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第二章 神女の憂鬱

思いがけない未来2

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 エファリューは神女さながらの慈悲深い微笑みで、首を横に振った。

「アル……残念だけど、わたしは養ってもらえればそれでいいの。心までは貴方のものになれないわ。ごめんなさいね……」
「何を勘違いしているんです。その扶養の話をしているだけですよ」

 寝台に下ろされたエファリューの前に、空色の瞳が跪く。

「神女様の座を退いた後まで、エメラダ様の身代わりを強いるつもりはありません。勿論、この城で余生を過ごされたいと言うのなら、それはそれで結構です。ロニー卿にも承知いただいております。しかし、ここを出て自由になることを貴女が望むのであれば、外界に帰して差し上げましょう。エメラダ様御逝去を装えば、何とかなるでしょう」

 言いながら、エメラダの葬送など考えたくもないという悲壮感を滲ませた顔である。

「その際も、新しい環境を調え、暮らしていけるだけの支援は惜しみません。どちらを選ぼうと、わたしは貴女を放り出す気はありませんので、そういう意味で離れるつもりはないと考えているのです」
「……早く退座した方がお得なくらい、好条件すぎて怖いんだけど。まだ何か隠しているんじゃないでしょうね?」
「何もありませんよ。神女様のお務めだけ、きちんと果たしてくだされば、生活は保証すると約束したでしょう」
「そ、そうだけど」

 言い方というものに気を付けてくれないと、驚くではないか。

 そもそもエファリューの一生を支えるなんて、無理な話だ。
 己でかけた呪いによって時間が捻れた彼女の肉体は、老いることを忘れやすい。その時々でエファリューが身体を、歳を重ねたように見せれば、不自然を誤魔化すことはできる。不死でもないため、老齢の姿で時を経ればいずれ身は衰え朽ちるが、それでも常人よりずっと時の流れが緩やかなのだ。

(どう考えたって、アルの方が先に逝くのに……貴方、本当にわたしに一生を捧げることになっちゃうわよ?)

 眉目秀麗な教育係に寝かしつけられながら、エファリューは胸にときめきを膨らませる。
 重すぎる愛は要らない。だが他に類を見ない彼の誠実さと……何より生活資金は魅力的だ。
 ありがたく一生を負わせるつもりで、規則正しく上掛けを撫ぜる彼の手に、微睡む体を委ねた。

 そうして眠りに落ちながら、問いを一つ胸の奥に仕舞い込んだことを、エファリューは気付いていない。

 エメラダが帰ってきたら、この契約は、未来は、どうなるのかということを。




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