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番外編 隣席女子は話したい
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あたしがマサに出会ったのは、高校に入学してすぐのことだった。
「俺は佐野将隆ってんだ。よろしくな」
「……ども。あたしは関谷凛です」
同じクラスで、あたしの前の席。入学式が始まる前に面識もないくせにいきなり話しかけてきたチャラい男子。それがマサだった。
マサはあたしに気があるだとか、女子なら誰にでも関係を持とうとするだとか、そういうチャラチャラした男じゃなかった。当時は早く友達を作ろうと必死だったと本人の口から聞いた。
むしろ、そう警戒していたのは当時のあたしだった。見た目軽そうな男子に話しかけられて、反射的に身構えてしまった。
結局、最初は自己紹介のやり取りだけだった。マサはあたし以外にも近い席の人に片っ端から声をかけていた。
明るい奴なんだな。それがマサに対しての第一印象だったことを覚えている。
※ ※ ※
マサとすぐに仲良くなったわけじゃないんだけど、不思議と縁はあった。
「おっ、また関谷が隣か。よろしくな」
「また佐野くんが隣かぁ……。席替えの面白味ってやつがないよねー」
「ひでーな。見知った顔が近くにあった方が落ち着くだろ?」
「佐野くんがもうちょっと落ち着いた顔をしてくれていたらね」
「えっ……。関谷には俺がどんな顔に見えてんの? そ、そんな変な顔じゃないだろ? な? そうだと言ってくれよ!」
何度か席替えがあった中で、その全部がマサの隣の席だった。なんかもう呪いでもかけられているんじゃないかって疑ってたね。
挨拶を交わす。用事があれば話しかける。ただそれだけの、隣の席同士の関係だった。
「マサは隣に女子がいていいなー」
「俺ら男子密集地帯になっちったよー。マサが羨ましい」
「マサ! 頼む! 俺を女子の隣の席に座らせてくれ!」
隣の席にいれば「マサ」っていうあだ名が嫌でも頭に入ってくる。てか最後の奴キメー。
普通のクラスメイト。それがお互いの認識だったと思う。
※ ※ ※
高一の冬。
「凛ちゃん……。俺達、別れよう……」
「え?」
彼氏から突然別れを告げられた。
一瞬意識が真っ白になった。なんとか理由を聞き出そうと必死に言葉をぶつけた。何も考えられなくて、ちゃんと言葉になっていたか怪しい。
彼氏はあたしが中学生の時の家庭教師だった。大学生の彼は大人で包容力があって、同年代の男子とは全然違っていたから。恋に落ちるのにそう時間はかからなかった。
がんばってアピールして、褒めてほしくて勉強に集中して……。自分のことながら、純情な乙女だった。
その努力が報われたのだろう。いつしか、あたし達は恋人になっていた。
「俺さ、就職が決まったんだ。大手企業なんだよ。それなのに高校生の彼女がいるってのは……その、おかしいだろ? 凛ちゃんは賢いからわかってくれるよね?」
全然わからないよ……。
本人はあたしを説得しているつもりなんだろうな。優しい口調で、あたしを傷つけるようなことばかり言っていた。なのに「凛ちゃんのためでもあるから」なんて言って自分を正当化しようとするのも気に食わない。
「……」
何度も言葉を重ねられたからじゃない。説得に納得なんかしていない。でも、あたしは何も言えなかった。
彼が好きだから。彼の立場もあるってわかっているから。彼にとって、あたしはまだまだ子供って思われていたんだ……。それが、痛いほど伝わってきた。
いろんな感情が溢れて声にならなかった。口を開こうとするだけで、涙が溢れてしまいそうだったから。
そんなあたしの態度が、わかってくれたとでも思わせてしまったのだろう。彼はほっと息をつくと笑顔を見せた。
「良かった。凛ちゃんならわかってくれると思っていたよ。本当に、今までありがとう……」
彼は最後まで優しくて、そして笑顔であたしから離れた。
引き留めようと手を伸ばすこともできず、あっさりと最後を迎えてしまった。どうすることもできないまま立ち尽くした。
「ふええぇ……」
彼がいなくなって、この場に誰もいなくなって、それからようやく遅すぎた涙を零した。
しばらく泣き続けて。どうしたらいいのかもわからなくて。あたしはこの場から動けずにいた。
「関谷っ!? 何お前泣いてんの!?」
……何声かけてきてんだよ。本当にそう思った。
偶然通りかかったというマサは、泣いているあたしを見て思わず駆け寄って声をかけたようだ。
「……放っておいてよ」
「それ無理だから。とにかくこれ、ハンカチ。今の顔やべーって。通行人が見ちゃうって」
顔やべーとはなんだ。やべーとは。女子に対する言葉じゃねえぞ。
怒りはあったけど、睨みつけるほどの余裕はなかった。手渡されたハンカチに顔を埋める。
そうして二人きりになり、あたしは流れでマサに失恋の話を聞いてもらったのだった。
「俺は佐野将隆ってんだ。よろしくな」
「……ども。あたしは関谷凛です」
同じクラスで、あたしの前の席。入学式が始まる前に面識もないくせにいきなり話しかけてきたチャラい男子。それがマサだった。
マサはあたしに気があるだとか、女子なら誰にでも関係を持とうとするだとか、そういうチャラチャラした男じゃなかった。当時は早く友達を作ろうと必死だったと本人の口から聞いた。
むしろ、そう警戒していたのは当時のあたしだった。見た目軽そうな男子に話しかけられて、反射的に身構えてしまった。
結局、最初は自己紹介のやり取りだけだった。マサはあたし以外にも近い席の人に片っ端から声をかけていた。
明るい奴なんだな。それがマサに対しての第一印象だったことを覚えている。
※ ※ ※
マサとすぐに仲良くなったわけじゃないんだけど、不思議と縁はあった。
「おっ、また関谷が隣か。よろしくな」
「また佐野くんが隣かぁ……。席替えの面白味ってやつがないよねー」
「ひでーな。見知った顔が近くにあった方が落ち着くだろ?」
「佐野くんがもうちょっと落ち着いた顔をしてくれていたらね」
「えっ……。関谷には俺がどんな顔に見えてんの? そ、そんな変な顔じゃないだろ? な? そうだと言ってくれよ!」
何度か席替えがあった中で、その全部がマサの隣の席だった。なんかもう呪いでもかけられているんじゃないかって疑ってたね。
挨拶を交わす。用事があれば話しかける。ただそれだけの、隣の席同士の関係だった。
「マサは隣に女子がいていいなー」
「俺ら男子密集地帯になっちったよー。マサが羨ましい」
「マサ! 頼む! 俺を女子の隣の席に座らせてくれ!」
隣の席にいれば「マサ」っていうあだ名が嫌でも頭に入ってくる。てか最後の奴キメー。
普通のクラスメイト。それがお互いの認識だったと思う。
※ ※ ※
高一の冬。
「凛ちゃん……。俺達、別れよう……」
「え?」
彼氏から突然別れを告げられた。
一瞬意識が真っ白になった。なんとか理由を聞き出そうと必死に言葉をぶつけた。何も考えられなくて、ちゃんと言葉になっていたか怪しい。
彼氏はあたしが中学生の時の家庭教師だった。大学生の彼は大人で包容力があって、同年代の男子とは全然違っていたから。恋に落ちるのにそう時間はかからなかった。
がんばってアピールして、褒めてほしくて勉強に集中して……。自分のことながら、純情な乙女だった。
その努力が報われたのだろう。いつしか、あたし達は恋人になっていた。
「俺さ、就職が決まったんだ。大手企業なんだよ。それなのに高校生の彼女がいるってのは……その、おかしいだろ? 凛ちゃんは賢いからわかってくれるよね?」
全然わからないよ……。
本人はあたしを説得しているつもりなんだろうな。優しい口調で、あたしを傷つけるようなことばかり言っていた。なのに「凛ちゃんのためでもあるから」なんて言って自分を正当化しようとするのも気に食わない。
「……」
何度も言葉を重ねられたからじゃない。説得に納得なんかしていない。でも、あたしは何も言えなかった。
彼が好きだから。彼の立場もあるってわかっているから。彼にとって、あたしはまだまだ子供って思われていたんだ……。それが、痛いほど伝わってきた。
いろんな感情が溢れて声にならなかった。口を開こうとするだけで、涙が溢れてしまいそうだったから。
そんなあたしの態度が、わかってくれたとでも思わせてしまったのだろう。彼はほっと息をつくと笑顔を見せた。
「良かった。凛ちゃんならわかってくれると思っていたよ。本当に、今までありがとう……」
彼は最後まで優しくて、そして笑顔であたしから離れた。
引き留めようと手を伸ばすこともできず、あっさりと最後を迎えてしまった。どうすることもできないまま立ち尽くした。
「ふええぇ……」
彼がいなくなって、この場に誰もいなくなって、それからようやく遅すぎた涙を零した。
しばらく泣き続けて。どうしたらいいのかもわからなくて。あたしはこの場から動けずにいた。
「関谷っ!? 何お前泣いてんの!?」
……何声かけてきてんだよ。本当にそう思った。
偶然通りかかったというマサは、泣いているあたしを見て思わず駆け寄って声をかけたようだ。
「……放っておいてよ」
「それ無理だから。とにかくこれ、ハンカチ。今の顔やべーって。通行人が見ちゃうって」
顔やべーとはなんだ。やべーとは。女子に対する言葉じゃねえぞ。
怒りはあったけど、睨みつけるほどの余裕はなかった。手渡されたハンカチに顔を埋める。
そうして二人きりになり、あたしは流れでマサに失恋の話を聞いてもらったのだった。
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