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1.始まりの始まり/故郷と呼べない村
調律魔法
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クーレとさっきやってきた誰かが話している。中年の男だ。さっきと同じよう見つからないように二人のやりとりを観察していた。
男は右肩が痛い、腰が痺れるなどと言っていた。その後クーレは男をベッドに寝かせ、あの怪しげな青いモヤを彼に注いでいた。
最後に薬を手渡すと、男はすまんなぁと言いながら帰っていった。10分ほどの出来事だった。
次に小太りのおばさんとおじさんがやってきた。
「クーレちゃん、私、頭が痛いのよねぇ~」
「どうせたいした頭痛でもないのに、いつもすまないね」
「なによ~!あんたが家事を手伝わないからよ~!」
「なっ!俺のせいにするなよ!」
「まぁまぁアフテおばさん、トレイルおじさん、そのくらいにして…」
彼女もやはり青いモヤを5分くらい浴びる。
「クーレちゃんありがと!腰、楽になったわ~」
「私の魔法は応急処置みたいなものですから、後で渡す薬もきちんと飲んでくださいねー」
「もちろんよ~いつものあれでしょ?ペオナの根っこ、それと、アンペルッカの種、それから…」
「そうですそうですー!原料覚えてくださっているんですねー!嬉しいですー!」
一時の会話を楽しんだあと、彼女は付き添いの夫と言い合いをしながら帰っていった。仲睦まじい夫婦だ。
昼までにあと4,5人やってきたが、各々症状を訴えてはモヤを浴びせてもらい、時によもやま話をし、そして薬を手に上機嫌で帰っていった。
やはりあれは魔法だ。確かにクーレはそう言った。間違いない。ということは、この世界の魔法は俺の知っている魔法とだいぶ異なるみたいだ。
俺の世界で魔法は、圧縮され、小型化された魔法陣、つまり集積魔法回路が組み込まれた機器で発動するものだった。
それが発明される以前は魔法陣と詠唱の二通りの発動方法があったらしいが、魔法回路の発達により詠唱は廃れていった。
だがこの世界の魔法は詠唱も魔法陣も不要なようだ。もしかしたらクーレが特殊なだけかもしれないけれど。
一番の謎はあの青いモヤだ。あれが魔法の正体なんだろうけど、クーレ本人にも見えているのか、それとも魔眼を持つ俺だけ見えるものなんだろうか。
うーん、謎があまりにも多い…
考えを巡らせていると、いつの間にか昼時になっていた。
「お昼にしようかー」
クーレがカーテンからひょっこり顔だけのぞかせる。
クーレについていった先は小さめのダイニングのようだった。干し肉のようなものも天井から吊るされている。食卓には二人分のパンとスープが並べられていた。
さっきまで最後の患者の見送りに行っていたはずなのにもう準備ができている。
どうやったのかはわからないが、そんなことまで考え始めたら脳がオーバーヒートしそうだから止めておこう。
「クーレの魔法って本当に万能だよな、どんな患者でも治療できるみたいだし」
クーレの魔法が万能ではないことは分かっている。彼女は俺の助けが必要なケースがあると言っていたからだ。
患者との話を聞いていても見栄を張るタイプではなさそうだし、こんな風に尋ねれば何か新しい情報を話してくれるはずだと踏んだのだ。
「そんなことないよー!私の調律魔法で治せるのは魔力循環の障害が原因の症状だけだし、あとは痛みの軽減くらいしかできないからねー」
ちょっと待って新しい情報が多いよ…?調律魔法?聞いたことないな…そして、魔力循環?魔力って体内を巡るものなの?血液みたいに?
「あと、外傷の治療はやっぱりフォル君の方がいいしねー」
「そ、そう言ってくれて嬉しいよ」
なるほど俺は外傷の治療担当なのか。ということは…俺も何かしらの治療魔法が使えるってことか!
「そんなことよりさー、アフテおばさんとトレイルおじさんのやり取り聞いてたー?ほんと面白いよねー!」
クーレがこの少年と話をするのはきっと日常的なことなんだろうが、俺はクーレと出会ったばかりだ。どんなテンションで話せばいいかわからなくて困る。
そして彼女の顔を真正面から見たのもこの時が初めてだった。ずっと笑顔で話しかけてくる。陰キャな俺は眩しさで焼け死にそうな思いだ。
「ところでクーレ、この昼食はいつの間に準備したんだ?少し前まで患者さんと一緒にいただろ?」
「あーそれはね、隣のアフテおばさんが今日の治療のお礼にって言って用意してくれたんだよ。すっごく美味しいよねー!」
####
昼食を終え、少しするとまた患者さんがやって来はじめた。俺はとりあえずいつものように物置に待機だ。
一人目が帰ってしばらくして二人目が来た。二人目が帰ってまたしばらくして三人目が来た。三人目が帰って…午後の国語の授業に引けをとらない単調な時間が続き、いつの間にか眠ってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?早く横になってください!」
いつにないクーレの慌てた声で目が覚めた。急患だろうか。部屋に入ってくる足音から察するに患者は複数人いるようだ。
「どうしたんですか!?その傷、獣にでも襲われたんですか!?」
「あぁ!山で狩りをしていたら背後から物音がして、振り返ったときにはリーダーが…相手が一体だったから何とか二人で追い払ったんだが…な!」
「えっと、自分たちも、その、死ぬかと思いました…」
狩人が狩りの途中で獲物に襲われたみたいだ。で、一緒にいた仲間たちがケガした一人をこの村まで運んできたんだな。
それにしても山には恐ろしい獣がいるんだな。話を聞く限りかなり素早い獣のようだ。自分も山に行くことになった際は用心しないと…
「フォル君出番だよ!」
「へっ!?」
「早く来て!」
クーレに引っ張られてベッドの前まで連れてこられた。ベッドの上には痛みで顔の引きつった男が一人いる。周囲には彼を運んできた仲間の狩人と思われる男が二人立っている。
一方は大柄だがもう一方は細身だ。ベッドの上の男は左腕の衣服がズタズタに引き裂かれており、真っ赤に染まっていた。頭にも赤くなった布が巻かれている。呼吸も荒い。かなりの重症だ。
「彼がお仲間さんを治します!あなたたちは外で待っていてください」
「すまんが、よろしく頼む!」
「よ、よろしくおねがい、します!」
立っていた対照的な体格の二人が俺に勢いよく頭を下げ、そして部屋を出ていった。
「ふぅ…じゃあ始めようかー、最初は私がやるねー」
そういってクーレはいつものようにベッドの横の丸イスに腰掛けて調律魔法をかけ始める。
すると、さっきまで痛みに耐えていた男の顔がみるみる平常に戻っていき、呼吸も落ち着いてきた。
(ん…?俺の助けがいるんじゃなかったの?いつものように治療が進んでますけど…?)
心の中でつぶやいたのを聞き取ったかのようにクーレが立ち上がり、
「じゃあ、ここからお願いねー」
そういって男の仲間の二人のいる方へすたすた歩いて行ってしまった。俺は傷だらけのままで眠ったようになっている男と二人きりになり、部屋が一瞬しんと静まり返る。
治療魔法…どうやって発動するかわからないんですけど……
男は右肩が痛い、腰が痺れるなどと言っていた。その後クーレは男をベッドに寝かせ、あの怪しげな青いモヤを彼に注いでいた。
最後に薬を手渡すと、男はすまんなぁと言いながら帰っていった。10分ほどの出来事だった。
次に小太りのおばさんとおじさんがやってきた。
「クーレちゃん、私、頭が痛いのよねぇ~」
「どうせたいした頭痛でもないのに、いつもすまないね」
「なによ~!あんたが家事を手伝わないからよ~!」
「なっ!俺のせいにするなよ!」
「まぁまぁアフテおばさん、トレイルおじさん、そのくらいにして…」
彼女もやはり青いモヤを5分くらい浴びる。
「クーレちゃんありがと!腰、楽になったわ~」
「私の魔法は応急処置みたいなものですから、後で渡す薬もきちんと飲んでくださいねー」
「もちろんよ~いつものあれでしょ?ペオナの根っこ、それと、アンペルッカの種、それから…」
「そうですそうですー!原料覚えてくださっているんですねー!嬉しいですー!」
一時の会話を楽しんだあと、彼女は付き添いの夫と言い合いをしながら帰っていった。仲睦まじい夫婦だ。
昼までにあと4,5人やってきたが、各々症状を訴えてはモヤを浴びせてもらい、時によもやま話をし、そして薬を手に上機嫌で帰っていった。
やはりあれは魔法だ。確かにクーレはそう言った。間違いない。ということは、この世界の魔法は俺の知っている魔法とだいぶ異なるみたいだ。
俺の世界で魔法は、圧縮され、小型化された魔法陣、つまり集積魔法回路が組み込まれた機器で発動するものだった。
それが発明される以前は魔法陣と詠唱の二通りの発動方法があったらしいが、魔法回路の発達により詠唱は廃れていった。
だがこの世界の魔法は詠唱も魔法陣も不要なようだ。もしかしたらクーレが特殊なだけかもしれないけれど。
一番の謎はあの青いモヤだ。あれが魔法の正体なんだろうけど、クーレ本人にも見えているのか、それとも魔眼を持つ俺だけ見えるものなんだろうか。
うーん、謎があまりにも多い…
考えを巡らせていると、いつの間にか昼時になっていた。
「お昼にしようかー」
クーレがカーテンからひょっこり顔だけのぞかせる。
クーレについていった先は小さめのダイニングのようだった。干し肉のようなものも天井から吊るされている。食卓には二人分のパンとスープが並べられていた。
さっきまで最後の患者の見送りに行っていたはずなのにもう準備ができている。
どうやったのかはわからないが、そんなことまで考え始めたら脳がオーバーヒートしそうだから止めておこう。
「クーレの魔法って本当に万能だよな、どんな患者でも治療できるみたいだし」
クーレの魔法が万能ではないことは分かっている。彼女は俺の助けが必要なケースがあると言っていたからだ。
患者との話を聞いていても見栄を張るタイプではなさそうだし、こんな風に尋ねれば何か新しい情報を話してくれるはずだと踏んだのだ。
「そんなことないよー!私の調律魔法で治せるのは魔力循環の障害が原因の症状だけだし、あとは痛みの軽減くらいしかできないからねー」
ちょっと待って新しい情報が多いよ…?調律魔法?聞いたことないな…そして、魔力循環?魔力って体内を巡るものなの?血液みたいに?
「あと、外傷の治療はやっぱりフォル君の方がいいしねー」
「そ、そう言ってくれて嬉しいよ」
なるほど俺は外傷の治療担当なのか。ということは…俺も何かしらの治療魔法が使えるってことか!
「そんなことよりさー、アフテおばさんとトレイルおじさんのやり取り聞いてたー?ほんと面白いよねー!」
クーレがこの少年と話をするのはきっと日常的なことなんだろうが、俺はクーレと出会ったばかりだ。どんなテンションで話せばいいかわからなくて困る。
そして彼女の顔を真正面から見たのもこの時が初めてだった。ずっと笑顔で話しかけてくる。陰キャな俺は眩しさで焼け死にそうな思いだ。
「ところでクーレ、この昼食はいつの間に準備したんだ?少し前まで患者さんと一緒にいただろ?」
「あーそれはね、隣のアフテおばさんが今日の治療のお礼にって言って用意してくれたんだよ。すっごく美味しいよねー!」
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昼食を終え、少しするとまた患者さんがやって来はじめた。俺はとりあえずいつものように物置に待機だ。
一人目が帰ってしばらくして二人目が来た。二人目が帰ってまたしばらくして三人目が来た。三人目が帰って…午後の国語の授業に引けをとらない単調な時間が続き、いつの間にか眠ってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?早く横になってください!」
いつにないクーレの慌てた声で目が覚めた。急患だろうか。部屋に入ってくる足音から察するに患者は複数人いるようだ。
「どうしたんですか!?その傷、獣にでも襲われたんですか!?」
「あぁ!山で狩りをしていたら背後から物音がして、振り返ったときにはリーダーが…相手が一体だったから何とか二人で追い払ったんだが…な!」
「えっと、自分たちも、その、死ぬかと思いました…」
狩人が狩りの途中で獲物に襲われたみたいだ。で、一緒にいた仲間たちがケガした一人をこの村まで運んできたんだな。
それにしても山には恐ろしい獣がいるんだな。話を聞く限りかなり素早い獣のようだ。自分も山に行くことになった際は用心しないと…
「フォル君出番だよ!」
「へっ!?」
「早く来て!」
クーレに引っ張られてベッドの前まで連れてこられた。ベッドの上には痛みで顔の引きつった男が一人いる。周囲には彼を運んできた仲間の狩人と思われる男が二人立っている。
一方は大柄だがもう一方は細身だ。ベッドの上の男は左腕の衣服がズタズタに引き裂かれており、真っ赤に染まっていた。頭にも赤くなった布が巻かれている。呼吸も荒い。かなりの重症だ。
「彼がお仲間さんを治します!あなたたちは外で待っていてください」
「すまんが、よろしく頼む!」
「よ、よろしくおねがい、します!」
立っていた対照的な体格の二人が俺に勢いよく頭を下げ、そして部屋を出ていった。
「ふぅ…じゃあ始めようかー、最初は私がやるねー」
そういってクーレはいつものようにベッドの横の丸イスに腰掛けて調律魔法をかけ始める。
すると、さっきまで痛みに耐えていた男の顔がみるみる平常に戻っていき、呼吸も落ち着いてきた。
(ん…?俺の助けがいるんじゃなかったの?いつものように治療が進んでますけど…?)
心の中でつぶやいたのを聞き取ったかのようにクーレが立ち上がり、
「じゃあ、ここからお願いねー」
そういって男の仲間の二人のいる方へすたすた歩いて行ってしまった。俺は傷だらけのままで眠ったようになっている男と二人きりになり、部屋が一瞬しんと静まり返る。
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