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第二章 神女の憂鬱

もやもや

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 午後も、途切れず訪れる礼拝者を眺めながら、エファリューはすっきりしない思いでいた。

「神女様のおかげで、心が晴れ渡ったようです」
「エメラダ様はまさに神だ」

 神官たちの魔法に包まれて、満面の笑みで帰っていく彼らを見守っていると、耳元で妹姫の声が聴こえた。

『なんの努力もせずに』

 今になってムカムカと腹の底から怒りが湧いてきた。

(わたしだって、あそこまでの光魔法は無理でも、催眠でどうにかすることくらいできるわよ)

 できるが、しなくていい立場なだけだ。

(あの小娘がどれほどの教育を受けたか知らないけど、エメラダだって相当なものよ)

 十日間で、エメラダの筆跡を習得しろと無理難題を押し付けられたエファリューは、彼女が残した数々の学習の跡をなぞったから知っている。エメラダとて、決して努力なし、苦労なしにこの座にいたわけではないのだ。

(それに、なに? 代変わりがなんですって?)

 ちらりとアルクェスを振り返る。
 尋ねれば、メラニーがどんなに神女を馬鹿していたかも伝わるだろう。そうしたらこの狂信者は、第二王女にも怒りの鉄槌を下す気になるだろうか。そうしたらエメラダもエファリューも、少しは溜飲が下がる気はする。だが、もうとにかく面倒だった。
 もやもやが、胸から腹へ沈んでいく。

(──痛っ……)

 ぐぐっ、と締め付けられるような痛みが下腹に刺さった。

(あらまあ……予定を見誤ったわね。どうりで頭が冴えないはずだわ)

 そっと尻を持ち上げるように姿勢を変えて、背後に問いかけた。

『……ねぇ、今日はもう帰っちゃダメ?』
『駄目ですね』
『あら、そう。じゃあこの神女のドレスと椅子を、血で染めることになるけど、いいのね?』
『……!? そういうのはもっと分かりやすく伝えてください!』

 月の満ち欠けで神女の力が不安定になるという教えに則り、神女を務める姫の月のものは障り、穢れとされている。
 慌ただしく神殿内すべてに伝達され、祭壇の帷が下ろされる。アルクェスには当然のように抱き上げられて、控えの間に運ばれるし、プライバシーも恥じらいもあったものではなかった。

「左様ですか。お若いですから、そういったこともあるでしょう。ご自愛ください」

 オットーは穏やかに頷いて、帰りの馬車の支度を急がせたが、心なしか落胆の色が顔に浮かんでいるようにも見えた。エメラダに見えることのできなかった信者の列も、どこか寂しそうだ。常より長かった障りが明けたと思ったら、半月足らずでまた下がってしまうのだから、彼らががっかりするのも無理はない。
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