陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ

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番外編 陰キャ男子が認められた

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 勉強やスポーツができるか。それに友達の多さなどが、学生にとって大事な青春のステータスだろう。
 そのステータスに恋人の有無が入るらしいが、今の僕にはまだ早いので触れないこととする。
 筋トレをしたり、ボクシングジムで汗を流すようになってから、それなりに運動に自信を持てるようになった。苦手だった体育でも活躍できるようになったし、確かな成長の手ごたえを感じている。
 友達の有無に関しても、佐野くんのおかげでかなり改善された。
 佐野くん経由でしゃべるようになった男子が増えたのだ。休日にいっしょに遊ぶほどではないけれど、学校生活で苦に思うほどではなくなった。ぼっちだったことを考えればとてつもない進歩だ。
 あとは勉強についてだけど……。残念ながら、まだ努力の成果が表れてはいなかった。


  ※ ※ ※


「健太郎くん? 私の話をちゃんと聞いてますか? ここ、この問題間違ってますよー」
「あ、はい」

 現在、なぜか僕は図書室で松雪さんに勉強を教わっていた。
 なんでこんなことに? 間違いを指摘された問題を解き直しながら、この二人きりの状況になった経緯を振り返ってみる。
 最初はこうだ。今日の小テストの結果が悪かったと落ち込んでいたら、佐野くんが勉強を教えてくれると言ってくれたんだ。
 そうして放課後の図書室で教えてもらっていた。そこに千夏と松雪さんが来て、わからないところは大方教えてもらえたからと佐野くんにお礼を言って勉強を切り上げたんだ。
 佐野くんと千夏は仲良くいっしょに帰り、僕はもう少し勉強したいと図書室に一人残った。……つもりだったのだ。

「よければ私が健太郎くんの勉強を見てあげますよ」

 てっきり松雪さんも帰ると思っていたから、この申し出には驚いた。ていうか変な声が出た。
 そんなわけで松雪さんと二人きりになったのだった。定期考査学年一位の才女のお誘いを、凡人以下の成績でしかない僕が断れるはずもない。
 一応、松雪さんとは後腐れのない仲……になったつもりだけれど、二人きりになるとまだちょっと抵抗感がある。佐野くんや千夏がいてくれれば割と普通なんだけどね。
 チラリと松雪さんを見る。

「どうしましたか? 手が止まってますよ。頭も怠け者ですか?」

 ニッコリ笑顔を返された。何気に言葉に毒が入っている。

「い、いやっ! 大丈夫! ちゃんと頭働かせます! 全力フル回転させてみせます!」

 毒が入っていたとしても、彼女の笑顔は魅力があって。あまりの可愛さに、見惚れそうになった目を強引に明後日の方向に向けた。
 ただでさえ整った顔をしているのに、ニコニコと人懐っこそうな笑顔で親近感を覚える。表情や仕草だけで懐にするりと入ってくるような……。改めて勘違いしてしまう男がいてもしょうがないと思わされる。僕もその一人だったけど。
 でも、松雪さん本人にそんな気持ちはないんだよな。もう知ってることとはいえ、それでも油断すると僕に気があるんじゃないかって、ほんの少しだけだけど思ってしまう。……鍛錬が足りないな。

「あ、っと……」

 僕の考えていることでも感じ取ったのか、松雪さんは僕から距離を取るように少しだけ体を反らせる。それから気まずそうに視線を逸らした。

「ご、ごめんなさい?」
「い、いや、僕の方こそごめん?」

 なぜか疑問形で謝り合う。また距離感がよくわからなくなった。
 やっぱり、松雪さんと二人きりなんてまだ早かっただろうか。大半は僕のせいだけど、どうしても変な空気になってしまう。

「……健太郎くん、がんばってますよね」
「え?」

 松雪さんは僕から目を逸らしたまま、言葉を続けた。

「こうやって自分からわからないことを理解するために勉強していますし。体つきも変わってきたと思いますし。それに、人との接し方も変わりました。もちろん良い意味で、ですよ」
「そ、そうかな?」

 変化を指摘してもらえると嬉しかった。誰かが見てわかるほど、自分が変わった証だから。

「はい。段々格好良くなってます。この調子ならきっと、遠くない将来に素敵な彼女ができますよ」
「ぶっ!?」

 思わず噴いてしまった。
 松雪さんは何言ってんだ!? ていうか松雪さんがそれを言うんだ!?
 いろんな意味で驚いていると、そんな僕がおかしかったのか松雪さんがコロコロと笑っていた。
 彼女の以前とは少し違った笑顔を目にして、言葉にからかいや嘘がなかったことに気づく。
 松雪さんは本当に僕が変わったと思ってくれている。それはもうちょっとで恋人ができてもおかしくない程度には、良い変化だと思ってくれている。
 それと同時に、松雪さんが僕に振り向いてくれることなんて絶対にない。そんな意味も込められていた。
 すーっと、頭が冷えた。いらない熱が入っていたことに、やっと気づく。

「はいはい、ありがとうね。そんなことよりも松雪さん、この問題がよくわからないんだ。僕がわかるように教えてくれよ」
「あらあら健太郎くん、教えを乞う立場としての態度はどこへ行きましたか?」
「無知な僕に慈悲をお与えください女神様」

 芝居がかったお願いを口にする。おどけた僕に、松雪さんはぷっと噴き出した。

「いいでしょう。健太郎くんのために、優しく丁寧に教えて差し上げましょう」
「松雪先生、よろしくお願いします」

 僕達は笑い合う。気まずい空気は、あっさりとどこかへ行ってしまったようだった。
 僕と松雪さんは恋人ではない。そうなる可能性も、もうない。
 男として女として見ていない。そういう話ではない。
 僕と彼女の、個人的な考え方の問題だ。だから、今の友達としての距離感が、僕達には丁度良かった。
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