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第二章 神女の憂鬱

もやもや2

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『神女がいない間は、あの橋の上ってどうなるの?』
『変わらず、ですよ。神女様のお力は偉大ですから、不在であろうと神殿はご加護で満ちているのです』
『はいはい、そういうことになっているのね』
『勿論、祭壇にお姿があった方が、より霊験あらたかとは誰もが思うことですが。こればかりは、致し方ないでしょう』

 馬車に乗り込むや、いつも使っている膝掛けに加えてブランケットで体ごとくるまれた。

「顔色が悪いですね。帰ったら、ハーブティーでも淹れましょう」

 具合が悪い時に向けられる気遣いの心は、嬉しいものだ。ブランケットの温もりと馬車の揺れにエファリューが微睡んでいると、くすくすと嗤い声が響いた。

『神女でなければ価値もないのに──』

 はっとして、目を見開く。
 アルクェスの空色の瞳は、静かに見守ってくれている。その視線と気遣いは、誰に向けられるものだろうかと考えると、急に指先が冷えて感じた。腹はしくしく痛い。

(やぁね、どうかしてるわ。こんな重たい男なんて、こっちから願い下げなのに、わたしったら何を考えてるの? これだから月のものっていやなのよ)

 本当に文字通り、血迷っているだけだ。柄にもなく心細い気がするのも、頭がぼんやりするのも、小生意気なちび姫のせいではない。全部、生理現象のせいだ。全然気になんかならない──、エファリューはブランケットをかき合わせた。

「どうしました?」
「寒い……」
「ちょっと失礼します……ああ、熱いですね」

 額に添えられた大きな手が、ひんやりと心地良い。熱があるのだと自覚した途端に、ますます頭がぼやけていく。
 馬車の揺れはまるで、幼い時に常勝軍の将軍に抱かれながら乗せてもらった、馬上を思い出させた。

「……抱っこして」
「は?」
「寒い、眠い、お腹痛い、疲れたぁ」
「子供じゃないんですから」

 そうエファリューは子供じゃない。子供でいられた時間が、短かった姫だ。満たされなかった心が、熱で疼く。

「抱っこしてくれなきゃ、フューリ連れて逃げてやる」
「そうですか。ではそのフューリに鎖を付けましょう」
「ううう……それはいやだぁ」
「では大人しく眠りなさい」
「でも寒いんだもん!」
「はぁ、困ったひとだ」

 揺れに気を付けながら、アルクェスはエファリューの隣に移動すると、ブランケットごと引き寄せて肩に寄り掛からせた。
 エファリューがお望みの抱っことはいかなかったが、隣り合った体温が十分温かくて、目を閉じたらすぐ眠りに落ちてしまった。



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