73 / 91
4幕 家守の鏡
5 桃家の人々
しおりを挟む……なんてことを思っていると、得てして関わるはめになるものである。
碧玉は天祐の背に隠れるようにして、馬車から降りた。まさか桃家の屋敷の門前で、桃宗主が待ち構えているとは思いもしなかった。
碧玉はこっそりと後ろを振り返る。あの桃の木の間を通り抜けた先、小高い丘の上に、家がひしめくようにして町が広がっていた。通りには、どうも薬や薬草を扱う店が多いようだった。
「久しぶりだな、紫曜! 甥に会うのは何年ぶりだろう。到着を楽しみに待っていた」
桃宗主である桃清は朗らかに笑い、紫曜の肩を軽く叩いた。暗みを帯びた薄桃の髪を金の冠でまとめており、緑の目を柔和に細めている。いかにも優しそうな雰囲気をした中年の男だ。馬車を降りた紫曜は、拱手をしてあいさつをする。
「ご無沙汰しております、桃宗主。お元気そうで何より」
「桃宗主だと? 伯父上と呼んでくれないのか」
「……伯父上」
人と接するのが得意な紫曜が、清の猛攻に押されている。紫曜が呼びなおすと、清はうれしそうに笑った。傍らでは、吊り目がちの美女が薄っすらと微笑んでいる。深紅の髪には金のかんざしが飾られ、金目は油断なく客を見据えていた。白と緑の襦裙はたおやかなのに、彼女の左手には無骨な剣が握られている。
「まったく、あなたときたら! そんなに前のめりでぶつかるなんて、みっともないこと。紫曜が困っているでしょう」
「領地が遠すぎて、滅多と会えない親戚なんだ。少しくらい構わないじゃないか、華礼」
清は困り顔をして言い返す。
(なるほど、あちらが赤家から嫁いできたという、赤華礼様か)
清が呼んだ名を聞いて、碧玉は桃宗主の夫人だと悟った。
赤家は男女関係なく、武術をたしなむ者を尊ぶ傾向がある。恐らく華礼も剣士なのだろう。
「伯父上、同行してくださった白家の皆様もご紹介させてください」
紫曜は丁寧に断りを入れ、天祐を示す。
「こちらは白宗主の白天祐殿です」
「おお、新しく代替わりした方ですな。先代や先々代は残念でしたね。お若いのにご苦労が多いようで、気の毒に思っておりました。当家ではごゆるりとお過ごしください」
清は心から悲しそうな顔をして、天祐を労わった。
「ご配慮いただき、感謝します。しかし、我々は町の宿に泊まる予定のはずでは?」
「甥に付き添ってくれるという客人を、町に泊めるだなんて! そんな無作法な真似はしませんよ。そう心配しなくても、邸内はいくつかの堂に分かれて建っているので、客人も過ごしやすいかと思います。どうかもてなしさせてください」
「そこまでおっしゃられては、お断りするわけにもまいりませんね。では、桃宗主のご厚意に甘えさせていただきます」
天祐は丁寧に受け答えをした。
「白家の直系の方がいらっしゃるのは、うれしいことです。昔、白家からいただいた白明鏡は今でも大切に祀っておりますので。ああ、それから」
清は思い出したように、後ろに控えている子ども達を紹介する。
「こちらは長男の安、長女の如花です。何かお困りでしたら、安や使用人にお尋ねください。そのほうが気兼ねないでしょう」
清の紹介を受け、十代半ばの少年が拱手をする。薄桃の髪を銀の冠でまとめており、母ゆずりらしき吊った緑の目は、知的に輝いている。
「桃安です、どうぞよろしくお願いします」
少年の傍に寄り添っている幼い女の子も、おずおずとあいさつをした。こちらも薄桃の髪を持っており、二つのお団子に結っている。まん丸の目は明るい緑色をしていて、将来は美女になるだろうと予感させる整った顔立ちをしていた。
「如花です。皆様、ゆっくりしていってください」
照れ笑いを浮かべる如花は愛らしく、場の空気がほっこりする。しかし、皆の視線が集中すると、清の後ろに隠れてしまった。華礼が非礼を詫びる。
「すみません、娘は人見知りをしているようで。いらっしゃい、如花。この間も熱を出していたのです。そろそろ部屋に入りましょう」
華礼はすぐ後ろにいる侍女に剣を渡し、如花に近づいて腕に抱きあげた。
「わたくしはお先に失礼させていただきます」
「私も行くよ、華礼。安、後を頼んだよ」
「お任せください、父上」
桃宗主夫妻を見送り、安がその場に残った。まだ十代半ばなのに、柔和な空気をまとっていて、しっかりした若者だ。
「皆様、客堂へご案内いたします。どうぞこちらへ」
荷を下ろすのは使用人に任せ、碧玉達は安の後ろに続く。碧玉は天祐に近づいて、小声で問う。
「天祐、あれが乱暴者だったというのは真か?」
「私に聞かれても困りますよ。どう見ても穏やかで優しい少年のように見えますが」
「猫を被っていると思うか?」
「ご両親に信頼されているのを見ると、それはないのでは?」
ひそひそと話し合ったところで、安の実情など二人には分からない。紫曜から受けた依頼内容を思い出し、碧玉はつぶやく。
「黒家の親戚が、薬を手に入れてくれと頼みこむわけだな」
「ええ、そうですね」
天祐も同意した。
180
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。