…はぁ、はぁ…わ、私です!』

『…は?』
『頭オカシイんじゃないの?この子』


雫ちゃんは手提げ鞄から、薄い冊子を一冊とリングファイルを取り出し、藤川の足元へと投げた。


『?』


それを拾い上げる藤川。


『それは金魚ちゃんがデビューした、去年の《早瀬ヶ池 Girls File》5月刊と、金魚ちゃんとお姉さまとの《歩み》を調べてまとめた、私の大切な大切な《宝物ノート》です!』


僕はそれを聞いて、身体が小さく震えた…。
体の底から、嬉しさに似た感情が込み上げてくるのが分かった。


『だから、これが何なのって!!』


『《G.F.》には、金魚ちゃんとお姉さまのインタビューの内容が書かれています。その付箋が貼られているページです。それと私の宝物には、これまで調べたお姉さま達の足跡そくせきや、プリントアウトしたお姉さま達の写真、よく行くお店、憧れのアンナファミリーのことなどを書き込んでいます』


藤川は小冊子《G.F.》をパラパラとめくって、すぐにまた閉じた。


『その《G.F.》の発行日は、お姉さま達が芸能界デビューする、ずっとずっと前のことです。まだ嘘だと疑うなら、私の宝物の中身も見てみてください…』


言われるがままに、藤川は雫ちゃんのリングファイルを開いて、目を丸くして…固まった。


『えっ、嘘でしょ!?本当なの?』


片山がそう藤川に話し掛けても、藤川は固まったままだった。





『何で?そんな物を持ってるの?雫ちゃん…』


詩織が雫ちゃんにそう訊くと…雫ちゃんは声を震わせて言った。


『お二人のことが、私本当に…本当に大好きだからです。だからどこへ行くときも、どんな時でも…私は肌身離さず、いつもこの2冊を…』

『雫ちゃん…!』


詩織は優しく…雫ちゃんを抱きしめた。














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